17 / 33
17話 落ちてた王子①
しおりを挟む
なぜ、あの王子がここに? しかもこんなボロボロの格好で。
意味がわからない。頭には疑問符が乱舞していた。
「メリア、知り合いか? コイツ、人間だよな?」
「う、うん。まあ……」
「でも、メリアと違って別にそばにいても元気にはなんねーな。メリアが特別?」
「……イージス」
大きく首を傾げるイージスを諌めるように、魔王さまは目つきを鋭くさせる。
「えーと、生きて……る?」
「うん、脈もあるし息してるし、あったかいよ」
イージスがポン、と王子の身体を投げ出す。扱いが雑だ。ゴロンと床に転がった王子を、魔王さまの陰に隠れながら恐る恐る覗き込む。上等な設えの衣服は見る影もなく、泥と埃に塗れている。サラサラのブロンドヘアも、いまやゴワゴワのモップのよう。
「この人以外には誰もいなかった?」
「いなかった。すっげえ悲鳴が聞こえてきてさ。なんだなんだ、って見に行ったらコイツがいてさ。そんで、オレの顔見るなり失神したんだ」
「……で、担いで帰ってきたと」
「うん。メリアがおもしれー奴だったし。人間ってなんかなんつーの? いいのかな、って」
あまりにも雑、大雑把なイージスの認識にわたしも魔王さまとおそろいで頭を抱える。
どうしよう、元の場所に返す……ってわけにもいかないし。そもそも、元の場所って、イージスが発見した草原? それとも、王宮? ……草原にまた転がしといたら絶対死ぬよなあ。わたしにとって嫌な人でも、死ぬとわかって放り出すのは抵抗がある。
(まあ、わたしは普通の人なら死ぬはずのそこに、この人に追放されていったんですけどね!!!)
心のうちで毒を吐くくらいは善良な一市民としても、許されたい。代わりに善良なので、やられたからって、そのままやり返す根性は持ち合わせていないので。毒吐くくらいは許されたい。
うーん。なんで、腐っても王子さまが一人で草原なんかにいたのはまるで意味がわからないけど、拾っちゃったからには……やっぱ、送り返すかなあ……。
「メリア、この男は……」
「あっ、この人、あの、王子さまです。あの国の」
「……これが?」
魔王さまの眉ががっつり顰められる。わたしが頷いてみせると、魔王さまは「マジか」とばかりに眼を細くしてしげしげとぼろぼろの王子を眺めた。いや、魔王さまは「マジか」なんて言わないだろうけど。
「……メリア。お前はこの男をどうしたい?」
「……そうですね、外に放り出しても、死んでしまうだけだと思うので……安全な場所に連れてってやるくらいのことはしたいと思いますが」
「優しいな」
「だ、だって、死ぬって分かってて放り出したら、殺したみたいなもんじゃないですか」
わたしの言葉に、魔王さまはフッと笑みを浮かべる。なんだかその慈愛の眼差しがくすぐったい。
「そうか、お前が……この男に報いてやりたいのなら、それを止める気はなかったが……。そういうことなら、コレは俺の都合の良いように扱っても構わないか?」
魔王さまはずたぼろの王子をヒョイと指差す。
報いるって……何を想定されていたんだろうか……。
「そ、それは全然、構いませんが……」
「まさか、王子を拾ってこられるとは思わなかったが……。イージス、お前の拾い物のセンスはなかなかいい」
「おう! コイツはよくわかんねーけど、メリアは良かったろ?」
魔王さまの褒め言葉をイージスは素直に受け取る。拾い物のセンスがいい、とは。
