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48.カフェテリアで逆ハーなるものを観測しました
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ラファエル視点に戻ります。
★★★★★★★
「ええー、ラインハルト様ー、どうしてサロンに連れて行ってくれないんですあ?」
カフェテリアにシモンの甲高い声が響き渡る。
ラインハルト様に対する馴れ馴れしい言葉に、周囲の生徒は眉を顰めているが、シモンの目には入らないだろう。
「シモン、ラインハルト殿下は午後からは王宮に帰ることになっている」
「君の課題は、わたしたちが見るから大丈夫だ。ウーリヒ先生からも頼まれているからな」
「ええー、お勉強、嫌いですううう」
シモンの声にアルブレヒト様とディートフリート様が答えている。カフェテリア中の注目を集めているその場所には、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様、そして、シモンが座っている。
収穫祭のワイバーン襲来事件の後、シモンが神子であるかどうかということに関して、議会で話し合われた。それは、魔獣と意思疎通できる存在であれば、従来とは異なるが『神子』に認定しても良いのではないかということを魔術師団の一部の人間が具申してきたからだ。そして、魔法騎士団の一部の人間もそれに同調した。
しかしながら、魔術師団長のサウベラ伯爵とロルバッハ魔法騎士団長は、慎重に考えるべきとの見解であったので、最終的にはシモンを保護しながら彼の能力を調査することになった。騎士団は、シモンの神子認定には懐疑的で『魔法に関して調べたいならどうぞ』という立ち位置である。
当面シモンの保護は、その能力調査も兼ねて魔術師団が行うことになった。そして、学校内では、王族であるラインハルト様とその側近が保護をすることになったのだ。保護以外に、大幅に遅れている学習の世話をすることも含まれている。これは学校の教育者の怠慢にはならないのだろうかと思うのだけれど。
いずれにしても、王族を顎で使うとは、大したものである。
ちなみに、授業中はヴァネルハー辺境伯令息が傍にいることになっているらしい。哀れと言うほかない。
保護の状況を考えると、魔術師団が保護する人員を派遣するのが筋だと思うのだが、魔獣対応があるため人員が割けないという。
そして、ラインハルト様とその側近による保護は、シモンの要望らしいが、通常であれば、そんな我儘が通るはずがない。
しかし物語の強制力なのか、その方向であっさり決まってしまったのだった。
そういうわけで、現在のカフェテリアは、遅ればせながら『ヒカミコ』で出てきた逆ハーレムの場面となっているのである。いわゆる逆ハーなるものを観測できたということだ。
「ああもうっ。あんなにディートフリート様に馴れ馴れしく近づくなんて、許せません!」
フローリアン様が、シモンの様子を見て、苛々したように声を上げる。好物でいらっしゃる白身魚のフリットも食べ進んでいないご様子だ。
シモンの要望で、僕とフローリアン様、ブリギッタ様は、基本的に近づかないようにということになっている。従って婚約者でありながら、僕たちはカフェテリアでラインハルト様たちと同席することができないのだ。
そのような要求を通すなど考えられないことだが、ここまでシモンを指導してきたウーリヒ先生がシモンの味方をしたらしい。その方が、教育的効果があると。
特に僕には接近禁止命令が出ていることから、絶対に近づいてはいけないということになっている。フローリアン様とブリギッタ様にもそれが適用されるかのような通達であったことについて、僕たちは納得していない。
そもそも接近禁止命令を受けているのはシモンの方なので、話の筋道がおかしいことだらけになっている。
これも、物語の強制力なのかもしれない。
シュテルン魔法学校は、収穫祭が終ってから一週間は収穫祭休暇になっていた。その間に校内では一部改装の工事が行われていた。例えばカフェテリアでは、ガラスには格子が嵌められ、シャンデリアは装飾の少ない灯りに変わり、テーブルの配置も変更された。
校内の他の場所についても、照明が変更されたり、ガラスが針金入りのものに変わったりと地味に改装されている。魔獣等に対する対策のためだろう。
そんなこともあって、校内は見慣れない風景ばかりになっている。
そもそも、カフェテリアで自分の隣にいらっしゃらないラインハルト様を見るのは初めてだ。それを改装されたカフェテリアで見ているものだから、なんとなく僕には今の状況に現実感がないのだ。
「婚約者より優先される『神子かもしれない人』というのは、どういうお立場の方なのでしょうね」
ブリギッタ様は扇を広げて口元を隠し、曖昧な微笑を浮かべながらそのようなことをおっしゃる。ブリギッタ様がこのような嫌味をおっしゃるのは、大変めずらしいことだ。
要するに、フローリアン様もブリギッタ様もかなりお怒りなのである。
当たり前だと思うけれど。
「ラファエル様は、どうしてそのように落ち着いていらっしゃるのですか?」
「そうですわよ。あのような不敬な態度が許されるなんて、おかしいですわ」
「そうですね……」
僕は食後のカフェを飲みながら、お二人の言葉に曖昧に頷いた。
「ラファエル様?」
「何らかの対策を考えた方が良いでしょうね」
僕の言葉に、フローリアン様とブリギッタ様は息を呑んだ。
ここからは、僕が悪役令息としての本領を発揮する場面だ。接近が許されていないのだから、効果的に悪役としてふるまうことができる状況を作っていかなければならない。
しかし、フローリアン様とブリギッタ様を巻き込むわけにはいかない。
断罪されるのは、僕だけで良い。
ラインハルト様がお幸せになるために。
悪役令息として、僕に何ができるのだろうか。
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「ええー、ラインハルト様ー、どうしてサロンに連れて行ってくれないんですあ?」
カフェテリアにシモンの甲高い声が響き渡る。
ラインハルト様に対する馴れ馴れしい言葉に、周囲の生徒は眉を顰めているが、シモンの目には入らないだろう。
「シモン、ラインハルト殿下は午後からは王宮に帰ることになっている」
「君の課題は、わたしたちが見るから大丈夫だ。ウーリヒ先生からも頼まれているからな」
「ええー、お勉強、嫌いですううう」
シモンの声にアルブレヒト様とディートフリート様が答えている。カフェテリア中の注目を集めているその場所には、ラインハルト様とアルブレヒト様、ディートフリート様、マルティン様、そして、シモンが座っている。
収穫祭のワイバーン襲来事件の後、シモンが神子であるかどうかということに関して、議会で話し合われた。それは、魔獣と意思疎通できる存在であれば、従来とは異なるが『神子』に認定しても良いのではないかということを魔術師団の一部の人間が具申してきたからだ。そして、魔法騎士団の一部の人間もそれに同調した。
しかしながら、魔術師団長のサウベラ伯爵とロルバッハ魔法騎士団長は、慎重に考えるべきとの見解であったので、最終的にはシモンを保護しながら彼の能力を調査することになった。騎士団は、シモンの神子認定には懐疑的で『魔法に関して調べたいならどうぞ』という立ち位置である。
当面シモンの保護は、その能力調査も兼ねて魔術師団が行うことになった。そして、学校内では、王族であるラインハルト様とその側近が保護をすることになったのだ。保護以外に、大幅に遅れている学習の世話をすることも含まれている。これは学校の教育者の怠慢にはならないのだろうかと思うのだけれど。
いずれにしても、王族を顎で使うとは、大したものである。
ちなみに、授業中はヴァネルハー辺境伯令息が傍にいることになっているらしい。哀れと言うほかない。
保護の状況を考えると、魔術師団が保護する人員を派遣するのが筋だと思うのだが、魔獣対応があるため人員が割けないという。
そして、ラインハルト様とその側近による保護は、シモンの要望らしいが、通常であれば、そんな我儘が通るはずがない。
しかし物語の強制力なのか、その方向であっさり決まってしまったのだった。
そういうわけで、現在のカフェテリアは、遅ればせながら『ヒカミコ』で出てきた逆ハーレムの場面となっているのである。いわゆる逆ハーなるものを観測できたということだ。
「ああもうっ。あんなにディートフリート様に馴れ馴れしく近づくなんて、許せません!」
フローリアン様が、シモンの様子を見て、苛々したように声を上げる。好物でいらっしゃる白身魚のフリットも食べ進んでいないご様子だ。
シモンの要望で、僕とフローリアン様、ブリギッタ様は、基本的に近づかないようにということになっている。従って婚約者でありながら、僕たちはカフェテリアでラインハルト様たちと同席することができないのだ。
そのような要求を通すなど考えられないことだが、ここまでシモンを指導してきたウーリヒ先生がシモンの味方をしたらしい。その方が、教育的効果があると。
特に僕には接近禁止命令が出ていることから、絶対に近づいてはいけないということになっている。フローリアン様とブリギッタ様にもそれが適用されるかのような通達であったことについて、僕たちは納得していない。
そもそも接近禁止命令を受けているのはシモンの方なので、話の筋道がおかしいことだらけになっている。
これも、物語の強制力なのかもしれない。
シュテルン魔法学校は、収穫祭が終ってから一週間は収穫祭休暇になっていた。その間に校内では一部改装の工事が行われていた。例えばカフェテリアでは、ガラスには格子が嵌められ、シャンデリアは装飾の少ない灯りに変わり、テーブルの配置も変更された。
校内の他の場所についても、照明が変更されたり、ガラスが針金入りのものに変わったりと地味に改装されている。魔獣等に対する対策のためだろう。
そんなこともあって、校内は見慣れない風景ばかりになっている。
そもそも、カフェテリアで自分の隣にいらっしゃらないラインハルト様を見るのは初めてだ。それを改装されたカフェテリアで見ているものだから、なんとなく僕には今の状況に現実感がないのだ。
「婚約者より優先される『神子かもしれない人』というのは、どういうお立場の方なのでしょうね」
ブリギッタ様は扇を広げて口元を隠し、曖昧な微笑を浮かべながらそのようなことをおっしゃる。ブリギッタ様がこのような嫌味をおっしゃるのは、大変めずらしいことだ。
要するに、フローリアン様もブリギッタ様もかなりお怒りなのである。
当たり前だと思うけれど。
「ラファエル様は、どうしてそのように落ち着いていらっしゃるのですか?」
「そうですわよ。あのような不敬な態度が許されるなんて、おかしいですわ」
「そうですね……」
僕は食後のカフェを飲みながら、お二人の言葉に曖昧に頷いた。
「ラファエル様?」
「何らかの対策を考えた方が良いでしょうね」
僕の言葉に、フローリアン様とブリギッタ様は息を呑んだ。
ここからは、僕が悪役令息としての本領を発揮する場面だ。接近が許されていないのだから、効果的に悪役としてふるまうことができる状況を作っていかなければならない。
しかし、フローリアン様とブリギッタ様を巻き込むわけにはいかない。
断罪されるのは、僕だけで良い。
ラインハルト様がお幸せになるために。
悪役令息として、僕に何ができるのだろうか。
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