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俺、母親に連絡する2
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ひとしきり涙を流した後、息を整えてから母親の番号をタップする。
出るだろうか、どうだろうか。
数コールの後、電話口から声が聞こえた。
「もしもし……雅史?」
その声は酷く弱々しくて、緊張しているように感じた。或いは、母親も不安だったのかもしれない。突然シェアハウスにぶちこんだ息子に恨まれているのではないかと。
「うん……俺」
「あんた……元気にしてるの? もう11月も半ばで……メールに返信もないし」
責めるような内容だが、その声が震えている。
「……母さん、俺、就職したよ」
電話口の向こうで母親が息を飲むのがわかる。
続いて聞こえてきたのは嗚咽だった。
「ああ……そうなの? そうなのね……本当に……本当なのね……」
どんどんと嗚咽の声は大きくなっていく。俺も引きずられてまた泣きそうになる。
「……母さんね、ずっと、ずっと後悔してたの。私が、あんたを甘やかしすぎたんじゃないかって……あんたはもともとちゃんと自分で努力できるのに……挫折したあんたを……囲い込んでしまったんじゃないかって……私が甘やかしすぎたせいで、あんたの可能性を潰したわじゃないかって……もっとどこかで厳しくしていたら、あんたは立ち直っていたんじゃないかって……」
それは母親の懺悔だった。聞いていて苦しくなる。違うんだ。悪いのは俺なんだ。俺が、逃げて、楽な方へ逃げて。何も考えなかった。家族のことも、将来のことも、何も考えなかったのだ。嫌なこと、見たくないもの全てから逃げたのだ。
「違うよ母さん……逃げたのは……俺なんだ。その後、自分を甘やかしたのも……俺だ。……心配ばかりかけてごめん……」
俺はこの十五年間で、初めて母親に謝った。情けない。本当に情けない。
「あんた……そんな……ああ……この数ヶ月で、全然、違うのね。変わったのね。母さん……間違えてなかったのね」
それからしばらく母親が泣き止むのを待った。
「……仕事は、何をしてるの?」
「警備員の仕事をしてるよ。でも、資格を取って、最終的には事務系の仕事に就くつもり」
「そうなの……色々考えているのね。シェアハウスでの生活はどう?」
「うん。なんとかなってるよ。最近は会話とかもするようになって……就活の時もアドバイスもらったりしたんだよ」
「うまくいってるのね。うん、よかったわ。母さん一度皆に会ったけど、皆ね、いい人だったわ」
「うん、そうだね。いい人だよ。まだあまり話したことのない人もいるけどね」
その後も、シェアハウスに入居してからあった出来事を色々話した。母親はそれをうんうんと、嬉しそうに聞いていた。
出るだろうか、どうだろうか。
数コールの後、電話口から声が聞こえた。
「もしもし……雅史?」
その声は酷く弱々しくて、緊張しているように感じた。或いは、母親も不安だったのかもしれない。突然シェアハウスにぶちこんだ息子に恨まれているのではないかと。
「うん……俺」
「あんた……元気にしてるの? もう11月も半ばで……メールに返信もないし」
責めるような内容だが、その声が震えている。
「……母さん、俺、就職したよ」
電話口の向こうで母親が息を飲むのがわかる。
続いて聞こえてきたのは嗚咽だった。
「ああ……そうなの? そうなのね……本当に……本当なのね……」
どんどんと嗚咽の声は大きくなっていく。俺も引きずられてまた泣きそうになる。
「……母さんね、ずっと、ずっと後悔してたの。私が、あんたを甘やかしすぎたんじゃないかって……あんたはもともとちゃんと自分で努力できるのに……挫折したあんたを……囲い込んでしまったんじゃないかって……私が甘やかしすぎたせいで、あんたの可能性を潰したわじゃないかって……もっとどこかで厳しくしていたら、あんたは立ち直っていたんじゃないかって……」
それは母親の懺悔だった。聞いていて苦しくなる。違うんだ。悪いのは俺なんだ。俺が、逃げて、楽な方へ逃げて。何も考えなかった。家族のことも、将来のことも、何も考えなかったのだ。嫌なこと、見たくないもの全てから逃げたのだ。
「違うよ母さん……逃げたのは……俺なんだ。その後、自分を甘やかしたのも……俺だ。……心配ばかりかけてごめん……」
俺はこの十五年間で、初めて母親に謝った。情けない。本当に情けない。
「あんた……そんな……ああ……この数ヶ月で、全然、違うのね。変わったのね。母さん……間違えてなかったのね」
それからしばらく母親が泣き止むのを待った。
「……仕事は、何をしてるの?」
「警備員の仕事をしてるよ。でも、資格を取って、最終的には事務系の仕事に就くつもり」
「そうなの……色々考えているのね。シェアハウスでの生活はどう?」
「うん。なんとかなってるよ。最近は会話とかもするようになって……就活の時もアドバイスもらったりしたんだよ」
「うまくいってるのね。うん、よかったわ。母さん一度皆に会ったけど、皆ね、いい人だったわ」
「うん、そうだね。いい人だよ。まだあまり話したことのない人もいるけどね」
その後も、シェアハウスに入居してからあった出来事を色々話した。母親はそれをうんうんと、嬉しそうに聞いていた。
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