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8.降り積もる想い
亡き夫の手紙
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「おじさん、黒蜜蜂なんだ。」
「くろみつばち?」
「そうだよ。だから真っ黒なんだ。」
「ママはね、白蜜蜂なんだよ」
「パパはグレーだよ!」
「そっかぁ、じゃあ…真っ黒なのは初めて見たかな?」
「うん、はじめてみた!」
「あははっ!まっくろ!」
子供達は黒蜜蜂と誰かと笑っていた。
よく見ると、軍服を着ていた。子供達に何かあったらどうしようかと思い、駆け寄った。
「こら、2人とも!」
「パパ!!」
子供達は楽しそうだった。
黒蜜蜂の彼は、優しい笑顔だった。シャンパーニでは有り得ない程、身長も高くて身体も大きくて、顔も凛々しいハンサム。
直ぐに、ペリシエの偉い人だと分かった。
シャンパーニでの戦は、同盟国のペリシエとレステンクールが来ているらしい。
「申し訳ありません!ご無礼をお許しください…」
少し怖くて、頭を下げた。
「…頭を上げてください。」
彼は微笑んで、俺の肩に触れた。
「パパ!まっくろのおじさんだよ!」
「くろみつばちなんだよ!」
「申し訳ありません。きっと、この子達は、黒蜜蜂のお方を初めて見たでしょうから…。」
「構いませんよ。…戦が続いて、久しく癒されました。」
「…そうなんですね…。」
そこに兵士がやって来て、
「陛下、フレデリック国王がお呼びです。」
彼は、陛下と呼ばれた。
ペリシエの国王なんだ。
そういえば、靴屋の客が言ってた。
ペリシエの新しく即位した国王は、ハンサムだったとか何とか。本当だったな。
「おじさん、ばいばい!」
「ばいばい」
子供達と巣に戻った。
「ママ!あのね、あのね!」
「くろみつばちのおじさんがいた!!」
「えっ、黒蜜蜂?」
それじゃあ、ただの変な人みたいな言い方じゃないか。
「リシャール。それがさ、何かペリシエの国王みたいだったんだ、」
「ペリシエ国王…?」
「うん、軍服着て、兵士の人が陛下って呼んでて。身体も大きくて赤い目をしてる、俺もちょっとだけびっくりしたよ。」
「……そう…」
リシャールは知ってるみたいだった。
まぁでも、貴族の出身だから会ったことあるとかあるのかな。
最初はそう思ってた。
また別の日にも、国王の彼はやって来た。
「可愛らしいお子さんですね。」
「あぁ……妻の連れ子なんですけどね…。」
「奥さんの?」
「はい。ですから、僕とは血が繋がっていないのですよ。目の色も違いますし…」
「……。」
彼は黙り込んでいた。そんなに気にする?
「全く、何処のハンサムとの子供なのか。」
俺は冗談のつもりで笑った。
「……。」
また、黙っていた。
「ロナルド!」
リシャールに呼ばれたので、巣に戻った。
部屋に入った俺の後ろで、リシャールが彼に気付いた。
「……。」
二人はお互いの姿を見つめていた。
「ママ!早く来て!」
子供達がリシャールの手を引いた。
「……」
リシャールが少し動揺していたように見えた。
それから少しして、俺は身体に異変が生じるようになった。
あぁ、俺はもう駄目かもしれない。もう先は長くないと分かった。
食も喉を通らないし、筋力も落ちて、支えなしではまともに歩けなくなった。
「……」
俺はリシャールに手紙を書くことにした。
今まで照れくさくてちゃんと伝えられなかったことを死ぬまでに伝えたいと思った。
そして、俺が寝たきりになってから、雪が降り始めた。初雪だった。
「ロナルド、子供達が外に出たいって言うの。少し外に出てくる。直ぐに戻るわ」
「あぁ、楽しんでおいで」
「うん」
リシャールは子供達と外へ出た。
部屋の窓から、初雪にはしゃぐ子供達の姿が見えた。楽しそうな姿は俺を癒してくれる。
「……あ…」
その先に彼の姿が見えた。赤いロングコートで高級そうなファーまで付いちゃって。流石国王だ。
案の定、子供達は彼に駆け寄って彼も嬉しそうに迎えていた。
なんだか、これが家族みたいに見えた。
その姿で分かった。
子供達のグレーの肌。
ナタリアの赤い目とリビオのくせっ毛。
それは、俺にはないもので、彼にはあるものだった。
「……そっか。」
そして、子供達が俺の元に戻ってきて、リシャールは彼と二人きりで話していた。
リシャールは彼の頬に触れて、彼はリシャールの手にキスした。
二人の姿は、恋人だった。
俺、キスなんて小っ恥ずかしいもんだから出来なかったなぁ。ハンサムな彼だから出来るんだろうな。すげぇや。
何故か、悔しいとか嫉妬とか怒りとかそんなのは微塵もなかった。
二人が恋仲であるのは、納得したから。俺がリシャールの幸せを願ってたのは本当だから。
「……あれ」
リシャールが咄嗟に身体を離して、巣に戻ってきた。
一人になった彼は悲しげだった。
「……まだ、想い合ってるんだね」
俺は独り言を呟いた。
「パパ!みて!!」
「わぁ、綺麗だね。ここに置いてくれる?」
「うん!」
リビオが摘んできたサザンカを持ってきてくれた。
「……リビオ、机の引き出しにあるペンと紙、持ってきてくれるか?」
「うん、わかった、」
リビオは健気で可愛い。リシャールにそっくりだ。
俺は、手紙の続きを書くことにした。
「あぁ、嵩張ってしまったな」
一枚に簡潔にしようと思ったけど、書きたいことが多すぎて、もう一枚増えてしまった。
手に力が入らなくて、字も汚い。読めるかな?
