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俺、見つける2
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「そりゃちげぇよ、和樹」
後方から声が聞こえて振り向くと、少し息を切らせた坂崎がいた。メッセージを見て走ってきたようだった。
スマホのライトを使って近付いてきた坂崎は、俺の横に腰を下ろした。
ライト……そういえば、そんなのあったな。暗い中足元を気をつけながら歩いた自分を思い出し、なんだか恥ずかしくなった。
しかし、今はそんな場面ではない。俺は空気のように己の存在感を消すことにする。
「なあ和樹、実は俺にはな、娘がいるんだよ」
突然の坂崎の告白に驚く。坂崎はずっと独身貴族だと思っていた。
「俺んとこも和樹と同じだ。離婚しちまってな。ただ、和樹んとこと違って、娘は別れた妻……母親が引き取ったんだ」
「……そうなの?」
「そうだ。嘘ついてどうすんだ。今はそうだな……もう大学生だ。……そんでな、向こうは再婚しててな、新しい父親がいる」
遊具の中から和樹の息を飲む音が聞こえる。
「でもな、俺ぁずっとあいつの父親だ。もし、俺が今後結婚して、別のガキができたとしても、あいつが俺の娘であることは変わんねえんだ。だから、ずっと家族なんだ」
「ずっと……家族」
「そうだ。なんだ和樹。母ちゃんと家族じゃなくなると思って家出したのか」
そういえば坂崎は和樹が家出をした理由を知らないはずだ。
「……お母さんが、再婚したら今みたいに会えなくなるって……だから俺……お母さんに嫌われてるんじゃないかって……お父さんが電話で、俺のこと可愛くないのかって怒ってて……それ聞いて、やっぱり嫌われてるんだって……。お父さんはお母さんはずっとお母さんだって言ってたけど、嘘ついたんだって……そしたら、俺……腹が立って……でもだんだん悲しくなって……」
「……あのなあ和樹。親も人間だ。親子だからってなんでも分かり合えるわけじゃねえ。いろんな親がいる。けどなあ、和樹は母ちゃん好きなんだろ。なんで母ちゃん好きなんだ」
「……お母さんは、いつもニコニコ俺の話聞いてくれて、頭撫でてくれて……」
「和樹お前、嫌いな奴にそんなことすんのか?」
「……しない」
「だろう? もう答え出てんだよ。和樹の母ちゃんが和樹のこと嫌いなわけねえんだよ」
「……じゃあどうして今までみたいに会えないって、そんなこと言うんだよ」
坂崎は大きくため息をつく。
「そりゃ母ちゃんには母ちゃんの事情があんだろ。それ言ったら俺なんかもう何年も娘に会ってねぇぞ。でもな、会ってねぇから嫌いってわけじゃねぇんだ」
「……でも俺は! お母さんに会いたい!」
叫んだ和樹が遊具から出てくる。
「そうだな。だったら母ちゃんにはそう言えばいいだろ。そしたら母ちゃんも考えてくれんだろ。でもな、母ちゃんだって会いたいけど会えねぇ事情があんのかもしんねぇ。だから、思う通りにはなんねぇかもしんねぇ」
「……そんなのやだ。本当は、お父さんとお母さん
と一緒に暮らしたいのに、それはできないって言われて我慢したんだ! ちゃんと会えるから、我慢したのに……っ」
和樹は目に涙を溜めて言う。俺は、俺が想像していた以上に和樹が重いものを抱えていたのだと、何も知らずに能天気な子供だと思っていたことを改めて恥じる。
「そっか。えらいな和樹は」
坂崎はわしわしと和樹の頭を撫でる。すると、ぽろぽろと涙を流しながら和樹は坂崎に抱きつき、声を出して泣き出した。坂崎は和樹を抱きとめ、優しく頭を撫でながら、和樹を褒める。
「たくさん我慢したんだな、お前はえらいよ。こんなちっこいのに、なぁ? 野口くん」
「ぅえっ?は……はい。和樹くんは……本当……すごくえらいと思う」
突然話を振られて混乱した俺は大したことを何も言えなかった。そんな俺に坂崎は目を向け、ニヤリと笑う。
こんな時にまで俺をおちょくってくるんじゃないよ。
坂崎はすぐに視線を和樹に戻し、今度は諭すように言う。
「でもなぁ和樹。家出はダメだ。父ちゃんがどんだけ心配してると思ってんだ。父ちゃんめちゃめちゃ落ち込んでたぞ」
「ひっく……お父さんが?」
「だってそうだろ。家出したってことは、父ちゃんのこと捨てようとしたってことだろ」
「っ! 違う! 俺はお父さんのこと捨てたりなんか!」
「だろうなぁ。けど、父ちゃんはそう思ってるかもしれねぇぞ。違うなら、どうするかわかるよな」
「……お父さんに、謝る」
「そうだ。よくわかってんじゃねぇか。だからな、二度と家出なんてすんじゃねぇ。あとな、母ちゃんのことは、父ちゃんに思ってること話せばいい。和樹の父ちゃんは和樹のこと大好きだから、頑張ってくれんだろ」
二人の話を聞きながら、坂崎は適当なことばかり言って大丈夫かとはらはらする。
思わず小声で坂崎に言う。
「そんなこと言って、大丈夫なんですか」
「んあ? 大丈夫に決まってんだろ。子供のために苦労すんのが親ってもんだ。和樹が思ってること聞けば必死になんとかすんだろ。……俺だったらそうする」
最後に常より低い声で言われた一言に息を飲む。坂崎は適当に言っているわけではないのだ。
子を思う親として、言っているのだ。
俺はもう、何も言えなかった。
