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7.白い戦場と戦士

国王の崩御と混乱

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ペリシエに新国王が君臨して、少し経ったある日の事だった。

「…エリソンド。ジルベール国王の元へ。」
「はい。かしこまりました。」

国王になってから、何処か遠くへ出かける時には、これまでとは倍の数の兵を連れて歩くようになった。

その群れは、鴉のように大きな大群であった。


「ルシアン王妃にご挨拶を。」
「まぁ、アンドレ。楽に。」
「感謝します。」

「ジルベールの元へ。」
「はい。」

ルシアン王妃についていくと、そこにはジルベールがベッドに横になっていた。

「貴方、アンドレがいらしてくださいましたよ。」
「……」

ジルベールの目は開いているが、身体はびくともしなかった。

「ジルベール国王、ご無沙汰しておりました。ご挨拶に遅れて申し訳ありません。」
「……。」
「貴方、アンドレは国王になったのですよ。こんなに立派になったのです。時の流れというのは早いものですね」

ルシアン王妃はジルベールにたくさん話しかけていた。それでも尚、反応は無い。

声を出す力も無くなってしまったようだ。

そして、呼吸は細々として今にも止まってしまいそうに思えた。

ルシアン王妃は優しくジルベールの手を握っていた。その隣で、アンドレは国王になったこと、ペリシエとシャンパーニのことなど、色んな話を聞かせた。

「……ジルベール国王…」

ジルベールは目を瞑り、微笑んでいた。

「…シャンパーニは私が守ります」
「私もいますから、ご安心ください。」

ジルベールの呼吸は、近くに居ても気付かないくらい細かった。そして、徐々に弱まっていくようにして息を引き取っていた。

「貴方……」

ルシアン王妃は涙を流して、ジルベールの手を握った。

アンドレは想像していなかった。クロヴィスの死とジルベールの死をこんなにも直ぐに迎えるだなんて。

「はぁ……」

この年、クロヴィスとジルベールが崩御した。ペリシエとシャンパーニは世代交代となった。

「ルシアン王妃、ジルベール国王の遺言書などは…… 」
「それが、きっと書いていないと思うの。」
「そうなのですか」

「この人、いつからか上手く身体が動かなくなったの。だから、書くのもままならなかったんだと思う。私が聞いておけば良かったのに。だめね、後悔しか思いつかない」
「……大丈夫ですよ。これから慎重に動けばきっと問題はありません。」
「……そうね。」

すると、突然、シャンパー二の兵士が飛び込んできた。

「王妃!!!」
「まぁ、何事ですか。」

「御無礼をお許しください!…一大事です!ペリシエ国王もいらっしゃるのですね、良かった!!」
「……どうしたんだ。」

「それが、兵士が襲われたのです!襲撃されました!!!」

「何ですって。」

「この矢が……!」

「この矢は…」

アンドレはルシアン王妃が手にした矢を見て、はっと気付いた。

「……スアレムだ。」
「え?」
「この矢は、スアレムで作られているものです。」
「……これって……」


「宣戦布告……」


スアレムとトゥクリフの連合国軍が、シャンパー二を攻め入ろうとしていた。

「こんな時に……!!!」

アンドレは拳を握った。

ルシアン王妃は混乱した。国王である夫を無くして、それどころではないのに。戦が始まろうとしていた。

「ルシアン王妃、ジルベール国王が崩御されたことは、まだ他には内密に。かえって混乱を招くだけです。」
「そうね。」

「…兵士の収集を。一先ず、私がペリシエから連れてきた兵士でもつかどうか。エリソンドに援軍を頼むよう伝えます。ルシアン王妃は城にいてください。今は、私が何とかします。」
「ありがとう、分かったわ。」

アンドレは慌てて部屋を出た。

「陛下!」
「エリソンド。」

「まだ外に敵はいるのか。」
「はい。ですが、敵軍はかなり少数でしたので、私たちの兵で今は足りるかと。これ以上、敵に援軍が送り込まれたら、持ちません。」
「あぁ、ペリシエから援軍を。」
「かしこまりました。」
「それと、レステンクールにも話を通せ。」
「はい。」

