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18-2.手がかりを駒鳥はつかめたの?
しおりを挟むファルの温かさを感じてほんの少し浮上した俺は、陛下の私邸での話をした。
「それでロビンは、叔父上の屋敷の魔道具を、見に来て欲しいと言われたのか」
「うん。俺に来て欲しいって」
「すごい話を取って来たね。あの屋敷の魔道具の調整をすることについては、これまで、依頼してもらえなかったんだ。叔父上の目から見て、金糸雀(カナリア)を作ったロビンの腕が余程良かったんだろう」
大口の契約だと、ファルが嬉しそうな顔をして、俺を見る。
陛下は厳しい人で、業務内容を認めてくれないと、ブラッフォード商会といえど、仕事を回してくれないそうだ。
私邸の魔道具の回路を見ることについて、ブラッフォード商会に依頼を出すと言うのは、信頼できるだけのものを俺が見せたからなのだという。
「ロビン、君はなんて素晴らしいんだ。本当に天才魔道具技師だね」
「俺、ファルの、ブラッフォード商会の、役に立てた?」
「ああ、ロビン。もちろんだよ。なんて可愛いことを言うの」
ファルはいつものようにそう言うと、俺の顔じゅうに口付けをした。
ファルの腕の中にいると安心する。でも、俺は、自分で何かをしていかなければならないと思う。
守ってもらうばかりではなくて、もっともっと役に立つことができるようになりたい。
俺は湯浴みをして、寝台に入る。陛下の私邸に行ったことと、アイリスの鳥籠を見つけたことが重なったせいか、精神的に疲れているようだ。体が重い。
ファルはまだ、部屋に帰ってきていない。
うとうとしていると、ファルが寝台に乗りかかる気配がする。
「ファル……」
「あれ、ロビン、眠ってたんじゃないの?」
名前を呼ぶと、声が返って来る。俺の好きな声。俺の大好きなファル。ファルの声。
「ファル……ファル」
手を伸ばすと抱き寄せて、抱きしめてくれる。
「ロビン……」
ファルの唇が俺の唇に触れる。そのまま舌が口の中に滑り込んでくる心地よさに、意識がどんどん落ちていく。
「ロビン……?」
もう目が開かない。ファルの声が遠くに聞こえる。
「俺は、何かを試されているんだろうか」
意識が落ちる前に、ファルがそんなことを言ったような気がする。
俺は安心しきって眠りに落ちた。
翌日は、時間通りに骨董品店の店主が鳥籠を持って訪れた。駒鳥は、青いベルベッドの袋に入れられていた。袋の口を括っている白い絹のリボンは、飾り結びになっていて、店主の趣味の良さがうかがえるものだ。
納品だけではなく、事業者同士の情報交換でもあるので、ジーンが淹れた花茶を出す。青い花模様が描かれた茶器を見て、店主はほうっと溜息を吐いた。
「ああ、素晴らしい茶器をお使いですね。さすがブラッフォード様です」
ジーンの淹れた、世界一美味しい花茶を口にして、再び息を吐いた店主は、満足げに微笑んだ。
「お褒めくださいまして、ありがとうございます。それで、この鳥籠の売り手のことなのですが……」
ファルはにっこりと営業用の笑顔を浮かべると、店主が話すように促した。
「そうでございました。それを店に持ち込まれたのは、カーディスという方です。大柄で騎士のような雰囲気でした」
「カーディス……」
俺は思わず名前を復唱した。カーディス・リットン。アイリスの伴侶。彼は、シュライクにいるのか。本名を使っているのだろうか。
「それでですね、知人の古道具店の店主にも、話を聞きました。カーディスは、バルチャ街のラストという宿屋の用心棒をしているようです」
「バルチャ街の、ラストですか」
ファルが難しい顔をした。俺は理由を訪ねたかったが、ファルに目線で止められた。
「そうなのですよ。知人も、盗品だったら困ると思ったそうなのですが、ラストのご主人が身元保証人になるということでしてね。それで、品物を見てわたしに連絡をしてきたのです」
マグワイアとヴァレイの戦争の後、ヴァレイの貴族がラプターにも流れてきている。そのせいか、最近では、思わぬ宝飾品が骨董品店に流れてくることがあるということだ。この鳥籠のような豪華な品も、時々売りに来る人がいるという。
「あのカーディスという人も、物腰を見ると、ヴァレイの貴族かもしれませんね。鳥籠も伴侶の持ち物だとおっしゃっていました。鳥籠自体は素晴らしいものでしたから、高位の貴族の持ち物だと思われますし。亡命貴族ではないでしょうかね。
いえ、これはわたしの想像ですけれど」
アイリス、やはりリットンと一緒にいるのだろうか。バルチャ街に探しに行きたい。
「有益な情報をありがとうございます」
俺は、心からの感謝を伝えた。アイリスにつながる情報をもらうことができたのだ。
ファルは店主に骨董品がお好きな富豪を数人お店に連れて行くという約束をした。情報交換という前提を守るために。
店主はご機嫌で「これからも御贔屓にお願いします」と言い、俺の弟が見つかることを祈って、帰って行った。
いい人だ。
「さて、厄介な場所にリットン将軍はいるようだね」
「厄介な場所?」
「バルチャ街は娼館が並ぶ歓楽街だ。治安は、シュライクの中では良いとは言えない。だけど、バルチャ街は身元保証がない者も働きやすい場所なんだ。
ラストという宿屋にいるということだけど、あの店の主人は、近くの小さな店の従業員の身元保証人にもなる。
うまく話を持って行かないと、追手と勘違いされて、隠されてしまうからな」
「そんな……」
アイリスとリットンは、何らかの理由で、本来の身元引受人だったマーガレット・エイムズ伯爵夫人のところに、行くことができなかったのだろう。それで、身元保証人がいなくても、仕事につくことができる、バルチャ街に、行きついたのではないか。ファルはそう予想した。
鳥籠を売ったのは最近のことだから、アイリスも一緒にいる可能性が高いだろう。それは俺がそう信じたいだけかもしれないけれど。
「俺、バルチャ街に行きたい。アイリスを探しに」
「あの場所に土地勘のないロビンが行ったら、どんなことになるかわからないからな。ある程度目星がついたら、俺とエディとネイトで囲んでアイリスを探しに行けるようにする。だから、少し待ってくれ」
そして、その日の午後、ファルが俺を連れて行ったのはバルチャ街ではなく、ブラッフォード公爵邸であった。
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