色食う鳥も好き好き

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遊男の恋物語

第五話

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男遊郭が立ち並ぶこの街で、昼見世が始まる。

「桃、こちらへいらっしゃい」
「わぁい!立夏姐さん!」

何処の遊郭にも、格子へ遊男達が集まった。楽器を楽しんだり、会話を楽しんだり。遊男達の唯一の憩いの場。

立夏は桃を呼んで、三味線を弾かせた。


「上手、上手。桃は覚えるのが早いわ」
「本当ですか、嬉しい!」


和気あいあいとした格子の中。

格子の外で男達が遊男を見ていく。
「やっぱりここの遊郭は綺麗な人ばかりだ」
「でもなぁ、高いんだよ」
「仕方ないな」



「……」

被っていた笠をくいと上げて、格子の中の遊男をじっくりと一人一人見ていく。

「……女将。」

「はぁい。あら、いらっしゃいませ。」
「……夜、指名したいんだ。」
「誰をご指名で?」
「……あの松葉色の…。」
「立夏ですね。また夜にいらっしゃいますか」
「…あぁ、…やっぱり揚屋に。」
「承知しました。」

男は夜に立夏を指名した。

「…っ!」
格子を通り過ぎようとしたとき、遊男に袖を引っ張られた。


「…藤十郎さん?」


笠を被った男は、天鷲藤十郎だった。

「……紫苑。」
「胡蝶よ。」
「…あぁ。」
「藤十郎さん、夜にまた来るの?」
「…まだ稽古があるんだ。」

よく分からない答えを返されて、胡蝶は戸惑った。そっけない態度で気になる。

「…変なの。」

きっと自分を指名してくれたのだと、胡蝶は思い込んでいた。







かなり暇な昼見世も終わり、いよいよ夜が始まろうとしていた。

遊郭の中は、ばたばたと忙しない。


「立夏姐さん!お手伝いします」
「桃、ありがとう。」

「桃、花魁道中に出たことは?」
「紅葉姐さんと一緒に。一度だけです」
「あら、そうだったのね…」
「でも歩くのが難しくて、紅葉姐さんに怒られてしまいました」
「そう…、仕方ないわ。経験を積めばきっと出来るようになるから。」
「はい。」



立夏は客の待つ揚屋に向かった。

立夏の花魁道中もとても美しい。紅葉とはまた違う美しさがある。


「あそこの遊郭の花魁、だってさ」
「立夏…?珍しいな、紅葉以外の花魁道中。」
「にしても……体格のいい花魁だな…?」
「物好きには堪らねぇ男かもな」
「ははっ、それじゃ今夜の客は物好きってか」




「……」

「桃。前を見なさい」
「…はい」

桃は立夏の横を提灯を持って歩いた。様々な声が聞こえてくるので気が散る。




体格のいい花魁を呼んだ物好きは、街で人気の役者なんて誰が想像したか。



「緑青松葉立夏にございます。」

「……心待ちにしていた。」

そう言って立夏の姿を見つめた、天鷲藤十郎。妖艶な顔立ちの彼は口角を上げた。

「…顔をよく見せてくれないか」


「はい…」
立夏は微笑んで、藤十郎の隣に座った。


彼はじっと立夏の顔を見つめていた。

「…何か付いてますか?」

「…すまない、君がとても綺麗だったから」
「まぁ、そんな。」


食事と酒が運ばれてきて、二人は会話を楽しんだ。

「昼見世の時、君を見つけたんだ。」
「…昼見世の時にですか…」
「三味線を弾いていたな?」
「えぇ。……やだ、私ったら。こんな二枚目を見逃していたのかしら」
「…仕方ない。俺が隠れて見ていたから」


「…旦那様は、役者の天鷲藤十郎様だと」
「知っていたのか」
「はい。書林で絵を見ました。」
「あぁ…そうだったのか」
「やっぱり素敵な方だわ、」
「弱ったなぁ…」


そういえば、胡蝶の知り合いだったとか何とか…。藤十郎の横顔を見て思い出した。


「…旦那様は、胡蝶のお知り合いだったと聞きました。」
「あぁ…そうだ。陰間をしていた時にな。」
「陰間…、」

「俺も昔は女形を目指していた身でな。…でも、全く出来なかった。…ずっとひたすら稽古してるうちに、俺は気付いたんだよ。」
「…何をですか」
「その当時も俺はこの通り身体が大きいし、顔に白塗りしても、女らしさなんて微塵も無かったことにね。だから俺の女形は、全く美しく見えなかったんだと思う。」
「……」


