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砂漠の国
ママのハグ
しおりを挟む「オアシスって本当に見つからねぇんだな。」
フィラットがぼそっと呟いた。
「マップも未完成だしな。仕方ない。」
アルベルトが歩いてきた道しか描かれていないほぼ白紙のマップを広げた。
「マップって最初から描かれていないんですか?」
ハインリヒが尋ねた。
「このゲームでは、自分達が歩いて、記していかなければなりません。」
「めんどくさいですね」
「まぁ…それは……僕も思います」
レオポルトは笑った。
「……ん?」
レオポルトが何かに気付き、砂を触った。
「砂が湿ってる…。」
「そうなんですか?」
「少しですが。」
「この近くにあるはずです。もしくは、ここら辺で雨が降ったか……」
「出ました、名推理のレオ。流石。」
フィラットが反応した。
「よし、じゃあもう少し探そう。ボトルに汲んだ水を飲みながらな。」
メンバーに組んでおいた水が渡された。
ジリジリ……
「……?」
ハインリヒは何か嫌な予感がした。
砂の下で何かが蠢いてるような。
ジリジリ……ジリジリ……
「あの……何か……いるような気が。」
ハインリヒはレオポルトに寄った。
「……虫ですかね?」
「……あ?虫くらいでビビってんじゃねぇ、さっさとオアシス探してセーブしとこうぜじゃねぇとやってらんねぇ、この暑さ。」
ゲルトは水を飲みながら呟いた。
砂漠は蒸し暑い。すぐに喉が渇いてしまう。
「本当に虫か?」
アルベルトが話した途端に。
「「「「うわっ!!??」」」」
小さい何かが一斉に飛んできた。
咄嗟にハインリヒとバスティアンを囲むようにして、物理攻撃の4人が斬り、撃ち、なんとか避けた。
「ふぅ……なんだ、トカゲか?」
「びっくりしたぁ……」
「…早く行こうぜ。また薔薇出てこられても困るし。」
「トカゲの縄張りとかなのかもしれないな。気を付けよう。」
「はぁ……♡」
囲まれたハインリヒは、咄嗟に守ってくれた4人にとてもきゅんとしていた。
バスティアンは相変わらず無表情。
「早く行こう。」
アルベルトに連れられ、一同は再び歩き出す。
暫く歩くと、谷のように凹んで見える地に湖を見つけた。木々も生い茂っている。
「「「オアシス!!?!?」」」
やっと見つけたらしい。
「わ、良かった!」
「セーブポイントですね。」
見覚えのあるワープの輪がある。
ハインリヒはほっとした。
「セーブポイントには、基本的に敵も出てきません。安心して休みましょう。」
レオポルトが微笑んだ。
なんだこのイケメンたちは!?!?
ハインリヒはイケメン共に惚れ惚れ。
オアシスはとても綺麗であった。
「あー、オアシスもっとあったらいいのにな」
ゲルトが寝転がった。
「…ハインリヒのスキルどうなってるの。」
バスティアンが何の前置きも無く、話を振った。
「はい?」
「薔薇の時の。アルベルトが赤ちゃんになったやつ。」
「ぷっ……あっはははは!!」
ゲルトが笑った
「笑ってんじゃねぇぞ」
アルベルトが睨んだ。
「さぁ…。これは元々あったスキルみたいです。でも……温泉の時のスキルは一体何なのかが分からないんです。」
「へー。本人でも分からないスキルってあるんだ。変なの。」
ハインリヒにも分からないことだらけだ。
「バスティアン、薬塗ってくれ。」
「あぁ、そうだったな。」
薔薇と闘った時、フィラットが顔に傷を負ってしまった。
バスティアンが取り出した薬を直接塗ろうとした。
「ちょっと!……まだ砂付いちゃってるでしょう?」
ハインリヒが湖の水で優しく傷を洗い、フィラットの傷に薬を塗った。
「ナースだ…」
フィラットはハインリヒの綺麗な顔を見つめていた。
「…傷治すならちゃんと洗わなきゃ。みなさんもちゃんと洗ってからですよ!」
「痛くないですか?」
ハインリヒはフィラットに微笑んだ
「ママぁぁぁぁぁぁ!!!」
フィラットはハインリヒに抱きついた。
『スキル ママのハグ を発動します』
「「「え???」」」
♪ フゥァン⤴︎︎フゥァン⤴︎︎
『攻撃力が586 UPしました』
『HPが1240回復しました』
ハインリヒはフィラットの長い赤髪を優しく撫でた。
「ママや……。」
フィラットはハインリヒの胸に体を寄せた。
完全に癒されている。
メンバーはまた混乱した。
「なんでもありなんだな。お前のスキル」
ゲルトは唖然としていた。
「あぁ、いかんいかん…。」
フィラットは顔を上げた。
「……気持ち良すぎて寝そうだった。」
「ふふっ。赤ちゃんみたいですね。」
ハインリヒがそういうと、こちらを見つめていたレオポルトに手を広げた。
「おいで♡」
「はっ……はい…」
レオポルトは素直にハインリヒに抱きしめられた。
『攻撃力が610 UPしました』
『HPが1620 UPしました』
レオポルトも癒されている。
「はぁ……。」
ゲルトはそんな彼らを見て、ため息をついた。
「あぁあぁ。ほら、ママにハグされてないで、早く行くぞ。」
アルベルトが呆れたように言い、立ち上がった。
「はぁい」
メンバーは皆立ち上がった。
「これからどう向かうんだ。何も無さすぎて分からない。」
ゲルトが腰に手を当てた。
「俺にも分からん。歩いてたらボスが出て来るかもしれないだろ。」
アルベルトが適当に答えた。
「……僕は何の為の占い師だ。」
「「「バスティアン!!!!」」」
「僕が前を歩くよ。」
バスティアンが水晶を持って、案内してくれるそうだ。
「なぁんだ、最初からバスティアンに頼めばよかったじゃん!」
フィラットは、安堵した様子。
その後は順調に進んだ。
敵は奥へ進むにつれ、次々と現れた。
ミイラ戦士、朽ちない薔薇、巨人骸骨、大蛇 ………
幾つかセーブポイントを見つけ、休みながら進めてきた。
何より、ハインリヒのスキルが大活躍したのだ。
「……きたな。」
バスティアンが急に立ち止まった。
後ろが前へ倒れかかった。
「うぉぉ……。え、汚い?何が?」
「違う。来た。」
「え、何がって?」
すると、地面が大きく揺れ出した。
「「「おおおおおお???」」」
地面から出てきたのは、砂で出来た龍だ。
空中に飛んでいる。
大きな目はギョロギョロと動いている。
「ここのラスボスだ……!!構えろ!!!」
アルベルトの一言で、メンバーは構えた。
🐉「ウ"ォォォォォォォォン!!!!!!!」
「なんでボスって毎回こんなにうるさいの」
フィラットは耳を塞いだ。
「これって…物理攻撃が効くのか……?」
「効かないかも知れません……。」
「じゃ、大剣しか取り柄のないアルベルトは引っ込んでもらって。」
フィラットは鼻で笑った。
「なんだ、その言い方!?」
「じゃ、変えましょうかね。」
フィラットが赤い拳銃に持ち替えた。
「……すごい…!」
ハインリヒはドキドキした。
「そうするか。」
そういうと、ゲルトも盾と剣を持ち替えた。黄金と黄色の中間色で輝いている。
「僕もそうした方が良いかと。」
レオポルトも水色とシルバーに輝く弓矢に変えた。
「そ、そんなのありなんですか!!」
ハインリヒは彼らがかっこよかった。
「僕にも出来たらいいんだけどね。」
バスティアンはぼそっと呟いた。
「俺にもねぇよ、そんなもん。」
アルベルトも呟いた。
「どういうことなんですか、これ」
「属性…、だよ。」
「属性?」
「このゲームでは、何かしらの属性が与えられるんだ。」
「フィラットは火、ゲルトは雷、レオポルトは水…ってとこかな。僕は最初から魔術師だから属性は関係ないんだ。」
「アルベルトさんは……?」
「俺はただの正義のヒーローだよ」
「そういうのもいるんだ。生粋の物理攻撃担当さ。」
バスティアンとアルベルトが話した。
【1ターン目】
〈アルベルト〉
「とりあえず斬ってみるぞ。」
通常攻撃
砂龍は砂がさらさらと崩れるだけで全くダメージを受けなかった。
「くっそ、やっぱりか!」
〈フィラット〉
通常攻撃 14500のダメージを与えた
フィラットの攻撃は、いつもとは違う。
炎が出ている。
🐉「ブォォォォォォォォン!!!!!!!」
「お、効いたのか。」
フィラットがはっとした。
「こいつは特殊効果に弱いみたいです。」
レオポルトが話した。
「武器も変えて正解ってことだな?」
ゲルトは鼻で笑った
〈レオポルト〉
必殺 水明連放 17300ダメージを与えた
〈ゲルト〉
奥義 鉄壁の守り 後列にガードを置いた
〈バスティアン〉
通常攻撃 呪いをかけた
〈ハインリヒ〉
奥義 ママのお守り 全体の防御力がUP
🐉「ブォォォォォォォォンンンン!!!!!!!」
砂嵐を起こし、長い尻尾を暴れさせた。
「「「「うわっ!!??」」」」
全体が各々7360のダメージを受けた
「……これ……本当は単体攻撃かもしれんな」
バスティアンが呟いた。
「どういうことですか!?」
レオポルトが反応した。
「盲目の呪いをかけた。こいつは目が見えていないから、やむを得ず全体攻撃になったんだ。」
「こ、この威力ですか……?」
「あぁ、きっと、これでも弱い攻撃の方かもしれないな。」
「やべぇな……」
それを聞いていたゲルトが呟いた。
「今回ばかりは、戦略が必要だ。僕の呪いや薬は限度があるし、皆の体力にも限界がある……使い所を1歩でも間違えると命取りだ。」
「……ひぇっ……..!」
ハインリヒはバスティアンの話を聞いて、絶句した。
(ずっとシールド張っていたい……!!!)
「こういう時こそ、ハインリヒのスキルだろ。」
ゲルトが言った。
「もし、大変になったら1人ずつシールドを張って回復だ。そうすれば、全員完全回復だろ?いいじゃねぇか。頼んだぜ。ハインリヒ。」
「はっ……はい!!!」
ハインリヒは怖い気持ちを抑えて頷いた。
「今回、俺はただの役立たずなんだな」
アルベルトの口はへの字になっていた。
「アルベルトさんはとりあえずガードしておいて下さい。」
レオポルトはそう言った。
「はぁい。……ついに年下にも指示されるようになっちまった」
アルベルトは口を尖らせた。
「……ん?」
ゲルトは砂龍の違和感に気付いた。
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