エリソンドは手際よく従った。


スアレム軍からの宣戦布告の襲撃は、あっさりと終わった。だが、これが戦の始まりであった。






エリソンドはペリシエから援軍を呼び、同盟国であるレステンクールのフレデリックにも戦の話を伝えた。

「陛下!シャンパーニの民家も被害を受けてしまうかと。」
「…シャンパーニの国民を避難させよう、」
「はい、ペリシエにも災害時用の避難所があります、そこに。」
「ルシアン王妃、国民を避難させてください」
「は、はい……」

ルシアン王妃は戸惑っていた。シャンパーニの王妃になってから、戦など初めてだった。

スアレムとトゥクリフの連合国軍がシャンパーニを包囲し、国民も大混乱して、城の方へ大波のように押しかけてきていた。

ルシアン王妃が城の外を覗くと、国民達が集まり、騒いでいた。

「国王は!国王陛下はいないのか!」
「どうなってるんだ!」
「国民を見捨てる気か!!!」

ジルベールが倒れてから、国民の前に一切顔を出さなかった。ジルベールが崩御した今、さらに国民の混乱を招く訳にはいかない。

「…ペリシエに避難するように、国民を守りなさい。」

「かしこまりました。」

ルシアン王妃は、兵士に伝え、国民達を守れるよう道を確保させた。それにペリシエの兵たちも協力。


「…エリソンド。今の状況はどうなっている?」
「…国民の避難への道は何とか確保出来ました。私達の軍が、シャンパーニを包囲している敵軍を引き付けている最中です。…レステンクールにも伝えましたから、数日以内には援軍が送られてくるかと。」
「分かった。ペリシエの守備も固めておくように。」
「承知しました。」

「敵軍の数は?」
「包囲しているものは、私たちよりは少ないですが、…王が率いる軍には、その倍はいるでしょうが、兵の数はどう考えてもこちらが有利だと思います。」
「…あぁ、それにしても、シャンパーニの兵士は少なすぎる。」
「それは…そうですが…」

アンドレは城の外を覗いて、シャンパーニの状況を見た。スアレム軍は一先ず撤退したようで、城はペリシエの兵士が守っている。
シャンパーニの兵士はどこへ行ったのか。

「…陛下、スアレムから矢の襲撃が来た際にも、何人かのシャンパーニ兵が殺されたそうです。」
「…徴兵はしたくないが…」
「……仕方がないのでは…?」
「…徴兵はしない、いや…させない。ペリシエがなんとかする。」

外を見ると、2人の君主がこちらに寄ってきた。そして、その後ろには大群が並んでいた。

「…!陛下!あれは…!!!!」

「スアレムとトゥクリフの国王だ。」
「敵自らのお出ましですか。」
「探す手間が省けたよ。」

そこには、緑の肌をして長い白髪をもった緑蜂と、褐色肌に金髪の蜂が、剣を携えて立っていた。


「…こんな直ぐに、剣を握る日が来るなど、一体誰が想像していたものか」

アンドレは、腰に携えた剣を強く握った。




「…シャンパーニ城の正門から敵が来たというのに、随分と余裕のようですね。」
「…このまま攻め入っても良いのか?」

2人の国王はシャンパーニ城に向かい叫んでいた。

「…陛下。スアレムのグエルション国王と、トゥクリフのナセル国王です。」
「……挑発しているのか。」 
アンドレはため息をついた。


その時、グエルションはシャンパーニ城を見渡して、ナセルに小声で話した。

「…これはペリシエ軍ですか?」

「そうみたいだな。…同盟国にしても、ペリシエの対応が早過ぎないか?」
「同じことを考えていました。…待ち伏せしていたのでしょうか」
「まさか。クロヴィスが死んで、跡継ぎはあのアンドレとやらなんだろう?小僧がそんなこと出来るか」
「…言い過ぎですよ、ナセル。」
「チッ」

グエルションは、シャンパーニ城の周りを守るペリシエの黒蜜蜂の兵を見た。

「……ですが、これは油断は禁物、ということになりますね。」
「うっせぇ、勝てるよ。こんな雑魚。」
「シャンパーニが持つ、ペリシエの後ろ盾は中々大きいですよ」

「…シャンパーニ単独じゃ瞬殺なのに。ペリシエか…、邪魔くせぇな。」
「仕方がありません、ペリシエなくして存続は不可能な国ですから。」
「ははっ、そうだな。」
「今回は、長くなりそうですね」
「…ぜってぇ取ってやるよ。シャンパーニ。」

