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葬られた虚空絶海

見えない怪物

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「…座ってください。背中流すので」
「痛てぇよ……」

アルベルトは渋々風呂椅子に座る。

「…まだ怒ってんのか」
「怒ってません。仲直りしています。現在進行形で…。」
「…おうよ」


ザリザリザリザリ……

「だから痛てぇよ!!…背中はもういい」
「…じゃあ…あんよ。」

少し痛いけど床に正座し、アルベルトの左足に手を出した。

「…あぁぁぁぁ!いいいい。自分で洗う。」
「仲直りしたので」
「仲直りのレベルが違うだろ」
「早く。」


ザリザリザリザリ…

「痛いって!!…え、何してんの。」
「…すね毛が絡まった……」
「すね毛って絡まんのか、絡まねぇだろ。」
「……。」

アルベルトはちょこんと正座しているハインリヒを見つめた。


「…もう大丈夫だって。…ありがとな」
そう言って頭を撫でた。

「…右足洗ってない。」
「…だからもういいって。」


すると、風呂の扉が開いた。

「…えっ……」
ゲルトが2人を見て静かに扉を閉めた。
風呂椅子に座るアルベルトと足元に正座するハインリヒ。

「……ゲルト…!!??」
アルベルトは泡を急いで流し、ゲルトを引き止めに走った。

「違うって!そういうことじゃない!」
「…失礼しました…」
「違う違う違う!……」

ハインリヒは面白くて笑った。



次の日

アルベルトはハインリヒの言われた通り、レオポルトに謝ったらしい。なんか気持ち悪がられたと言う。

朝食を終え、宿を出ようとするとクラウスも付いてきた。
「今日は宜しくお願いします!」
ぺこりと礼をする。

「…何か…雰囲気が違う……」
今日のクラウスは、釣り道具を持つまでは普通なのだが、勇者のような格好をしている。

「クラウスさん…た、闘うんですか…?」
「あぁ、はい!敵が出るって聞いたので!」

穏やかな笑顔を見せるクラウスに似合わないような、拳を構えるポーズをした。

「…まさかの……素手?」
「はい!!僕、一応元勇者なんですよ!あははっ」
「拳で闘うタイプかぁ…」
「だめだ…サイコにしか見えん」
「あははっ、そんなことないですよぉ」

「……い、行きましょうか。」

メインステージに昼間行くのは久しぶりだ。


「わぁ!ワープだ!懐かしいなぁ!」
クラウスは凄く楽しそうであった。

♪ ブォン

心地よい波の音が聴こえる。


「わぁ!すごく綺麗な海で良いですね!ここなら僕も進んでみたいくらいです!」
そう言って釣りを始めた。

メンバーはあの凄惨な夜の光景を知るので、誰も喋らずに微笑むことしか出来なかった。

「……敵、出るのかね」
「当たり前だ。いつか来る。」

「わぁ!釣れた!やったぁ!」
小さな魚を次々と釣っていく。

「うぉ!凄いの来ました!!大物の予感!」
釣竿は折れそうなくらいにしなっている。

「おい……まさかだよな……」
ゲルトが嫌そうな顔をする。

「わぁーーー……!!!」

釣れたのは、大きな……ウミヘビ…?


🐍「クァァァァァ!!!!!」


「もー出たよ、敵だ。構えろ。」
メンバーは冷静であった。

「僕も闘います~!」
パーティーに特別枠が設置され、クラウスが加わり7人体制で闘うことになった。

「素手かぁ……。大丈夫なの?」

「あははっ!大丈夫ですよ!一応、Lv89はあったんで!!まぁ…皆さんの方が強いですけどね!」
クラウスはいつだってニコニコしている。

【1ターン目】

クラウス
 必殺 一撃必殺弾拳 22586ダメージ

アルベルト
 通常攻撃 10423ダメージ

フィラット
 必殺 炎銃乱舞 21760ダメージ

レオポルト
 通常攻撃 8632ダメージ

バスティアン
 奥義 全ステータスがUP

ゲルト
 通常攻撃 8630ダメージ


🐍「クァァァァァ…!!!!!」

♪ テッテレテッテレテレレッテレー⤴︎︎

勝利!

