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「…何でもないよ、ハインリヒ。行こう。」
「……はい!」
アルベルトはルドルフの事は話さずに、ハインリヒの手を引いた。
話す必要も感じていなかった。それはメンバーの皆が思っていたことだった。
ギルドの騒ぎは収まっていた。
「何事も無かったようだな」とゲルトが呟いた。レオポルトも頷いていた。
「…あの、アルベルトさん。」
「どうした?」
ハインリヒが引き止めた。
「僕のわがままを聞いてください。」
「なんだよ、わがままって。何でも言え。」
「…僕をパーティーメンバーにして下さい」
「…!」
ハインリヒはメンバー申請をして欲しいと頼んだ。アルベルトはもちろん、と答えた。すぐに申請をして、ハインリヒの想いは叶った。
ギルドを出て、バスティアンが声を出した。
「ねぇ、装備屋に寄りたいんだけど。いいかな?」
「あぁ。」
「ありがとう。武器の進化が出来そうなんだ。」
「皆の武器と装備も確認してこよう。」
「おう。」
アルベルトはメンバーの方を振り返った時、ふと思った。あぁ、これが俺のパーティーだよ。誰にも越えられない最強の。
「何笑ってんだよ、気持ちわりぃな」
にやにやと笑っていたアルベルトを見て、ゲルトが眉間に皺を寄せた。
「すまんすまん…」
装備屋に到着し、オリヴァーと話していた時
「あれ、ハインリヒちゃんは今日いないのか」
「「えっ」」
気付いた時には、ハインリヒがいなかった。
「ハインリヒ?!」
「あれ、レオポルトもいねぇぞ」
「えっ」
メンバーは慌てて外へ出た。
「レオポルト!」
装備屋の外へ出てすぐにレオポルトが立っていた。
「ハインリヒがいねぇんだ」
「ハインリヒさんなら、あそこに。」
レオポルトは指を指した。
川の傍にハインリヒがしゃがみこんで何かしている。
「はぁ…」
「んだよ、心配させやがって」
「連れてくるよ、待ってて。」
アルベルトがハインリヒの方へ走って行った。
ハインリヒは水を触っていた。
「ハインリヒ。こんな所で何してるんだ?」
「あ、アルベルトさん。…さっき、ここら辺に光ってる物が見えたんですけど、気のせいだったかな。」
「そうなのか?」
「…水が反射してたのかも」
ハインリヒは笑った。
アルベルトもつられて笑みがこぼれた。
「……」
すると、じっとハインリヒがアルベルトを見つめた。
「……?」
ハインリヒの目には、アルベルトにノイズが入ったように見えていた。
ジリッ…ジリッ…
「……晃人?」
「えっ?」
「晃人だ。」
「…だ、誰のことだ?」
ハインリヒは嬉しそうにアルベルトの顔に触れた。
「晃人…!」
「???」
アルベルトは困惑した。全く知らない名前で呼ばれて、ハインリヒはなぜか嬉しそうにしている。
「…??」
ハインリヒにノイズが入って見えた。
「…!」
_______________ 突然、耳鳴りと共に、記憶がフラッシュバックした。
_______________
「ねぇ、晃人。」
「ん?」
「晃人の病気、治ったらさ、また祭り行こうよ。毎年行ってるやつ。」
「…それまで、回復できるかな。」
「何言ってるの。大丈夫だよ。」
「宏。」
「どうしたの。」
「…ごめんな。」
「何が。」
「…俺のせいで、今まで宏がどんな辛い思いしてきたか。」
「辛いなんて、そんな。晃人で良かったって思ってるよ。」
「…そうかな。俺のせいで、宏の学生生活も…」
「一生かけて償って。」
「え…あぁ。」
「もう、そこ笑うとこ。冗談だよ。もう気にしてない。」
「…そうか。」
「晃人。僕ね、これから忙しくなるからあんまり来れなくなるかも。でも絶対にまた来るから。待ってて。」
「あぁ。待ってる。」
それから、少しずつ身体が病に浸食されていく感じがした。
あぁ、もう宏に会えなくなるかもしれない。早く、会いに来てくれないかな。なんで、この足、動かないんだろう。これじゃ、会いに行けないだろ。
宏に会えなくなって数日後、この時が来てしまった。
「先生!!出血が止まりません!!」
「前田さん!前田さん……」
それと あとひとつだけ、覚えてる。
最期、俺は、微かに見える視界で分かった。
あの医者、俺の目をじっと見てた。俺の視力が完全になくなって、心臓が止まる瞬間を黙って見ていた。
そういえば、死者は最後に耳が聞こえなくなるって聞いたことがある。
あれは本当だったらしい。