「そんじゃ帰るか。よいせっと」
坂崎は和樹を抱き上げ、公園の出口へ向かって歩き出す。俺も慌てて立ち上がり後を追った。
後方から声が聞こえて振り向くと、少し息を切らせた坂崎がいた。メッセージを見て走ってきたようだった。
スマホのライトを使って近付いてきた坂崎は、俺の横に腰を下ろした。
ライト……そういえば、そんなのあったな。暗い中足元を気をつけながら歩いた自分を思い出し、なんだか恥ずかしくなった。
しかし、今はそんな場面ではない。俺は空気のように己の存在感を消すことにする。
「なあ和樹、実は俺にはな、娘がいるんだよ」
突然の坂崎の告白に驚く。坂崎はずっと独身貴族だと思っていた。
「俺んとこも和樹と同じだ。離婚しちまってな。ただ、和樹んとこと違って、娘は別れた妻……母親が引き取ったんだ」
「……そうなの?」
「そうだ。嘘ついてどうすんだ。今はそうだな……もう大学生だ。……そんでな、向こうは再婚しててな、新しい父親がいる」
遊具の中から和樹の息を飲む音が聞こえる。
「でもな、俺ぁずっとあいつの父親だ。もし、俺が今後結婚して、別のガキができたとしても、あいつが俺の娘であることは変わんねえんだ。だから、ずっと家族なんだ」
「ずっと……家族」
「そうだ。なんだ和樹。母ちゃんと家族じゃなくなると思って家出したのか」
そういえば坂崎は和樹が家出をした理由を知らないはずだ。
「……お母さんが、再婚したら今みたいに会えなくなるって……だから俺……お母さんに嫌われてるんじゃないかって……お父さんが電話で、俺のこと可愛くないのかって怒ってて……それ聞いて、やっぱり嫌われてるんだって……。お父さんはお母さんはずっとお母さんだって言ってたけど、嘘ついたんだって……そしたら、俺……腹が立って……でもだんだん悲しくなって……」
「……あのなあ和樹。親も人間だ。親子だからってなんでも分かり合えるわけじゃねえ。いろんな親がいる。けどなあ、和樹は母ちゃん好きなんだろ。なんで母ちゃん好きなんだ」
「……お母さんは、いつもニコニコ俺の話聞いてくれて、頭撫でてくれて……」
「和樹お前、嫌いな奴にそんなことすんのか?」
「……しない」
「だろう? もう答え出てんだよ。和樹の母ちゃんが和樹のこと嫌いなわけねえんだよ」
「……じゃあどうして今までみたいに会えないって、そんなこと言うんだよ」
坂崎は大きくため息をつく。
「そりゃ母ちゃんには母ちゃんの事情があんだろ。それ言ったら俺なんかもう何年も娘に会ってねぇぞ。でもな、会ってねぇから嫌いってわけじゃねぇんだ」
「……でも俺は! お母さんに会いたい!」
叫んだ和樹が遊具から出てくる。
「そうだな。だったら母ちゃんにはそう言えばいいだろ。そしたら母ちゃんも考えてくれんだろ。でもな、母ちゃんだって会いたいけど会えねぇ事情があんのかもしんねぇ。だから、思う通りにはなんねぇかもしんねぇ」
「……そんなのやだ。本当は、お父さんとお母さん
と一緒に暮らしたいのに、それはできないって言われて我慢したんだ! ちゃんと会えるから、我慢したのに……っ」
和樹は目に涙を溜めて言う。俺は、俺が想像していた以上に和樹が重いものを抱えていたのだと、何も知らずに能天気な子供だと思っていたことを改めて恥じる。
「そっか。えらいな和樹は」
坂崎はわしわしと和樹の頭を撫でる。すると、ぽろぽろと涙を流しながら和樹は坂崎に抱きつき、声を出して泣き出した。坂崎は和樹を抱きとめ、優しく頭を撫でながら、和樹を褒める。
「たくさん我慢したんだな、お前はえらいよ。こんなちっこいのに、なぁ? 野口くん」
「ぅえっ?は……はい。和樹くんは……本当……すごくえらいと思う」
突然話を振られて混乱した俺は大したことを何も言えなかった。そんな俺に坂崎は目を向け、ニヤリと笑う。
こんな時にまで俺をおちょくってくるんじゃないよ。
坂崎はすぐに視線を和樹に戻し、今度は諭すように言う。
「でもなぁ和樹。家出はダメだ。父ちゃんがどんだけ心配してると思ってんだ。父ちゃんめちゃめちゃ落ち込んでたぞ」
「ひっく……お父さんが?」
「だってそうだろ。家出したってことは、父ちゃんのこと捨てようとしたってことだろ」
「っ! 違う! 俺はお父さんのこと捨てたりなんか!」
「だろうなぁ。けど、父ちゃんはそう思ってるかもしれねぇぞ。違うなら、どうするかわかるよな」
「……お父さんに、謝る」
「そうだ。よくわかってんじゃねぇか。だからな、二度と家出なんてすんじゃねぇ。あとな、母ちゃんのことは、父ちゃんに思ってること話せばいい。和樹の父ちゃんは和樹のこと大好きだから、頑張ってくれんだろ」
二人の話を聞きながら、坂崎は適当なことばかり言って大丈夫かとはらはらする。
思わず小声で坂崎に言う。
「そんなこと言って、大丈夫なんですか」
「んあ? 大丈夫に決まってんだろ。子供のために苦労すんのが親ってもんだ。和樹が思ってること聞けば必死になんとかすんだろ。……俺だったらそうする」
最後に常より低い声で言われた一言に息を飲む。坂崎は適当に言っているわけではないのだ。
子を思う親として、言っているのだ。
俺はもう、何も言えなかった。
「そんじゃ帰るか。よいせっと」
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