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修復されていくデータ
2つの選択肢
しおりを挟む「…ハインリヒ?」
部屋に戻ろうとした。部屋の扉の前に、ハインリヒが座り込んでいた。
「どこ行ってたの?」
「……あぁ、ちょっと外に。」
何度見ても複雑な気持ちになる。
ハインリヒなのか、宏なのか。
「晃人。」
「……?」
ハインリヒが抱きついてきた。じゃなくて、宏が。
「……宏、部屋に入ろう。」
「うん。」
アルベルトは、スヴェンから聞いた話をハインリヒにも話そうかと迷った。
前世の記憶と、その後悔と、新しいデータについて。
「?」
「……」
アルベルトは黙ってハインリヒを見つめていた。衣装もピンクの髪色も見慣れない気がした。
「ねぇ、晃人。」
「ん?」
「僕さ、何か知らないけど、メインクエスト?クリアしたみたい。」
「えっ……」
メインクエスト?……後悔が…もう晴れた?どういうことだ…?
戸惑った。あまりにも早すぎて。メインクエストという名の、後悔ってもっと重いようなものだと、思ってた。というか、自分のクエストはもっと重くて、解決が難しいものな気がする……。
アルベルトの知らないところで、ハインリヒのメインクエストは既に解放されており、クリアもしていた。
「……宏のメインクエストって?」
「…晃人に会うこと。」
「え…」
「それだけ。」
ハインリヒのメインクエストは、そんなものだった。でも、宏自身にとっては大きな後悔だった。
「ねぇ、僕ってこれからってどうなるの?」
「…あ…えっと…」
「晃人、知ってるの?」
「いや……」
どうしよう、なんだか、言いたくない。
「……もう、終わり?」
「え、」
「この世界での、僕のストーリーって終わり?」
「……そんなことは…」
「晃人のメインクエストは?」
「解放されてない。」
「……どういうこと?」
アルベルトはハインリヒの頭を撫でた。
「俺にもわからないんだ。またちゃんと分かったら、話すから。」
「……うん。」
「宏…じゃなくて、ハインリヒ。」
「二人の時くらい宏でいいじゃん。」
「そうか…。宏、前世のことは、まだ皆に言うな。」
「…うん。でも不思議な感じがする。さっきまで、ハインリヒだったのに。ハインリヒでどういたのか、うまく思い出せない。」
「宏は割とそのままな気がするけど。」
「そう?」
「うん。優しい性格も、問題に巻き込まれっぱなしの所も。」
「そうかな。」
ふたりは笑った。
「そうだ。お風呂行こうよ。露天風呂。」
「いいね。」
露天風呂に向かうと、既に誰かが入っていたようだ。
「よう、アルベルト。お、ハインリヒもいるじゃねぇか。」
「久しぶりに揃った気がするけど。」
「確かにそうですね。」
「湯があふれるじゃん。」
「なんだ、お前らか。」
「なんだって何。迷惑?」
「いちゃつきたかったなら、他行けよな。」
「早く入ってください、風邪ひきますよ。」
「男が6人もなんてむさ苦しいな。」
久しく6人全員が露天風呂に集まった。
「明日は、メインステージに出かけるのか?」
「…そのつもりだよ。」
「もう何だか、色々ありすぎてメインステージどこまでどうやってきたか忘れたよ。」
フィラットがため息をついた。
「本当ですよ。」
レオポルトも鼻で笑った。
不思議と、メンバーと一緒にいると、アルベルトは今まで通りに戻れた気がした。それはハインリヒも同じだった。晃人と宏は前世であって、今はアルベルトとハインリヒ。
「またあのステージに行くのかぁ……」
「もう嫌ですよ、はぐれたりするの」
「はぐれないように手を繋いで行きましょう」
「手を繋ぐって…」
「手を繋いで行ったらはぐれなかったんです!ねー、アルベルトさん、ゲルトさん」
「お、おう……」
久々に集まった6人は笑いあった。
_________________
「「いってらっしゃいませ!」」
「……お姉ちゃん、なんかさ、6人揃ったの久しぶりな気がしない?」
「そうだね。」
ティナは6人の後ろ姿を見て微笑んでいた。
「……叶汰。」
