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遊男の恋物語
第十七話
しおりを挟む「あの子、働き者でとっても可愛いわ」
「梅っていうのよ。立夏花魁が連れてきたみたい。」
店の下女や若衆たちの間でも、梅の話で盛り上がっていた。
「梅、これ持って行って!」
「はぁい!」
梅は立夏の新造として働くようになった。
まだ来たばかりの梅には、立夏の身の回り、客の酒を運ぶなど、禿の桃と同じような仕事をした。
そして、ある日の夜見世のこと。
「……ん?」
部屋を片付けに向かおうと、廊下を歩いていた梅。ある部屋から長い足が伸びていた。
「…あれ、鶯姐さん?」
すらりと長い足の持ち主は、鶯だった。
「しーっ!」
鶯は人差し指を唇に当てて、梅に静かにするように促した。梅も鶯の隣に座り、小声で話した。
「…どうされたんですか?お客さんは?」
「私のお客は、帰っちゃったわ。」
「そ、そうなんですね…。ところで、こんな部屋の隅で何されてるんですか?」
「梅、いいもの見せてあげる。」
「えっ?」
鶯は、ふっと笑って襖の隙間を指さした。片目でやっと見えるくらいの隙間から、隣の部屋の様子を見ていたようだ。
「…は…」
「瓶覗よ。十四歳の色気が堪らないの…!」
梅は、ぽかんと口を開けて部屋を覗いた。
その部屋は、瓶覗が接客中の部屋だ。
『…はぁ……はぁ…、もっと…吸って……。…ぁんっ』
丁度、客と性交している瓶覗の姿。
瓶覗の白く柔らかな太腿を撫でて、股の未熟なものを口で愛撫する客の男。
じゅるじゅる、と唾液の音が部屋に響く。その度に、瓶覗の爪先が反応して動いた。
『…はぁ…はぁ…っ…!や、…だめ……』
瓶覗の帯は解いておらず、左の肩がずり落ちている。首元や胸を舐められたのか、それとも汗なのか、濡れて光に反射していた。
「…梅、凄いでしょう?」
これを真剣に覗いていた鶯。
「…凄い…!」
梅も目を見開いて耳を澄まして、部屋の向こうで行われる性交に、夢中になってしまった。
こちらまで興奮してくるような、瓶覗の放つ色気は凄まじかった。
「あの客ってね、若くて うぶな新造を好む方なの。そ れ に !四十も超えてるのに、体力が底抜けで…!」
「……ひぃ…」
鶯の話を聞けば聞くほど、梅も興奮して唾を飲み込む。
「……ものが大きいのよ。」
「も、もの?」
「ほら。」
鶯がそう言って、梅を小突いた。
『瓶覗…。君の中に…、いれさせておくれ…』
呼吸を乱しながら言った男が起き上がると、瓶覗に興奮して猛っているものが露になった。
「…はっ!!」
梅は目を丸くした。
「す、凄いよね…!!」
鶯は親指を咥えて見ていた。
「は、入るんですか……?あの細い身体に…」
「それが、入るんだよなぁ……」
鶯が頷いた。
『はぁんっ……んんぅ…!』
『あぁ…瓶覗…!あ…ぁ…あぁ…入った…』
『はぁ…はぁ…、や、優しく、して…!』
『君が…そんなに…色っぽく乱れてると、もう優しくは…出来なさそうだ。』
『あっ!あぁっ…!!』
『ん…!んぅっ!』
『あぁんっ!、あぁっ…!』
瓶覗の細い腰を抱いて、男は強く激しく腰を振った。まだ幼い瓶覗に対して、容赦は一切無かった。
本能のままに、欲望のままに、男の身体は動いていた。
瓶覗は身体を反らせて喘いだ。
そして、瓶覗の手は布団を強く握っていた。快楽を感じているのか、痛みに耐えているのか、どちらにも見えた。
「…す、凄い…」
梅は小さく呟いた。
『あぁん……んぅ…、』
『瓶覗、こっちおいで。』
『旦那様……っ』
瓶覗は身体を起こして、男の上に乗った。
『はぁ…、はぁ…っ』
汗が流れる首筋、漏れる吐息と腰遣いが艶めかしい。
すると、瓶覗は鶯たちの方をちらりと見て、ふっと笑った。
「「!?」」
「梅!行くよ!」
「は、はい…!!」
まずい、と思った鶯は梅の手を引っ張り、部屋を飛び出した。
「…はぁ、驚きました…!」
「私なんていつもこうだから、皆にばれてるんだけどね。」
「えっ、そうなんですか?」
「そうよ、皆のいいところを見て回るのが大好きなの。」
「は、はぁ…。」
そして、少し先にある東側の部屋。鶯は襖に耳を当てて、中の様子を伺った。
「…立夏姐さんだ…」
「えっ、」