「僕に回ってこなかった……!!」
ハインリヒは立っていただけであった。

「……クラウスさん…1人でいけたでしょ」
「えーそんなことないですよ!!皆さんがいたから勝てたんですよ!!」

「なんでクラウスさんがこんなに強いんだよぉ~」
「あああ~~」
フィラットがクラウスの肩を揺さぶった

「クエストってこんな感じなんですか?」
「まぁ、街の方のお願い的なクエストは簡単なものが多いです。今回は、クラウスさんが強すぎましたね」
「じゃあ……人魚のクエストって…?」

「あれは…メインクエストですから。」
「ストーリー的な?」
「はい、その通りです。なので、そう簡単にはいかないんですよ。」
「人魚もこれくらいだったらいいのに…」
「それじゃ面白くないですよ。」
レオポルトは笑った

♪ テッテレテッテレテレレッテレー⤴︎︎

『クエストをクリアしました』

素材とEXPを受け取った。

「…皆さん、ありがとうございました!今晩はお魚ですよ!お待ちしてます!どうかご無事で!!」
クラウスは籠いっぱいに魚を釣り、ワープして帰った。

「……さて、これからどうするんだ?」
「夜まで時間があるな。それに、今日は多分ボス戦だ。備えるしか無さそうだな。」
「…装備強化してくるとか?」
「あぁ、それでも良さそうだ。」

結局、メンバーも街へ戻り、装備屋へ向かった。

「お!いらっしゃい!」
オリヴァーが迎えた。

ハインリヒはしかめっ面。

「装備を強化したいんです。」
「了解。じゃあ…レベルとステータス上げとくよ。」
「ありがとうございます」

アルベルトがオリヴァーに素材とお金を渡すと装備が強化されたようだ。

♪ テレレッテレー⤴︎︎

『装備が強化されました』

「よし……いいな…」
「オリヴァーさん、ありがとうございます」

「何、これから出陣すんの?」
「はい。今回はボス戦になるかと。」
「ほぉー大変だねぇ。頑張っておいで」
「ありがとうございます。行って来ます」
「行ってらっしゃい!」

オリヴァーが小声で囁いた。
「…ハインリヒちゃん♡頑張ってね♡」
「……?!」

「新衣装も凄い似合ってるよ♡」
「…お陰様で寒いんです!!!」
「なははっ、もぉ可愛いなぁ本当に」
「黙れ下さい」
「お肌も綺麗だねぇ、すべすべだ」
「黙れ……!さよなら!!」
ハインリヒはショタコンオリヴァーを睨んで出て行った。

