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45.三位決定戦の後は決勝戦のはずですが
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準決勝は、収穫祭の華だ。決勝戦も素晴らしいものだが、その前の準決勝の方が、観覧者には人気がある。
マルティン様とビュッセル侯爵令息の試合は、風の魔法で素早く打ち込むビュッセル侯爵令息のレイピアを躱し続けて持久戦に持ち込んだマルティン様が勝利した。
そして、もう一つの準決勝は、ディートフリート様の多彩な魔法と、ヴァネルハー辺境伯令息の火の魔法を纏わせた長剣との戦いだ。こちらは、効果的な魔法攻撃でヴァネルハー辺境伯の長剣を粉砕したディートフリート様が勝利した。
どちらも素晴らしい試合で、僕自身も思わず観覧席での解説に力が入ってしまったことは否めない。
この解説は、ヘンドリック殿下にお聞かせしているものであり、この後の講評に反映させるものであるため、文官が記録をしている。少し恥ずかしいが、「ラファエルの解説は、わかりやすかった」とヘンドリック殿下が評価してくださったので良しとしようと思う。
そして、ラインハルト様は、笑顔で僕の頭を撫でてくださった。うれしい。
この結果を受けて、マルティン様とディートフリート様が決勝戦に、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息が三位決定戦に進むことになった。
試合をした生徒の体を回復させるため、暫しの休憩に入る。そしてこの休憩は、ちょうど昼食の時刻になるよう、設定されているのだ。
生徒を含めた観覧者は、演習場の外へ出て、屋台の料理を買い求めて昼食として楽しむことが多い。料理の屋台は、この昼食の時間で終了だ。各店は、午後の試合中に屋台を撤収することになるだろう。
ラインハルト様と僕は、演習場内の会議場で昼食をいただく。本来は、ヘンドリック殿下とイルゼ様だけが別室に食事が用意されるはずだったのだけれど、イルゼ様のご要望で昼食をともにすることになったのだ。
イルゼ様のお隣で、お話し相手をしながら楽しく昼食をいただいたのだが、ラインハルト様はあまり納得していらっしゃらなかったらしい。食事が終ってからの僕は、観覧席に移動するまでラインハルト様に腰を抱かれて頭を撫でられ続けていた。ラインハルト様が額にキスをしてくださったので、僕も頬にキスをお返しする。
「本当に、お二人の様子は微笑ましいですわね」
「イルゼ、わたしとも微笑ましく過ごせば良いだろう」
「まあ、ヘンドリック様、わたくしたちは今でも十分微笑ましいではありませんか」
「たまには、頭を撫でるぐらい良いだろう」
「うふふ、何をおっしゃっているのでしょう。天使のようにお美しいラインハルト様とラファエル様だから、微笑ましいのではありませんか」
「イルゼ……」
「さあ、参りますわよ」
そんな会話をしながらヘンドリック殿下の手を叩き落としているイルゼ様の様子を見て、疑問に思った僕がラインハルト様を見ると、「兄上とイルゼ様は、いつもあのような調子なのだよ」と言って微笑んでくださった。
どうやら、仲が良いからこその言い合いらしい
けんかするほど仲が良いと言うし。
まあ、ヘンドリック殿下とイルゼ様は、けんかと言うほどの言い合いをなさっているわけでもないけれど。
ヘンドリック殿下は王族らしい優雅な所作でイルゼ様をエスコートして観覧席につながっている回廊を進む。ラインハルト様は、僕の腰を抱いて、手をつないで回廊を進む。
僕たちは、果たしてこれで良いのだろうか。
学校内では良いだろうと思っていたけれど、今回は、王族として観覧席に座っているのだ。もう少し、慎ましい態度をとった方が良いように思う。
そう考えた僕は、ラインハルト様から体を離そうとした。ところが、思ったよりもがっちりと掴まれていて、離れることができない。
「ラファエル、どうしてわたしから離れようとしているのだ」
「……ヘンドリック殿下とイルゼ様のご様子を見習おうと思い」
「ラファエル、いずれ立太子する兄上とその婚約者のイルゼ様と、わたしたちは違うありようを見せて良いのだよ。父上と母上も、兄上たちと違うふるまいをすることを望んでいらっしゃるのだから、わたしたちはこれまで通りでよい」
ラインハルト様の声が少し怒りを含んでいるような気がして不安になったけれど、見あげると、いつもの優しい笑顔を浮かべていらっしゃる。
「かしこまりました」
「ラファエル、可愛い……」
僕が、いつも通りにラインハルト様に身を寄せると、ラインハルト様は僕の髪に顔をうずめて何やら呟かれた。
また、匂いを確かめられているのだろうか。
僕たちは再び観覧席につき、午後から行われる三位決定戦と決勝戦の開始を待つ。側近方も席に帰って来る。一般の観覧席にも人が埋まり、満員状態だ。
そして、午後の試合が華々しく開始された。
三位決定戦のビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は、長時間の対戦の末、ヴァネルハー辺境伯令息が勝利した。マルティン様の時と同じく、持久戦に持ち込んだヴァネルハー辺境伯令息の作戦勝ちである。
その後のビュッセル侯爵令息が、「体が軽いままで持久力をつける方法をご教示ください」と僕のところへ通うようになるのは少し先の話だ。
「それでは、決勝戦、マルティン・フォン・アイヒベルガー対ディートフリート・フォン・ファーレンハイトの対戦を開始する!」
マルティン様とディートフリート様が向かい合って優雅に礼をした。
そのまま対戦に入ると思われたところで、ディートフリート様が空を見上げた。
マルティン様も、ディートフリート様の視線を追う。
それにつられるように、皆が視線を向けたその先には……
「ワイバーン……」
空にはワイバーンが舞っていた。
ワイバーンは、岩山にいる竜種の魔獣だ。
それが、どうしてこんなところに……
マルティン様とビュッセル侯爵令息の試合は、風の魔法で素早く打ち込むビュッセル侯爵令息のレイピアを躱し続けて持久戦に持ち込んだマルティン様が勝利した。
そして、もう一つの準決勝は、ディートフリート様の多彩な魔法と、ヴァネルハー辺境伯令息の火の魔法を纏わせた長剣との戦いだ。こちらは、効果的な魔法攻撃でヴァネルハー辺境伯の長剣を粉砕したディートフリート様が勝利した。
どちらも素晴らしい試合で、僕自身も思わず観覧席での解説に力が入ってしまったことは否めない。
この解説は、ヘンドリック殿下にお聞かせしているものであり、この後の講評に反映させるものであるため、文官が記録をしている。少し恥ずかしいが、「ラファエルの解説は、わかりやすかった」とヘンドリック殿下が評価してくださったので良しとしようと思う。
そして、ラインハルト様は、笑顔で僕の頭を撫でてくださった。うれしい。
この結果を受けて、マルティン様とディートフリート様が決勝戦に、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息が三位決定戦に進むことになった。
試合をした生徒の体を回復させるため、暫しの休憩に入る。そしてこの休憩は、ちょうど昼食の時刻になるよう、設定されているのだ。
生徒を含めた観覧者は、演習場の外へ出て、屋台の料理を買い求めて昼食として楽しむことが多い。料理の屋台は、この昼食の時間で終了だ。各店は、午後の試合中に屋台を撤収することになるだろう。
ラインハルト様と僕は、演習場内の会議場で昼食をいただく。本来は、ヘンドリック殿下とイルゼ様だけが別室に食事が用意されるはずだったのだけれど、イルゼ様のご要望で昼食をともにすることになったのだ。
イルゼ様のお隣で、お話し相手をしながら楽しく昼食をいただいたのだが、ラインハルト様はあまり納得していらっしゃらなかったらしい。食事が終ってからの僕は、観覧席に移動するまでラインハルト様に腰を抱かれて頭を撫でられ続けていた。ラインハルト様が額にキスをしてくださったので、僕も頬にキスをお返しする。
「本当に、お二人の様子は微笑ましいですわね」
「イルゼ、わたしとも微笑ましく過ごせば良いだろう」
「まあ、ヘンドリック様、わたくしたちは今でも十分微笑ましいではありませんか」
「たまには、頭を撫でるぐらい良いだろう」
「うふふ、何をおっしゃっているのでしょう。天使のようにお美しいラインハルト様とラファエル様だから、微笑ましいのではありませんか」
「イルゼ……」
「さあ、参りますわよ」
そんな会話をしながらヘンドリック殿下の手を叩き落としているイルゼ様の様子を見て、疑問に思った僕がラインハルト様を見ると、「兄上とイルゼ様は、いつもあのような調子なのだよ」と言って微笑んでくださった。
どうやら、仲が良いからこその言い合いらしい
けんかするほど仲が良いと言うし。
まあ、ヘンドリック殿下とイルゼ様は、けんかと言うほどの言い合いをなさっているわけでもないけれど。
ヘンドリック殿下は王族らしい優雅な所作でイルゼ様をエスコートして観覧席につながっている回廊を進む。ラインハルト様は、僕の腰を抱いて、手をつないで回廊を進む。
僕たちは、果たしてこれで良いのだろうか。
学校内では良いだろうと思っていたけれど、今回は、王族として観覧席に座っているのだ。もう少し、慎ましい態度をとった方が良いように思う。
そう考えた僕は、ラインハルト様から体を離そうとした。ところが、思ったよりもがっちりと掴まれていて、離れることができない。
「ラファエル、どうしてわたしから離れようとしているのだ」
「……ヘンドリック殿下とイルゼ様のご様子を見習おうと思い」
「ラファエル、いずれ立太子する兄上とその婚約者のイルゼ様と、わたしたちは違うありようを見せて良いのだよ。父上と母上も、兄上たちと違うふるまいをすることを望んでいらっしゃるのだから、わたしたちはこれまで通りでよい」
ラインハルト様の声が少し怒りを含んでいるような気がして不安になったけれど、見あげると、いつもの優しい笑顔を浮かべていらっしゃる。
「かしこまりました」
「ラファエル、可愛い……」
僕が、いつも通りにラインハルト様に身を寄せると、ラインハルト様は僕の髪に顔をうずめて何やら呟かれた。
また、匂いを確かめられているのだろうか。
僕たちは再び観覧席につき、午後から行われる三位決定戦と決勝戦の開始を待つ。側近方も席に帰って来る。一般の観覧席にも人が埋まり、満員状態だ。
そして、午後の試合が華々しく開始された。
三位決定戦のビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は、長時間の対戦の末、ヴァネルハー辺境伯令息が勝利した。マルティン様の時と同じく、持久戦に持ち込んだヴァネルハー辺境伯令息の作戦勝ちである。
その後のビュッセル侯爵令息が、「体が軽いままで持久力をつける方法をご教示ください」と僕のところへ通うようになるのは少し先の話だ。
「それでは、決勝戦、マルティン・フォン・アイヒベルガー対ディートフリート・フォン・ファーレンハイトの対戦を開始する!」
マルティン様とディートフリート様が向かい合って優雅に礼をした。
そのまま対戦に入ると思われたところで、ディートフリート様が空を見上げた。
マルティン様も、ディートフリート様の視線を追う。
それにつられるように、皆が視線を向けたその先には……
「ワイバーン……」
空にはワイバーンが舞っていた。
ワイバーンは、岩山にいる竜種の魔獣だ。
それが、どうしてこんなところに……
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