また、襖をほんの少し開けて覗いた。
『あぁっ…!…あんっ!あんっ…!あぅ…!』
立夏の喘ぎ声が聞こえてきた。
相手の客は すらりと細身で、肉付きの良い立夏とは正反対。
立夏を四つん這いにさせて、後ろから攻め続ける客。立夏の臀を触っては、腹や胸も触り、柔らかい肉感を嗜んでいた。
「はっ…!」
姐女郎の立夏が男に抱かれる姿を、初めて目にした梅。鶯は、そんな梅をにやにやと見て面白がった。
「立夏姐さんはね、後ろから突かれるのが好きみたい。」
「…えっと……」
梅は顔を赤らめて、立夏が喘ぐのをじっと見ていた。
『立夏……!』
『はぁ…っ、、そんな…強くしちゃ…だめ……!』
『ん?…これが好きなんだろう?』
『はぁんっ!!』
肉がぶつかり合う音が響いて、その目合いを見ていると、こちらまで身体が疼いてくる。
「…り、立夏花魁が…!!」
「立夏姐さんは、ああ見えて、強く攻められるのが好きなの」
鶯は遊男たちの床事情にやたら詳しかった。
「…凄い…」
「梅、さっきから凄いしか言えてないわよ」
「だ、だってぇ…!」
経験のない梅には少し、刺激的だっただろうか。
『立夏…っ、出すぞ…』
『んぅ…なか……だして……んぅぅっ…!!』
客の男が伸ばした指を咥えて、喘ぐ立夏。唾液が溢れて、布団にぽたぽたと落ちる。
『はぁ…凄く…いいよ、立夏…』
『はぁっ……はぁ…はぁ……っ』
立夏の腕は、がくがくと振るえて 布団に倒れた。
『そんなに、良かったのか?』
『…だって…あんなに、激しくなさるから…っ』
『可愛いなぁ』
『んぅ…』
男は立夏の上に覆い被さって、口吸いした。立夏は顔を赤くして、呼吸を乱す。
唇に、首筋に、胸に…男は口付けしていく。
『…はぁ、』
男の顔が胸元に止まった時、立夏は鶯たちの方を見た。
「梅!行くよ!」
「えっ!待って!またですか!?」
どたばたと慌てて、再び走って逃げた。
「鶯姐さん、皆さんお気付きですよ?!」
「こっちがこんなに集中して見ていたら、視線を感じて気付くわよ。」
「…怒られませんか?」
「いいの。私、いつもこうだから。」
「いつも、なんですか?」
「そ。私、変態だからさ。」
「へ、変態!?」
「そうよ」
鶯は笑って、梅を連れて自室に戻った。
「…鶯姐さん、これって…」
「ん?あぁ、それは私の宝物よ。」
「た、宝物?」
「そう。春画。」
鶯の部屋には春画が積み重なっていた。
「おっと…おぉ、凄い…」
「私ね、小さい時から春画が好きなの。」
「小さい時から、ですか?」
「そうよ、偶然見つけた春画に興奮しちゃってね。父や兄弟には、とんでもなく白い目で見られたけど。」
鶯は赤裸々に語った。
「鶯姐さん…」
「ん?」
鶯は窓を開けて、煙管を咥えた。
今日は月が綺麗に出ており、部屋に月光が差し込む。
「瓶覗姐さんって、どうしてあんなに色っぽいんでしょうか…?」
「…そりゃあ、次の花魁候補だからね」
「花魁…」
「そうよ。瓶覗は、凄く期待されてる。…あの子が来た時ね、この子は絶対に花魁になる子だって、皆騒いでたの。」
「どうしてですか?」
「瓶覗は凄く器用で。芸事は一度教えれば、すぐに出来た。それに、雰囲気はお淑やかだし、幼いながらも色気はあるし、…器量が良いからさ。私でさえ、嫉妬しちゃった。」
鶯は机に積み重なった春画を手に取った。
「凄いんですね、瓶覗姐さん。」
「瓶覗って…梅より年下よね?」
「はい。ひとつ下らしいです。」
「梅ったら、謙虚なんだから。」
「いえ、そんな。」
「…可愛いわね。ほんと。」
「鶯姐さんは、花魁になりたいと思いますか?」
梅がふと思い立って聞いた質問。
鶯は、ふぅと煙を吐いてこう答えた。
「…いいえ。思わないわ。」
「何故ですか?」
「…私は、今が旬だし、お客にとって、手頃でいたいから。」
「て、手頃って……」
「花魁って、高値でしょ?私ね、ずっと男に抱かれていたいの!…毎晩だって喜んでする。だから、高値になったら抱いてくれる人も抱いてくれなくなっちゃうのかな、って。」
「そんなこと仰る方、初めてです。」
「そ?…私、色っぽいことするの大好きだからさ!」
鶯は、ふふふ と笑った。
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