「?!」
「…思い出してたんでしょ?ごめん、アルベルトさんと話してるの聞いちゃった。」
「姉ちゃん…」
「早く言ってくれれば良かったのに。いつまでもシャイボーイなんだから。」
「うるせぇ」
「ったく、あの時のヤンキーはどこに行ったのよ。今じゃ、うさ耳生えて…お姉ちゃん!だってさ」
「笑ってんじゃねぇよ」
「いいじゃん、可愛がってんの。」
「だから!」
「あははっ、ほら、片付け手伝って」
「……おう」
この姉弟も、互いに記憶を取り戻していたようだ。
_________
「うわぁ、またあそこに行くの。俺やだよ」
フィラットは口をとがらせた。
「フィラット、今回は逃げ回らないでくれよ?」
「仕方ないじゃん、蜘蛛だけは勘弁してよ」
「地下はコウモリだったけど。」
「白い大聖堂はヘビがいたな」
「もー!全部無理!マシなとこないの!?」
どうしても虫が苦手なフィラット。
6人は笑いあって、やっと戻ったこの雰囲気に安心した。
「なんだか……久しぶりな気がするよ。」
「変に緊張するのでやめてください」
アルベルトの呟きを聞いて、レオポルトは肩を竦めた。
「さ、気合い入れて行くぞ。」
♪ ブォン
「出たよ…晴れの日って概念ないの?」
「こういうコンセプトだからな」
「もう少し明るく行こうよ」
「それじゃ面白くないだろ。レベルが高いステージにはこの演出が1番だよ。」
「えぇ~、そう???」
「ほら、いつまでもビビってないで。行くぞ」
「うぁぁ……」
嫌がるフィラットの腕を無理矢理引いて、またこの薄暗いステージに戻ってきた。
_____ 死境に彷徨う死神の網_____
立ちはだかるのは、前に見た大きな城。黒い雲に包まれて、雷が鳴り響く。
「どっかのタワーアトラクションかよ」
「黙れ」
フィラットは怒られた。
大きな扉が、軋んだ音を立てて開いた。
「行くぞ。」
中に入ると、バスティアンがメンバーを止めた。
「待て待て待て」
「なんだなんだなんだ」
「…前に、ここの床で落ちたから気を付けろ」
「危ねぇ……」
来たのは久しぶりで、すっかり忘れていた。
「床で落ちるのはここだけだったかと。」
「……そうだな。後は…絵画と…扉か…?」
「はい。今のところは。」
「どこがどんなトラップになってるかは、まだ分からねぇ訳だ」
「そうですね。また、はぐれないように行きましょう。」
1階のマップはまだ未完成。まだ回っていないところを調べることになった。
「まぢで無理……!!」
「おい、だから何で俺にくっ付くんだよ、気持ち悪ぃな……!くそ、なんで腕は強ぇんだ」
ビビりまくりのフィラットはゲルトにしがみついた。ゲルトは引き剥がそうとするがフィラットの謎に強い腕力には勝てなかった。
「おい、はぐれないように……」
アルベルトが振り向くと、後ろを歩いていたレオポルト、ハインリヒ、バスティアンの3人が手を繋いでいた。
「「「大丈夫です!!!」」」
「……お、おう…。」
対策は万全のようだ。
この城は視界が霞むようで薄暗い。
廊下の端をネズミが走り去る。壁の隅には蜘蛛の巣が張られている。
「……なぁ、こんなに煙たかったか?」
ゲルトが疑問に思った。
「確かにそうだな。…来た時はこんなに…」
アルベルトも同感だった。
それも前回、最後に1階にいなかったからだ。ボスを見つけて逃げた3人は見ていた光景。
「ボスを見つけて、思わず逃げたんですよ。」
レオポルトが失笑した。
「仕方ないだろ!青白い手がドーンって!」
「わかったわかった。…まぁ、どうせ最後行くことになるからな。」
「疑問なんだが、俺ら1階のボスを倒してないのに、別のフロアに行けちゃったの?」
「確かに…言われてみれば。」
「相場はボスを倒してからだろう?それなのに、飛ばされまくりで。」
「…まぁ、最終的にクエストはクリアしないといけないから。気にしないでおこう。」
バスティアンは納得いかないまま頷いた。
「えーっと……ここがこうで…」
アルベルトがマップを広げた。
「あっちに進むのでは?」
「あっ、そうだな。」
エントランスを進んで、左を指した。
