16 / 48
5.寂しさ
リシャールの訃報
しおりを挟む
ジルベール夫妻はアンドレを呼んだ。
「アンドレ様。シャンパー二のジルベール国王がお呼びだそうです。」
「ジルベール国王が?」
「はい。」
「突然、珍しいな…。…行くか。」
アンドレの元に、エリソンドと二人でシャンパー二へ来てほしいとの内容の手紙が届いていた。
二人はすぐにぺリシエを出た。シャンパー二城へ向かう途中に、黒く焼け焦げた巣が目に入った。
「火事があったのか?」
「そうみたいですね。かなり大きい火事だったのでしょうかね、巣が崩れてますよ。」
「……」
アンドレは何だか嫌な予感がした。
「ジルベール国王とルシアン妃にご挨拶を。」
「楽に。」
「感謝します。」
「アンドレ、エリソンドも遠くからありがとう。」
「いえ。…今日はどのようなご用件で?」
「…皆、我らだけにしてくれ。」
ジルベールは働き蜂達を退室させた。
「…実は、先日シャンパー二内で大火事があったんだ。」
「はい、来る途中見かけました。かなり痛手を負ったのでは?」
「まぁな。」
「…修復の協力でしたら…」
「ち、違うんだ。」
「…?」
ジルベールは中々言い出せなかった。
「その……」
「?」
「……火事があったのは…リシャールの巣なんだ」
「……はっ…?」
ジルベールはアンドレの顔を見ることができなかった。
「…では…リシャールは…?」
「……」
黙り込んでしまったジルベールを見たルシアン妃がイエローダイヤと羽を出した。
「…これを。」
「……」
アンドレとエリソンドは、見覚えのあるイエローダイヤと羽を見て、言葉を失った。
「……リシャールは無事なのですか。」
「…火事があった部屋から、焼死体とこれらが見つかったの。その部屋は確かにリシャールのだと、リシャールの弟が…。」
「……」
「でも、遺体は焦げていて本当にリシャールかどうかはわからないの。」
「……」
アンドレの紅の瞳から光が無くなったのは、その場にいた皆がわかった。
そして、震える手をイエローダイヤに伸ばした。汚れがついたイエローダイヤのイヤリングは、出会った日にもつけていたものだった。
「……嘘だ。そんな訳ない。」
アンドレが口を開いた。
「アンドレ様。」
エリソンドもアンドレを心配そうに見つめた。
「その遺体がリシャールだと分かるまで、信じることは出来ません。」
「アンドレ、私たちも信じられないわ。でも」
「……遺体はどちらに?」
「まだ巣に安置されているはずだけど……」
「……見させてください。」
ジルベールはアンドレの希望通りに、働き蜂に連れて行かせた。
「……」
「アンドレ様、気分がすぐれないでしょうから…」
「構わない。遺体がリシャールではないと確認できれば、それでいいんだ。」
「……アンドレ様」
「こちらのご遺体です。」
「……」
ルシアン妃が言う通り、見ても全く分からなかった。
「このご遺体が、王台にあったと思われます。その周りに、働き蜂がいたのではないかと推測されています。」
「……そうか。」
「他を見ても?」
「はい、かなり崩れやすいので、怪我にお気を付けて。」
「あぁ、ありがとう」
「アンドレ様、私が見てきます。」
「……」
アンドレは焼死体をじっと見つめているばかりだった。
エリソンドが、残った部屋を見た。ミシェルの部屋にあった、ヤプセレ家の家族写真を見た。
「…これは…お母様か。リシャール様にそっくりだ。」
そして、ミシェルの置いた指輪を見た。
「琥珀、か。珍しいな。いや、シャンパー二では普通なのか。」
部屋を出ると、エリソンドは、リシャールの部屋だけ燃えていることに違和感を覚えた。
「火元は、リシャール様の部屋なのか。」
エリソンドは、これは事故ではなかったと察した。自殺か他殺か。どちらもあり得ると思った。
「アンドレ様、戻りましょう。」
「……あぁ。」
アンドレとエリソンドは、ジルベールの元は戻った。アンドレは一向に口が開かなかった。代わりにエリソンドが話していた。
「ジルベール国王。」
「あぁ。」
「妹さんの行方は?」
「それが、消息を絶っているんだ。」
「どういうことですか。」
「分からない。リシャールと妹のミシェルは、昔から仲が悪かったんだ。」
「そうなのですか。」
「どちらかというと、ミシェルが一方的にリシャールを嫌っていたかと」
「恐れながら申し上げますが、その妹さんが……リシャール様を殺したということはあり得ませんか?」
「…ない……とは断言できない。」
「なるほど。」
「…………か。」
ようやくアンドレが口を開いたが、聞き取れなかった。
「アンドレ様、今、何と?」
「…父上か。」
「え…?」
「父上なのだろう?」
「アンドレ様、それは…」
「リシャールがシャンパー二の貴族で、雄蜂だということも、全て、父上は知っていた。それに、父上が脅して婚約を破棄させた。そうだろう?」
「あ、アンドレ様。」
「アンドレ、落ち着いて。」
「落ち着いてますよ。」
ジルベールとルシアン妃は目配せした。
「…これは、アンドレに持っていてほしい。」
ジルベールはアンドレの手にリシャールのイエローダイヤを握らせた。
「……。」
イエローダイヤを見て、アンドレはよろめいた。
「アンドレ様!…お休みになった方が。」
「アンドレ、今日は戻って休んで頂戴。」
「…何かあったら、私たちが力を貸すよ。」
ジルベールは頷いてアンドレに言った。
「では、ジルベール国王、ルシアン妃、失礼いたします。」
エリソンドが代わりに挨拶し、
「では。」
アンドレはその後ろで礼をした。
「…アンドレ、大丈夫かしら。」
「これで良いんだよ、きっと。」
「アンドレの敵はクロヴィスであると、あの子も理解したと思うけど…」
「あぁ、心苦しいが…」
ジルベールとルシアン妃は、アンドレを心配していた。
「……アンドレ様…」
アンドレはペリシエに帰ろうとしなかった。
またリシャールの焼け崩れた巣に戻り、立ち竦むばかりであった。
「……リシャール…。……どこにいるんだい、リシャール…帰ってきてくれよ。これは嘘なのだろう?…俺を驚かそうとしているだけなのだろう?……リシャール…」
「……」
虚ろになっているアンドレの紅の瞳には、光がなかった。エリソンドはとにかく心が痛かった。
「……リシャール……」
リシャールの名前を呼んで、アンドレは膝を着いた。
「ぁ……ぁぁ…っ…!!」
「アンドレ様……」
「…なぁ、エリソンド。お前も俺を騙しているのだろう?なぁ、そう言ってくれよ。」
「……。」
「…エリソンド、頼むから……」
「……」
紅の瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちていた。
こんなに泣いている主人は、初めて見た。
「……私も辛いのですよ、アンドレ様。」
「………」
「いっそ、誰か俺を殺してくれ…」
「アンドレ様…なりません」
「……すれば、リシャールに会えるだろう?やっと二人で、いられるだろう?」
アンドレは何も考えられなかった。
「…アンドレ様。このままで宜しいのですか??」
「……何がだ?」
「…リシャール様の死の真相を知らずに…このままで良いのですか。」
「……死んだなんて、決めつけるな。」
「……アンドレ様。このイエローダイヤが、焼死体の元にあったと、それに、虹色の羽も。何より、弟さんが調査に入っても、何も進展がないというのですよ。」
「……だから、リシャールが死んだと決めつけるのか?」
「…受け止めるしか、ありません。アンドレ様。」
「……」
