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8.降り積もる想い

キャロライン

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「陛下。」
「……何だ?」

何だか落ち着かない様子のエリソンドが来た。

「……その…」
「なんだよ、言ってくれよ。」
「これが…」
「……これは…?……ヨハン…?」

エリソンドから渡されたのは、ヨハンの名前が彫られたブレスレット。

「…ヨハンが……?」
「…遺体の山の中に…」
「シャンパーニ兵として、あの場にいたというのか」
「はい…、徴兵…されたのではないかと」
「…はぁ……」

アンドレは目を瞑った。

「…リシャール様は、知っているでしょうか」
「…あの子の事だから、きっと察しているのかもしれないな……」
「……そうですか…」

二人は遺体の安置所へ向かった。

「…ウジェーヌ国王によりますと、石碑を建てられるそうです。」
「……あぁ、それがいい。」

ヨハンの遺体もそこにはあった。

「…ヨハン。」
「……。」
「主に会えず…戦でなんか…。主に会いたいよな…」
「…リシャール様の居場所は…」
「分かってる…。」

ヨハンの無念を晴らしてあげようとアンドレはリシャールの元を訪れた。



シャンパーニのとある村にぽつんと建てられた小さな巣。

「………。」
アンドレは躊躇いながらも、ドアをノックした。

「…?」
そっと顔を覗かせたのはリシャールだった。


「…リシャール。君に話があるんだ」

「…私に?」

「……あぁ。」

リシャールは子供達に留守番するよう言って外へ出てきた。

「……どうしたの?」
「…これを……」

差し出したのはヨハンのブレスレット。それを見たリシャールの悲しげな表情は変わらなかった。

「…ヨハン…。」

「エリソンドが見つけてくれたんだ。ヨハンの遺体もまだ安置している。会うか会わないかは君の自由だ。」
「……」

リシャールは頷いた。
アンドレと共に遺体安置所へ向かった。

ヨハンを見つけたエリソンドが、遺体を他とは別に安置していた。


「ヨハン……」
リシャールはヨハンの冷たくなった頬に触れた。悲しげだったけど、微笑んでいた。

アンドレは少しだけ安心した。


「…やっぱり、そうだったのね」
「……?」
「戦が終わったって聞いても、ヨハンが帰って来なかったから。信じたくなかったけど、きっと…そうなのかなって。」
「……」
「でも、会えてよかった。ありがとう、アンドレ様。」
「あぁ……。埋葬は…」
「きっと、戦士達と一緒で良いわ。共に戦った仲ですから。私もまた、会いに来る。」
「分かった。」

リシャールは泣かなかった。

「……リシャール。」
「?」
「…君の巣の近くに、シャンパーニの復興作業が終わるまで居るんだ。…何かあったら、来てくれ…。」

「…分かったわ」
リシャールは笑ってみせた。

その後リシャールは巣に帰り、アンドレは持ち場へ戻った。


「陛下…!リシャール様は…」
「…ヨハンに会えたよ。他の戦士達と共に埋葬して良いそうだ。」
「かしこまりました。」
「……」

何か分からない、遣る瀬無い気持ちが残っている。何かしてあげられたらいいんだけど。

「陛下、着々とシャンパーニの復興作業が進んでいるようです。ウジェーヌ国王から、後日、凱旋を祝してパーティーが開かれるようです。良かったら陛下も参加されないかと、御招待を。フレデリック国王も参加されるそうですよ。」

