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75.断罪劇が始まるようです

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 僕はラインハルト様のエスコートで、卒業パーティーが行われる学校の大ホールに入る。

 ラインハルト様は僕の瞳と同じ薄い水色のタキシードだ。そのラベルには金糸と銀糸を上品に組み合わせた刺繍が施され、水色の石がはめられたプラチナのピンが飾られている。僕の青色のタキシードのラベルに飾られているのは、青色の石がはめられた金のピンで、ラインハルト様と同じデザインのものだ。このパーティーでは、自分の色か自分の婚約者やパートナーの色の石を身に着けることになっている。
 会場には、身分の高い者が後から入場する。したがって、僕とラインハルト様は、卒業生の中では最後に入場することになる。僕たちの前に入場するのはクロゲライテ公爵令息のアルブレヒト様と、その婚約者のブリギッタ様だ。
 卒業生が次々に会場に入場すると、在校生から拍手が起きる。
 いかにも仲睦まじい様子のアルブレヒト様とブリギッタ様を見送ってから、ラインハルト様は僕の腰を抱くのをやめ、左腕を差し出した。

「ラファエル、今宵は楽しもうね」
「はい、ラインハルト様」

 ラインハルト様の言葉に頷いて、僕はラインハルト様の腕に右手を添え、卒業パーティーの会場に足を踏み入れた。
 ホールにはたくさんの花が飾られ、華やかな雰囲気が作られていた。収穫祭の後に取り外されていたシャンデリアも元の通りに取り付けられて、灯りをきらきらと反射している。魔獣の出現が落ち着いていることもあり、パーティーの間だけはシャンデリアを復活させたいと学校側が王家に要望したのだと聞いている。

 シュテルン魔法学校の卒業パーティーは、一般的な夜会の形式を踏襲した形で行われる。
 卒業後に、このようなパーティーに出席する機会はない生徒もいるため、良い経験ができるようにと配慮した運営がなされているのだ。


 パーティーの開始は、ホフマン学長が告げる。その後、国王陛下のお言葉を頂き、乾杯をするという次第となっている。
 皆が乾杯用の発泡酒シャウムヴァインを手に取り、ホフマン学長の挨拶を待っていた。
 ラインハルト様に腰を抱かれた僕も、シャウムヴァインを手にホフマン学長がお話されるのを待つ。

 ホフマン学長は、シャウムヴァインのグラスを持って会場の演台に立ち、暫し目をつぶっていらっしゃった。
 ホフマン学長の頬はこけ、顔色が悪い。本当に、おやつれになった。
 ウーリヒ先生のことがそんなにショックでいらっしゃったのだろうか。

 ホフマン学長は、なかなか開始の挨拶をなさらない。少し長すぎる沈黙に耐えられなくなった何人かが、身じろぎを始めた。
 
 いったいどうされたのだろうか。体調が悪くなられたのか?

 ラインハルト様の前方には、先生方がいらっしゃるので、そちらに目をやり動きを確かめる。先生がたは心配そうなご様子だ。意外にも黒いタキシードがお似合いのフィンク先生も、眉を顰めてホフマン学長の様子をうかがっていらっしゃる。

 沈黙がその場を支配する。
 皆が明確には動き出せない。

 その状況を壊すように、甲高い声がホールの中に大きく響き渡った。

「待たせちゃってごめんー! まだ乾杯してないよね?」

 ぱたぱたと足音を立てて駆け込んでくる、ピンクブロンドの頭の青い服を着た小柄な姿。

 シモン……?

 え、行方不明ではなかったのか

「おお、待っていたよ。シモン」
「学長、お待たせ。タイがうまく結べなくって」

 シモンは、タイを下手くそな蝶結びにし、青い大きな石のブローチをつけている。
 青尽くしということは……、やはりラインハルト様の色なのだろうかと予測する。

「シモン、さあさあ、わたしの隣に来なさい」

 ホフマン学長は、シモンを自分の元に招き寄せて隣へ立たせると、顔を上げて皆をぐるりと見渡した。
 なぜ行方不明だったシモンを、ホフマン学長が当然のように呼び寄せているのだろうか。シモンを誘拐したのはホフマン学長だったのか。それとも犯人の手から救ったのか。皆目わからない。
 周囲を見渡しても、皆は一様に戸惑っていて、状況が把握できない様子だ。

 そのような中で、ホフマン学長は更に皆が驚くような発言をなさった。

「さて、卒業パーティーを始める前に、この場に相応しくない者を断罪しようと考えている」

「断罪?」「断罪ですって?」「いったい何をおっしゃっているんだ」

 ホフマン学長の言葉に反応して、会場にざわめきが起きる。

 ええっと……

 事ここに至って、断罪劇があるのか。

 この世界では、シモンは何一つイベント達成できていないと思われるので、何を断罪するのかがわからない。しかし、主人公補正なのか物語の強制力なのか、断罪劇が始まるらしい。

「ラファエル・エーリッツ・フォン・メービウス! これからわたしがお前の罪を断ずる!」

 ホフマン学長が、やつれてしまったせいであまり通らない声を精一杯上げて、僕を断罪する旨述べられた。
これは物語の強制力なのか、『ヒカミコ』のエピソードの通り僕が断罪されるイベントが起きているらしい。

 だけど、物語の中で断罪を口にするのはラインハルト様のはずだ。どうしてホフマン学長がそんなことを口にされているのか。意味がわからない。
 思わずラインハルト様を見あげる。ラインハルト様は僕の目を見て頷くと、腰を一層強く抱き寄せてくださった。
 国王陛下と王妃殿下は、無表情で状況を見守っていらっしゃる。

 目の前がくらりと歪む。
 ああ、この感覚はそうか……

 それは、星祭の日以来の体感だった。


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