真っ直ぐに廊下が続いていた。
「この城どうなってんだよ」
「設計士バカだよ」
「そういうことは言わない。」
「ごめん」
シャンデリアも天井に並び、床はチェス板のようだった。
前に通った石膏像とは反対に、床の模様の通りにチェスの駒が並んだ。
「……突き当たりの部屋しか無いんですね。」
「そうだな…」
雰囲気がこれまでと違った。これまでは、廊下に沿って側面に並ぶ部屋の数々があったが、今は突き当たりの部屋一つだけ。
「……何か、来そうじゃない?」
「ひぇっ……」
「まだ俺らはダメージを受けてない。何か来てもゼロから始められるから大丈夫だ。」
アルベルトの言葉を信じて、メンバーはその部屋に向かった。
「よし……開けるぞ……」
豪華な金の模様がなされた扉をアルベルトが開けようとした時。
「……うわっ…!!!」
ふと、振り返ったハインリヒが声を上げた。
「どうした…、っ?!?!」
「「「えっ?!?!」」」
横に並んでいたはずのチェス駒がこちらを向き、道を塞いでいた。
「……閉じ込められた……」
「これ……ボス確定じゃね…!?」
「……ボスはアトリエの方だったはず…?」
「まままず入ってみようぜ、気味が悪い。」
「おう……」
アルベルトが恐る恐る扉を開けた。
「……ん…」
そこは寝室のようだった。
大きな部屋に、大きなベッドが一つ。壁には数々の絵画と肖像画が並べられてわいた。そのせいか、気味が悪かった。
「特に……いなさそうな…?」
ボスの気配はなかった。
「……手分けして探そうか。」
「おう」
メンバーは各々で部屋を調べることにした。
「……。」
ハインリヒは肖像画を見ていた。
数ある肖像画の中で、一つだけ、顔の部分が滲んだものを見つけた。
「まただ……。」
「何かあったのかい」
すると、バスティアンが隣にやって来た。
「…この人、多分音楽家なんです。」
「何故分かるの?」
「これです…」
「ん、写真?どっから持ってきたの?」
「…前回、僕とアルベルトさんとゲルトさんで調べた書斎にあったんです。この女の人が、音楽家の恋人?なのではないかと。」
「…ふぅん…。中々深そうだね、色々と」
「そうですね。…音楽家の顔だけ、絶対見られないんですよ。」
「あー、よくある演出だよ。…にしても、この絵だけやたら大きい気がする。」
「確かにそうですよね」
音楽家と思われる肖像画は1番大きかった。
目の前にあるが、顔だけ滲んで見えない。
「ん……」
「今にも動き出しそうだね」
「やめてください、怖いですよ……」
「…他の人はよく分からないしなぁ。他を調べ……え?」
「え?」
2人が振り向くと、誰もいなかった。
「……えっ…???」
「なんで??」
「何か……飛ばされる要素あったか?」
「いえ……」
「あいつらが飛ばされた?それとも僕らが飛ばされたのか??」
「……わ…分からないですね……」
部屋の中は特に変わっていなかった。
自分らが飛ばされたのか、アルベルト達が飛ばされたのか、よく分からない。
「……っ…?!お、おい…」
「?!」
変わったとすれば……肖像画。
目を離した隙に、変わっていた。
アルベルト達の肖像画になっていた。
「何ですか……この…演出……」
「肖像画になってる……」
4人の肖像画は、それぞれの横顔が描かれていた。
「「うわっっっ!?!?」」
後ろを振り返ると奇妙な笑みを浮かべた人影。黒い靄のようだが、形は人。さらに、青白く光る目と口。大きな口は口角を上げて、目はぎょろっとこちらを見ている。そして、背には蛾の羽が。羽の斑点のせいで、より気味が悪い。
「…戦うんですか…?!」
「いや…戦闘に入らない…。何故だ。」
〝選べ。〟
「……えっ?」
そして、目の前に現れたのは選択肢だった。
〝彼らと会えるが奥義が使えなくなる〟
〝このままでいる〟
「……??」
「……。」
ハインリヒは夢に出てきそうなくらいに気味の悪い影に目を向けれず、バスティアンは選択肢だけを見て考え込んだ。
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