ラストダンスは僕と

中屋沙鳥

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 僕が自分の屋敷に帰ったのは卒業式の二日前だ。帰ったら、家には騎士団の副団長と学院長がいた。

「ふむ、予定通りのお帰りですね」
「そうだと思ってはいたのですが」

 いったい何のことだろうか。

 学院長によると、表沙汰にはなっていないが、二日前にアンヌ嬢が西校舎で暴行されそうになったらしい。アンヌ嬢が、襲ったのは僕だと言っているため、我が家を訪問されたようだ。

 まだあるのか。冤罪が。

「バルべ男爵令嬢は、パトリック殿下を奪われたブランシャール公爵子息が自分を恨んで暴行しようとしたのだと言っているのですよ」

 学院長はため息を吐きながら、父上と僕にそう言った。

「バルべ男爵令嬢は自分から神殿騎士を撒いていますのでね、状況がいろいろと奇妙なのです」

 そう言って騎士団副団長は、首をひねった。
 結局、僕に犯行は不可能だということで、騎士団副団長と学院長は帰って行った。
 卒業式当日には、何があるのだろうか。
 卒業パーティーには国王ご夫妻も来られるはずだ。そこでパトリック殿下の婚約者も発表されるだろう。
 その時僕は……

 考えるのはやめておこう。


 卒業式はつつがなく終了し、卒業パーティーは華やかに開催された。様々な色の薔薇が飾られた学院のホールで、着飾った生徒たちはそれぞれのパートナーとパーティーに参加する。
 パトリック殿下が僕のパートナーであるし、ロラン様はエルザ様の手を取っている。マチアス様の婚約者は、来年学院に入学する可愛らしい少年だ。マリー様とダヴィド兄上は安定の関係だ。
 ピンク色の可愛いドレスを纏ったアンヌ嬢は、神官長と入場した。聖女候補であるから当然なのだろうが、大層不満げだった。パトリック殿下にパートナーになってくれるようにと強請ったという噂は聞いている。しかし、たとえパトリック殿下がそうしたいと思っていても、国王ご夫妻が参加しているパーティーで、パートナーを変更するなどということはできないのだ。
 アンヌ嬢は、誰かと踊ってはパトリック殿下に声をかけに来る。パトリック殿下の腕にしなだれかかり、甘えているのがわかる。僕はパトリック殿下が見える場所でそれを見つめていた。

「では、これで最後のダンスとなります。卒業生のみなさんは、これで学院とはお別れです」

 一瞬の静寂の後に、司会の声が会場に響いた。

 嬉々として手を出そうとするアンヌ嬢に目もくれず、パトリック殿下はまっすぐこちらに歩いてくる。

そして、僕の目の前に、手が差し出された。

「エティエンヌ、約束通り、最後の1曲はそなたと踊ろう」
「はい、パトリック殿下、ありがとうございます」

 僕たちは、手を取り合い、音楽に合わせて足を踏み出した。
 世界一、優雅に美しく見えるように僕たちは踊る。パトリック殿下は白地に金の糸で刺繍を施したテールコートを、僕は黒地に薄い青紫色の糸で刺繍を施したテールコートを身に纏っている。
 身を寄せて踊る僕たちの周囲には、いつしか踊っている人はいなくなった。
 この会場の全ての人たちが、パトリック殿下と僕のダンスに注目しているのを感じた。うっとりとした眼差しの中に、悪意の籠ったものがいくつかある。
 その一つはピンク色をしていた。
 ターンを決めて、周囲のため息を誘う。
 愛する人の腕に抱かれて、僕は夢中になって踊った。

 やがて音楽は終わり、僕たちの最後のダンスも終わった。

 パトリック殿下が静かに国王ご夫妻の方に向き直り、礼を取った。顔を上げたパトリック殿下の口から郎とした声が響く。

「父上、母上、ここで、わたしの婚約者について、正式に発表したいのですが、よろしいでしょうか?」
「うむ、会場の皆が良いというのであれば、許可しよう」

 国王陛下の言葉に応じるように割れんばかりの拍手が会場を埋め尽くした。
 アンヌ嬢がこちらに駆けて来るのが見える。
 なんて嬉しそうな顔をしているのだろうか。僕には許されない感情の発露。人前であからさまな感情を出すことは、僕には許されていない。

 僕は貴族らしい曖昧な笑みを浮かべたまま、そこに佇む。

 アンヌ嬢の、感情をはっきりと表すところに、惹かれた男子生徒も多くいるのだろう。

「ヴァンロゼ王国第二王子であるわたくし、パトリック・ド・ヴァンローゼは……」

 会場は静寂に包まれている。

「エティエンヌ・ド・ブランシャールを正式な婚約者とすることをここに発表します」

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