64 / 86
64.無防備な状態で他人と相対するのはどんなときでしょうか
しおりを挟む
精神汚染魔法にかかっていた魔法騎士は相当数に上り、僕を殺そうとした魔法騎士の他にも、複数名があの王宮広場の作戦に参加していたという。その中に、魔獣の核に仕込む魔力の提供を行っていた者もいたのだ。
その中に、シモンが「魔獣さんの前に行きたい」と叫ぶのを聞いて、拘束していた騎士を攻撃した者がいた。その魔法騎士はシモンを抱えて、リンドヴルムの前に連れて行ったという。攻撃を受けた騎士は、その魔法騎士は目の焦点が合っておらす、明らかに様子がおかしかったと証言している。
「ウーリヒは、レヒナー男爵令息を連れて、魔術師棟と魔法騎士団の演習場に頻繁に出入りしていました。そのときに何らかの方法を使って、団員を洗脳したのでしょう。魔術師に洗脳された者が少ないのは、日ごろから、防護魔法をかけて生活する習慣がある者が多いからではないでしょうか。」
「えっ、そんな習慣があるのですか?」
「いえ、むしろ魔法騎士の人は、どうして日常生活の中で、状況に応じた防護魔法をかけないのですか?」
ジークフリート様は、自分の発言を意外そうに受け止めているオイラー様に、これまた意外そうに問いかけた。
自らに防護魔法をかけていれば、精神汚染魔法を撥ね除けることはできないが、自分が精神汚染魔法の攻撃を受けたということを自覚できる。それを所属している場所に報告すれば適切に対処できるだろう。だが……
「魔法騎士が常に防護魔法をかけていたら、魔力切れでいざという時に戦えないのですよ……」
「あああああ……、なるほど」
「いや、ちょっと待ってください。騎士団では魔道具は常時装備していることを厳命されていたのですが、魔法騎士団と魔術師団ではそうではなかったのですか?」
ジークフリート様とオイラー様の会話に、シュトール様が割って入る。
「わたしは、各団の全員に魔道具が配られたと聞いている。
各団では全団員が、終日魔道具をつけることを義務としていたのではなかったのか?」
「はい、騎士団では義務化されておりました」
「魔術師団でも、終日身に着けるようにという指示がございました。特別な事情で魔道具を外したときには、防護魔法を自分でかけるということをしておったのですが」
「……魔法騎士団では、原則として常に身に着けるようにという指示でございました。その、厳命では……」
ラインハルト様が少し厳しめの声で、お三人の方に問いかけられた。シュトール様とジークフリート様は頷いてラインハルト様のお言葉を肯定なさったけれど、オイラー様はばつの悪そうな顔をして言葉を濁された。
実際に、多数の魔法騎士が精神汚染魔法にかかっていたのだから、魔法騎士団の指示が悪かったと言われても仕方がないだろう。
その話を聞きながら、アルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様、そして僕は、お互いに目を合わせて頷きあった。
僕たちは、ラインハルト様のお近くにいるという理由で、精神汚染魔法から身を守るための魔道具を身に着けていた。その魔道具は、終日身に着けているようにと、王家から厳命されていたのだ。
「どのようなときに魔道具を外していたのですか?」
「そうですね……
えっと、例えばですが、入浴のときなどは、外していたのではないでしょうか。衣服を脱ぎますからね」
ジークフリート様の質問に、答えるオイラー様の声が小さい。もしかしたら、他の魔法騎士たちがどのようにしていたのかわからないぐらい、魔道具の扱いが軽かったのではないだろうか。
ちなみに僕は、入浴時でも魔道具の首飾りをつけたままにしていた。
精神汚染魔法を防ぐ魔道具は、ラインハルト様がおっしゃるように各団に配布されていた。
そのことから、精神汚染魔法をかけられたのは、魔道具を外すような私的なことを行っているときだったのだろうというのが魔術師団の推定だった。魔法騎士団に精神汚染魔法にかけられた者が多かったのはおそらく推定通りの理由でだろう。今のオイラー様の証言で、それが裏付けられたと言って良さそうだ。
だけど、入浴時に誰から精神汚染魔法をかけられるというのだろうか。
「しかし入浴のときは、一人のことが多いのではないのでしょうか? 衣服を脱いだ無防備な状態で、精神汚染魔法をかける相手と遭遇することは、めったにないと思うのですが」
僕は素直に疑問を口にした。
すると、その場には沈黙が訪れた。ジークフリート様は遠い目をされ、シュトール様は僕から目を逸らし、オイラー様は何やら顔を赤らめていらっしゃる。
あれ、何やらおかしな発言をしてしまったのだろうか。そうであれば、ラインハルト様の婚約者として面目が立たない。
不安になった僕がラインハルト様の方を見ると、ラインハルト様はうつむき加減で口元を押さえていらっしゃる。
やはり、僕は失態をおかした……のか……?
