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Spring
出会い
しおりを挟む「し、失礼しまーす」
「余計に怪しく見えるだろ」
「夜の学校って……なんか緊張しない?」
「は? 小学生か」
事務室以外に管理者がいない薄暗い部屋は少し身構えてしまう。
だが、夏久に笑われるのも癪に感じた律人はスっと自分を切り替える。
「へえ、そこに鍵置いてあるんだ」
「返すの忘れんなよ」
「分かってますよ~」
役者でいると気分が落ちつくものだ。
誰にも深入りされない、見られたくないところも隠せてしまう。
「なぁ見た? 今日のマオ」
「!」
廊下から聞こえた声に律人の肩がビクッと跳ね上がった。
一方で真顔のままだった夏久と目が合う。
「見た見た! 進藤奏太だっけ? 写真大量に持ってたよな~」
「そうそう、腹立つよなぁ。あんなナルシストどこがいいんだか。演技も下手くそだしよ」
「っ……」
廊下を通りすがった2人組の男は、律人が好いている進藤奏太の批評をしている最中だった。
自分が心から好きなものを貶され怒りが湧いてきたが、この場で取り乱すことなどできない。
「……」
「なにしてんだ、講義室行くぞ」
「…………そ、そうだな。ごめんごめん、幽霊出てきたと思ってビビっちゃった~」
なにも間違えていない。
自分の選択は。
「____でさぁ、ってあれ? 律人戻ってこないじゃん」
「シャワーなっが。これは絶対アレだな」
「ハハハッ、言ってやーんなよ。響」
講義室で鍵を見つけ、戻るなりシャワールームへ消えた律人だったが、1時間近く経っても戻らない。
ソファで寛いでいた夏久はその場に立ち上がると、遠慮もなしにシャワールームのドアを開けた。
「…………」
「なにしてんの」
「……! う、ぁ、天川!? ちょ、いきなり入ってくんな!」
脱衣場の隅に蹲っていた律人は夏久を見るなり立ち上がり、手に持っていたものを後ろ手に隠した。
「えっと、風呂入りたいならいいよ。俺もう終わってるから!」
「進藤」
「っ」
「好きなんだろ。それ」
「…………見え、たんだ」
諦めたように律人は隠していた写真集を両手に持ち直す。
「お、俺が写真集買ってるとか絶対誰にも言うなよ? そういうのキャラじゃないし」
「アイドルでもねえのにキャラなんていんのか」
「天川には関係ない。そういうもんなんだよ、役者は」
「へー、ファンにしっぽ振って良い子良い子すんのが仕事か。それって楽しいの? 俺には窮屈に見えて仕方ねえけどな」
「っ、お前……!」
律人の振りかぶった手は夏久に掴まれ、行き場がなくなった拳がかすかに震える。
「そういう顔もできんのな」
「……は、離してくれないかなぁ? 天川くん、痛いんだけど」
「嫌だって言ったら?」
「あのさぁ、なんで俺にそんな突っかかってくるんだ。俺が嫌いなら話さなければいい話だろ」
「……俺は進藤が嫌いなんだよ。顔も見たくねえ。それに似てるあんたも、あいつのファンも鬱陶しくてしょうがねえんだよ」
「は……」
唖然とした律人の手を解放した夏久は、強引に扉を開けて脱衣場を出て行った。
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