「くぅぅぅぅぅ!!可愛い!!!」
オリヴァーはハインリヒに萌えていた。


ちょっと気持ち悪い。

「ハインリヒさん?どうしました?」
「あぁ、いえ。行きましょう」

気付けば夕方。日が沈み始めている。
「そろそろ行こうか。」

メンバーはボスが居るであろう道へワープした。


♪ ブォン

__________


夕日が微かに照らし、薄暗いのもまた気味が悪い。

「……。」

「ほら。」
アルベルトがこっち来いと言うように腕を上げた。

「…レオポルトじゃ頼りねぇだろ、ほら」
「…やきもち妬いたの?」
「いいから」
「あー、否定しないのね!」

アルベルト腕に抱きつく。
何故かあんまり怖くない。怖いけど。


「ハインリヒ、少しは顔を上げろ。」
「チョットイヤデス……」

「…うお……まさか…あれか……?」

長い道の先に、広い場があった。

「なんか…張り付けされてね…?」
「ちょっと残酷だからやめてくれよ……」

「ハインリヒ?大丈夫か?そろそろだぞ」
「イヤァァァァァァァミタクナイィ……」

メンバーが奥へ進むと、確かに大木に張り付けされている人魚がいた。

「…人魚の王子だ。」
大木に張り付けされているのは綺麗な青年の人魚。白く真っ直ぐ長い髪はとても綺麗で、透明感がある水色の鱗もとても美しい…

「ハインリヒ……?大丈夫か?」
「ダイジョバナイ……!!」
「まだ大丈夫だ。助ける人魚の王子だ。」
「ヤダァ……」
ハインリヒは未だに顔を上げられない。

「ボスがどこから出てくるか……」
メンバーは辺りを見渡す。

すると、
大木の後ろからぬるっと出てきたのは、黒い大きな身体に青白い目だけがギラリと光る人魚…。

🧜‍♀️「……クガァァァァァァ!!!!!」


「ひっ……」
メンバーもゾンビのような人魚に絶句。

「ハインリヒ……!!ボスだ!!闘うって……!!!」
「イヤァァァァァァァ……」


ハインリヒはやっと顔を上げた。


「……ぉ?」
「…怖いとは思うが…」


「……わぁ綺麗……」


「「「は???」」」


「えっ、これボスなんですか??」
「……ボスですよ!どう見ても……」
「えっ…これが助けるべきの人魚さんでは?」
「ハインリヒ…大丈夫なのか?」


「えっ……??」


ハインリヒには、この怪物が美しい人魚の青年にしか見えないのだ。

「これ…本当に倒しちゃっていいんですか…?」

ハインリヒは困惑した。


🧜‍♀️「クガァァァァァァ……!!!!!」


走行しているうちに戦闘が始まった。


【1ターン目】

アルベルト
 必殺 大剣突き 13354ダメージ

フィラット
 必殺 炎銃乱舞 23569ダメージ

「装備、強化したかいがあったな」
「あぁ。」

レオポルト
 通常攻撃 8760ダメージ

「こいつ、水の耐性があるので僕は役に立たないかもしれません。」
「おめぇは推理だけしとけ」
「…それはつまらないですね」

バスティアン
 炎の爆弾を投げた 21558ダメージ

「えっ、何それ?」
「…新しく作って来た。炎が効くっていうから。あのレア素材を合成して……」
「あああああ!分かった分かった。後でな」
 フィラットは耳を塞いだ。

ゲルト
 奥義 将軍の守り 全体にガードを置いた

ハインリヒ
 奥義 ママのお守り 全体の防御力UP

「…本当にこの人魚を倒すんですか。痛そうですよ…!!」
「俺らにはバケモンにしか見えねぇんだ!」
「ハインリヒは目瞑っとけ!!」
 前方でゲルトが叫んだ。


🧜‍♀️「クガァァァァァァ…!!!!!」

断末魔のように叫び、地面に這い蹲る。
地面から毒が吹き上がる。

「うぉっ!?なんだ?!」

全体がダメージを受けた。さらに、フィラット・バスティアンの炎攻撃をした2人の足が鎖の様なもので繋がれ動けない。

「…近接攻撃が出来ないってことか」
「残念。俺らは遠隔攻撃できるんだわ」
 2人はニヤッと笑った。


【2ターン目】

アルベルト 
 通常攻撃 14568ダメージ

フィラット 
 通常炎攻撃 18560ダメージ

「レオ、これ使え。」
「なんですか、これ……」
バスティアンから渡されたのは薬。

「これ使えば、お前も炎属性になる。だが、効果は3ターンしか続かない。」
「……ありがとうございます!」
「バスティアン、やるなぁ」
「用意周到だねぇ」

レオポルト
 炎属性の薬を使った。
 必殺 炎明連放 21004ダメージ


🧜‍♀️「ギャァァァァァァ!!!!!」



 “痛い……痛い……痛い……”


「はっ……」
ハインリヒには炎でとても痛がっている人魚の青年にしか見えない。
「やめてあげてよぉっ……!!」
涙目になりながら、レオポルトの腕を掴んだ。

「……ハインリヒさん…?これはボスの敵です!」
「どう見たってゾンビの人魚だ。」

「違います!とっても綺麗な人魚のお兄さんです!!これが人魚の王子様です!やめてください!」

「……。」
アルベルトはハインリヒをただ見つめる。

🧜‍♀️「クガァァァァァァ……」

ハインリヒの言う人魚は、大木に張り付けされている方だろう。

「…逆に見えているのか…」
アルベルトは呟いた。

「…流石に、ボス戦やめるってこたぁ出来ねぇよな?」
「…やめたところでって感じじゃね?」
「分かりません…」

ハインリヒの言葉でメンバーは混乱してしまった。

「ハインリヒ。敵の後ろに見える大木に張り付けされているのはどう見えるんだ?」

「……え?」

ハインリヒが大木を見ると、

「何も…見えません…。何もいません。」


「……?!」
「どうなってやがるんだ、こいつの目は!」
「…何が本当か分からねぇ。」

「…ハインリヒの言う通りにするか?」
「バスティアンはどう思う?」

「…僕にも分からないんだ。水晶も何も教えてくれない。」
「使えねぇ水晶だな…」
「うるさい!!」
「悪ぃ悪ぃ」

「やめてください。とにかく。炎がとにかく痛そうなんです…」

「あーもー!!分からん!!!」
フィラットは頭を掻く。

すると、アルベルトが言った。
「…3つの分かれ道の時、覚えてるか?」
「あぁ。」

「あの時、ハインリヒが見て聴いた通りにした。それは正解だった。もし信じていなかったら、俺らは今頃どうなっていたか。」
「…これとそれとは状況が違うだろう?ボス戦なしで…クエストクリアってのは…」
ゲルトは腕を組んだ。


そして、混乱してヤケクソになったフィラットが叫んだ。
「これはメインクエストで!ストーリーの1つだ!ボス戦が無いなんて有り得ないだろ!!ごちゃごちゃ言ってないで早く潰せよ!?」


ハインリヒを信じようとするアルベルト。

目の前の敵を潰すべきだと主張する、フィラットとゲルト。

未だ混乱しているバスティアンとレオポルト。


どちらが真実で、どちらが騙されているのか。


ハインリヒは頭を抱えた。
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