エリソンドの言葉で、もっと胸が苦しくなった。アンドレもリシャールは生きていると、無理やり言い聞かせている所があった。だから、否定出来なかった。
「…今世では、結ばれない運命なのだな。」
「……アンドレ様…。」
エリソンドに肩を抱えられ、ペリシエへ戻った。
城へ戻ると、何やら騒ぎが目に入った。
「……あれは何でしょうか…?」
「……?」
ここでは見慣れない蜜蜂達が、城の近くをずらりと並んでいた。
「赤蜜蜂……」
「…マルグリットから来たのか。」
「そのようですね。」
「父上の客だろう。……休みたいんだ。」
「かしこまりました。」
自室へ戻ろうとしたアンドレに誰かが抱きついた。
「……?!」
「アンドレ様!」
「?」
マルグリット王女、マデリーンであった。
「アンドレ様にお会いしたくて、来てしまいましたわ」
「……マデリーン王女。」
「やだ、アンドレ様ったら。私のことはマデリーン と。」
「……」
「…私たちは夫婦になるのですよ?」
「……」
アンドレは何も考えられなくて、黙ってマデリーンを見ていた。すると、エリソンドは気付いて、彼女を引き剥がした。
「マデリーン王女様。アンドレ様は体調が優れませぬ故、お休みなさると。」
「……まぁ、妻が会いに来たというのに。突き放すのね?」
「……」
「冗談よ。そうだ、じゃあ私が看病するわ!」
「…マデリーン王女、それには及びません。…では…」
アンドレが去ろうとした時、マルグリット国王のレイエスが来てしまった。
「アンドレ。君が出かけていると聞いて、待っておった。」
「…レイエス国王にご挨拶を。」
「あぁ、楽にするがいい。」
「感謝します」
「君が結婚を受け入れてくれたお陰で、マデリーンも喜んどる。」
「…マデリーン王女との婚約を認めて頂き、光栄です。」
「…まぁ、アンドレ様♡私も嬉しいわ!」
「……」
レイエスとマデリーンは上機嫌だ。
「結婚式の準備は、近々進めると聞いた。」
「…えぇ、そのようで。」
「私、ペリシエで作られたドレスを着てみたいわ!」
「はっはっは!娘の花嫁姿が楽しみだ!」
「……」
アンドレは口角を上げただけの苦笑いで、その場は乗り切った。
「はぁ……!!」
ようやく部屋へ戻り、アンドレはベッドに倒れ込んだ。
「……」
焦げたのであろう汚れが付いた、イエローダイヤ。黒ずんでしまっても尚、美しかった。
ふと、リシャールの姿を思い出してしまう。
出会った日、再会した日、別れを告げた日。
どの日も美しい思い出。
「失礼致します。アンドレ様、国王陛下がお呼びです。」
「はぁ……」
やっと、部屋へ戻れたのに。
「……」
アンドレはクロヴィスの元へ向かった。
「父上、お呼びでしょうか。」
「……アンドレ。レイエス国王とマデリーン王女には会えたか。」
「はい。」
「…そんなに落ち込むな。お前が結婚するのは、国のためだ。第一王子なら、分かるよな?」
「……はい。」
何だか、父に反抗するのも疲れてしまった。
「……」
「……例の娘は元気なのか?」
「……?」
「お前を惚れさせたシャンパーニの白蜜蜂の事さ。もう忘れてしまったのか?」
煽るようなクロヴィスの表情を見た瞬間、腸が煮えくり返った。
「……知りません。」
「…それは残念。」
クロヴィスがアンドレに背を向けた時、アンドレの紅の瞳は燃え盛っていた。
俺の敵は、クロヴィスだ。
「俺は、お前を討つ。」
「アンドレ様。シャンパー二のジルベール国王がお呼びだそうです。」
「ジルベール国王が?」
「はい。」
「突然、珍しいな…。…行くか。」
アンドレの元に、エリソンドと二人でシャンパー二へ来てほしいとの内容の手紙が届いていた。
二人はすぐにぺリシエを出た。シャンパー二城へ向かう途中に、黒く焼け焦げた巣が目に入った。
「火事があったのか?」
