honeybee

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4.私を忘れて

最後、貴方に会いたい

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「……リシャールは元気か?」

アンドレはリシャールからの手紙を開け、読もうとしたが、中身を見て動きが止まった。

「……。」

アンドレの驚いているような、何処か悲しそうな表情を見て、ヨハンは心苦しかった。

「アンドレ様?……!」
エリソンドも中身を見たようで、驚いていた。

2人の目線はヨハンに向けられた。


「どうか、リシャール様のお気持ちを…」

「どういうことだ?」
「…読めば、分かりますよ。」

アンドレは2つ折りにされた文を開いた。

「……。」

リシャールの手紙は、とても簡潔に書かれていた。


____ 婚約を破棄させてください。

大切な物はお返しします。

本当にごめんなさい。 _______



「……なぜ…?何故だ。ヨハン。」
「……。」

アンドレはリシャールにあげたチョーカーと指輪を強く握りしめた。

「…これが 、リシャール様の決断です。」
「…は……?」

エリソンドはヨハンの胸ぐらを掴んだ。
「ヨハン。詳しく説明しろ。」

「……説明も何も…!リシャール様の苦肉の策なのです…認めてあげてください。…僕だって…!リシャール様とアンドレ様の結婚式が見たかった…!!幸せなお姿を見たかった!!…でも…!仕方ないんです!」

ヨハンは泣き出した。エリソンドは、胸ぐらを掴んでいた手を離し、よろめいた。
「……仕方ないだと…?」

「まさか…父上に脅されたのか?」
「……そのような事はございません。」

アンドレの悲しみは怒りへと変わった。

____きっと、そうだ。脅されたんだ。


すると、アンドレは首元に付いていたペリシエ王室の紋章を外した。

「…アンドレ様…!?」
エリソンドはアンドレを止めようとした。

アンドレは勢い良く部屋を出てしまった。

「……?」
「アンドレ様は、王室を離脱してでもリシャール様を愛していらっしゃるんです。」
「えっ……離脱…?」
「…それくらいの覚悟があるんです。リシャール様は、覚悟があるのですか?」
「……。」

ヨハンは、エリソンドの一言で一気に分からなくなってしまった。

リシャール様は何を考えている?

アンドレ様を愛してるなら、結婚したいはず

でも今、婚約破棄しようとしている。



________ アンドレ様のためよ。本当に心から愛しているなら、きっと誰でもこの手段を取る。______


ヨハンはアンドレを追いかけた。


廊下を突き進んでいくアンドレの前に、両手を広げ、止めた。


「…リシャール様は、アンドレ様を愛しています。」
「…ヨハン。退いてくれ。」
「退きません。」

「リシャール様のお気持ちと行動を無駄にしないでください。」
ヨハンは鼻を赤くして、涙を堪えた。

「……ならば、どうしろと言うのだ。」

「…アンドレ王子として…どうか、ご無事で。…幸せに生きていてください。…それが、リシャール様にとっての幸せなのかもしれません。」

「…私はリシャールと共に生きるのが、幸せだ。どんな環境でも、どんな身分でも。リシャールがいれば、何でも構わない。」
「……アンドレ様。お願いします。」


アンドレはただ、立ち尽くすだけだった。

「……ヨハン。」
「…はい、アンドレ様…。」
「……これで最後になるなら、リシャールに会わせてくれないか?…一度だけでいいんだ。」
「……。」

主人の二人がこのまま別れてしまうと考えると、凄く気の毒に思った。

「……分かりました。じゃあ…今夜、お二人が出会った場所で。」
「……あぁ。ありがとう。」


ヨハンは思わず微笑んでしまった。また、アンドレの後ろにいたエリソンドも微笑んでいた。



_______________



ヨハンが巣へ戻る頃には、既に日が暮れていた。今夜は星空が綺麗だ。

「……。」

リシャールの待つ王台へ入ろうとしたが、立ち止まり、ある事を考えた。


〝もう会わないって決めたの〟

きっとこう言われると思い、リシャールには内緒にすることにした。


ヨハンは頷き、リシャールの元へ帰った。
「…リシャール様、只今帰りました」

「ヨハン。お帰りなさい。」

王台で待っていたリシャールは就寝しようとしていた。

「…あ……えっと…」
「すぐ隣の国だとはいえ、遠かったでしょう?……届けてくれた?」
「…は、はい。」
「そう…彼は怒ったかしら…」
「そんなことはございません…。」


「…リシャール様」
「ん?」
「…えっと…、今日、とっても星空が綺麗だったんです!良かったら、夜の散歩へ行きませんか?!気分も良くなります!」

リシャールは笑った。

「…気分はもう良いけど…。珍しいわね、ヨハンから散歩へ誘われるなんて。」
「あぁ…それは…その…えへへ」
「私に構わないで、行ってきてもいいんだよ?」
「お誘いしているんです!たまには!いいじゃないですか!!」
「ふふっ、分かった。行くよ。」
「本当ですか?!」

ヨハンは無邪気に笑った。リシャールはパジャマにカーディガンを羽織った。

「あ!えっ!?」
「え?」
「そ、それで行かれるんですか!?」
「…散歩でしょう?ダメなの?」
「あ…えっと……。」
「…おめかし、した方がいい?」

「ま、まぁ…!よ、ヨハンとデートですよ…(?)」
「……?」
「なーんちゃって☆」

「わかった。着替えるわ。」
「ありがとうございます…」


そしてリシャールは袖のふんわりしたシンプルなドレスに着替えてきた。

「これでどう?」
「今夜もお美しいです…」
「まぁ、良かった」
「あと、これを!」

渡したのはイエローダイヤのイヤリング。

「…これも?」
「はい、是非。」
「わかった」

イヤリングを付けさせ、約束の場所へ向かった。夜風がとても気持ちいい。ヨハンは澄んだ空気を吸い込んだ。

「どこへ行くの?」
「リシャール様。目を瞑ってくださいませんか」
「え?」
「連れて行きますので」
「…そう」

リシャールは言われた通りに目を瞑り、ヨハンに手を引かれた。

ヨハンに連れられる場所が分かった気がした。向かう方向、そして、近付くあの香り。

「リシャール様、絶対に目を開けてはなりませんよ」
「…もう目的地は分かったわ!」
「それでもです、目を瞑っていてください」
「…分かった」

あの場所。あの花畑。彼と出会った花畑。

空を飛んでいたヨハンとリシャールの下に、花畑で待つアンドレとエリソンドが見えた。

地面に足をつけると、アンドレが静かに寄った。ヨハンは静かに!と言うように、口に人差し指を当てた。アンドレは微笑んで頷いた。

「…ヨハン?もう開けていい?」
「……いいですよ」

リシャールが目を開けると、目の前に愛する彼がいた。

「……えっ…」
「リシャール。」

すぐにヨハンの方を向いたが、後ろには誰もいなかった。というか、周りには誰もいなかった。


今、目の前に…あの愛する彼。


もう会うことなんてないと思っていたのに。会わないと決めたのに。会ってはならないのに。

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