_____ 宏は私が一緒にいるから気にしないで。酷いこともしないから。…あっちで楽しくやっていきなよ。
____________________________
「…宏。」
アルベルトはハインリヒを宏と呼んでいた。
「ぁ…ぁ…」
何だか訳が分からなくなってきた。
アルベルトとしての記憶と前田晃人としてのデータが混ざる。
混乱しているのに、涙があふれてきた。涙が止まらなくて。気付いた時にはハインリヒを抱きしめていた。
「ハインリヒ…会いたかった。」
「…晃人、会いに行けなくて…ごめんね。」
_____ 俺に、ハインリヒに、一体何が起きているんだ?
「おーい、アルベルト!ハインリヒ!」
装備屋の方から、ゲルトが呼ぶ声がした。皆、待っていた。
「おいおい、何いちゃついてんだよ。気持ちわりぃな。」
「ちゃんと仲直りしたんじゃないですか?」
「それならいいけどさ。」
「…。」
「ごめん、皆。」
「何してんだよ、ほら、装備。」
「ありがとう。」
目を赤くしたアルベルトの顔をフィラットが覗き込んだ。
「何、泣いてんの?」
「んだよ、感動の仲直りってか?」
「ハインリヒさんまで。大丈夫ですか?」
「…」
「あ、あぁ、な、仲直り、だよ。あはは、気にすんなよ、さ、行こう。」
アルベルトは笑ってメンバーの先を歩いた。
「今日は、メインステージには進みませんか。」
「あ…、あぁ、ど、どうしようか。」
「お二人さんに泣きながら行かれても困るけどよ。」
ゲルトが鼻で笑った。
「…ま、今日は休みの日ってことでもよさそうだけど。」
「それがいい。」
フィラットの提案にバスティアンが賛成した。
「そうか。じゃあ、そうしようか。」
「宿に戻るか。」
「あぁ。」
そうして、宿に戻ってきた。
「お帰りなさい!」
ティナとクラウスが出迎えた。
「あ!ハインリヒさん!ご無事でしたか!!」
「はい!」
「よかったぁ!!」
そういえば、ハインリヒがこの宿に帰ってきたのも久しぶりであった。宿主の二人は喜んだ。
「さ、お休みになってください!」
「ありがとうございます。」
メンバーはそれぞれの部屋へ戻った。
「はぁ。」
アルベルトはベッドに座り、ため息をついた。
まだ、混乱していた。
「あれが俺の前世?これが俺の今?」
前田晃人。
アルベルトは思い出した。ハインリヒでなく、”宏”との記憶。
「なぜ?今になって、思い出したんだ。俺もハインリヒも。」
少し考えて、立ち上がり外へ出た。
「アルベルトさん、お出かけですか?」
「クラウスさん。」
「…大丈夫ですか。いろいろと。」
クラウスは今までの雰囲気と違った。冷静で、大人っぽくて。実際、アルベルトより先輩なのだが。
「もしかして、思い出した?」
「えっ」
「…なんだか、僕の知ってるアルベルトじゃないから。」
「…クラウスさん、あなたも俺の知ってるクラウスさんじゃない。」
「だろうね。思い出して演じてるだけだから。」
「えっ。」
「総長に聞いてごらん。」
「…総長に?」
「頃合いかもしれないよ。」
「頃合い?」
「ま、いいから。行ってきなよ。君の仲間には、出かけた、とだけ言っておくからさ。」
「…ありがとうございます。」
クラウスは微笑んだ。
アルベルトはギルドへ向かった。
「総長。アルベルトです。」
「あぁ、入れ。」
「失礼します。」
「急にどうした。何かあったか。」
「それが…その…」
「?」
「…前世の記憶が戻ることはあり得るのですか。」
「前世…?」
スヴェンは深く息を吸った。
「思い出したのかい?」
「…はい。」
「そうか。ついにこの時が来てしまったか。」
「?」
「アルベルト、この際だから、君に話しておこう。」
「はい」
「…このゲーム世界の中には、君のように前世の記憶を思い出す者が、他にも沢山いる。」
「ですがなぜ、今になって思い出したのか…」
「”後悔” に会ったからではないか?」
「後悔に会った?」
「アルベルト、このゲームがいつ終わるのか、知っているか?」
「え…ステージをクリアしたら…ですか」
「いや、君自身のクエストをクリアしたら…つまり、”後悔が晴れたら”だ。」
「…」
「ここに来た者たちは、前世に大きな後悔をもって転生してきた。その後悔に再会したとき、はじめて、自身のメインクエストを思い出すんだ。…アルベルト、君も、その後悔に、再会してしまったのではないか?」
「……」
その時、真っ先に思い浮かんだのは、ハインリヒ、 ”宏” だった。
