Premonition of spring

椎名

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Spring

出会い

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「___俺が手を叩いたらポージングして。行きますよ」

「はい!」


必須だった講義を終えてサークルの活動拠点であるスポーツ広場に顔を出した律人は、新入生の基礎指導を行っていた。
指導員が手を叩くたびに素早くポーズを変えていく。
瞬発力と想像力が同時に鍛えられる役者に必須のトレーニングだ。


「矢口、ちょっと遅いよ」

「はい!  すいません、ポーズが思いつかなくて……」

「ほら動かない。集中して」


周囲を見て指導が行える律人はサークルの中でもリーダー的存在で、上級生から新入生まで幅広く信頼を得ている。
だが、当の本人は厳しく叱ることが苦手でありそれが悩みでもあった。


うーん……矢口は返事だけはいいんだけどな。
まだまだ本調子じゃない。
こういう時、"あの人"はなんて言うんだろう。


「はーい、休憩。水分補給しっかりするんだよ」

「はい!」


解散、と手を叩くと新入生たちが一斉に広場の隅へと駆けていく。
ふぅーっと息をついたとき、数人の男が律人の元へやってきた。


「浜ちゃーん、おつかれさん」

「あ、優か。おつありー」


 古原優が率いている7人は律人が所属するもう1つのサークルメンバーだ。
劇団の稽古後や合間に顔を出すのが律人の日課で、サークル名は『紅茶をたしなむ会』。


「ん?  1人多くないか?」

「そうそう!  浜っちに紹介しとくよ、こいつ今日から"紅会"に参加する新規メンバー!」

「……」


優に肩を抱かれた男は、不機嫌そうにその手を叩く。
ダークブラウンの髪に目尻のほくろ、切れ長の目。
何度か顔だけは見た覚えがある。


「えっと……たしか優とよく一緒にいる」

「当たり!  天川夏久くんです!」

「……なんでお前が言うんだよ」

「だって夏、人見知り激しいじゃーん!  おれが代わりに言ってやってんの!」

「誰が人見知りだ」


夏久に小突かれて大げさに足場をくずした優を他のメンバーが支えて助ける。
172センチの律人より数センチは高そうだ。
偏見の目で見るなら、夏久は紅茶をたしなむ会に興味があるタイプには見えない。


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