Premonition of spring

椎名

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Spring

出会い

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分からなかった。
あの男を尊敬してやまない律人にとって、嫌う理由が理解できない。
進藤奏太は日本でも随一の腕前を誇る役者だが、役者の人気ランキングでは5位、6位を繰り返している。

なぜ1位の人気舞台俳優を追わないのか自分でも分からないが、律人は学生時代に進藤を見て以来ずっと追いかけてきたのだ。


「……」


____演技も下手くそだしよ。

あれで下手って、目がおかしいんじゃないの。
嫌いになる理由が分からない。
というか俺、なに落ち込んでるんだよ。
好きな人がいれば嫌いな人だっているはずだよな。

まさか……不安、なのか。
奏太さんを尊敬している自分が。


「は…………なんでだよ」

「律人ー」

「っ!  響……」


1人で校内のバラ園まで出てきた律人を、響はさも当然のように追いかけてきた。


「よ、よく分かったな。俺がここにいるって」

「律人はさ、もう少し気配消した方がいいんじゃない」

「?」

「気配でバレバレ」

「あ、ははーやっぱ俺ってどこいても目立っちゃうしねー」

「もっと素直になったら」

「え……」

「なーんてね、早く部室戻って配信準備しなきゃ。22時から始まるって、もう律人のファンがワクワクしながら待ってるんだし」

「ああ……そうだな」


素直じゃないって、この俺が……?

そんなはずはないと心中で思いながら、気分は今すぐ逃げ出したいほどひどいものだった。


律人と響はサークルが同じだ。
律人は舞台に出る役者がメインであり響は音響など裏方をメインでやっている。
そのせいもあって誰よりも律人が目立つのは当然のことだが、響や優を目当てに配信を見にくるファンもいる。


「よーし、画面固定OK!  夏はこういうの初めてだからおいおいで良いよん」

「ちょっと律人、顔死んでるけどっ」

「死んでないって。ほら始めるよー」


切り替えは得意だ。
配信開始ボタンを押した瞬間、パソコンの画面には律人たちが映し出される。
待ってましたと言わんばかりに待機していたファンが『こんばんは』とコメントし始めた。


「こんばんは~、みんな声聞こえてるー?」


律人が手を振りながら笑顔で尋ねると、画面右側に表示されたコメント欄が奇声で埋まる。


『りっくーん!!』
『初めて配信これた!律人様かっこいい!』
『もっと手振ってー!』
『聞こえてるよー!』


一般公開しているこの配信を見にくるファンの中には、大学郊外の女性ファンも多い。
その実態まで知らなかった夏久は、コメントを目で追いながら放心顔を浮かべた。


「よし、聞こえてるっぽい。そんじゃオレ、優、律人の順番でプレチャくれた人の名前読んでくね~」


プレチャとはプレゼントチャットの略で、視聴者から配信者へ贈ることのできるマネーギフトだ。


「ふみかさん、"こんばんは、今日も楽しみにしてました。最後までいます。"はーい、いつもありがとうございまーすっ」

「__にしまろさん、"りっくん推しですが皆さん大好きです。お気持ちほんの少しですが受け取ってください!"  あはは、にしまろさん配信いつもきてくれてるよね。ちゃんと見てるよ~」

「__優大さん、"男ですがファンです。これからも応援してます!"だって。やっば男の人も見てくれてるなんて嬉しい!」


各々が読み上げていくコメントを聞きながら、夏久はくだらないとソファに寝そべった。
事務所に所属しているわけでもないのに、これはまるで本物のアイドルだ。
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