そしてわたしも拾い物カウントなのか、と。
「メリア、この男の性格は?」
「うーん……。高圧的で、自分の権力を傘に着るタイプですかね……。自己愛がすごくて、自分は間違ってない! という自信はすごいです!」
「なるほど。話して理があるとすれば納得するような男か?」
「いえ、それはないかと。自分が正しいと思ったことは譲りませんし、そもそも話し合いができない人だと思いますが……」
「……そうか……」
魔王さまは静かに、王子を見下ろす。何か考えを巡らしているようだった。
そして、やおら口を開く。
「じゃあ、縛って物置にでも転がしておくか。イージス」
「おうわかった! 紐持ってくる!」
「……えっ!?」
魔王さまの発言に驚愕する。けど、イージスは躊躇なく、紐を探すべくどこかに走っていった。脚の速い彼はあっという間に戻ってくる。
みるみる内にボロの王子はぐるぐる巻になった。
「あ、あの、魔王さま。どうして……」
「暴れられても面倒だ。話し合いができるのなら、もう少し捕虜として丁重に扱うが、そうじゃないらしいしな」
「捕虜……」
物騒な響きの言葉を復唱する。
展開について行けていないわたしを見かねて、魔王さまは言った。
「メリア。さっきの話の続きにもなるのだが……。この男は、俺たちがこれからしようとすることに、役に立つ」
「……は、はあ」
「どうしたものか、と思っていたが、どうも天は俺たちに向いているようだな」
ニヤリ、と普段見せない口角を釣り上げた笑みを、魔王さまが浮かべる。
一言で言えば、悪い顔。『魔王』らしいイメージ通りの顔というか。
……魔王さま、何をしようとなさっているんだろう。
なんとなく、なんとなくだけど、王子が手に入って喜んでいるということは……。
……侵略するのかな?
可能性を思案して、でもやはり、よくわからなくて、わたしはぶんぶん首を振る。
(……まあ、魔王さまがご機嫌そうだから、いっか!)
意味がわからない。頭には疑問符が乱舞していた。
「メリア、知り合いか? コイツ、人間だよな?」
「う、うん。まあ……」
「でも、メリアと違って別にそばにいても元気にはなんねーな。メリアが特別?」
「……イージス」
大きく首を傾げるイージスを諌めるように、魔王さまは目つきを鋭くさせる。
「えーと、生きて……る?」
「うん、脈もあるし息してるし、あったかいよ」
イージスがポン、と王子の身体を投げ出す。扱いが雑だ。ゴロンと床に転がった王子を、魔王さまの陰に隠れながら恐る恐る覗き込む。上等な設えの衣服は見る影もなく、泥と埃に塗れている。サラサラのブロンドヘアも、いまやゴワゴワのモップのよう。
「この人以外には誰もいなかった?」
「いなかった。すっげえ悲鳴が聞こえてきてさ。なんだなんだ、って見に行ったらコイツがいてさ。そんで、オレの顔見るなり失神したんだ」
「……で、担いで帰ってきたと」
「うん。メリアがおもしれー奴だったし。人間ってなんかなんつーの? いいのかな、って」
あまりにも雑、大雑把なイージスの認識にわたしも魔王さまとおそろいで頭を抱える。
どうしよう、元の場所に返す……ってわけにもいかないし。そもそも、元の場所って、イージスが発見した草原? それとも、王宮? ……草原にまた転がしといたら絶対死ぬよなあ。わたしにとって嫌な人でも、死ぬとわかって放り出すのは抵抗がある。
(まあ、わたしは普通の人なら死ぬはずのそこに、この人に追放されていったんですけどね!!!)