「そうみたいですね。かなり大きい火事だったのでしょうかね、巣が崩れてますよ。」
「……」
アンドレは何だか嫌な予感がした。
「ジルベール国王とルシアン妃にご挨拶を。」
「楽に。」
「感謝します。」
「アンドレ、エリソンドも遠くからありがとう。」
「いえ。…今日はどのようなご用件で?」
「…皆、我らだけにしてくれ。」
ジルベールは働き蜂達を退室させた。
「…実は、先日シャンパー二内で大火事があったんだ。」
「はい、来る途中見かけました。かなり痛手を負ったのでは?」
「まぁな。」
「…修復の協力でしたら…」
「ち、違うんだ。」
「…?」
ジルベールは中々言い出せなかった。
「その……」
「?」
「……火事があったのは…リシャールの巣なんだ」
「……はっ…?」
ジルベールはアンドレの顔を見ることができなかった。
「…では…リシャールは…?」
「……」
黙り込んでしまったジルベールを見たルシアン妃がイエローダイヤと羽を出した。
「…これを。」
「……」
アンドレとエリソンドは、見覚えのあるイエローダイヤと羽を見て、言葉を失った。
「……リシャールは無事なのですか。」
「…火事があった部屋から、焼死体とこれらが見つかったの。その部屋は確かにリシャールのだと、リシャールの弟が…。」
「……」
「でも、遺体は焦げていて本当にリシャールかどうかはわからないの。」
「……」
アンドレの紅の瞳から光が無くなったのは、その場にいた皆がわかった。
そして、震える手をイエローダイヤに伸ばした。汚れがついたイエローダイヤのイヤリングは、出会った日にもつけていたものだった。
「……嘘だ。そんな訳ない。」
アンドレが口を開いた。
「アンドレ様。」
エリソンドもアンドレを心配そうに見つめた。
「その遺体がリシャールだと分かるまで、信じることは出来ません。」
「アンドレ、私たちも信じられないわ。でも」
「……遺体はどちらに?」
「まだ巣に安置されているはずだけど……」
「……見させてください。」
ジルベールはアンドレの希望通りに、働き蜂に連れて行かせた。
「……」
「アンドレ様、気分がすぐれないでしょうから…」
「構わない。遺体がリシャールではないと確認できれば、それでいいんだ。」
「……アンドレ様」
「こちらのご遺体です。」
「……」
ルシアン妃が言う通り、見ても全く分からなかった。
「このご遺体が、王台にあったと思われます。その周りに、働き蜂がいたのではないかと推測されています。」
「……そうか。」
「他を見ても?」
「はい、かなり崩れやすいので、怪我にお気を付けて。」
「あぁ、ありがとう」
「アンドレ様、私が見てきます。」
「……」
アンドレは焼死体をじっと見つめているばかりだった。
エリソンドが、残った部屋を見た。ミシェルの部屋にあった、ヤプセレ家の家族写真を見た。
「…これは…お母様か。リシャール様にそっくりだ。」
そして、ミシェルの置いた指輪を見た。
「琥珀、か。珍しいな。いや、シャンパー二では普通なのか。」
部屋を出ると、エリソンドは、リシャールの部屋だけ燃えていることに違和感を覚えた。
「火元は、リシャール様の部屋なのか。」
エリソンドは、これは事故ではなかったと察した。自殺か他殺か。どちらもあり得ると思った。
「アンドレ様、戻りましょう。」
「……あぁ。」
アンドレとエリソンドは、ジルベールの元は戻った。アンドレは一向に口が開かなかった。代わりにエリソンドが話していた。
「ジルベール国王。」
「あぁ。」
「妹さんの行方は?」
「それが、消息を絶っているんだ。」
「どういうことですか。」
「分からない。リシャールと妹のミシェルは、昔から仲が悪かったんだ。」
「そうなのですか。」
「どちらかというと、ミシェルが一方的にリシャールを嫌っていたかと」
