29 / 86
29.本題は魔獣の調査に入ることでした
しおりを挟む「あの一年生の態度の悪さは何でしょう。無礼すぎます!」
学長室からサロンまでの廊下でも、フローリアン様はお怒りを隠さないご様子だ。
「そうですね。貴族社会になかなか馴染めないのでしょう。皆で教えてあげないと」
「ラファエル様、彼は態度を変える気がないので、教えるのは無駄だと思います」
「はい……」
フローリアン様の言う通り、シモンは自分の態度を変える気などないだろう。彼には、この物語の記憶があると断定して良い。あの無礼で傍若無人な態度が、無邪気で可愛らしいと周囲から思われているのだと信じているのだ。そう考えるのが妥当だろう。
だけど、ラインハルト様とは明らかに親密になっていない。それについて、シモン自身はどう思っているのだろうか。ある程度は、物語とは違うところがある『僕たちが生きている現実』に合わせていかないと、ハッピーエンドにはならないのではないだろうか。
そうであるならば、僕はどう行動すれば良いのだろうか。
ラインハルト様の幸せのために。
「皆さん、レヒナー男爵令息のふるまいについて、聞いてください」
フローリアン様は、サロンに入ってディートフリート様の隣に腰を落ち着けると、お茶が入るのも待たずに口を開いた。
シモンがいかに無礼な態度であったかということ。学長とウーリヒ先生とで指導しても、それに従わなかったこと。それどころか、わけのわからないことを叫びながら、学長室を飛び出して行ったこと。
フローリアン様は、最後にシモンが言っていた『こんなエピソードはストーリーにない』ということの意味はまったく分からなかったようだ。当たり前であるといえるけれども。
フローリアン様の臨場感あふれるお話は素晴らしくて、当事者である僕もただ頷いて聞いているだけだったのだが。
「これほど無礼なのに、ラファエル様はまったく怒ったご様子がなくて、お詫びは受けるとかおっしゃって、天使過ぎませんか!」
「いえ、僕も、レヒナー男爵令息の態度については、教育が必要かと思っておりますが」
「いや。レヒナー男爵令息の礼儀知らずな態度については、一般的な教育の問題ではないと思いますね」
思わぬところでフローリアン様の話が僕の態度のことに飛び火したので、やり過ごそうとしたのだが、アルブレヒト様からもシモンの無礼な態度についての言及が始まってしまった。
「彼は行動にも不品行な点が多い。それ自体は、他者に迷惑をかけなければ放置しても良いのですが、ラファエルに対しては攻撃的な態度を取っています。それは、問題があることでしょう」
「アルブレヒト様、不品行なふるまいというのは聞いておりませんが?」
「あ、えっと、ラファエル様、内容については、お気になさらないように。とにかく、ラインハルト殿下とラファエル様に害を及ぼさないように何か対策を考えます」
シモンの不品行とは何なのか。アルブレヒト様はそれを口にしておきながら、内容は教えてくれないようだ。そして、何かの対策をするという。
ディートフリート様とマルティン様は大きく頷いていらっしゃるので、どうやら不品行の内容をご存じであるようだ。教えてもらうための質問をしようとしたところで、僕の隣にいるラインハルト様が、僕の腰に回した手の力が強くなった。思わず見あげると、僕を見て美しい微笑を浮かべていらっしゃる。
これは……、このお顔は、これ以上追及するなということだ。
どうやら、フローリアン様もブリギッタ様もご存じないようであったが、この場の話題としてはこれ以上取り上げないつもりであるらしい。
ディートフリート様が侍女に新しいお茶を頼んだのをきっかけとして、シモンの話は終わりになった。
不品行の内容も今後の対策も、ものすごく気になるのだが、今は問い質すのをあきらめよう。
新しいお茶が供されて、侍女が下がったところで、ラインハルト様は良く響くお声でお話を始められた。
「さて、では本題に入ろう。ヘンドリック兄上から、王都郊外の魔獣の調査に協力するようにというご指示を受けた。もちろん、強制ではないが、どうかな?」
ヘンドリック殿下は、騎士団と魔法騎士団、そして魔術師団と話をつけてくださった。王家とそれぞれの団長が相談した結果、王族が調査に加わっている方が望ましいと判断されたのだろう。主に国民に、王族が魔獣対策に取り組んでいることを示すのが目的だと思われる。それに利用されるのは、僕の立場では仕方ないことだ。
僕たちは、まだ魔法学校に通学する身であるが、それぞれの実力は認められている。と思う。
強制ではないとおっしゃるが、断ることはできないだろう。いや僕は、むしろ参加したい気持ちでいっぱいだ。
「ラファエル・エーリッツ・フォン・メービウス、謹んで参加を希望いたします」
僕が参加を表明すると、アルブレヒト様とディートフリート様、マルティン様がそれに続いた。そして、フローリアン様とブリギッタ様は、基本的には戦闘への参加はしないが、治療や分析という形で調査に同行してくださることになったのだ。
遊びに行くわけではないのだが、魔獣の調査に出向くのは楽しみでもある。
「では、皆で魔獣の調査に取り組もう」
僕は、ラインハルト様のその言葉を聞いて意欲を高めた。
422
お気に入りに追加
3,127
あなたにおすすめの小説

【完結】婚約破棄の慰謝料は36回払いでどうだろうか?~悪役令息に幸せを~
志麻友紀
BL
「婚約破棄の慰謝料だが、三十六回払いでどうだ?」
聖フローラ学園の卒業パーティ。悪徳の黒薔薇様ことアルクガード・ダークローズの言葉にみんな耳を疑った。この黒い悪魔にして守銭奴と名高い男が自ら婚約破棄を宣言したとはいえ、その相手に慰謝料を支払うだと!?
しかし、アレクガードは華の神子であるエクター・ラナンキュラスに婚約破棄を宣言した瞬間に思い出したのだ。
この世界が前世、視聴者ひと桁の配信で真夜中にゲラゲラと笑いながらやっていたBLゲーム「FLOWERS~華咲く男達~」の世界であることを。
そして、自分は攻略対象外で必ず破滅処刑ENDを迎える悪役令息であることを……だ。
破滅処刑ENDをなんとしても回避しなければならないと、提示した条件が慰謝料の三六回払いだった。
これは悪徳の黒薔薇と呼ばれた悪役令息が幸せをつかむまでのお話。
絶対ハッピーエンドです!
4万文字弱の中編かな?さくっと読めるはず……と思いたいです。
fujossyさんにも掲載してます。

【完結】家も家族もなくし婚約者にも捨てられた僕だけど、隣国の宰相を助けたら囲われて大切にされています。
cyan
BL
留学中に実家が潰れて家族を失くし、婚約者にも捨てられ、どこにも行く宛てがなく彷徨っていた僕を助けてくれたのは隣国の宰相だった。
家が潰れた僕は平民。彼は宰相様、それなのに僕は恐れ多くも彼に恋をした。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません
くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、
ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。
だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。
今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。
【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?
MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!?
※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

夫婦喧嘩したのでダンジョンで生活してみたら思いの外快適だった
ミクリ21 (新)
BL
夫婦喧嘩したアデルは脱走した。
そして、連れ戻されたくないからダンジョン暮らしすることに決めた。
旦那ラグナーと義両親はアデルを探すが当然みつからず、実はアデルが神子という神託があってラグナー達はざまぁされることになる。
アデルはダンジョンで、たまに会う黒いローブ姿の男と惹かれ合う。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?
下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。
そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。
アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。
公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。
アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。
一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。
これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。
小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる