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2.蜜蜂の初恋

再会の合図

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「ルシアン妃、よくぞ言ってくれた!って感じでしたね。スッキリしました。」
舞踏会の帰り道、ヨハンは言った。

「…ルシアン妃も雄なんて知らなかったわ」
「やっぱりそうですよね…。僕も初耳でした。だから、リシャール様が雄だって知っても、国王夫妻は驚かなかったんですね」
「そうね。そこは合点がいくわ。」

ヤプセレ家の巣へ到着した。
リシャールはすぐにドレスを脱いだ。

「……リシャール様。」
「…ん?」

「…他国の方に嫁がれるおつもりですか?」
「……何よ、急に。」
「いや…。他国の王にって……」
「ルシアン妃の励ましの言葉に過ぎないわ。真に受けないでよ。まだ、分からないじゃない」

「ですが……あの黒蜜蜂の方が…」
「あの方は忘れるべき。ハンサムだったから印象に残ってしまっただけで。」

「…本当にいいんですか?」
「それに…きっと王族の方なんでしょう?…私は貴族だとはいえ、王族なんて話が違うわ。」

窓の外を見つめた。
飾っていたブッドレアの花束の香りを嗅いだ。とても甘くて何処か優しい香り。

「ヨハンは、ブッドレアの香りは好き?」
「嫌いじゃないです。でも……香りが強すぎるっていうか。甘すぎるというか…」
「ふふっ、そうよね。私たち蜂じゃなくて蝶が好きな香りですもの。」

「…あのお方もブッドレアを摘んでいたのは、ブッドレアがお好きなんですかね?」
「きっとそうよ。」
「じゃあ!好みが合いますね!いいじゃないですか!」
「……ヨハン。」
「すみません…お食事をお持ちします…」

女王蜂が食すのはローヤルゼリー。
普通の働き蜂は食べてはならないもの。

ブッドレアから作り出した蜜。
香りも味もとてつもなく甘い。

「……。」
「お口に合いませんでしたか?」
「いいえ。甘くてとっても美味しいわ。」
「そうですか。なら良かったです。」

リシャールは、ずっと上の空だった。

「…少しだけ1人にしてくれる?」
「かしこまりました。皆、行きましょう。」

王台にいた働き蜂は皆退室した。


「…はぁ…」
リシャールは誰かの前で、ため息をつきたくなかった。

本当はあの方が忘れられない。
忘れられるわけないでしょう?
あの瞳を見てしまったら。

魔法でもかかったのかな。

「アンドレ様……」
イエローダイヤの指輪を見つめて、小さく呟いた。

もう一度、会いたい。


______________
  



「今じゃ兄上は笑いものよ、一家の恥だわ」

そう言って、隠れてほくそ笑むのは妹のミシェル。

「…もう、兄上の居場所はなくなるわ」
ミシェルに仕えるようになったカトリーヌは心の中で悲しんでいた。

「ミシェル様、そのようなことは仰ってはなりません。フレア様が…」
「はいはい、分かってるわ。ママの遺言ね、分かってるって。」

ミシェルはシャンパーニでの舞踏会で、夫の候補が上がっていた。

「国境を越える舞踏会には行かれるのですか?」
「…兄上が行くのでしょう?…様子を見に行くわ。心配だもの。また一家を恥に晒すようなら私が兄上を何とかしなくちゃね。」

カトリーヌは苦笑いをした。


______________





リシャールの願いが叶うのは数日後の舞踏会。

会場はペリシエ王国の城と国立公園。

貴族は城、一般は公園に分かれる。


「リシャール様、ドレスのご用意が出来ましたよ。着替えましょう。」
「…えぇ。」

リシャールは久しく楽しみが出来た。
気分が良く、鼻歌を歌う。
その姿を見て、ヨハンも働き蜂も皆嬉しかった。

「…これって。ママのドレス…!」
「はい。今日は、王子様にもお会いするので。」
「まぁ…そんな…!」
「張り切ってご用意させて頂きました。」

きらきらするスパンコールと花の刺繍が美しい、アプリコットのボールガウンドレス。
大好きなイエローダイヤの指輪は勿論、イヤリングも付けた。

「…これなら…気付いてくれるかな…」
「当たり前じゃないですか。王子様の記憶にも鮮明に残っているはずです。」

ドレッサーに映る自分は今までと見違える。

「…さ、行きましょう。」
「えぇ。」

「リシャール様、行ってらっしゃいませ」

働き蜂に見送られ、リシャールはペリシエへ向かった。


________ペリシエ王国。___



「この度は、お集まり頂きありがとうございます。会場であるペリシエの国王陛下、クロヴィス・ルグラン でございます。」
王室の働き蜂が紹介する。

ペリシエの国王 クロヴィス・ルグラン
会場の人々に向かい、挨拶を行った。


「…皆さん、今日は思う存分楽しんでいってください。そして、こちらが我が息子、アンドレです。」
「……。」

アンドレは会釈をした。王座の隣に立ち、会場を見渡す。

呼ばれた令嬢の女王蜂達はアンドレに釘付け。

「さぁ!舞踏会を開催致しましょう!」

国王の一言でワルツが始まった。

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