「恐れながら申し上げますが、その妹さんが……リシャール様を殺したということはあり得ませんか?」
「…ない……とは断言できない。」
「なるほど。」
「…………か。」
ようやくアンドレが口を開いたが、聞き取れなかった。
「アンドレ様、今、何と?」
「…父上か。」
「え…?」
「父上なのだろう?」
「アンドレ様、それは…」
「リシャールがシャンパー二の貴族で、雄蜂だということも、全て、父上は知っていた。それに、父上が脅して婚約を破棄させた。そうだろう?」
「あ、アンドレ様。」
「アンドレ、落ち着いて。」
「落ち着いてますよ。」
ジルベールとルシアン妃は目配せした。
「…これは、アンドレに持っていてほしい。」
ジルベールはアンドレの手にリシャールのイエローダイヤを握らせた。
「……。」
イエローダイヤを見て、アンドレはよろめいた。
「アンドレ様!…お休みになった方が。」
「アンドレ、今日は戻って休んで頂戴。」
「…何かあったら、私たちが力を貸すよ。」
ジルベールは頷いてアンドレに言った。
「では、ジルベール国王、ルシアン妃、失礼いたします。」
エリソンドが代わりに挨拶し、
「では。」
アンドレはその後ろで礼をした。
「…アンドレ、大丈夫かしら。」
「これで良いんだよ、きっと。」
「アンドレの敵はクロヴィスであると、あの子も理解したと思うけど…」
「あぁ、心苦しいが…」
ジルベールとルシアン妃は、アンドレを心配していた。
「……アンドレ様…」
アンドレはペリシエに帰ろうとしなかった。
またリシャールの焼け崩れた巣に戻り、立ち竦むばかりであった。
「……リシャール…。……どこにいるんだい、リシャール…帰ってきてくれよ。これは嘘なのだろう?…俺を驚かそうとしているだけなのだろう?……リシャール…」
「……」
虚ろになっているアンドレの紅の瞳には、光がなかった。エリソンドはとにかく心が痛かった。
「……リシャール……」
リシャールの名前を呼んで、アンドレは膝を着いた。
「ぁ……ぁぁ…っ…!!」
「アンドレ様……」
「…なぁ、エリソンド。お前も俺を騙しているのだろう?なぁ、そう言ってくれよ。」
「……。」
「…エリソンド、頼むから……」
「……」
紅の瞳から、ぼろぼろと大粒の涙が零れ落ちていた。
こんなに泣いている主人は、初めて見た。
「……私も辛いのですよ、アンドレ様。」
「………」
「いっそ、誰か俺を殺してくれ…」
「アンドレ様…なりません」
「……すれば、リシャールに会えるだろう?やっと二人で、いられるだろう?」
アンドレは何も考えられなかった。
「…アンドレ様。このままで宜しいのですか??」
「……何がだ?」
「…リシャール様の死の真相を知らずに…このままで良いのですか。」
「……死んだなんて、決めつけるな。」
「……アンドレ様。このイエローダイヤが、焼死体の元にあったと、それに、虹色の羽も。何より、弟さんが調査に入っても、何も進展がないというのですよ。」
「……だから、リシャールが死んだと決めつけるのか?」
「…受け止めるしか、ありません。アンドレ様。」
「……」
エリソンドの言葉で、もっと胸が苦しくなった。アンドレもリシャールは生きていると、無理やり言い聞かせている所があった。だから、否定出来なかった。
「…今世では、結ばれない運命なのだな。」
「……アンドレ様…。」
エリソンドに肩を抱えられ、ペリシエへ戻った。
城へ戻ると、何やら騒ぎが目に入った。
「……あれは何でしょうか…?」
「……?」
ここでは見慣れない蜜蜂達が、城の近くをずらりと並んでいた。
「赤蜜蜂……」
「…マルグリットから来たのか。」
「そのようですね。」
「父上の客だろう。……休みたいんだ。」
「かしこまりました。」
自室へ戻ろうとしたアンドレに誰かが抱きついた。
