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学校の昇降口にて

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 学校の帰り、夕暮れの太陽光でオレンジ色に染まった道を俺、井之原(いのはら)朱鷺(とき)はひとりぼっちでとぼとぼと歩いていた。
 暑い日だった。
 これまでは幼馴染の北村(きたむら)航(こう)平(へい)と一緒だったのだがこれからは1人で帰らなければならないのだろうか。納得できているわけではないのだが。


 航平とはいつも部活帰りに昇降口で待ち合わせをして帰っていた。小学生の時に航平の隣の家に俺ん家が引っ越してきてから高校2年生の今まで特別なことがなければいつも一緒だった。

 今日もお互いの部活が終わってから昇降口で待ち合わせていた。

 陸上部の航平は着替えてからやってくるので荷物をまとめるだけで帰宅準備ができる文芸部の俺が早く待ち合わせ場所にいることが多い。文化祭前などは俺が遅くなることもあるのだが。
 いつものように本を読みながら航平を待っていた俺にB組の伊東(いとう)汐里(しおり)が話しかけてきたのだ。

「ねえ、井之原にお願いがあるんだけど」

「え、何?」

 伊東ってよく知らないけど、確か陸上部のマネージャーだったっけ。可愛くて華奢で人気って聞いたことがある。

「アタシ、北村と一緒に帰りたいから今日は先に帰ってくれないかなあ?」

「えええ?」

 何なのこの人。何で俺がこの人のために先に帰らないといけないの?

「北村に付き合ってって言おうと思ってるんだ。だから2人きりにして欲しいの。ね。いいでしょ?
いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」

 伊東からはものすごい威圧感を感じた。はっきり言って怖い。可愛いとか嘘だな。

 だけど、確かに俺がくっついてたら航平は誰とも付き合えないかもしれない。俺は航平の邪魔にはなりたくない。
 告白したい人がいるなら1日ぐらい一緒に帰れなくても良いかもしれないとその時の俺はうっかり思ってしまったのだ。

「わかった。じゃあ伊東から俺は先に帰ったって航平に伝えておいてくれ」

「ありがと。井之原。アンタ良いやつだってみんなに言っとくよ」

 伊東がうれしそうなのが何となく気に入らないけどここはやり過ごしておこう。

「それはいらないから。じゃあ俺帰るよ」

 暑くて判断力が鈍っていたのかもしれない。
 とにかく伊東に迫力負けした俺は急いでその場を立ち去ったのだった。



 航平は短距離の選手をしている。切れ長の目に鼻筋の通った整った顔で、背が高くて手足が長いカッコいいタイプだ。勉強も上位クラスだし。
 そんな航平がから人気なのは当然のことだろう。近くの高校の女子からも告られていると聞いている。

 何を隠そう俺だって航平のことが好きだ。
 打ち明けるつもりはないけど。

 幼馴染の俺たちは学校だけでなく休日もよくつるんでいる。いつも一緒だ。
 このままずっと側にいられたら良いなと思っていたんだけどな。

 さっき伊東が言っていたことを思い出す。

 ―――――いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん

 そうか俺がいつもそばにいるから航平は誰とも付き合えなかったのか。
 時々友だち情報で航平がたくさん告られてるって聞いてたけど誰とも付き合ってはいなかったので気にしてなかったよ。

 いや、誰とも付き合ってなくて喜んでいたのは俺だな。

 航平の幸せを考えたら少しは離れてやらないといけないのかな。

 ごめんな、航平。


「俺、邪魔だったんだな…」


 俺はオレンジ色の光を浴びながらひどくしょんぼりとした気分で呟いた。




 家に帰ると航平からメッセージが来ていた。

『先に帰っちゃうって何かあったの?体のちょうし?』

 ぺしぺしと返事を送る。

『ごめんな。ちょっと用事を思い出した。体はげんき』

『よかった。また明日な』

『また明日』

 心配をかけてしまったようだ。メッセージを送っておけば良かった。
 航平から来たメッセージを見てしょんぼりとした気分がちょっと解消される。

 航平に恋人ができても俺と友だちでなくなるわけじゃない。

 そんなに寂しがらなくてもいいよね。



 そして俺は自分の恋心にはそっと蓋をしたのだった。


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