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10.愛と幸せと、嫉妬と
国王の新しい側室
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リシャールのレステンクールでの生活が始まった。
早速取り掛かったのは、結婚式の準備。
祭り事が大好きなフレデリックは、盛大に結婚式を開こうと心踊らせていた。
一方で、リシャールは衣装部屋にいた。
身体を隅々まで採寸されて、ドレスを何度も着替えさせられた。
「……リシャール様、ドレスの形は…」
「…シンプルなのがいいわ。」
「かしこまりました。」
「リシャール様!ティアラの試作品が…!」
「……」
働き蜂たちも目まぐるしく動き回っていた。
「…リシャール様、そろそろお休みになりませんか?」
「ありがとう、リア。」
リシャールにも新しいお付が出来た。
雌蜂のリアとカミーユ。
二人とも青蜜蜂で、明るい性格と優しい性格の子だった。リシャールは可愛らしい子をお付に貰ったと喜んだ。
「リシャール様!お茶をいれました!」
「…カミーユまで。ありがとう。」
「どうぞ。」
二人は白蜜蜂のお付は勿論初めて。
リシャールがどんな人なのか知りたい、そして、美しいリシャールを見ていたい。いつも目を輝かせていた。
「…そんなに、見ないで…。恥ずかしくて、お茶を飲めないわ」
「ご、ごめんなさい!つい。」
「リシャール様があまりにもお美しいので」
「……やだわ、もっと恥ずかしい」
リシャールは少しずつ少しずつ、レステンクールの生活と、国王の側室としての生活に慣れようと励んだ。
「……凄いわ…」
「リシャール様、とてもお似合いです…」
結婚式の日、リシャールはロイヤルブルーのドレスに身を包んだ。金の刺繍が細かくされていて動く度に輝きを放つ。
「…息が止まりそうね」
「えっ、苦しいのですか!?」
「そうじゃないわ。…ドレスが美しすぎて、息が止まりそうなのよ」
「…それは……私も同じです」
リシャールは鏡の前でドレスに見惚れた。
「……結婚式なんて、初めてだわ。」
ロナルドとの結婚式は開かなかった。
二人きりで指輪を交換したくらいにして。
なんだか、緊張してきた。
生まれてから二度目の結婚。
生まれて初めての結婚式。
それがまさか、王室の結婚式なんて。
「…陛下はリシャール様のドレス姿を、とても楽しみにしておられましたよ」
「…そう。」
「……素敵な結婚式になりますよ」
「そうね。…嬉しいわ」
〝新婦リシャールは、フレデリック国王の妻として、夫と国のために尽力し、愛することを誓いますか〟
「…誓います」
グローブを外した細く白い左手に、サファイアの指輪が輝いた。
〝二人が夫婦であることをここに認める〟
フレデリックとリシャールの門出を多くの人々が祝福した。
街では祭が開かれ、城には沢山の貴族や重臣たちが参列した。
結婚式を終えた夜、 リシャールはお付の二人に着替えを手伝ってもらっていた。
「…久しくこんな豪華なドレスを着たわ。」
「……そうなのですか?」
「…私には豪華すぎる。重たくて。」
「仕方がありません。今日だけですよ」
「そうね」
その頃、上機嫌で廊下を歩いていたフレデリック。
「…リシャール~」
着替え中の妻に突撃するのが毎度だそう。
「どんな反応するんかな~?」
きゃー!とか声上げるんかな?