「……?!」
「アンドレ様!」
「?」
マルグリット王女、マデリーンであった。
「アンドレ様にお会いしたくて、来てしまいましたわ」
「……マデリーン王女。」
「やだ、アンドレ様ったら。私のことはマデリーン と。」
「……」
「…私たちは夫婦になるのですよ?」
「……」
アンドレは何も考えられなくて、黙ってマデリーンを見ていた。すると、エリソンドは気付いて、彼女を引き剥がした。
「マデリーン王女様。アンドレ様は体調が優れませぬ故、お休みなさると。」
「……まぁ、妻が会いに来たというのに。突き放すのね?」
「……」
「冗談よ。そうだ、じゃあ私が看病するわ!」
「…マデリーン王女、それには及びません。…では…」
アンドレが去ろうとした時、マルグリット国王のレイエスが来てしまった。
「アンドレ。君が出かけていると聞いて、待っておった。」
「…レイエス国王にご挨拶を。」
「あぁ、楽にするがいい。」
「感謝します」
「君が結婚を受け入れてくれたお陰で、マデリーンも喜んどる。」
「…マデリーン王女との婚約を認めて頂き、光栄です。」
「…まぁ、アンドレ様♡私も嬉しいわ!」
「……」
レイエスとマデリーンは上機嫌だ。
「結婚式の準備は、近々進めると聞いた。」
「…えぇ、そのようで。」
「私、ペリシエで作られたドレスを着てみたいわ!」
「はっはっは!娘の花嫁姿が楽しみだ!」
「……」
アンドレは口角を上げただけの苦笑いで、その場は乗り切った。
「はぁ……!!」
ようやく部屋へ戻り、アンドレはベッドに倒れ込んだ。
「……」
焦げたのであろう汚れが付いた、イエローダイヤ。黒ずんでしまっても尚、美しかった。
ふと、リシャールの姿を思い出してしまう。
出会った日、再会した日、別れを告げた日。
どの日も美しい思い出。
「失礼致します。アンドレ様、国王陛下がお呼びです。」
「はぁ……」
やっと、部屋へ戻れたのに。
「……」
アンドレはクロヴィスの元へ向かった。
「父上、お呼びでしょうか。」
「……アンドレ。レイエス国王とマデリーン王女には会えたか。」
「はい。」
「…そんなに落ち込むな。お前が結婚するのは、国のためだ。第一王子なら、分かるよな?」
「……はい。」
何だか、父に反抗するのも疲れてしまった。
「……」
「……例の娘は元気なのか?」
「……?」
「お前を惚れさせたシャンパーニの白蜜蜂の事さ。もう忘れてしまったのか?」
煽るようなクロヴィスの表情を見た瞬間、腸が煮えくり返った。
「……知りません。」
「…それは残念。」
クロヴィスがアンドレに背を向けた時、アンドレの紅の瞳は燃え盛っていた。
俺の敵は、クロヴィスだ。
「俺は、お前を討つ。」
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
幸せのカタチ
杏西モジコ
BL
幼馴染の須藤祥太に想いを寄せていた唐木幸介。ある日、祥太に呼び出されると結婚の報告をされ、その長年の想いは告げる前に玉砕する。ショックのあまり、その足でやけ酒に溺れた幸介が翌朝目覚めると、そこは見知らぬ青年、福島律也の自宅だった……。
拗れた片想いになかなか決着をつけられないサラリーマンが、新しい幸せに向かうお話。
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
婚約破棄されたショックで前世の記憶&猫集めの能力をゲットしたモブ顔の僕!
ミクリ21 (新)
BL
婚約者シルベスター・モンローに婚約破棄されたら、そのショックで前世の記憶を思い出したモブ顔の主人公エレン・ニャンゴローの話。
思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる