honeybee

RBB47

文字の大きさ
上 下
5 / 48
2.蜜蜂の初恋

春の舞踏会

しおりを挟む
春の舞踏会。

1回目はシャンパーニに佇む、白く美しい城で行われた。

王座には、ジルベール国王夫妻が座って様子を見ていた。

赤、黄色、青、緑 …カラフルな色のドレスを身にまとった女王蜂達が集まり、出会いを求める雄蜂達も集まった。

招待されたのは、各家の女王蜂候補と跡継ぎ候補の雄。
多くの蜂で賑わう城の中は、白の壁紙と金の装飾、そして沢山の花々、客の食事になる蜜も用意されており、ワルツが響いていた。

リシャールはヨハンと共に参加した。
ヨハンが準備してくれたリシャールのドレスは、瞳と同じ淡いエメラルドグリーン。


「…凄い数ですね」
「…なんだか、緊張する。」
「大丈夫ですよ。」

舞踏会には、ミシェルも参加していた。

「兄上?」
「ロベール!」

リシャールを見つけ、駆けつけたのは弟のロベール。

「会いたかったです」
「私も。…貴方は城で見ると立派ね」
「…巣ででもって言ってくださいよ」
「ふふっ、ごめん」

「姉上もいらしてるみたいで。」
「そうなの。…まぁ、私はロベールに会いに来たけど。」
「…蜜が目的では?」
「しっ!ヨハン!言わない約束!」
「あっ!!」
「ははっ、それでも構いませんよ。陛下には内緒に!」
ロベールは小声で言って笑った。

「…お相手、見つかるといいですね」
「…それは…ロベールもね」
「そうでした…」

リシャールとロベールは再会を喜んだ。

「…ロベール。」
「はっ!陛下!」

すると後ろから静かに近付いてきた国王、ジルベール。妻のルシアンも隣にいた。

「…フレア…?」
「…国王陛下にご挨拶を。…フレアは私の母ですが…。」
「…あぁ、フレアに似ていたものでな。名は?」
「…リシャールと申します。」
「私の兄上です。私も、兄上は母上にとても良く似ていると思っておりました。」
「…あぁ、全くその通りだ。フレアによく似ている。」
「母上をご存知で?」

「あぁ。ルイから紹介してもらった時は、驚いた。とても美人だったものでな」
「……?!」
隣にいたルシアンがジルベールの脇腹を殴った。

「痛っ…。ま、まぁ…今日は楽しむといい。」
「ありがとうございます。」
「それじゃ。」

「じゃあ、僕もこれで。……思う存分、食べてってね」
ロベールは小声で言い残して行った。

リシャールはジルベールの背中を見届け、呟いた。
「まぁ……陛下は驚かないのね。」

「何がですか?」
「…ロベールは私を”兄上”って紹介したのに、陛下は何も言わなかった。」
「…確かに…人の話をあんまり聞かないタイプ?」
「陛下に対して失礼な!」
「…いやいやいや!!」

「…まぁ、いっか……」

「…じゃ、早速何を食べましょうかね…?」
「これ美味しそう。」
「じゃあ……これと、これと…」

予定通り、2人は舞踏会には目もくれずに蜜ばかりに夢中であった。

すると、ある雄蜂に声を掛けられた。

「そこのエメラルドグリーンのお嬢さん。」
「…はい…?」
「…良かったら、私とワルツを…」
「あ…えっと……」

リシャールが躊躇うと、行きなさいと言わんばかりにヨハンが肘で小突いた。

「は…はい……」

彼はリシャールの手を取り、2人は踊った。

ダンスの練習をしていて良かった、リシャールは密かに思っていた。

ヨハンはひたすら食べながら、踊る2人を見守っていた。


「…お名前をお聞きしても?」
「リシャール・ヤプセレと申します。」
「…リシャール…とても綺麗な名前だ。私はジョアキム・カノーヌです。」
「ジョアキム様……」
「様だなんて、そんな。」
彼はジョアキム・カノーヌと名乗った。彼は、シャンパーニの貴族一家の嫡男。

リシャールは彼を見て微笑んだ。
雄にしては可愛らしい顔立ちで笑顔も可愛い雄蜂であった。

2人は城のバルコニーへ出て、話をした。

「…結婚をお考えで?」
「えぇ、一応…。」
「…そんなに前向きでは無いのですか?」

リシャールは少し考えて言った。

「…私が前向きでも、貴方様は私を前向きには考えないでしょう?」
「それは、どういうことですか?」


「雄だから」

「えっ……」

リシャールが雄だと知ると、彼の態度は豹変した。

「…雄…だと言ったか?」
「…えぇ。ですが、子を産めるのです。」
「…はっ……雄との子だと?笑える。」
「………。」

リシャールは彼を哀れむ目で見つめた。


「…誰が雄同士の結婚を望むか?!」
彼はリシャールに怒鳴りつけた。

近くにいた人々はリシャールが雄だと知り、ざわめいた。


人々の目は異物を見るような目に変わった。


あの女王蜂、雄だって。

雄同士の結婚?気色悪い。

可哀想に。女王蜂なのに雄だなんて。


次々と周囲の声が聴こえてきた。

「……こうなることは想定の範囲内ね」
リシャールは呟いた。

その人々の声がヨハンの耳にも届き、ヨハンはリシャールの元へ飛んで来た。

「リシャール様!行きましょう!こんな失礼な奴らに用はありません!!!」
「……ヨハン、思う存分食べた?」
「はい!いっぱい食べました!!!行きましょう!」
ヨハンはリシャールの手を引いて帰った。


その姿を見ていたミシェルは、ほくそ笑んでいた。

しかし反対に、リシャールを心配そうに見つめていたのは、ルシアン妃であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別に、好きじゃなかった。

15
BL
好きな人が出来た。 そう先程まで恋人だった男に告げられる。 でも、でもさ。 notハピエン 短い話です。 ※pixiv様から転載してます。

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。 大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

処理中です...