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3.悲劇の引金

国の事情と国王のやり方

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「はぁ……」

頭を抱え、ため息をついていたのは、ペリシエの国王クロヴィス。

「陛下。エリソンドが来ました。」
「あぁ、通せ。」

「失礼致します。陛下、お呼びでしょうか。」
「……エリソンド。単刀直入に聞く。」
「…はい。」

「アンドレが結婚する相手は、シャンパーニの白蜜蜂だと?」
「…仰る通りでございます。」

「その娘の名は?」
「……。」

「陛下。大変申し訳ございません。私は、彼女の名まで把握出来ておりませぬ故…」
「名前も知らずに結婚を決めたというのか?」
「……そのようかと。」

エリソンドは頭を下げたまま話していて、もう頭に血が上りそうだ。

「ジルベールには、子供はまだ居らぬようだが。ということは、貴族か?それとも市民か?あぁ……舞踏会で出会ったから、貴族…としか考えられないな?」
「……」

エリソンドは黙り込んでしまった。

「……もう良い。下がれ。」
「………失礼致します。」

部屋から出ると、エリソンドは走った。

「アンドレ様……!」


今日は天気が良いので、アンドレの自室から出た庭で剣術を稽古していた様だ。

「アンドレ様」
「……何事だ?…あぁ、父上に呼び出されたと言ったな。説教か?」

「…それもそうですが……。アンドレ様。早く手を打たねばなりません。」
「…どういうことだ?」
「…もしかしたら、陛下は兵を率いてシャンパーニの貴族達の中から、リシャール様を探し出すかと。」
「それは、想定内だ。」
「…?」

アンドレは剣を拭きながら、小声で話した。

「小規模だが、別荘を作らせている。」
「べ、別荘?」
「…後に、リシャールの王台になる。」

「アンドレ様。それはどちらに?」
「…少し離れている。レステンクールの国境付近だ。マルグリットだと、厄介だからな」
「だからか…。」
「気付いたか?」

「…通りで、働き蜂が足りないと思いました。聞いてもアンドレ様からの仕事だとの一点張りで。…はぁ……、納得しました。」
「なら良かった。」

やれやれ、と言わんばかりにエリソンドは少し安堵した。

「後でお前にも案内する。」
「はい。」
「…そうだ。エリソンド。リシャールにこれを届けてくれないか?別荘について、結婚について…色々書き記した。」

そう言ってアンドレが出したのは一通の手紙。エリソンドは快く受け取った。

「かしこまりました。早急に。」

「…結婚の準備は進んでいるか?」
「はい。少しずつですが。しかし、やけに陛下の兵がアンドレ様の王台付近に多いんです。…少し警戒すべきです。」
「それは、俺も気付いていた。まぁ…結婚の儀式も、全て別荘で行うよ。」
「…かしこまりました。」

そして、直ぐにエリソンドは働き蜂にリシャールの元へ手紙を届けさせた。


_____


「陛下。マルグリット王のレイエス様から手紙が届いております。」
「…はぁ。またか…」

クロヴィスの元に送られてきたのは、マルグリットの国王、レイエス・デュセイ からの手紙。封筒は厚く、長々と何かを告げているようだ。

「…しかし…アンドレを名指しとはな。」
「…また、催促ですか?」
側近が聞いた。

「あぁ。こんなに長々と書いて、結局は王女とアンドレを結婚させねば攻め入ると。」
「中々、粘りますね。」
「アレクシスも可笑しくて笑うか?」
「…いえ。」
「笑っておるではないか」
「…申し訳ありません」

ふっ と嘲るようにして笑うのは、クロヴィスの側近、アレクシス・ダリュー。

「……陛下はどうなさるおつもりで?」
「結婚させるしかない。」
「…噂の白蜜蜂は、婚約破棄ですか」
「当たり前だ。」

「…マルグリットも中立国だとはいえ、力のある大国ですからね。それに、大型の兵器も所持しているとか。」
「あぁ。油断は禁物だ。アンドレには、その白蜜蜂と縁を切ってもらわねばな。その一匹がいたがために、マルグリット相手に戦うのも困った話だ。」

マルグリットは一方的にペリシエと同盟を結びたがっているが、ペリシエは気乗りしないようで先延ばしにしている。

ペリシエは現在、シャンパーニとレステンクールと三国同盟を組んでいる。

しかし厄介なのは、シャンパーニを挟んだ向こう側にある国がペリシエを敵対視してきていることだ。

スアレム とトゥクリフ  という二つの国だ。

そちらも同盟を組んでいるようで、スアレムとトゥクリフは領土を広げようと時を見計らっている、との情報もある。

ペリシエ等の三国とその二国、2つの同盟間に立とうとしているのが、マルグリットである。

「……しかし、アンドレ様は王家を離脱するお考えもあるようですが?」
「…はっ、それは許さん。」
「アンドレ様のことですから、強行突破されるかと。」
「そうなったら、白蜜蜂にアンドレに似た雄を紹介するか…。あちらも拒むのなら…」

クロヴィスは表情を変えた。

「……殺せ。」

「…?!」
すると、クロヴィスは大きく笑った。

「はははっ、冗談だ。」
「…冗談には聞こえませんでしたが?」
「殺しはしないが…、せめて巣を燃やせ。」

「……それは…冗談ですか?」
「いや。もし、何がなんでもアンドレが折れないのなら、の話だ。最終手段の様なものだ。」
「なるほど。では、それも視野に入れておきましょう。」
「もしくは、彼女は死んだ という報告だけをアンドレに伝えるのでもいいだろう。だが、それだけじゃ弱いからな。」
「なるほど…。」

アレクシスは頷いたが、顔は引き攣っていた。

「…アレクシス。その白蜜蜂の巣を捜し出せ。くれぐれも、アンドレに知られないようにな。」
「……かしこまりました。」
アレクシスは兵士達を呼び出し、何かを告げた。



______________





窓から暖かい陽が差し込み、リシャールの羽が虹色に反射する。


「おいで、リシャール。」


眩しい庭からリシャールに手を差し伸べているのはアンドレ。


「アンドレ様!」


伸ばされた大きな手に、小さな白い手をのせた。優しく包み込むように握ってくれる。愛する彼の暖かい体温がリシャールを幸せにする。

小さくて綺麗な湖を越えて。
大好きなブッドレアに囲まれて。
愛する彼と手を繋いで。


幸せそうに笑い合う2人がそこにいた。





___________


「………。」

リシャールは静かに目を開けた。
「……夢なら覚めなきゃいいのに。」


その頃、ヤプセレ家に来訪者が。邸宅にベルが響いた。

「あらやだ、誰かしら…」
扉を開けたのはカトリーヌであった。

「リシャール・ヤプセレ様のお宅で?」
「……え、えぇ。そうですが。」

カトリーヌは驚いた。白で囲まれるシャンパーニに馴染むようにするためなのか、白のローブを着た黒蜜蜂。

すぐに分かった。

(リシャール様の旦那様からの使いね。)