「ハインリヒだろう。」
「…?!」
「…怖がらなくていい。運営の身として、把握してある。」
総長の話す”後悔”が何となく、分かった気がした。
「君のメインクエストはまだ、解放されないようだね。」
「?」
「もう少し、待ってくれるかい?」
「…分かり…ました。」
何のことか分からなかったが、頷いておいた。
「…総長、もし、そのクエストをクリアしたら、どうなるのですか。」
「…選択肢は二つだ。ここに残るか、新しい人生を始めるか。」
「生まれ変わるということ?」
「そうだね。」
なんだか複雑な思いだった。
アルベルトはこのゲームが終わってしまうことを嘆いて、晃人は宏と共にやり直すことができると喜んでいた。
「アルベルト、君にまだ話すことはたくさんある。追々話すことにするよ。それまではまだ、アルベルトとして…、良かったらゲームを楽しんでくれ。」
スヴェンは微笑んだ。
_________________________
「おかえりなさい。」
「クラウスさん。」
宿に戻ると、クラウスが待っていた。
いつも見ていた可愛らしさはなく、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「総長から話は聞けた?」
「はい。その、クラウスさんって…」
「あぁ、僕?とっくの昔に前世思い出してるよ。」
「そ、そうなんですか。」
「うん。」
「後悔、あったんですか。」
「…座って。」
クラウスはアルベルトを椅子に座るよう指さした。
「僕はもう既に後悔は晴れてるんだ。」
「じゃあ、ここに残るのを決めたってことですか。」
「まぁ、そうだね。」
「…知らなかった。」
「これを話したのは、総長以外に君が初めてだよ。」
「ティナさんは知らないのですか。」
「話してないけど。どうだろう。姉ちゃんも思い出してるかも。あの人、前世と全く変わらないから。顔も性格も。」
「ティナさんの前世、知ってるんですか」
「うん、前世でも姉弟だったから。僕の後悔も姉ちゃんが関わってる。」
「……そうなんですね。」
クラウスは悲しげに笑った。
「メインクエスト、クリアできるといいね」
そう言い残し、クラウスは去った。
「……はい!」
アルベルトはルドルフの事は話さずに、ハインリヒの手を引いた。
話す必要も感じていなかった。それはメンバーの皆が思っていたことだった。
ギルドの騒ぎは収まっていた。
「何事も無かったようだな」とゲルトが呟いた。レオポルトも頷いていた。
「…あの、アルベルトさん。」
「どうした?」
ハインリヒが引き止めた。
「僕のわがままを聞いてください。」
「なんだよ、わがままって。何でも言え。」
「…僕をパーティーメンバーにして下さい」
「…!」
ハインリヒはメンバー申請をして欲しいと頼んだ。アルベルトはもちろん、と答えた。すぐに申請をして、ハインリヒの想いは叶った。
ギルドを出て、バスティアンが声を出した。
「ねぇ、装備屋に寄りたいんだけど。いいかな?」
「あぁ。」
「ありがとう。武器の進化が出来そうなんだ。」
「皆の武器と装備も確認してこよう。」
「おう。」
アルベルトはメンバーの方を振り返った時、ふと思った。あぁ、これが俺のパーティーだよ。誰にも越えられない最強の。
「何笑ってんだよ、気持ちわりぃな」
にやにやと笑っていたアルベルトを見て、ゲルトが眉間に皺を寄せた。
「すまんすまん…」
装備屋に到着し、オリヴァーと話していた時
「あれ、ハインリヒちゃんは今日いないのか」
「「えっ」」
気付いた時には、ハインリヒがいなかった。
「ハインリヒ?!」
「あれ、レオポルトもいねぇぞ」
「えっ」
メンバーは慌てて外へ出た。
「レオポルト!」
装備屋の外へ出てすぐにレオポルトが立っていた。
「ハインリヒがいねぇんだ」
「ハインリヒさんなら、あそこに。」
レオポルトは指を指した。
川の傍にハインリヒがしゃがみこんで何かしている。
「はぁ…」
「んだよ、心配させやがって」
「連れてくるよ、待ってて。」
アルベルトがハインリヒの方へ走って行った。
ハインリヒは水を触っていた。
「ハインリヒ。こんな所で何してるんだ?」
「あ、アルベルトさん。…さっき、ここら辺に光ってる物が見えたんですけど、気のせいだったかな。」
「そうなのか?」
「…水が反射してたのかも」
ハインリヒは笑った。
アルベルトもつられて笑みがこぼれた。
「……」