立夏は無意識に自分と照らし合わせてしまった。この人は、自分と同じ想いをしたんだ。


「……分かります、お気持ち。」
「ははっ、本当かい?」

藤十郎は笑って、一口酒を飲んだ。

「…私も、もう立派な男になってしまいました。少年とも言えないくらい男らしく、ね。」
「……俺は、それが好きだったのだがな。」
「え?」

「…綺麗だ。他のどの子よりも、色っぽい。」
「……やだ、恥ずかしい」
「大人にしか出せない色気というものが、あるではないか。」
「……ちょ…ちょっと…」

まだ食事と酒を楽しんでいる最中に、藤十郎は立夏の腰を引き寄せて、するりと立夏の足を触った。

「……良い身体だ。」
「……っ」

耳元で囁かれると、鳥肌が立った。


「…もう、待ちきれないんだ」
「……旦那様…」
「…香のせいか?」
「旦那様、酔っているのですか?」
「…こんな少量じゃ酔う訳が無い」
「……」

立夏は自分の鼓動が体中に響くような感じがした。

藤十郎は顔を近付けて、鼻先が触れた。

「旦那様、床の用意を……」
「…まだ待たせるのか」
「…こんな状態じゃ……」
「駄目なのか?」
「……えっと…」

どうにかして、支度をしたい。

そんな立夏の口を封じるように藤十郎は口付けした。

「んぅ……」

唇を舐められて、藤十郎の唇に紅が移った。

「旦那様、紅が付いて…」
「…ん?」

袖で藤十郎の唇を優しく拭った。



「えっ!」
すると、その手を掴まれ強引に引き寄せられた。

「おいで。」
 「えっえっ!?」 

藤十郎は立夏を抱き上げた。

「私、こんなに重いのに!!」
「重くはない。いつも稽古をしているから、鍛えられているんだ。」
「……えっ」

「……なんだ、用意されているではないか」

広い部屋の奥にあった屏風の向こうには、布団があった。

「……ですが…」
「君は支度がしたいって?」
「…そうでないと…」
「…なら、共に支度をしようか。」
「共に……?」

藤十郎は立夏を布団に押し倒した。






「……あぅ…、…やだぁ…あんっ!」

唾液で濡れた指で尻を解されて。
普段なら先に自分でやることを、客にやらせるなんて。

「……っ…」


「…花魁にもなる君が、客に尻を解されて恥ずかしいのか?」
「……そ、そんな…」
「耳が赤い。」
「ひっ」

この人の囁く声は身体に響く。耳がぞくぞくとして、力が抜けてしまうような。


次第に広がっていく穴は、藤十郎の唾液のせいかぐちゅぐちゅと音を立てた。

「はぁっ……」

「…あぁ……もう待てない。」

「ん?」

藤十郎の方を振り向くと、血管の浮き出た性器が露になっていた。 

「……立夏。」

「あっ…!」

尻の肉を強く掴まれて、腰を振られた。

「あっ…あぁっ……!!あっあぁっ……」
「…男に抱かれる時は可愛いんだね。」
「う……」

耳元で囁かれて腰が擽ったくなる。

「……立夏は何処が弱いかな?」
「あっ…あぁっ…!!あっ!」
「…激しいのが、好きなのか?」
「…ぅ……」
「図星か」

尻を突き出すようにして顔を布団に埋めた。藤十郎の形が好きなのか分からないけど、何故か凄く気持ち良く感じた。

旦那様より先に、いっちゃだめ。
旦那様の前で、いっちゃだめ。

「……んんぅ…!!」

「……気持ちいいか?」
「…気持ちいい…です…、」


「…遊男に聞くのは、無駄だね」
「?」
「…大して気持ち良くなくても、気持ちいいって答えてくれるから。」
「……っ…」

腰を振りながら、普通に話す藤十郎が不思議だ。

「…立夏。」
「んぅ…!!」

立夏の顎を上げて、上半身を起こした。

「あぅ…、だめ、だめ…!!」
「俺だって男だ。男の気持ちいい所くらい、分かる。」
「だめ…!!!」

立夏は性器を擦られた。
尻よりも感じやすいのは当たり前で。

「あぁっ…!!」
「街で有名な遊郭の花魁が 所…見せてくれないか」

「いや……!だめ…!」
「だめ は良いって事だね……!」
「あぁっ…あっあっ…あぁんっ!」

どうしよう、自制ができない。

感じるのも、喘ぐのも無意識に出てしまう。

「あんっあんっ……!」
「…立夏…」

耳元でまた囁かれて、腰が疼く。
性器を擦る手も、腰の振りも強くされた。


「だめ……!いく!いく、いくぅっ……!!」

布団の上に射精してしまった。精液が勢い良く飛び散った。

遊郭で働く身として、客を気持ち良くしなければいけないのに。自分ばかり、気持ち良くなってしまった。

「…ぁ…ぁ…」

「…最高だよ…立夏。」
「…んぅ……!」

びくびくと反応する身体を抱きしめられて、口吸いされた。


「はぁっ……」

「……立夏、もう終わりか?」
「…私も花魁、ですから…」

へたりと布団に座り込んだ立夏を見た藤十郎は、獲物を捕らえるように飛びついた。






「旦那様…!」


帯を外されて、露になった身体に口付けされる。

腰の振りは強くて激しくて。


「……あぅ…あぁっ、あぁっ…気持ちいいとこ、ばっかり……!」
「…立夏、凄く綺麗だ…。」

腹の奥を突かれて気持ち良かった。
藤十郎と夜を共にするのは初めてなのに、弱みを握られたような気がした。



すると、部屋の襖が開いた。

「…立夏姐さん…?」
桃だった。酒を持ってきたようで、二人が既に床に就いているとは思っていなかった。

二人は桃に気付く訳もなく。


「……あぅ…!」

「?!」

立夏は屏風を蹴ってしまった。
動いた屏風の先に、性行為をする二人の姿。


「……」

夢中になって立夏に腰を振る客と、いつも優しく微笑んでくれた立夏が、客に抱かれて喘いでいる。

私の知ってる立夏姐さんじゃない。
桃はそう思った。

「立夏…!」
「旦那様……!!…んんぅ…!んっ」

顔を赤くして、汗をかいて。
食べられてしまいそうなくらいに、熱い口吸い。


「……」

桃は唾を飲んで、ただじっと二人の姿を見てしまった。


「……!?」

すると、立夏が桃に気付いた。

「……っ」

客に気付かれないように、立夏は藤十郎の首を抱き寄せた。

「……!」

早く出ていきなさい!

立夏は必死に目で訴えた。


「……ぁ…」

それが桃に伝わってようやく、酒だけ置いて部屋を出た。


「……はぁ…」

立夏は少し冷や汗をかいた。




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