「こちら、リシャール様へお手紙でございます。」
「まぁ…ご苦労様です…。」
「では、私はこれで。」
「…えぇ…。」

黒蜜蜂は直ぐに去っていった。

カトリーヌは少し厚めの封筒を見た。
差出人の名前は無く、紋章のような印がある。

「…旦那様は、大臣の1人なのかしら。」

リシャールの夫が王子だとは誰も想定していなかった。

「きっと、結婚式の案内ね。リシャール様の花嫁姿が見れるなんて!」
カトリーヌは喜んでヨハンへ渡そうとした。

「あぁ!ヨハン!」
「お、カトリーヌさん!」
「これを。」
「ん?お手紙?」

「…きっと旦那様からですよ。」
「…ふふっ!ありがとうございます!」
ヨハンも喜んでリシャールへ届けた。

「リシャール様ぁ!!」
「…まぁ、どうしたの?」
「お手紙ですよ!」
リシャールは王台に飾っていた花瓶に水を注いでいた。

「誰から?」
「…アンドレ様に決まってますよ!」
「あら…」
リシャールは封筒を開けた。

案の定、アンドレからの手紙だった。



〈愛するリシャールへ〉

結婚の準備はしているだろうか。
君の花嫁姿を楽しみにしている。
君に言わなければならない事があって手紙にしたんだ。

結婚式は小さく開催しようと思う。会場は、私の新しい別荘にて。でも、まだ建設中なんだ。もう少しで出来る。場所は分かりにくいかもしれないから、地図を手紙と一緒に入れておいた。鍵も渡しておく。

もう少しだけ、待っていてくれ。
私の愛するリシャール、必ず迎えに行くから寂しがらないで。

            〈 アンドレより 〉


「アンドレ様…」
リシャールは微笑んだ。達筆なアンドレの字を見て、なんだか嬉しくなってしまった。

「…良いお話ですか?」
ヨハンがリシャールの元へ寄って、手紙を読んだ。暫くして、ヨハンは眉間に皺を寄せた。

「リシャール様……。」
「…分かってる。アンドレ様がいれば、私は十分よ。」
「……。」
「…遠くにある別荘も、この手紙の文面も。アンドレ様なりの考慮なのよ、きっと。」

王子が結婚するならば、国を巻き込んで大きく結婚式を開催するのが当然だ。しかし、アンドレは別荘で小さく開催する。

「地図と鍵が?」
「えぇ。……ほら…。」
同封されていた地図と鍵を取り出した。

地図はレステンクール付近に印が付いていた。
「遠い所に建設しているんですね」
「…そうね…。」

「鍵、リボン付いてますね、可愛い」
「本当だ。可愛い。」
別荘の鍵には、小さく黒のリボンが結ばれていた。

嬉しそうに微笑んでいるリシャールを見て、ヨハンはふと思い出す。

ペリシエの国王陛下は反対するだろう、というエリソンドの話。

きっと、アンドレが父親に当たる国王にリシャールとの結婚を大反対されている最中なのだと察した。

もちろん、それはリシャールも察していた。

仕方ない、リシャールはそう思うしか出来なかった。いや、自分にそう言い聞かせている部分もあった。

「リシャール様。」
「……ん?」
「もし…。もし、ですよ?」
「何よ。もし、の話ね。分かったわ。何?」

「…もし、この婚約が破棄になったら…?」
「……それも仕方ないわ。私のせいで、未来の国王陛下のアンドレ様に、恥をかかせる訳にはいかないんですもの。考えたくないけど、もし婚約破棄になったら、受け入れる覚悟は出来てる。」

「…でも…、きっと…お腹に…」
「妊娠したかはまだ分からないわ。…ほんの一瞬だったもの。」

ヨハンの目には、リシャールが寂しそうに映っていた。そして、切り替えるように言った。

「でも、アンドレ様が何とかして下さるかもしれませんよ!…リシャール様の晴れ舞台をお手伝いさせて下さい!」
「ヨハン。」
「…さ、ドレスもカトリーヌさんが用意してくれたんですよ!リシャール様、こちらへいらしてください!」
「…なぁに?」

ヨハンが連れてきたのは、衣装部屋。

扉を開けて、一番奥の正面に一際輝く真っ白のウェディングドレスがあった。

「…はぁ…素敵……。」

リシャールはゆっくりとドレスに近付いて、優しく触れた。

「これ…ママのドレス?」

「はい!カトリーヌさんが大切に保管して下さったんですよ。」

リシャールは恍惚とした表情で、ドレスを眺めた。ドレスは汚れ1つなく真っ白で、レースも艶やかな生地も何もかもが輝いている。

「…アンドレ様に見せたいわ。」
涙を浮かべ、声を震わせて話した。


「…身分なんて…どうだっていいのに。」
リシャールの嘆きはヨハンにも聴こえていた。

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