…などと考えながらフレデリックは勢いよく部屋の扉を開けた。
「リシャール!!!」
「きゃっ!陛下!!」
…と、言ったのはリア。
「……陛下。」
リシャールは無反応だった。下着姿で立っていた。
「…リシャール様、下着を……!」
「あっ。」
カミーユに小声で言われてようやく隠した。
「…もうええ。リア、カミーユ、下がっとれ」
「…お着替え中でございます、」
「ええねん、どうせすぐ脱がすから。」
「……は、はい…失礼致します…」
「……?」
お付の二人が去って、リシャールはフレデリックを見つめた。
「…リシャール、今日からハネムーン期間や」
「……そう…ですね」
「捕まえた!!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!陛下!!!」
フレデリックは軽々とリシャールを担ぎ、ベッドへ。
「……あんなんじゃ、足りひんやろ?」
「……」
フレデリックの言葉の意味を理解して、ようやく恥じらいを見せたリシャール。
「…ええなぁ、白い肌やと赤くなってんのすぐ分かる。…可愛らしいなぁ」
「……陛下。」
「…うーん。陛下って呼ばれんのまだ慣れへんなぁ。…二人きりの時は、オーガンって呼んだって。」
「……でも」
「ええねんて。お願いや」
新婚初夜。
月明かりが差し込むこの部屋で、新婚の二人が交尾する。
「ぁ…ぁはぁっ…あぁんっ…あぁ…!」
「…リシャール…ほんまに…綺麗やなぁ…」
息を荒らしながら腰を振り続けるフレデリック。愛おしそうにリシャールを見つめている。
「…あぁんっ…んぅ…あっあっ…!あ…陛下っ…!」
「陛下や…ない…。…オーガンや…」
「…オーガン……そこ…だめ…!」
「…?…だめっちゅーことは…。ええんやな」
「えっ!だめ!だめだめ…!!」
フレデリックの性器で腹の奥を突かれる。
ただの子作りでしかないのに、どうしてこんなに気持ちいいの。
だめ、と言うともっと強くされる。
本当に、話を聞かないんだから。
「あぁっ!だめ…!いく…!いくぅっ!!…あぁっ…あ…あぅ……」
フレデリックより先に限界が来てしまった。
…というのも、フレデリックの体力は底知れないのだった。
「…まだや…まだ…足りひんやろ。もっと…孕んでくれや」
「もう…無理…です……」
「……無理か?…まぁ、期間中は毎晩来たるからな。時間はあるし…しゃーなしやな」
「……」
リシャールは体力の限界で、もう動けなかった。
「……可愛い。これも使う必要も無いんやな」
「……?」
フレデリックがそう言って、リシャールが腹の上に出した精液を彼は舐めた。
「……甘っ。めっちゃ甘いで…」
「…?」
もう、喋る力も出ない。
腹を舐められて擽ったい。
「…下の蜜までも甘いんやな。」
「……」
リシャールは微笑んで、気付けば眠ってしまっていた。
「……リシャール…そんなに…疲れたんか…」
フレデリックはリシャールの隣に寝た。布団をかけて、額にキスをした。
「…おやすみ、リシャール。愛してるで…」
二人きりの時間さえも甘かった。
海の波音を聞きながら、愛する人の寝顔を見るのは幸せだった。
「……」
これで良かったのだろうか。
フレデリックは、ふとそう思った。
「……ええやんか…。俺が幸せにしたるから」
「……?」
次の日の朝、リシャールの隣にフレデリックは居なかった。
「……寝すぎた、かしら……」
外はかなり明るかった。
「…あっ、リシャール様。朝のお茶を…」
リアがお茶を持って部屋に来た。
「…おはよう。…私、寝すぎたかしら?」
「…大丈夫ですよ、昨日は結婚式もございましたから。」
「陛下は?」
「陛下ならご公務に。陛下より、リシャール様を起こさないでくれと。」
「…まぁ、陛下が。」
フレデリックは、リシャールを休ませようとして働き蜂に起こすなと命令していた。
「…陛下のご寵愛が目に見えますね」
「…そんな。やめてちょうだい。」
「本当ですよ、リシャール様。」
すると、そこにカミーユもやって来た。
「リシャール様、お目覚めですか」
「ええ。思ったより長く寝てしまったわ」
「…ゆっくりお休みになれたみたいで良かったです」
「…ありがとう。」
「お礼なら陛下に。」
お茶を一口飲んで、目を覚ました。
「…リシャール様。」
「?」
「…きっとこれから、エルビラ王妃やルチア妃が朝の挨拶に来いと言われるかもしれません。」
「……そうなの?」
「私の勝手な想像ですが…」
「リシャール様、カミーユの言うことはきっと本当です。」
リアとカミーユは口々に話し始めた。
「…ヴァレンティナ妃が陛下とご結婚された後もそうでした。今は頻繁ではありませんが、最初のうちは、毎朝来いと言われるかも…」
「……構わないわ。」
「リシャール様。」
「…シャンパーニから来た私は、レステンクール王室の仕来りに従うだけだわ。何も、分からないんですもの。」
「…ですが、そこに漬け込んで…!」
「リア、カミーユ。私を心配してくれるのは嬉しいけど。…王妃やお妃様を悪く言っては駄目よ。」
「……ごめんなさい…」
フレデリックの妻は自分一人ではない。
それが難点である。
リシャールは着替えて部屋の外へ出た。
リアとカミーユの言う通りだった。
「新婚初夜を迎えたのはええけど、正室である私へ先に挨拶に来るのが礼儀やないのかしら。」
「…エルビラ王妃。どうか、お許しを。」
頭を下げるリシャールを見下したようにエルビラは態とらしくため息をついた。
「…はぁ。昼まで寝てるなんて。どんなだらしない生活をしてきたのかしらね」
「…」
見下されるばかりの主人を見て、リアは黙っていられなかった。
「王妃、これは陛下からのご命令で…」
「リア!やめなさい。」
「…ごめんなさい。」
「まぁええわ。…リシャール妃。陛下からの寵愛を受けたからと調子に乗らんといて頂戴。シャンパーニでどんな生活をしてきたのか知らんけど、ここはレステンクールです。今は、私たちに従っていなさい。」
「…はい。」
エルビラは颯爽と去っていった。
「…リシャール様に、〝従え〟だなんて…」
「……王妃の言う通りよ。私は従うだけ。王妃にも王妃の役割があるから。」
「……?」
「……リア、カミーユ。」
「はい、リシャール様。」
「…城の中を案内してくれない?まだ、大広間しか分からないの。」
「喜んで!!」
二人はリシャールを連れて城を案内した。
「…まぁ…ここは、お庭なのね」
「はい!陛下はハイビスカスがお好きなのですよ。」
「…ふふっ、青い国には似合わないわね」
庭に咲く、真っ赤なハイビスカスの花は青い国に似合わない。リシャールは笑った。
「…でも、陛下らしくてとっても好きよ。」
大きく咲いた花を見るリシャールは、満面の笑顔だった。
大きな花びらが、大きく開く。
見ているこっちまで自然と笑顔になる。
無邪気に笑うオーガンみたいで。
「ふふっ!」
リアとカミーユにも笑みがこぼれた。
「……あら?」
そこにヴァレンティナ妃がやって来た。
「…ヴァレンティナ妃。」
「…リシャール妃。ここでお会い出来るなんて。」
「ヴァレンティナ妃にご挨拶を」
「そんな堅苦しくなくていいわ。気楽にして。」
「感謝します」
黒蜜蜂のヴァレンティナ。
雌蜂だけど、リシャールより身体が大きい。
「…私も、このハイビスカスが好きなのよ。」
「そうなのですね」
「…ペリシエでは咲かないから。」
「…ペリシエ…」
「そうよ。私はペリシエから来たの。レステンクールは珍しい花ばかりで、とても楽しいの。」