すると、城からアンドレが出てきた。

「国王自らお出迎えして頂けるとは。」


「…?!アンドレ…!?」
「やはり…そういう事ですか…」
「おいおい、どうした。シャンパーニの国王はビビりか?ペリシエ国王に頼りきりじゃねぇか。」

「…私で悪かったな。ジルベール国王の代わりに、私が会いに来てやったというのに。」
「…舐めた真似を。」
「撤退するなら今だぞ?」
「撤退するのは、そっちでは?」
「うっせぇ、とんだ生意気な小僧だな。いいぜ、ジルベール国王だけじゃなく、お前の首も取ってやる!」

ナセルが騒ぎ出した途端、彼の顔を目掛けて、空から矢が放たれた。彼の頬は擦られて出血した。
「!? 」


「やかましいわ!!!!!」


アンドレは聞いたことのある声と言語で、雰囲気を壊されて少し呆れた。


「あー!矢外してもうたわ!!!…首取られんのはお前やがな!!!」

アンドレの隣にフレデリックが降りてきた。


「…遅れてすまんなぁ、アンドレ国王♡」
「…黙れ。そして挑発するな。」
「ええやろ。腹立つ顔しやがって。」

フレデリックは大群を連れてやって来た。


「…青蜜蜂ですか、」
「レステンクール……」

グエルションとナセルは、想像を上回る敵の多さに戸惑った。

「…なんやなんや、ビビっとんのか??」

アンドレは慌てて小声で叱った。
「フレデリック、挑発するなって言ってるだろ」

「俺に任せぇ☆」
フレデリックは余裕のウインクを見せた。

「……はぁ。」


フレデリックは恨みがあるようだ。
「…シャンパーニ取ろうなんてお前らには100年早いっちゅーねん、こちとらペリシエとレステンクールがおるんやぞ!?!?」

フレデリックは声を荒らげていた。その横でアンドレは呆れて白目を剥きそうだ。

「…そんなことは関係無い。スアレムとトゥクリフにかかれば」
「黙れボケ!!!」
「喋らせろよ」

グエルションも呆れた。

「…おいナセル、また会ぉたな。」
「…フレデリック、前回のお返しといこうじゃねぇか」

「やれるもんならやってみやがれぇ!!打てぇぇぇぇ!!!!」

フレデリックが叫ぶと空にいたレステンクールの兵が一斉に矢を放った。

「おい、フレデリック!?」
アンドレは驚いた。

「…腹立つ顔やのぉ。俺らに負けたくせに、のしのしと這い上がって来よった。」
「…だからって勝手に始めるな。」
「ええやんか、どうせ勝てるで。あんな何処にでもいるような顔した、雑魚共相手にしてる暇ないねんな。こちとら大事な妻置いて来たんや。負けて帰る訳にはいかんねん。凱旋パレード、来るか?」
「別にいい。」

「…ほな、さっさと首取りに行こか」
「あぁ。」

そうして、スアレムとトゥクリフの連合国軍とシャンパーニとペリシエ、レステンクールの同盟国軍の戦争が始まった。

小さな国のシャンパーニが戦場となり、国民はすぐさま逃げた。

城ではジルベールの葬儀や遺体はどうするか、ルシアン王妃が務めていた。


レステンクールは空中戦、ペリシエは地上戦で役目を果たし、敵軍を圧倒した。





この戦の日々が続いた。




連合国軍基地にて。


「…ペリシエとレステンクールは、なぜここまでシャンパーニを守ろうとしているのでしょうか。」
「さぁな、国王の2人がジルベールに世話になったとか何とかって聞いたことあるぜ。」
「なるほど、恩返しということですか」
「あぁ。多分な。」

「にしても、ジルベール国王とルシアン王妃は一切顔を出しませんね」
「それはそうだな。」
「…何かあったのでしょうか?」
「きっとな。それでペリシエ国王が居たんだろ。丁度よく、その時に俺らが来たってことかもしれねぇな。」
「中々、厄介ですね。ペリシエが最初からいなかったら、早々とシャンパーニを潰せたでしょうに。」
「…しゃーねぇか。ま、レステンクールも来てくれたんだ、ちょっかい出す手間も省けたしな。」

「まぁ程々に。」
「手加減は要らねぇよ。グエルション、頼むぜ。どんな手使ってでも勝ってやんよ」
「そんな卑怯な真似は犯さないでくださいね、」

「わあってるって。」


グエルションはナセルの背中を見て、少し不安に感じていた。


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