心のうちで毒を吐くくらいは善良な一市民としても、許されたい。代わりに善良なので、やられたからって、そのままやり返す根性は持ち合わせていないので。毒吐くくらいは許されたい。
うーん。なんで、腐っても王子さまが一人で草原なんかにいたのはまるで意味がわからないけど、拾っちゃったからには……やっぱ、送り返すかなあ……。
「メリア、この男は……」
「あっ、この人、あの、王子さまです。あの国の」
「……これが?」
魔王さまの眉ががっつり顰められる。わたしが頷いてみせると、魔王さまは「マジか」とばかりに眼を細くしてしげしげとぼろぼろの王子を眺めた。いや、魔王さまは「マジか」なんて言わないだろうけど。
「……メリア。お前はこの男をどうしたい?」
「……そうですね、外に放り出しても、死んでしまうだけだと思うので……安全な場所に連れてってやるくらいのことはしたいと思いますが」
「優しいな」
「だ、だって、死ぬって分かってて放り出したら、殺したみたいなもんじゃないですか」
わたしの言葉に、魔王さまはフッと笑みを浮かべる。なんだかその慈愛の眼差しがくすぐったい。
「そうか、お前が……この男に報いてやりたいのなら、それを止める気はなかったが……。そういうことなら、コレは俺の都合の良いように扱っても構わないか?」
魔王さまはずたぼろの王子をヒョイと指差す。
報いるって……何を想定されていたんだろうか……。
「そ、それは全然、構いませんが……」
「まさか、王子を拾ってこられるとは思わなかったが……。イージス、お前の拾い物のセンスはなかなかいい」
「おう! コイツはよくわかんねーけど、メリアは良かったろ?」
魔王さまの褒め言葉をイージスは素直に受け取る。拾い物のセンスがいい、とは。
そしてわたしも拾い物カウントなのか、と。
「メリア、この男の性格は?」
「うーん……。高圧的で、自分の権力を傘に着るタイプですかね……。自己愛がすごくて、自分は間違ってない! という自信はすごいです!」
「なるほど。話して理があるとすれば納得するような男か?」
「いえ、それはないかと。自分が正しいと思ったことは譲りませんし、そもそも話し合いができない人だと思いますが……」
「……そうか……」
魔王さまは静かに、王子を見下ろす。何か考えを巡らしているようだった。
そして、やおら口を開く。
「じゃあ、縛って物置にでも転がしておくか。イージス」
「おうわかった! 紐持ってくる!」
「……えっ!?」
魔王さまの発言に驚愕する。けど、イージスは躊躇なく、紐を探すべくどこかに走っていった。脚の速い彼はあっという間に戻ってくる。
みるみる内にボロの王子はぐるぐる巻になった。
「あ、あの、魔王さま。どうして……」
「暴れられても面倒だ。話し合いができるのなら、もう少し捕虜として丁重に扱うが、そうじゃないらしいしな」
「捕虜……」
物騒な響きの言葉を復唱する。
展開について行けていないわたしを見かねて、魔王さまは言った。
「メリア。さっきの話の続きにもなるのだが……。この男は、俺たちがこれからしようとすることに、役に立つ」
「……は、はあ」
「どうしたものか、と思っていたが、どうも天は俺たちに向いているようだな」
ニヤリ、と普段見せない口角を釣り上げた笑みを、魔王さまが浮かべる。
一言で言えば、悪い顔。『魔王』らしいイメージ通りの顔というか。
……魔王さま、何をしようとなさっているんだろう。
なんとなく、なんとなくだけど、王子が手に入って喜んでいるということは……。
……侵略するのかな?
可能性を思案して、でもやはり、よくわからなくて、わたしはぶんぶん首を振る。
(……まあ、魔王さまがご機嫌そうだから、いっか!)
0
お気に入りに追加
1,426
あなたにおすすめの小説
聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~
白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。
王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。
彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。
#表紙絵は、もふ様に描いていただきました。
#エブリスタにて連載しました。
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
だから聖女はいなくなった
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」
レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。
彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。
だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。
キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。
※7万字程度の中編です。
女神に頼まれましたけど
実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。
その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。
「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」
ドンガラガッシャーン!
「ひぃぃっ!?」
情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。
※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった……
※ざまぁ要素は後日談にする予定……
【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!
蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。
――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの?
追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。
その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。
※序盤1話が短めです(1000字弱)
※複数視点多めです。
※小説家になろうにも掲載しています。
※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。
私の妹は確かに聖女ですけど、私は女神本人ですわよ?
みおな
ファンタジー
私の妹は、聖女と呼ばれている。
妖精たちから魔法を授けられた者たちと違い、女神から魔法を授けられた者、それが聖女だ。
聖女は一世代にひとりしか現れない。
だから、私の婚約者である第二王子は声高らかに宣言する。
「ここに、ユースティティアとの婚約を破棄し、聖女フロラリアとの婚約を宣言する!」
あらあら。私はかまいませんけど、私が何者かご存知なのかしら?
それに妹フロラリアはシスコンですわよ?
この国、滅びないとよろしいわね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる