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65.精神的にひどく疲れたのです

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「ええと、話しづらいことであると思うが、レヒナー男爵令息がそういう役割を担っていたという予測をした根拠を聞いても?」

 ジークフリート様が気まずそうに、ご自分の弟であるディートフリート様の顔を見て質問された。
 いや、兄弟の方がその手のことは話しにくいのではなかろうか。僕の家では、そのような話はしないのだが。それともサウベラ伯爵家では、そういうことを兄弟で話すのが一般的なのだろうか。

「それは……」
「わたしからお話ししましょう」

 アルブレヒト様がその場の空気を読み取ってくださり、自ら話をすると申し出られた。その場の雰囲気が、少しばかり緩む。

「あれはまだ、晩春の頃でしたが……」

 ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様の四人の方々は、生徒会を引退する前は、放課後などに定期的にシュテルン魔法学校の中を巡回していた。
 その巡回の際に、シモンが屋外や空き教室で男子生徒と性行為をしているのを何度か目撃したという。それも、特定の相手との行為ではなかったということだ。

 これはやはり、そんな感じの十八禁の物語なのだろうか。
 僕は、いったい何の話を聞かされているのだろうか。

「レヒナー男爵令息が、複数名の男子生徒と同時に関係を持っていたことは明らかです。もちろん、これだけで、彼が精神汚染魔法の媒体になったと断定はできませんが、調査をする必要がある状況だと思われます」

 アルブレヒト様は、冷静に状況を話してくださるので、考えていたよりも気まずい思いをすることなく話を聞くことができた。
 それにしても、いくらシモンがきらきらした可愛らしさを持っている主人公でも、複数の男子生徒と屋外で性行為をしているところを見てしまったら、そこから恋に落ちるのは難しいかもしれない。
 ラインハルト様もアルブレヒト様もディートフリート様も、シモンには冷たくなさっていたように見えたのはそのせいか。マルティン様は、明らかにシモンを毛嫌いしていらっしゃったし。

 その辺りから既に、僕が考えていた『ヒカミコ』の世界とは、ずれてしまっていたのか。『ヒカミコ』は、ゲームやコミックやアニメそれぞれに違った物語があるという夢を見たけれど、これはその中のどれかなのだろうか……

 とりあえず、魔法騎士や魔術師の方々と性行為を行っていたかどうかに関わりなく、シモンは精神汚染魔法に深く関与していたのは確かだろう。
 ウーリヒ先生はシモンの指導と称して魔術師棟に出入りしていたが、魔法騎士団の演習場にも、シモンを連れて度々足を運んでいた。
 僕は、夏季休暇の最中に魔術師団へ入っていくウーリヒ先生とシモンを見かけたことを思い出した。あのときから、魔術師と魔法騎士に精神汚染魔法をかけていたのだろうか。

 精神汚染魔法から身を守るための魔道具が配られたのは、収穫祭の後になってからだ。

 それ以前に、魔法騎士団の演習場で、僕に無謀な戦いを挑んできたガウク分隊長が、精神汚染魔法にかかっていた事実がある。
 国の命令で魔道具を身に着ける前に、精神汚染魔法で洗脳されていた団員もいるのではないだろうか。

「レヒナー男爵令息が成人年齢に達しているとはいえ、魔法学校の学生と関係を持ったことは後ろめたいでしょう。もしそういうことがあったとすれば、正直に話していない可能性がありますね」

 オイラー様が、厳しい表情をしながら発言する。

「精神汚染魔法にかかっていた魔法騎士と魔術師の交友関係を、一から洗いなおす必要があるようです」

 ジークフリート様とシュトール様、オイラー様は各団に課題を持ち帰って、再調査するとおっしゃった。また、魔獣の出没状況の調査結果と合わせて、会議が行われる予定だ。

 もともと精神汚染魔法の件は、魔獣の凶暴化の対策のために集まっている僕たちが話し合うことではなかったはずだ。しかし、ここまで話がつながってしまっては、この会議自体を解散して、各団長が指揮する調査組織を作るのではないだろうか。
 ジークフリート様とシュトール様、オイラー様は引き続き魔獣対策の検討にあたられるだろうけれど、ウーリヒ先生が関係する陰謀の話とつながっていることが確実になれば、まだ学校に通う身分である僕たちはただの足手まといだろう。

 そして、どうして僕の命が何度も狙われたのかについても引き続き調査中だ。この動機は、ウーリヒ先生が証言を始めるか、他の容疑者が捕まってその証言を得るかしないとわからないと思われる。
 また、僕がシモンを虐めていると言って絡んで来た生徒たちにも、調査が入るはずだと聞いている。
 校内でシモンの性行為の相手となっていた生徒は、僕がシモンを害していると糾弾する騒ぎを学校内で起こしたメンバーに含まれているという。おそらく、精神汚染魔法を受けているかどうかについても、再調査されることになるだろう。

 僕が殺されそうになったことについては、我がヒムメル侯爵家だけでなく、王家も深刻な事態だととらえているので、大きな話になるだろう。
 王族の婚約者の命が狙われるなんて、古今東西何処にでもある話なのだ。だけど、あれほど表立った行動を取られてしまっては、大事にするしかなくなってしまった。

 それにしても、もうシモンが主人公の物語は、BLの所謂恋愛ものではなくなっているのではないだろうか。

 僕は、精神的にひどく疲れた状態で家路についたのだった。



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