【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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34.魔獣の凶暴化に関する調査をします

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 魔獣の凶暴化に関する調査のための打ち合わせは、王宮にある魔術師団の研究棟内で行われた。

 これからは、騎士団、魔法騎士団、魔術師団の専門チームとともに調査を進めていく。

 騎士団からは、エッポ・シュトール様、魔法騎士団からは、ジーベル侯爵家のご次男ベンヤミン・フォン・オイラー様、魔術師団からはサウベラ伯爵のご嫡男で研究員のジークフリート・フォン・ファーレンハイト様。
このお三人が、専門チームの代表だ。
 魔法学校の生徒に過ぎない僕たちがこの会議に参加できるというのは、ラインハルト様がいらっしゃることが大きい。もちろん、手足となって働くことを期待されているのだろうとは考えているが。
 そうはいっても、ディートフリート様は魔術師団長サウベラ伯爵のご子息であるし、マルティン様は騎士団長フェストン伯爵のご子息であるので、その点が重要視されているのは否めない。

 しかし、選定にあたっては、身内びいきにならないようにとの配慮から、その実力はかなり厳密かつ客観的に計られたのだろうと考えられる。また、側近であるからといって、特別扱いをすることもないだろう。
 僕は、魔獣の生態には詳しいつもりではあるが、ラインハルト様の婚約者であるから参加しているお飾りだろうと思う。

 実際の討伐のお役には立てるはずなので、皆様の足手まといにならなければ良いだろうと考えている。

 そして、ラインハルト様の御身をお守りすることができれば良い。

 今日は顔合わせが主な目的であるため、自己紹介の後は、各団における現在の調査状況を共通理解することになる。

 シュトール様からは、王都郊外の森や、近辺の街道でどのように魔獣が出没しているかの報告があった。魔獣の出没は、集中的に起きることが多いという。同じ場所で何度も異常発生をした後、次はまったく違う場所で異常発生が起きる。同じ種類の魔獣が異常発生することもあれば、何種類かの魔獣が同時に異常発生することもあるとのことだ。
 
 オイラー様からは、魔素の濃度と魔獣発生の関連についての報告があった。王都周辺の魔素は、全体として見れば増えているということはないらしい。つまり、魔獣が異常発生した場所の魔素だけが極端に増えているということだ。ヒムメル侯爵領やヴァネルハー辺境伯領では極端に魔素が増えている場所がなく、当然、魔獣の異常発生も観測されていないのだが、他の王都から離れた地方も同様であるらしい。

 つまり、王都周辺だけに、魔素が極端に増えるという現象が、起きているということだ。


「シュテルン魔法学校の実地演習で凍結捕獲した巨大化したヘルハウンドですが、内部にある魔核が変質していました」

 魔術師団のファーレン研究員……ジークフリート様の報告は、想定外だった。
 魔核は魔獣の生命力の源だ。僕たち人間は、魔獣を退治して取り出した魔核を加工して、魔石の代わりに使ったり、魔石の魔力強化に使ったりする。

 魔獣の体内にある魔核に含まれている魔力は、変化しないのが通常である。たとえばヘルハウンドの魔核であれば、ヘルハウンドの純粋な魔力が含まれている。それが、変質していたというのであれば、これまでにない発見であり、魔獣の凶暴化と関係があると考えられるだろう。もちろん、魔核内の魔力が空になってしまえば、別の魔力を注入することは論理的には可能だ。だが、討伐して間もないヘルハウンドから取り出したばかりの魔核が変質しているというのは、異常なことなのだ。

「変質とは、どのようにでしょうか。魔力の質なのか、核そのものが変質しているのか、気になります」
「ヒムメル侯爵令息の魔力とは、関係ないのですか?」

 シュトール様とオイラー様が、畳みかけるようにジークフリート様に質問をなさる。

「ヒムメル侯爵令息が魔法で完全に凍結したうえでヘルハウンドを捕獲してくださったことは、調査には有利に働きました。しかし、魔核にその魔法の影響はなかったと考えております」

 ジークフリート様は、討伐時の魔力の影響を否定してから、魔核の変質についてお話をされた。おそらく、ヘルハウンドは外部からの魔力を浴びて、魔核を変質させたと考えられる。つまり、魔力の質が変わっていたということだ。それが、自然界の何かによるものなのか、人為的なものなのかは、今のところはわからない。

「しかし、興味深いことがありまして、ヘルハウンドの魔核を変質させた魔力と、元魔法騎士団のガウクの精神を汚染した魔力はとても似ているのです。
 魔法学校の実地演習で凶暴化した疑似魔獣にも共通点はあるのですが、それは関連性を問うほどかどうか未だ分析中です」
「え?」

 オイラー様が思わず声を上げられた。僕も声を上げるところであったが、王子の伴侶としての教育を受けているので、そういうものは抑えることができる。しかし、声を上げなくとも、皆の視線は僕に集中する。魔獣と人間という違いはあれど、僕はどちらとも交戦していたのであるから、注目を浴びるのは仕方ないだろう。
 そういえば、合同演習のときの疑似魔獣の件も、解決していないのであった。こちらはまだ分析中らしいが。

「もちろん、繰り返しになりますが、検出されたのはヒムメル侯爵令息の魔力とは質の異なるものです。
 精神汚染魔法については、人為的なものとしか考えられませんので、ヘルハウンドの魔核の変質も、人為的であると推測することはできます。だが、証拠がありません」

 ジークフリート様はそうおっしゃると、曖昧な笑顔をお作りになった。

「人為的であるという疑いがあるということですが、ヘルハウンドの魔核に影響を及ぼす魔法を使える者がいるということですか?」

 オイラー様がこわばった顔で、ジークフリート様に質問をなさる。

「確定ではありませんが……、そのつもりで調査をした方が良いのではないかと考えております」
「……王都郊外へ出かけている者の行動記録の洗い出しをせねばならんのか」

 シュトール様は、膨大な記録の調査が必要な事態に陥ったことに気づかれたらしく、頭を抱えておられた。



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