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38.魔獣出現の原因究明に至る道は前途多難です

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 クリューガー様と僕とでアポピスを凍らせたものの、大きすぎて今の手勢では運ぶことができない。
 運べないほどの大きな魔獣を捕獲した。それを各団に知らせるための灯火を、ディートフリート様が上げてくださったので、すぐに応援部隊が到着するだろう。
 今回は、騎士団の方々が来てくださる予定だ。
 
 現在目視できるところを、ジークフリート様とディートフリート様が確認しながら記録をとっていらっしゃる。

 オイラー様は、ご自分のレイピアが完全に凍り付き、抜けなくなっているのを見て意気消沈しておられるようだ。僕の長剣もアポピスの上あごに突き刺さったままだ。凍る時に半分閉じてしまったので、抜くことはできないし、抜けたとしても再び使えるかどうかはわからない。
 もったいないことだが、諦めるしかないだろう。

「それにしても砂漠の魔獣がこんなところに出現するだなどと、いったいどうなっているのだろうな」
「はい、不思議なことです」
「わたしたちにも、見当がつきません。これまでの調査では、少なくとも森や人里に近いところに出現する魔獣しか観測されていませんでした」

 ラインハルト様の誰も答えることができない疑問に、僕は相槌を打つ。オイラー様がまとめていらっしゃる王都近辺の魔獣出現情報においても、他の地域で生息しているようなものが出たことはないという。

 ところで、シュトール様は、辺境に赴任していたときに、アポピスと遭遇したことがあるという。今回のメンバーに入ったのも、様々な種類の魔獣を討伐した経験が考慮されてのことらしいが、まさかアポピスに遭遇するとは思っていらっしゃらなかったそうだ。それはそうだ。王都郊外の森に砂漠の蛇が出るなどとは、誰も想像できないだろう。

「しかし、俺が出会ったアポピスはこれの三分の一ぐらいの大きさでしたからね。これほど大きくなるのが標準なのか、別の要素でこうなったのか検証しないといけませんね。恐ろしいことです」

 シュトール様はそう言いながらひきつった笑いを浮かべていらっしゃった。

 アポピスの周囲には、コカトリスの残骸が散らばっている。今回の討伐でコカトリスに遭遇しなかったのは、これのせいだろうと思うのだ。

 だけど……

「コカトリスたちは、まるでアポピスに喰われるために集まったかのようですね。どうしてこのようなことになっているのか」

 ジークフリート様が周囲の様子を見て、疑問を口にされた。
 コカトリスは、卵から生まれた当初は群れているが、特に縁のない個体同士が群れるということはない。餌に群がることはあるけれど。
 今回は森の他の場所でコカトリスを全く目にしなかった。何かに引き寄せられるようにして、コカトリスはこの場所に集まったのだろう。そして、アポピスに喰われた。

 コカトリスが集まった場所にアポピスが来たのか、アポピスがコカトリスを呼び寄せたのかは、わからない。それは、今後調査していくことになるのだろう。

「それにしても、ヒムメル侯爵令息の腕前は、噂以上ですね」
「お見事な手際の良さに、感動いたしました」
「いえ、皆様が弱らせてくださったところへ、後から入ったのですから」
「わたしは、犠牲になるのもやむを得ないかと考えておりました。まさか捕獲できるなど思っていませんでしたよ」

 シュトール様とオイラー様、ジークフリート様に手放しでほめられるのは、いささか居心地が悪い。ジークフリート様が決死の覚悟であったのも、驚くことだ。
 僕が困惑していることを察してくださったのだろう。ラインハルト様が、「わたしのラファエルは、素晴らしいからね」とおっしゃって、僕を抱き寄せて髪にキスをしてくださる。それを見たお三人は、少し顔を赤らめて黙ってしまわれた。

 おそらく、ラインハルト様の美しい微笑に、気圧されてしまったのだろう。

 皆は、これからの対応のことに話題を変えた。

 これまでの魔獣は、巨大化していることが多いので、捕獲できれば自分たちで運ぶことが難しいということが予想される。今回は、氷魔法の使い手が二人いたので完璧に獲物を凍結することができたが、クリューガー様がいつも一緒に来てくださるかどうかはわからない。従って、今後は獲物が巨大であった場合の運搬についても活動計画を詰めていかねばならないだろう。

「しかし、あれから全く魔獣が出てこないな」

 マルティン様は、クリューガー様の護衛と氷魔法の有効な活用のための支援を見事になさったのだが、暴れ足りなかったようだ。少し魔獣を狩ろうかと近場を歩いていらっしゃったが、まったく出現しないという。
 どういうことになっているのか。これについても、検証しなければならないだろう。

 やがて、騎士団の応援部隊が到着して、アポピスを回収し始めた。
 その大きさと、凍結の状態に驚いていたものの、騎士の方にすればそれは仕事なので手早く台車に乗せて運んで行ってくださる。

 僕たちは、騎士団とともに王都郊外の森から撤収し、帰路についた。


 ヘルハウンドの巨大化についても未だ原因はつかめていない。とはいうものの、ヘルハウンドはもともと王都郊外の森に出現することがある魔獣だった。しかし、アポピスは砂漠に生息する魔獣なのだ。この辺りのように一定の割合で雨が降る場所にどうして出現したのだろうか。

 それについても今後、調べていかないといけないのだ。

 これも、物語のために必要な異常なのだろうか。神子の覚醒がないから、事態が悪化しているとも考えられる。


 ああ、どうして僕は、詳しい物語の流れを覚えていないのだろうか。

「凶暴化だけでなく、いないはずの魔獣が出現するとは、原因究明に至る道は前途多難でございますね」
「そのようだな……」


 ディートフリート様の声に、ラインハルト様は考え込むように返事をされた。



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