【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

文字の大きさ
上 下
45 / 86

45.三位決定戦の後は決勝戦のはずですが

しおりを挟む
 準決勝は、収穫祭の華だ。決勝戦も素晴らしいものだが、その前の準決勝の方が、観覧者には人気がある。

 マルティン様とビュッセル侯爵令息の試合は、風の魔法で素早く打ち込むビュッセル侯爵令息のレイピアを躱し続けて持久戦に持ち込んだマルティン様が勝利した。
 そして、もう一つの準決勝は、ディートフリート様の多彩な魔法と、ヴァネルハー辺境伯令息の火の魔法を纏わせた長剣との戦いだ。こちらは、効果的な魔法攻撃でヴァネルハー辺境伯の長剣を粉砕したディートフリート様が勝利した。

 どちらも素晴らしい試合で、僕自身も思わず観覧席での解説に力が入ってしまったことは否めない。
 この解説は、ヘンドリック殿下にお聞かせしているものであり、この後の講評に反映させるものであるため、文官が記録をしている。少し恥ずかしいが、「ラファエルの解説は、わかりやすかった」とヘンドリック殿下が評価してくださったので良しとしようと思う。
 そして、ラインハルト様は、笑顔で僕の頭を撫でてくださった。うれしい。


 この結果を受けて、マルティン様とディートフリート様が決勝戦に、ビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息が三位決定戦に進むことになった。

 試合をした生徒の体を回復させるため、暫しの休憩に入る。そしてこの休憩は、ちょうど昼食の時刻になるよう、設定されているのだ。
 生徒を含めた観覧者は、演習場の外へ出て、屋台の料理を買い求めて昼食として楽しむことが多い。料理の屋台は、この昼食の時間で終了だ。各店は、午後の試合中に屋台を撤収することになるだろう。

 ラインハルト様と僕は、演習場内の会議場で昼食をいただく。本来は、ヘンドリック殿下とイルゼ様だけが別室に食事が用意されるはずだったのだけれど、イルゼ様のご要望で昼食をともにすることになったのだ。

 イルゼ様のお隣で、お話し相手をしながら楽しく昼食をいただいたのだが、ラインハルト様はあまり納得していらっしゃらなかったらしい。食事が終ってからの僕は、観覧席に移動するまでラインハルト様に腰を抱かれて頭を撫でられ続けていた。ラインハルト様が額にキスをしてくださったので、僕も頬にキスをお返しする。

「本当に、お二人の様子は微笑ましいですわね」
「イルゼ、わたしとも微笑ましく過ごせば良いだろう」
「まあ、ヘンドリック様、わたくしたちは今でも十分微笑ましいではありませんか」
「たまには、頭を撫でるぐらい良いだろう」
「うふふ、何をおっしゃっているのでしょう。天使のようにお美しいラインハルト様とラファエル様だから、微笑ましいのではありませんか」
「イルゼ……」
「さあ、参りますわよ」

 そんな会話をしながらヘンドリック殿下の手を叩き落としているイルゼ様の様子を見て、疑問に思った僕がラインハルト様を見ると、「兄上とイルゼ様は、いつもあのような調子なのだよ」と言って微笑んでくださった。
 どうやら、仲が良いからこその言い合いらしい
 けんかするほど仲が良いと言うし。

 まあ、ヘンドリック殿下とイルゼ様は、けんかと言うほどの言い合いをなさっているわけでもないけれど。

 ヘンドリック殿下は王族らしい優雅な所作でイルゼ様をエスコートして観覧席につながっている回廊を進む。ラインハルト様は、僕の腰を抱いて、手をつないで回廊を進む。

 僕たちは、果たしてこれで良いのだろうか。

 学校内では良いだろうと思っていたけれど、今回は、王族として観覧席に座っているのだ。もう少し、慎ましい態度をとった方が良いように思う。
 そう考えた僕は、ラインハルト様から体を離そうとした。ところが、思ったよりもがっちりと掴まれていて、離れることができない。

「ラファエル、どうしてわたしから離れようとしているのだ」
「……ヘンドリック殿下とイルゼ様のご様子を見習おうと思い」
「ラファエル、いずれ立太子する兄上とその婚約者のイルゼ様と、わたしたちは違うありようを見せて良いのだよ。父上と母上も、兄上たちと違うふるまいをすることを望んでいらっしゃるのだから、わたしたちはこれまで通りでよい」

 ラインハルト様の声が少し怒りを含んでいるような気がして不安になったけれど、見あげると、いつもの優しい笑顔を浮かべていらっしゃる。

「かしこまりました」
「ラファエル、可愛い……」

 僕が、いつも通りにラインハルト様に身を寄せると、ラインハルト様は僕の髪に顔をうずめて何やら呟かれた。

 また、匂いを確かめられているのだろうか。



 僕たちは再び観覧席につき、午後から行われる三位決定戦と決勝戦の開始を待つ。側近方も席に帰って来る。一般の観覧席にも人が埋まり、満員状態だ。

 そして、午後の試合が華々しく開始された。

 三位決定戦のビュッセル侯爵令息とヴァネルハー辺境伯令息は、長時間の対戦の末、ヴァネルハー辺境伯令息が勝利した。マルティン様の時と同じく、持久戦に持ち込んだヴァネルハー辺境伯令息の作戦勝ちである。

 その後のビュッセル侯爵令息が、「体が軽いままで持久力をつける方法をご教示ください」と僕のところへ通うようになるのは少し先の話だ。


「それでは、決勝戦、マルティン・フォン・アイヒベルガー対ディートフリート・フォン・ファーレンハイトの対戦を開始する!」

 マルティン様とディートフリート様が向かい合って優雅に礼をした。

 そのまま対戦に入ると思われたところで、ディートフリート様が空を見上げた。
 マルティン様も、ディートフリート様の視線を追う。

 それにつられるように、皆が視線を向けたその先には……

「ワイバーン……」

 空にはワイバーンが舞っていた。
 ワイバーンは、岩山にいる竜種の魔獣だ。


 それが、どうしてこんなところに……

 
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。

cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。 家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~

志麻友紀
BL
「婚約破棄の慰謝料だが、三十六回払いでどうだ?」 聖フローラ学園の卒業パーティ。悪徳の黒薔薇様ことアルクガード・ダークローズの言葉にみんな耳を疑った。この黒い悪魔にして守銭奴と名高い男が自ら婚約破棄を宣言したとはいえ、その相手に慰謝料を支払うだと!? しかし、アレクガードは華の神子であるエクター・ラナンキュラスに婚約破棄を宣言した瞬間に思い出したのだ。 この世界が前世、視聴者ひと桁の配信で真夜中にゲラゲラと笑いながらやっていたBLゲーム「FLOWERS~華咲く男達~」の世界であることを。 そして、自分は攻略対象外で必ず破滅処刑ENDを迎える悪役令息であることを……だ。 破滅処刑ENDをなんとしても回避しなければならないと、提示した条件が慰謝料の三六回払いだった。 これは悪徳の黒薔薇と呼ばれた悪役令息が幸せをつかむまでのお話。 絶対ハッピーエンドです! 4万文字弱の中編かな?さくっと読めるはず……と思いたいです。 fujossyさんにも掲載してます。

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

処理中です...