「あの……」
「ラファエル様はすぐには思いつかれないようですが、人間には衣服を脱いだ無防備な状態で他人と相対することがございます」
場を取り繕うべく発言しようとした僕に、ディートフリート様が曖昧な笑みを浮かべて話しかけてこられた。
「そうですね、それしか考えられません」
「おそらく、レヒナー男爵令息が、その役割を担っているのではないでしょうか」
マルティン様とアルブレヒト様も、続いて発言なさった。皆様は、意思の疎通ができていらっしゃるようだ。
「クロゲライテ公爵令息、フェストン伯爵令息、何か思い当たることがあるのか?」
「未だ推測にすぎませんが、そう考えるのが合理的かと思うことがございます」
シュトール様のご質問に、アルブレヒト様がお答えになる。
どうやら、僕一人が置いてけぼりになっているようだ。他の人たちは、話が通じている。
どういうことなのだろうか。
僕は周囲の様子をうかがうが、具体的に教えてくださる様子はない。
すると、ラインハルト様が、僕の手を引いて肩を抱き寄せ、耳元に口を寄せて囁かれた。
「ラファエル、人間は性行為をするときは、衣服を脱いだ無防備な状態で他人と相対するだろう?」
「は……」
性行為……?
シモンがその役割を担っていた?
それは、つまりあの。精神汚染魔法にかかった人たちとシモンがそういうことをしていたということ?
主人公なのに?
僕はいつもと同じように、表情を動かさぬままだったと思う。
どれほど、動揺していようとも、氷の貴公子として完璧な態度をとっているはずだ。
『ヒカミコ』ってそんな感じの十八禁だったのか……?
★★★★★★
主人公がシモンだからそんな感じの十八禁になったのでした。
その中に、シモンが「魔獣さんの前に行きたい」と叫ぶのを聞いて、拘束していた騎士を攻撃した者がいた。その魔法騎士はシモンを抱えて、リンドヴルムの前に連れて行ったという。攻撃を受けた騎士は、その魔法騎士は目の焦点が合っておらす、明らかに様子がおかしかったと証言している。
「ウーリヒは、レヒナー男爵令息を連れて、魔術師棟と魔法騎士団の演習場に頻繁に出入りしていました。そのときに何らかの方法を使って、団員を洗脳したのでしょう。魔術師に洗脳された者が少ないのは、日ごろから、防護魔法をかけて生活する習慣がある者が多いからではないでしょうか。」
「えっ、そんな習慣があるのですか?」
「いえ、むしろ魔法騎士の人は、どうして日常生活の中で、状況に応じた防護魔法をかけないのですか?」
ジークフリート様は、自分の発言を意外そうに受け止めているオイラー様に、これまた意外そうに問いかけた。
自らに防護魔法をかけていれば、精神汚染魔法を撥ね除けることはできないが、自分が精神汚染魔法の攻撃を受けたということを自覚できる。それを所属している場所に報告すれば適切に対処できるだろう。だが……
「魔法騎士が常に防護魔法をかけていたら、魔力切れでいざという時に戦えないのですよ……」
「あああああ……、なるほど」
「いや、ちょっと待ってください。騎士団では魔道具は常時装備していることを厳命されていたのですが、魔法騎士団と魔術師団ではそうではなかったのですか?」
ジークフリート様とオイラー様の会話に、シュトール様が割って入る。
「わたしは、各団の全員に魔道具が配られたと聞いている。
各団では全団員が、終日魔道具をつけることを義務としていたのではなかったのか?」
「はい、騎士団では義務化されておりました」
「魔術師団でも、終日身に着けるようにという指示がございました。特別な事情で魔道具を外したときには、防護魔法を自分でかけるということをしておったのですが」
「……魔法騎士団では、原則として常に身に着けるようにという指示でございました。その、厳命では……」
ラインハルト様が少し厳しめの声で、お三人の方に問いかけられた。シュトール様とジークフリート様は頷いてラインハルト様のお言葉を肯定なさったけれど、オイラー様はばつの悪そうな顔をして言葉を濁された。
実際に、多数の魔法騎士が精神汚染魔法にかかっていたのだから、魔法騎士団の指示が悪かったと言われても仕方がないだろう。
その話を聞きながら、アルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様、そして僕は、お互いに目を合わせて頷きあった。
僕たちは、ラインハルト様のお近くにいるという理由で、精神汚染魔法から身を守るための魔道具を身に着けていた。その魔道具は、終日身に着けているようにと、王家から厳命されていたのだ。
「どのようなときに魔道具を外していたのですか?」
「そうですね……
えっと、例えばですが、入浴のときなどは、外していたのではないでしょうか。衣服を脱ぎますからね」
ジークフリート様の質問に、答えるオイラー様の声が小さい。もしかしたら、他の魔法騎士たちがどのようにしていたのかわからないぐらい、魔道具の扱いが軽かったのではないだろうか。
ちなみに僕は、入浴時でも魔道具の首飾りをつけたままにしていた。
精神汚染魔法を防ぐ魔道具は、ラインハルト様がおっしゃるように各団に配布されていた。
そのことから、精神汚染魔法をかけられたのは、魔道具を外すような私的なことを行っているときだったのだろうというのが魔術師団の推定だった。魔法騎士団に精神汚染魔法にかけられた者が多かったのはおそらく推定通りの理由でだろう。今のオイラー様の証言で、それが裏付けられたと言って良さそうだ。
だけど、入浴時に誰から精神汚染魔法をかけられるというのだろうか。
「しかし入浴のときは、一人のことが多いのではないのでしょうか? 衣服を脱いだ無防備な状態で、精神汚染魔法をかける相手と遭遇することは、めったにないと思うのですが」
僕は素直に疑問を口にした。
すると、その場には沈黙が訪れた。ジークフリート様は遠い目をされ、シュトール様は僕から目を逸らし、オイラー様は何やら顔を赤らめていらっしゃる。
あれ、何やらおかしな発言をしてしまったのだろうか。そうであれば、ラインハルト様の婚約者として面目が立たない。
不安になった僕がラインハルト様の方を見ると、ラインハルト様はうつむき加減で口元を押さえていらっしゃる。
やはり、僕は失態をおかした……のか……?
「あの……」
「ラファエル様はすぐには思いつかれないようですが、人間には衣服を脱いだ無防備な状態で他人と相対することがございます」
場を取り繕うべく発言しようとした僕に、ディートフリート様が曖昧な笑みを浮かべて話しかけてこられた。
「そうですね、それしか考えられません」
「おそらく、レヒナー男爵令息が、その役割を担っているのではないでしょうか」
マルティン様とアルブレヒト様も、続いて発言なさった。皆様は、意思の疎通ができていらっしゃるようだ。
「クロゲライテ公爵令息、フェストン伯爵令息、何か思い当たることがあるのか?」
「未だ推測にすぎませんが、そう考えるのが合理的かと思うことがございます」
シュトール様のご質問に、アルブレヒト様がお答えになる。
