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59.予想外のお話に言葉をなくしました
しおりを挟むリンドヴルムが飛来した星祭の翌朝、僕は貴賓室で朝食をいただいている。そして、ラインハルト様が笑顔でスープをすくったスプーンを僕の口に運んでいらっしゃる。
手づから食べさせてくださることを最初はお断りしたのだが、ラインハルト様がそれを聞いてくださることはなかった。
いや、予想の範囲内ではあるのだが。
昨日から、非日常的な場面に遭遇し続けていて、流石の僕も遠い目になる。
昨夜、星を眺めた後のラインハルト様は、貴賓室で僕の看病をするとおっしゃって、僕の傍を離れようとなさらなかったのだ。その様子に困り果てた侍従がどこかへ行ったと思ったら、ヘンドリック殿下がお部屋にいらっしゃって、ラインハルト様を連れ去って行かれた。
おかげで僕は一晩安静に休むことができた。だが、朝になって目覚めるとそのことがすぐにラインハルト様に連絡されたらしく、早々にこの部屋にやって来られたのだ。
「ラファエル、パンをもう少し食べるかい?」
「いえ、ラインハルト様、まだ今日の診察が終わっておりませんのでこれぐらいにしておきます」「そうか、そうだね。明日までは安静にしなければならないのだしね」
テーブルを片付けるよう侍女に命じられてから、ラインハルト様は、僕を抱き上げてベッドに運んでくださった。
歩いても大丈夫だと思うのだけれど、僕に抵抗をする気力は残っていない。ラインハルト様のご機嫌がよろしくていらっしゃるのだから、何も言うことはない。
僕はベッドに横になり、ラインハルト様は椅子に座って僕の手を握る。うん、ラインハルト様は、看病する気満々だ。
もう、ベッドからは起き上がりたいのだけれど、許してはくださらない。
オスカー兄上も早い時刻から訪れてくれたのだけれど、起きることを許してはくださらない。過保護な二人の様子に、僕はため息を吐いた。
その後、治療魔術師による診察を受けた。治療魔術師によると順調に回復しているらしく、明日には自宅に帰っても良いことになった。ただし、鍛錬は一週間ほど禁止だ。これは辛い。
午後になって、ヘンドリック殿下がお越しになって、昨日の星祭の一件をお話ししてくださった。
そうはいっても、まだまだ調査中のことが多いので、現在わかっている事実関係だけではあるが。
ラインハルト様とオスカー兄上は、既にその内容について知らされているという。ラインハルト様は、僕の傍にずっといらっしゃったように思うのに、いつの間に。
僕がラインハルト様を見あげると、美しい微笑を浮かべられた。
正式な会議には僕も召喚されることになっている。アルブレヒト様やディートフリート様、マルティン様もその会議には出席されるご予定だ。
「ラファエルには、大変な役割を押し付けてしまう形になったね」
「いえ、あの場面では僕しか引き受けることができる者がおりませんでした。リンドヴルムの毒の件も、慎重に行動すべきだったと反省しております」
「いや、味方と思っている魔法騎士に切りかかられたのだから、あれ以上のことはできなかっただろう。わたしの義弟になるラファエルがあのように働いてくれて誇らしいと思っているよ」
「光栄でございます」
ヘンドリック殿下はまず僕を労ってくださってから、お話をしてくださった。
もともと、星祭の日に魔獣が来るであろうことは魔術師団の調査でわかっていた。それは、わざわざ魔獣を来襲させるように計画している者たちがいたからである。そうであるからこそ、王都の市民を守るための万全の対策をとったのだ。
魔獣の種類は特定されていなかったが、各団員の星祭休暇を返上させて戦力を投入したため、市街地の被害はほとんどなく、また、市民の身体への被害もなく終わることができた。
もちろん、未だに魔獣への警戒は解いてはいないが、現在入手している情報では、襲撃者の側に再度魔獣を来襲させるだけの余力は今のところはないだろうということだ。
本日から王都には星祭のための露店や大道芸人などが出て、賑わいを取り戻すことになっている。昨日の今日で皆がそのような気持ちになるのかどうかわからないが、平常に戻ったと示すことが優先されたのだろう。
防衛のために、星祭休暇返上の各団員は配置されているのだが。彼らの特別手当の予算化が課題だと言って、ヘンドリック殿下は苦笑いをされた。
魔獣を凶悪化させてシュテルン王国を混乱させようとする計画に携わった者のうち、末端の人物については既に何名かが特定されているという。今後行われる正式な会議では、それが明らかにされることだろう。
「魔獣たちの魔石にどのような魔法がかけられていたのか、あるいは、かけられていなかったのかについては急ぎ分析中だ。しかし、リンドヴルムが来襲することは計画になかったことなのだろうと考えている。
あの神子と名乗る少年がリンドヴルムの前から連れ去られて行ったであろう。あれは、ワイバーンとは違って、リンドヴルムが彼の言うことを聞かないとわかっていたからだろうと推察している」
「ヘンドリック殿下、ワイバーンはレヒナー男爵令息の言うことに従ったであろうという見立てなのでしょうか?」
「あの少年はそのような名前だったか。
ああ、シュテルン魔法学校に来襲したワイバーンは、あの少年が命じたらその通りにあの場から引き揚げたのだろう? 同じことが起きる予定だったのだと思っている」
「協力者であると……?」
「そうだな。どのような理由かはわからないが、彼は魔獣の凶暴化と王都への魔獣の来襲を計画していた者たちに協力していたのだろう」
予想を超えたヘンドリック殿下のお話に、僕は言葉をなくした。
シモンは主人公ではなかったのか。それなのに犯罪に協力していたと?
『ヒカミコ』には、いくつかのバージョンがあるのならば、主人公であるシモンが犯罪者であるものがあっても不思議ではないのだろうか。
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