「パパ、何書いてるの?」
「んー?…ママにラブレター書いてるの」
「ラブレター?」
「うん、ママ大好きだよーって。」
「わ!僕も書こう!」
「ははっ、机の中にある紙に書いてごらん」
「うん!」
俺の隣でリビオは紙にママいつもありがとう、大好きだよと書き始めた。
「上手、上手」
「えへっ!」
「ママに渡すといいよ」
「うん!ママにあげてくる!」
開けっ放しの扉から、リビオがリシャールに手紙を持って行って、リシャールが喜ぶ声が聞こえてきた。
「……幸せだなぁ」
その夜、リシャールが俺の元に来てくれた。
「ロナルド、調子はどう?」
「……大丈夫だよ。ありがとう。」
「…良かったわ」
黒蜜蜂の彼の事を聞こうと思ったけど、やめた。却って気を遣わせる気がした。
「…ロナルド、顔色が良くなった。」
「そうかい?」
「本当よ。」
「……君と子供達のお陰だよ。」
「うん。」
いつも、俺の手を握ってくれる。
リシャールは綺麗だ。
最初は一目惚れだったけど、俺はリシャールの暖かい優しさが好きだ。
そりゃあ、ペリシエの国王も虜になるわな。
思わず鼻で笑ってしまった。
「何を笑ってるのよ」
「ごめん、思い出し笑い」
「何よ。」
リシャールは微笑んだ。
こんなに綺麗な人、俺には勿体無いなぁ。
ペリシエ国王の妻になったら、リシャールは王妃になるのかな。似合いそうだ。リシャールの豪華絢爛なドレス姿も素敵なんだろうな。
こんなに綺麗なリシャールに、こんな見窄らしい生活させて、良かったのかな。
貴族だった頃のリシャールに会えていたらな。少しだけ、彼が羨ましいよ。
嫉妬とか微塵もないって言ったけど、撤回するよ。
それから、俺は徐々に体力も気力も失った。かろうじて残っていたぼろぼろの羽は本格的に失った。視力も無くなってきた。
「…リシャール、君がいれたお茶が飲みたいんだ。」
「分かったわ。すぐに持ってくる。」
リシャールが部屋を出たのを見て、俺は部屋にいたリビオを呼んだ。
「リビオ。」
「どうしたの?」
俺を見つめるリビオのエメラルドグリーンの瞳は綺麗だった。
「この手紙、引き出しに入れて置いてくれる?」
「……うん。」
「…ありがとう。…それと…」
「?」
「……あのね、リビオ。きっとママは、パパとナタリアとリビオが思うより、辛い想いをしてきているんだ。…だから、もしママに何かあってもママを責めないで欲しい。…パパがいなくなっても、ママの味方でいて欲しい。」
「……分かった。」
微かに見える視界でリビオの頷きを見て、俺は目を閉じた。
そして、小さくなる鼓動が遂に止まった。
「……パパ…?」
茶を持ってきたリシャールは思わず手を離した。
「ロナルド…!」
_______________
手紙を書き終えたから良かった。
字が汚くて読めなかったらごめん。
リシャール、君が幸せなら俺はそれで良い。
ナタリア、リビオ。ママを頼んだよ。
ペリシエ国王のお前も、どうかリシャールを泣かせないでくれよ。ペリシエの国王で、しかもハンサムな君に関しては、リシャールを泣かせたら俺が呪っちゃうからな!
…俺は、今まで飛べなかった羽で空から見守ることにするよ。それじゃあね。
_______ ロナルド・フィグラルツ
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