どうやら、僕一人が置いてけぼりになっているようだ。他の人たちは、話が通じている。
どういうことなのだろうか。
僕は周囲の様子をうかがうが、具体的に教えてくださる様子はない。
すると、ラインハルト様が、僕の手を引いて肩を抱き寄せ、耳元に口を寄せて囁かれた。
「ラファエル、人間は性行為をするときは、衣服を脱いだ無防備な状態で他人と相対するだろう?」
「は……」
性行為……?
シモンがその役割を担っていた?
それは、つまりあの。精神汚染魔法にかかった人たちとシモンがそういうことをしていたということ?
主人公なのに?
僕はいつもと同じように、表情を動かさぬままだったと思う。
どれほど、動揺していようとも、氷の貴公子として完璧な態度をとっているはずだ。
『ヒカミコ』ってそんな感じの十八禁だったのか……?
★★★★★★
主人公がシモンだからそんな感じの十八禁になったのでした。
290
お気に入りに追加
2,954
あなたにおすすめの小説
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
王太子殿下は悪役令息のいいなり
白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」
そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。
しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!?
スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。
ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。
書き終わっているので完結保証です。
狂わせたのは君なのに
白兪
BL
ガベラは10歳の時に前世の記憶を思い出した。ここはゲームの世界で自分は悪役令息だということを。ゲームではガベラは主人公ランを悪漢を雇って襲わせ、そして断罪される。しかし、ガベラはそんなこと望んでいないし、罰せられるのも嫌である。なんとかしてこの運命を変えたい。その行動が彼を狂わすことになるとは知らずに。
完結保証
番外編あり
悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。
柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。
シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。
幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。
然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。
その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。
「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」
そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。
「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」
そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。
主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。
誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。
婚約破棄と言われても・・・
相沢京
BL
「ルークお前とは婚約破棄する!」
と、学園の卒業パーティーで男爵に絡まれた。
しかも、シャルルという奴を嫉んで虐めたとか、記憶にないんだけど・・
よくある婚約破棄の話ですが、楽しんで頂けたら嬉しいです。
***********************************************
誹謗中傷のコメントは却下させていただきます。
謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません
柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。
父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。
あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない?
前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。
そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。
「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」
今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。
「おはようミーシャ、今日も元気だね」
あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない?
義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け
9/2以降不定期更新
この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。
天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」
目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。
「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」
そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――?
そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た!
っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!!
っていうか、ここどこ?!
※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました
※他サイトにも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる