ひきこもり×シェアハウス=?

某千尋

文字の大きさ
上 下
22 / 37

俺、母親に連絡する2

しおりを挟む
 ひとしきり涙を流した後、息を整えてから母親の番号をタップする。
 出るだろうか、どうだろうか。

 数コールの後、電話口から声が聞こえた。

「もしもし……雅史?」

 その声は酷く弱々しくて、緊張しているように感じた。或いは、母親も不安だったのかもしれない。突然シェアハウスにぶちこんだ息子に恨まれているのではないかと。

「うん……俺」

「あんた……元気にしてるの? もう11月も半ばで……メールに返信もないし」

 責めるような内容だが、その声が震えている。

「……母さん、俺、就職したよ」

 電話口の向こうで母親が息を飲むのがわかる。
 続いて聞こえてきたのは嗚咽だった。

「ああ……そうなの? そうなのね……本当に……本当なのね……」

 どんどんと嗚咽の声は大きくなっていく。俺も引きずられてまた泣きそうになる。

「……母さんね、ずっと、ずっと後悔してたの。私が、あんたを甘やかしすぎたんじゃないかって……あんたはもともとちゃんと自分で努力できるのに……挫折したあんたを……囲い込んでしまったんじゃないかって……私が甘やかしすぎたせいで、あんたの可能性を潰したわじゃないかって……もっとどこかで厳しくしていたら、あんたは立ち直っていたんじゃないかって……」

 それは母親の懺悔だった。聞いていて苦しくなる。違うんだ。悪いのは俺なんだ。俺が、逃げて、楽な方へ逃げて。何も考えなかった。家族のことも、将来のことも、何も考えなかったのだ。嫌なこと、見たくないもの全てから逃げたのだ。

「違うよ母さん……逃げたのは……俺なんだ。その後、自分を甘やかしたのも……俺だ。……心配ばかりかけてごめん……」

 俺はこの十五年間で、初めて母親に謝った。情けない。本当に情けない。

「あんた……そんな……ああ……この数ヶ月で、全然、違うのね。変わったのね。母さん……間違えてなかったのね」

 それからしばらく母親が泣き止むのを待った。

「……仕事は、何をしてるの?」

「警備員の仕事をしてるよ。でも、資格を取って、最終的には事務系の仕事に就くつもり」

「そうなの……色々考えているのね。シェアハウスでの生活はどう?」

「うん。なんとかなってるよ。最近は会話とかもするようになって……就活の時もアドバイスもらったりしたんだよ」

「うまくいってるのね。うん、よかったわ。母さん一度皆に会ったけど、皆ね、いい人だったわ」

「うん、そうだね。いい人だよ。まだあまり話したことのない人もいるけどね」

 その後も、シェアハウスに入居してからあった出来事を色々話した。母親はそれをうんうんと、嬉しそうに聞いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の目の前の魔法少女がつかまえられません!

兵藤晴佳
ライト文芸
「ああ、君、魔法使いだったんだっけ?」というのが結構当たり前になっている日本で、その割合が他所より多い所に引っ越してきた佐々四十三(さっさ しとみ)17歳。  ところ変われば品も水も変わるもので、魔法使いたちとの付き合い方もちょっと違う。  不思議な力を持っているけど、デリケートにできていて、しかも妙にプライドが高い人々は、独自の文化と学校生活を持っていた。  魔法高校と普通高校の間には、見えない溝がある。それを埋めようと努力する人々もいるというのに、表に出てこない人々の心ない行動は、危機のレベルをどんどん上げていく……。 (『小説家になろう』様『魔法少女が学園探偵の相棒になります!』、『カクヨム』様の同名小説との重複掲載です)

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

一か月ちょっとの願い

full moon
ライト文芸
【第8位獲得】心温まる、涙の物語。 大切な人が居なくなる前に、ちゃんと愛してください。 〈あらすじ〉 今まで、かかあ天下そのものだった妻との関係がある時を境に変わった。家具や食器の場所を夫に教えて、いかにも、もう家を出ますと言わんばかり。夫を捨てて新しい良い人のもとへと行ってしまうのか。 人の温かさを感じるミステリー小説です。 これはバッドエンドか、ハッピーエンドか。皆さんはどう思いますか。 <一言> 世にも奇妙な物語の脚本を書きたい。

よくできた"妻"でして

真鳥カノ
ライト文芸
ある日突然、妻が亡くなった。 単身赴任先で妻の訃報を聞いた主人公は、帰り着いた我が家で、妻の重大な秘密と遭遇する。 久しぶりに我が家に戻った主人公を待ち受けていたものとは……!? ※こちらの作品はエブリスタにも掲載しております。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

白石マリアのまったり巫女さんの日々

凪崎凪
ライト文芸
若白石八幡宮の娘白石マリアが学校いったり巫女をしたりなんでもない日常を書いた物語。 妖怪、悪霊? 出てきません! 友情、恋愛? それなりにあったりなかったり? 巫女さんは特別な職業ではありません。 これを見て皆も巫女さんになろう!(そういう話ではない) とりあえずこれをご覧になって神社や神職、巫女さんの事を知ってもらえたらうれしいです。 偶にフィンランド語講座がありますw 完結しました。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

処理中です...