「私も今同じ気持ちです。」
ヴァレンティナのシャープな目は、穏やかだった。
「…リシャール妃は、シャンパーニのご令嬢ね?」
「…ご令嬢なんて…」
「シャンパーニの王室から?」
「いえ、平民でございます。」
「えっ?」
「……」
リシャールがシャンパーニの市民であることは知られていなかったようだ。
てっきり、フレデリックが話をしていると思い込んでいた。
「…分からなかったわ。あまりにも上品だから」
「いえ。」
「…少しだけ、羨ましいわ。」
「え…」
「…私ね、ペリシエの王室から嫁いだの。…だから、自由に世界を飛び回る国民たちを見て少しだけ羨ましいと思った。」
ヴァレンティナは自身について話をした。リシャールはペリシエの王室については知らないふりをしようと思った。
「…昨年の春に、私はレステンクールの舞踏会で陛下と出会ったのよ。陛下はすぐに結婚の話を進めてくださった。…先王の父上も喜んでた。」
「……」
その当時の自分とは正反対のヴァレンティナを見て、胸が苦しくなった。
「…今のアンドレ国王は、私の兄上なの。」
「……兄…。ご立派な血筋で。」
「そうでしょう?」
ヴァレンティナは何か思い出して話を続けたり
「兄上は、その時父上と仲が悪かったの。結婚するとかしないとかで。…噂では、兄上は白蜜蜂に恋をして…それに父上が反対したらしいの。」
「……」
「…兄上とはあまり親しい間柄ではないんだけど。…とってもハンサムなの。その兄上が恋をした白蜜蜂、どんな方かお目にかかりたかったわ。」
「……あは…」
リシャールは愛想笑いをした。
「…白蜜蜂って美しいのね」
「?」
「…リシャール妃を見た時、納得したの。兄上も陛下も、何故白蜜蜂にこんなに惹かれるのか。…やっぱり、それ程の魅力があるのね。」
「…そんな。」
ヴァレンティナは気を付けなければいけないと、リシャールは反射的にそう思った。
下手をすれば、アンドレとの関係をフレデリックにまで知られてしまう。
「……。」
穏やかに笑うヴァレンティナの目の奥に、フレデリックと同じような深海が潜んでいるような気がした。
早速取り掛かったのは、結婚式の準備。
祭り事が大好きなフレデリックは、盛大に結婚式を開こうと心踊らせていた。
一方で、リシャールは衣装部屋にいた。
身体を隅々まで採寸されて、ドレスを何度も着替えさせられた。
「……リシャール様、ドレスの形は…」
「…シンプルなのがいいわ。」
「かしこまりました。」
「リシャール様!ティアラの試作品が…!」
「……」
働き蜂たちも目まぐるしく動き回っていた。
「…リシャール様、そろそろお休みになりませんか?」
「ありがとう、リア。」
リシャールにも新しいお付が出来た。
雌蜂のリアとカミーユ。
二人とも青蜜蜂で、明るい性格と優しい性格の子だった。リシャールは可愛らしい子をお付に貰ったと喜んだ。
「リシャール様!お茶をいれました!」
「…カミーユまで。ありがとう。」
「どうぞ。」
二人は白蜜蜂のお付は勿論初めて。
リシャールがどんな人なのか知りたい、そして、美しいリシャールを見ていたい。いつも目を輝かせていた。
「…そんなに、見ないで…。恥ずかしくて、お茶を飲めないわ」
「ご、ごめんなさい!つい。」
「リシャール様があまりにもお美しいので」
「……やだわ、もっと恥ずかしい」
リシャールは少しずつ少しずつ、レステンクールの生活と、国王の側室としての生活に慣れようと励んだ。
「……凄いわ…」
「リシャール様、とてもお似合いです…」
結婚式の日、リシャールはロイヤルブルーのドレスに身を包んだ。金の刺繍が細かくされていて動く度に輝きを放つ。
「…息が止まりそうね」
「えっ、苦しいのですか!?」
「そうじゃないわ。…ドレスが美しすぎて、息が止まりそうなのよ」
「…それは……私も同じです」
リシャールは鏡の前でドレスに見惚れた。
「……結婚式なんて、初めてだわ。」
ロナルドとの結婚式は開かなかった。
二人きりで指輪を交換したくらいにして。
なんだか、緊張してきた。
生まれてから二度目の結婚。
生まれて初めての結婚式。
それがまさか、王室の結婚式なんて。
「…陛下はリシャール様のドレス姿を、とても楽しみにしておられましたよ」
「…そう。」
「……素敵な結婚式になりますよ」
「そうね。…嬉しいわ」
〝新婦リシャールは、フレデリック国王の妻として、夫と国のために尽力し、愛することを誓いますか〟
「…誓います」
グローブを外した細く白い左手に、サファイアの指輪が輝いた。
〝二人が夫婦であることをここに認める〟
フレデリックとリシャールの門出を多くの人々が祝福した。
街では祭が開かれ、城には沢山の貴族や重臣たちが参列した。
結婚式を終えた夜、 リシャールはお付の二人に着替えを手伝ってもらっていた。
「…久しくこんな豪華なドレスを着たわ。」
「……そうなのですか?」
「…私には豪華すぎる。重たくて。」
「仕方がありません。今日だけですよ」
「そうね」
その頃、上機嫌で廊下を歩いていたフレデリック。
「…リシャール~」
着替え中の妻に突撃するのが毎度だそう。
「どんな反応するんかな~?」
きゃー!とか声上げるんかな?
…などと考えながらフレデリックは勢いよく部屋の扉を開けた。
「リシャール!!!」
「きゃっ!陛下!!」
…と、言ったのはリア。
「……陛下。」
リシャールは無反応だった。下着姿で立っていた。
「…リシャール様、下着を……!」
「あっ。」
カミーユに小声で言われてようやく隠した。
「…もうええ。リア、カミーユ、下がっとれ」
「…お着替え中でございます、」
「ええねん、どうせすぐ脱がすから。」
「……は、はい…失礼致します…」
「……?」
お付の二人が去って、リシャールはフレデリックを見つめた。
「…リシャール、今日からハネムーン期間や」
「……そう…ですね」
「捕まえた!!!」
「えっ!?ちょ、ちょっと!陛下!!!」
フレデリックは軽々とリシャールを担ぎ、ベッドへ。
「……あんなんじゃ、足りひんやろ?」
「……」
フレデリックの言葉の意味を理解して、ようやく恥じらいを見せたリシャール。
「…ええなぁ、白い肌やと赤くなってんのすぐ分かる。…可愛らしいなぁ」
「……陛下。」
「…うーん。陛下って呼ばれんのまだ慣れへんなぁ。…二人きりの時は、オーガンって呼んだって。」
「……でも」
「ええねんて。お願いや」
新婚初夜。
月明かりが差し込むこの部屋で、新婚の二人が交尾する。
「ぁ…ぁはぁっ…あぁんっ…あぁ…!」
「…リシャール…ほんまに…綺麗やなぁ…」
息を荒らしながら腰を振り続けるフレデリック。愛おしそうにリシャールを見つめている。
「…あぁんっ…んぅ…あっあっ…!あ…陛下っ…!」
「陛下や…ない…。…オーガンや…」
「…オーガン……そこ…だめ…!」
「…?…だめっちゅーことは…。ええんやな」
「えっ!だめ!だめだめ…!!」
フレデリックの性器で腹の奥を突かれる。
ただの子作りでしかないのに、どうしてこんなに気持ちいいの。
だめ、と言うともっと強くされる。
本当に、話を聞かないんだから。
「あぁっ!だめ…!いく…!いくぅっ!!…あぁっ…あ…あぅ……」
フレデリックより先に限界が来てしまった。
…というのも、フレデリックの体力は底知れないのだった。
「…まだや…まだ…足りひんやろ。もっと…孕んでくれや」
「もう…無理…です……」
「……無理か?…まぁ、期間中は毎晩来たるからな。時間はあるし…しゃーなしやな」
「……」
リシャールは体力の限界で、もう動けなかった。
「……可愛い。これも使う必要も無いんやな」
「……?」
フレデリックがそう言って、リシャールが腹の上に出した精液を彼は舐めた。
「……甘っ。めっちゃ甘いで…」
「…?」
もう、喋る力も出ない。
腹を舐められて擽ったい。
「…下の蜜までも甘いんやな。」
「……」
リシャールは微笑んで、気付けば眠ってしまっていた。
「……リシャール…そんなに…疲れたんか…」
フレデリックはリシャールの隣に寝た。布団をかけて、額にキスをした。
「…おやすみ、リシャール。愛してるで…」
二人きりの時間さえも甘かった。
海の波音を聞きながら、愛する人の寝顔を見るのは幸せだった。
「……」
これで良かったのだろうか。
フレデリックは、ふとそう思った。
「……ええやんか…。俺が幸せにしたるから」
「……?」
次の日の朝、リシャールの隣にフレデリックは居なかった。
「……寝すぎた、かしら……」
外はかなり明るかった。
「…あっ、リシャール様。朝のお茶を…」
リアがお茶を持って部屋に来た。
「…おはよう。…私、寝すぎたかしら?」
「…大丈夫ですよ、昨日は結婚式もございましたから。」
「陛下は?」
「陛下ならご公務に。陛下より、リシャール様を起こさないでくれと。」
「…まぁ、陛下が。」
フレデリックは、リシャールを休ませようとして働き蜂に起こすなと命令していた。
「…陛下のご寵愛が目に見えますね」
「…そんな。やめてちょうだい。」
「本当ですよ、リシャール様。」
すると、そこにカミーユもやって来た。
「リシャール様、お目覚めですか」
「ええ。思ったより長く寝てしまったわ」
「…ゆっくりお休みになれたみたいで良かったです」
「…ありがとう。」
「お礼なら陛下に。」
お茶を一口飲んで、目を覚ました。
「…リシャール様。」
「?」
「…きっとこれから、エルビラ王妃やルチア妃が朝の挨拶に来いと言われるかもしれません。」
「……そうなの?」
「私の勝手な想像ですが…」
「リシャール様、カミーユの言うことはきっと本当です。」
リアとカミーユは口々に話し始めた。
「…ヴァレンティナ妃が陛下とご結婚された後もそうでした。今は頻繁ではありませんが、最初のうちは、毎朝来いと言われるかも…」
「……構わないわ。」
「リシャール様。」
「…シャンパーニから来た私は、レステンクール王室の仕来りに従うだけだわ。何も、分からないんですもの。」
「…ですが、そこに漬け込んで…!」
「リア、カミーユ。私を心配してくれるのは嬉しいけど。…王妃やお妃様を悪く言っては駄目よ。」
「……ごめんなさい…」
フレデリックの妻は自分一人ではない。
それが難点である。
リシャールは着替えて部屋の外へ出た。
リアとカミーユの言う通りだった。
「新婚初夜を迎えたのはええけど、正室である私へ先に挨拶に来るのが礼儀やないのかしら。」
「…エルビラ王妃。どうか、お許しを。」
頭を下げるリシャールを見下したようにエルビラは態とらしくため息をついた。
「…はぁ。昼まで寝てるなんて。どんなだらしない生活をしてきたのかしらね」
「…」
見下されるばかりの主人を見て、リアは黙っていられなかった。
「王妃、これは陛下からのご命令で…」
「リア!やめなさい。」
「…ごめんなさい。」
「まぁええわ。…リシャール妃。陛下からの寵愛を受けたからと調子に乗らんといて頂戴。シャンパーニでどんな生活をしてきたのか知らんけど、ここはレステンクールです。今は、私たちに従っていなさい。」
「…はい。」
エルビラは颯爽と去っていった。
「…リシャール様に、〝従え〟だなんて…」
「……王妃の言う通りよ。私は従うだけ。王妃にも王妃の役割があるから。」
「……?」
「……リア、カミーユ。」
「はい、リシャール様。」
「…城の中を案内してくれない?まだ、大広間しか分からないの。」
「喜んで!!」
二人はリシャールを連れて城を案内した。
「…まぁ…ここは、お庭なのね」
「はい!陛下はハイビスカスがお好きなのですよ。」
「…ふふっ、青い国には似合わないわね」
庭に咲く、真っ赤なハイビスカスの花は青い国に似合わない。リシャールは笑った。
「…でも、陛下らしくてとっても好きよ。」
大きく咲いた花を見るリシャールは、満面の笑顔だった。
大きな花びらが、大きく開く。
見ているこっちまで自然と笑顔になる。
無邪気に笑うオーガンみたいで。
「ふふっ!」
リアとカミーユにも笑みがこぼれた。
「……あら?」
そこにヴァレンティナ妃がやって来た。
「…ヴァレンティナ妃。」
「…リシャール妃。ここでお会い出来るなんて。」
「ヴァレンティナ妃にご挨拶を」
「そんな堅苦しくなくていいわ。気楽にして。」
「感謝します」
黒蜜蜂のヴァレンティナ。
雌蜂だけど、リシャールより身体が大きい。
「…私も、このハイビスカスが好きなのよ。」
「そうなのですね」
「…ペリシエでは咲かないから。」
「…ペリシエ…」
「そうよ。私はペリシエから来たの。レステンクールは珍しい花ばかりで、とても楽しいの。」
「私も今同じ気持ちです。」
ヴァレンティナのシャープな目は、穏やかだった。
「…リシャール妃は、シャンパーニのご令嬢ね?」
「…ご令嬢なんて…」
「シャンパーニの王室から?」
「いえ、平民でございます。」
「えっ?」
「……」
リシャールがシャンパーニの市民であることは知られていなかったようだ。
てっきり、フレデリックが話をしていると思い込んでいた。
「…分からなかったわ。あまりにも上品だから」
「いえ。」
「…少しだけ、羨ましいわ。」
「え…」
「…私ね、ペリシエの王室から嫁いだの。…だから、自由に世界を飛び回る国民たちを見て少しだけ羨ましいと思った。」
ヴァレンティナは自身について話をした。リシャールはペリシエの王室については知らないふりをしようと思った。
「…昨年の春に、私はレステンクールの舞踏会で陛下と出会ったのよ。陛下はすぐに結婚の話を進めてくださった。…先王の父上も喜んでた。」
「……」
その当時の自分とは正反対のヴァレンティナを見て、胸が苦しくなった。
「…今のアンドレ国王は、私の兄上なの。」
「……兄…。ご立派な血筋で。」
「そうでしょう?」
ヴァレンティナは何か思い出して話を続けたり
「兄上は、その時父上と仲が悪かったの。結婚するとかしないとかで。…噂では、兄上は白蜜蜂に恋をして…それに父上が反対したらしいの。」
「……」
「…兄上とはあまり親しい間柄ではないんだけど。…とってもハンサムなの。その兄上が恋をした白蜜蜂、どんな方かお目にかかりたかったわ。」
「……あは…」
リシャールは愛想笑いをした。
「…白蜜蜂って美しいのね」
「?」
「…リシャール妃を見た時、納得したの。兄上も陛下も、何故白蜜蜂にこんなに惹かれるのか。…やっぱり、それ程の魅力があるのね。」
「…そんな。」
ヴァレンティナは気を付けなければいけないと、リシャールは反射的にそう思った。
下手をすれば、アンドレとの関係をフレデリックにまで知られてしまう。
「……。」
穏やかに笑うヴァレンティナの目の奥に、フレデリックと同じような深海が潜んでいるような気がした。
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