すると、じっとハインリヒがアルベルトを見つめた。
「……?」
ハインリヒの目には、アルベルトにノイズが入ったように見えていた。
ジリッ…ジリッ…
「……晃人?」
「えっ?」
「晃人だ。」
「…だ、誰のことだ?」
ハインリヒは嬉しそうにアルベルトの顔に触れた。
「晃人…!」
「???」
アルベルトは困惑した。全く知らない名前で呼ばれて、ハインリヒはなぜか嬉しそうにしている。
「…??」
ハインリヒにノイズが入って見えた。
「…!」
_______________ 突然、耳鳴りと共に、記憶がフラッシュバックした。
_______________
「ねぇ、晃人。」
「ん?」
「晃人の病気、治ったらさ、また祭り行こうよ。毎年行ってるやつ。」
「…それまで、回復できるかな。」
「何言ってるの。大丈夫だよ。」
「宏。」
「どうしたの。」
「…ごめんな。」
「何が。」
「…俺のせいで、今まで宏がどんな辛い思いしてきたか。」
「辛いなんて、そんな。晃人で良かったって思ってるよ。」
「…そうかな。俺のせいで、宏の学生生活も…」
「一生かけて償って。」
「え…あぁ。」
「もう、そこ笑うとこ。冗談だよ。もう気にしてない。」
「…そうか。」
「晃人。僕ね、これから忙しくなるからあんまり来れなくなるかも。でも絶対にまた来るから。待ってて。」
「あぁ。待ってる。」
それから、少しずつ身体が病に浸食されていく感じがした。
あぁ、もう宏に会えなくなるかもしれない。早く、会いに来てくれないかな。なんで、この足、動かないんだろう。これじゃ、会いに行けないだろ。
宏に会えなくなって数日後、この時が来てしまった。
「先生!!出血が止まりません!!」
「前田さん!前田さん……」
それと あとひとつだけ、覚えてる。
最期、俺は、微かに見える視界で分かった。
あの医者、俺の目をじっと見てた。俺の視力が完全になくなって、心臓が止まる瞬間を黙って見ていた。
そういえば、死者は最後に耳が聞こえなくなるって聞いたことがある。
あれは本当だったらしい。
_____ 宏は私が一緒にいるから気にしないで。酷いこともしないから。…あっちで楽しくやっていきなよ。
____________________________
「…宏。」
アルベルトはハインリヒを宏と呼んでいた。
「ぁ…ぁ…」
何だか訳が分からなくなってきた。
アルベルトとしての記憶と前田晃人としてのデータが混ざる。
混乱しているのに、涙があふれてきた。涙が止まらなくて。気付いた時にはハインリヒを抱きしめていた。
「ハインリヒ…会いたかった。」
「…晃人、会いに行けなくて…ごめんね。」
_____ 俺に、ハインリヒに、一体何が起きているんだ?
「おーい、アルベルト!ハインリヒ!」
装備屋の方から、ゲルトが呼ぶ声がした。皆、待っていた。
「おいおい、何いちゃついてんだよ。気持ちわりぃな。」
「ちゃんと仲直りしたんじゃないですか?」
「それならいいけどさ。」
「…。」
「ごめん、皆。」
「何してんだよ、ほら、装備。」
「ありがとう。」
目を赤くしたアルベルトの顔をフィラットが覗き込んだ。
「何、泣いてんの?」
「んだよ、感動の仲直りってか?」
「ハインリヒさんまで。大丈夫ですか?」
「…」
「あ、あぁ、な、仲直り、だよ。あはは、気にすんなよ、さ、行こう。」
アルベルトは笑ってメンバーの先を歩いた。
「今日は、メインステージには進みませんか。」
「あ…、あぁ、ど、どうしようか。」
「お二人さんに泣きながら行かれても困るけどよ。」
ゲルトが鼻で笑った。
「…ま、今日は休みの日ってことでもよさそうだけど。」
「それがいい。」
フィラットの提案にバスティアンが賛成した。
「そうか。じゃあ、そうしようか。」
「宿に戻るか。」
「あぁ。」
そうして、宿に戻ってきた。
「お帰りなさい!」
ティナとクラウスが出迎えた。
「あ!ハインリヒさん!ご無事でしたか!!」
「はい!」
「よかったぁ!!」
そういえば、ハインリヒがこの宿に帰ってきたのも久しぶりであった。宿主の二人は喜んだ。
「さ、お休みになってください!」
「ありがとうございます。」
メンバーはそれぞれの部屋へ戻った。
「はぁ。」
アルベルトはベッドに座り、ため息をついた。
まだ、混乱していた。
「あれが俺の前世?これが俺の今?」
前田晃人。
アルベルトは思い出した。ハインリヒでなく、”宏”との記憶。
「なぜ?今になって、思い出したんだ。俺もハインリヒも。」
少し考えて、立ち上がり外へ出た。
「アルベルトさん、お出かけですか?」
「クラウスさん。」
「…大丈夫ですか。いろいろと。」
クラウスは今までの雰囲気と違った。冷静で、大人っぽくて。実際、アルベルトより先輩なのだが。
「もしかして、思い出した?」
「えっ」
「…なんだか、僕の知ってるアルベルトじゃないから。」
「…クラウスさん、あなたも俺の知ってるクラウスさんじゃない。」
「だろうね。思い出して演じてるだけだから。」
「えっ。」
「総長に聞いてごらん。」
「…総長に?」
「頃合いかもしれないよ。」
「頃合い?」
「ま、いいから。行ってきなよ。君の仲間には、出かけた、とだけ言っておくからさ。」
「…ありがとうございます。」
クラウスは微笑んだ。
アルベルトはギルドへ向かった。
「総長。アルベルトです。」
「あぁ、入れ。」
「失礼します。」
「急にどうした。何かあったか。」
「それが…その…」
「?」
「…前世の記憶が戻ることはあり得るのですか。」
「前世…?」
スヴェンは深く息を吸った。
「思い出したのかい?」
「…はい。」
「そうか。ついにこの時が来てしまったか。」
「?」
「アルベルト、この際だから、君に話しておこう。」
「はい」
「…このゲーム世界の中には、君のように前世の記憶を思い出す者が、他にも沢山いる。」
「ですがなぜ、今になって思い出したのか…」
「”後悔” に会ったからではないか?」
「後悔に会った?」
「アルベルト、このゲームがいつ終わるのか、知っているか?」
「え…ステージをクリアしたら…ですか」
「いや、君自身のクエストをクリアしたら…つまり、”後悔が晴れたら”だ。」
「…」
「ここに来た者たちは、前世に大きな後悔をもって転生してきた。その後悔に再会したとき、はじめて、自身のメインクエストを思い出すんだ。…アルベルト、君も、その後悔に、再会してしまったのではないか?」
「……」
その時、真っ先に思い浮かんだのは、ハインリヒ、 ”宏” だった。
「ハインリヒだろう。」
「…?!」
「…怖がらなくていい。運営の身として、把握してある。」
総長の話す”後悔”が何となく、分かった気がした。
「君のメインクエストはまだ、解放されないようだね。」
「?」
「もう少し、待ってくれるかい?」
「…分かり…ました。」
何のことか分からなかったが、頷いておいた。
「…総長、もし、そのクエストをクリアしたら、どうなるのですか。」
「…選択肢は二つだ。ここに残るか、新しい人生を始めるか。」
「生まれ変わるということ?」
「そうだね。」
なんだか複雑な思いだった。
アルベルトはこのゲームが終わってしまうことを嘆いて、晃人は宏と共にやり直すことができると喜んでいた。
「アルベルト、君にまだ話すことはたくさんある。追々話すことにするよ。それまではまだ、アルベルトとして…、良かったらゲームを楽しんでくれ。」
スヴェンは微笑んだ。
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「おかえりなさい。」
「クラウスさん。」
宿に戻ると、クラウスが待っていた。
いつも見ていた可愛らしさはなく、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「総長から話は聞けた?」
「はい。その、クラウスさんって…」
「あぁ、僕?とっくの昔に前世思い出してるよ。」
「そ、そうなんですか。」
「うん。」
「後悔、あったんですか。」
「…座って。」
クラウスはアルベルトを椅子に座るよう指さした。
「僕はもう既に後悔は晴れてるんだ。」
「じゃあ、ここに残るのを決めたってことですか。」
「まぁ、そうだね。」
「…知らなかった。」
「これを話したのは、総長以外に君が初めてだよ。」
「ティナさんは知らないのですか。」
「話してないけど。どうだろう。姉ちゃんも思い出してるかも。あの人、前世と全く変わらないから。顔も性格も。」
「ティナさんの前世、知ってるんですか」
「うん、前世でも姉弟だったから。僕の後悔も姉ちゃんが関わってる。」
「……そうなんですね。」
クラウスは悲しげに笑った。
「メインクエスト、クリアできるといいね」
そう言い残し、クラウスは去った。
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