「……あ、あぁ。」
「…お返事は後ほどでも…」
「いい、行くよ。」
「かしこまりました。その旨をお伝え致しますね。」
「あぁ。ありがとう。」


_______________


後日シャンパーニ城で開催されたパーティーには、フレデリックとアンドレの他にも、シャンパーニの重臣らも参加していた。

「アンドレ国王ではございませんか。」
「あぁ…」
「お初にお目にかかります。」

シャンパーニの重臣の一人であった。
戦の事、復興作業の事、様々な話をしてくれた。穏やかな雰囲気で話すので、アンドレは彼を気に入った。

「セルジュ大臣。」
「あぁ!国王陛下にご挨拶を。」

そこにウジェーヌがやって来た。

「こちらはセルジュ大臣です、私が幼い頃から良くして貰っていたんです。私からもご紹介を。」
「そうだったのですね」

ウジェーヌも慕っているようだ。

「…父上?」
セルジュ大臣の後ろから、顔を覗かせた娘。

「娘のキャロラインです。」
「国王陛下にご挨拶を。」


その娘も穏やかで上品な雰囲気。顔立ちも可愛らしかった。
「お会い出来て光栄です。」

キャロラインは緊張していたようで、何処かぎこちない感じがまた可愛らしい。

少しだけ二人きりになった時間があった。

「あ、アンドレ国王、」
「何だ?」
「…あの、失礼ですが……」
「?」

「…もしかして、ブッドレアですか?」
「えっ何が?」
「あぁ!いや!?その…!ブッドレアの香りがするので、お好きなのかなぁと……!」
「…ははっ、良く分かったね」
「あぁ…えっと、鼻が利くんです、私。」
「…そうなのかい」
「はい!……私もブッドレア、好きなんです。」
「…好みが合いそうだ。」
「えへへ……」

オドオドしているキャロラインを見て、アンドレは思わず笑った。

なんだか、じっと見られている気がする。

「……私に何か付いているか?」

「綺麗な紅の瞳が付いています…」

「……あ、あぁ…」

「申し訳ありません…、変なこと言ってしまって…」

じっと見つめられて、戸惑った。
でも、気付いたことがある。

「…君は、エメラルドグリーンだね。」

彼女はリシャールと同じような瞳の色だった。触れたら罅が入ってしまいそうな儚さ。

「母と同じ色で。自分でも、とても気に入っています」

「……あぁ、綺麗だ。」

「えへへ…お恥ずかしい…」

アンドレは、恥ずかしがる彼女を見て微笑んだ。


_______ この日、この時、アンドレの心が揺れたような気がした。______


「あ……父上に呼ばれましたので。私はこれで失礼致します。…また、お話したいです」
「あぁ、ありがとう。楽しかったよ」
「えへへ…、それでは、また。」
「はい、また。」

キャロラインがセルジュ大臣の元へ去っていった。

「なんや、なんやぁ??」

「……」

気分の良い時には調子の良い奴がやって来る。

「…白蜜蜂のかわい子ちゃんがタイプなん?へぇ~知らんかったわァ」
「……フレデリック。」
「せやアンドレ、側室娶ってないそうやんか」
「……それがどうした」

「あの娘、側室にしたらええやんか」
「…キャロラインは、白蜜蜂だ。」
「だから何?」
「え?」
「白蜜蜂だから、結婚したらあかんの?」
「…そう…先王から言われている。」

と、いう事にしている。

リシャールが俺と結婚できないのなら。
リシャールには、ロナルドがいる。今では他人の妻となり、市民となった。

国王である自分と結婚するなんて、もし出来たとしても、きっとリシャールに災難が降りかかると思った。

また、誰かに反対されて嫉妬されて…。

リシャールにまた何かあったら、元も子も無い。

「つまんねぇ国やな。」
「何だよ。」
「レステンクールはそんな法律無いで?」
「だろうな、」
「自由の国やからな!」
「……そうか。」

「でも…白蜜蜂も悪うないなぁ。みーんなべっぴんさんや。俺の凱旋パレード、白蜜蜂も呼んだろ~っと。」
「好きにしろ。」
「アンドレも来たれや」
「気が向いたらな」
「ちぇっ、つまんねぇ奴やな」

シャンパーニで行われたパーティーは、戦で気が滅入っていたアンドレも、久しく楽しむことができた。


「…アンドレ国王。本日はお越し頂き、ありがとうございました。」
「ウジェーヌ国王。こちらこそ、ご招待頂き感謝しています」
「ウジェーヌ、ほなまた来たるわ」
「はい、またいらしてください。アンドレ国王には、まだ少しだけお世話になりますが。」
「はい。また後ほど。」

ウジェーヌは二人を見送った。

_______________


アンドレが率いるペリシエ軍はもう少しの間シャンパーニに留まり、復興作業に取り掛かることになっていた。

「……はぁ…。」

キャロラインが頭から離れなかった。

瞳だけじゃなくて、リシャールと何処か似ていた。

顔か?それとも、声?いや、違う。何がそう思わせるのか、分からない。

「駄目だ……」

「陛下?」

「外の空気を吸ってくる。」

「かしこまりました、お気を付けて…」

アンドレは切り替えようと、外へ出た。
外は寒い。コートに袖を通さず、ただ羽織った。

「…はぁ……」

目を瞑り、白い息を吐いた。

雪が薄くかかった葉を踏むと、しゃりしゃりと音がする。なんだか、その音も心地よく感じた。


立ち止まっていると、近くから足音がした。誰もいないはずなのに。


「……誰だ?!」


アンドレは声を上げ、剣を握った。

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