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俺、見つける3

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 家に着いて玄関を開けると、古沢がドタバタと玄関まで走ってやってきた。

「和樹!」

 坂崎に下ろされた和樹は、怒られると思っているのか少し表情が硬い。

「ほら和樹。父ちゃんに言うことあんだろ」

 そんな和樹の背中を坂崎が押す。
 それに促されて一歩前に出た和樹は、少し躊躇うように視線を泳がせてから口を開く。

「お父さん、ごめんなさい。……俺、お父さんを捨てようと思ったわけじゃないんだ」

 古沢はふらふらとした足取りで和樹の目の前までいくと、ぎゅっと和樹を抱きしめた。

「よかった……よかった和樹……無事で……よかった」

 二人を見ていて目が潤んでくるのを感じていると、とんとん、と肩を叩かれた。
 叩かれた方を向くと、坂崎が視線と手の動きでここから離れるぞ、と言う。俺は頷き、そっと和樹と古沢の横を通ってリビングまで行く。

 リビングに着くと、坂崎がぐーっと大きく伸びをする。和樹をずっと抱っこしていたから、腕が疲れているのだろう。

「……坂崎さんは……すごいですね」

「あ? なんだ野口くん藪から棒に」

「俺は……何もできなかったんで」

 自分の話をすると決めた時、俺はもしかしたら和樹を説得できるのではと思っていた。けれど、俺の言葉は和樹に響かなかった。俺は役立たずだ。
 落ち込んでいると坂崎にわしわしと頭を撫でられる。

「そりゃそうだろ。野口くんにゃ子供もいなけりゃ結婚すらしてねぇんだ。経験値が違ぇんだよ。……つか、彼女もいたことねぇんじゃねぇのか?」

 俺はまじまじと俺の顔を見てくる坂崎の手を振り払い恨みがましく睨む。
 うるせぇ。友達だってこの間までいなかったんだ。彼女なんていたことがあるわけがねぇだろ。

「悪ぃ悪ぃ。からかいすぎたな」

 坂崎が両手を上げて謝る。
 全く、さっきは親の姿の坂崎に感動すらしたと言うのに、なんでこうもふざけているのか。

 嫌味の一つでも言ってやろうかと考えていると、坂崎が何かを逡巡するような顔をしていることに気付く。

「……なぁ野口くん。ちょっと俺の話を聞いてくんねぇか」

 いつにない坂崎の様子に、俺は頷くことしかできなかった。
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