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28.主人公からの謝罪は成立したのでしょうか

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 僕に護衛騎士がついた翌日、シモンから僕に対する謝罪の場を設けるので受けてほしいとウーリヒ先生から連絡があった。ウーリヒ先生からはあの魔法騎士団の事件があった翌日に、あの場にいた全員が謝罪を受けている。ウーリヒ先生はお気の毒だと思うが、教員が立ち会う場で起きた事態を、学校が重く考えたのだろう。
 シモンは、その素行についての指導を、作法の先生と副学長から受けていたそうだ。その集中講義が終わったため、僕への謝罪の機会を設けることになったという。

 魔法学校のサロンでは、ラインハルト様の隣には僕が座り、アルブレヒト様とブリギッタ様、ディートフリート様とフローリアン様がそれぞれ隣同士で座っている。マルティン様はお一人だ。

 学長室へは、護衛騎士についてきてもらえば良いと思ったのだが、皆の意見は違うようだ。

「あの! あのレヒナー男爵令息でしょう? 誰かが付き添う方が良いに決まっています」
「そうだな。俺がついて行っても良いのだが、本人に対して敬意を払える自信がない。他の者の方が良いかもしれないな」
 
 フローリアン様とマルティン様は、シモンの態度に怒りを抱いていらっしゃるので辛辣だ。さすがに、品位に関わるような罵り方はしていない。だけど、マルティン様はシモンを前にしたら、どんな反応をするかわからないと息巻いていらっしゃる。

「学長室であれば、攻撃を加えられることはないでしょう。発言を確認するのなら、フローリアンであればレヒナー男爵令息を刺激しなくてちょうど良いのではないでしょうか」
「そうだな、彼は女生徒ともうまくいっていないようだから、ブリギッタも外した方が良いだろう」
「ラファエルには、わたしがついて行くのが良いのではないか」
「いえ、ラインハルト殿下がついて行かれるのでは、騒ぎが大きくなるかと思われます」
「ここは、お控えくださいますのが賢明かと思われます」

 結局、ディートフリート様とアルブレヒト様のご提案で、フローリアン様が僕についてきてくださることになった。
 そして、ラインハルト様は僕に同行したいとおっしゃったのだけれど、丁重にお断りした。きっとシモンは同席してくださったラインハルト様にすり寄ろうとして、謝罪の場ではなくなってしまうだろうから。アルブレヒト様の加勢もあり、ラインハルト様は不承不承諦めてくださった。
 それも、物語の流れを考えれば良いことなのだろうかと考えたのだが、今のところラインハルト様がシモンに好意を示されている様子は見られない。第一、シモンは神子として覚醒していないので、ハッピーエンドに向かうための押しどころがない感じがする。

 押せないところで悪役令息を演じるのは難易度が高い。

 ラインハルト様は大変ご不満なご様子であったけれど。



「ごめんなさいっ。僕があの魔法騎士さんにラファエルのことを言ったからっ」

 学長室では、シモンがホフマン学長とウーリヒ先生に挟まれて座っており、僕が入室するなりシモンのお詫びが始まった。相変わらず名前を呼び捨てにしているが、ここでは指摘するのをやめておく。
 シモンのお詫びは心のこもっていないものだったが、このまま僕はやり過ごして終わるつもりだ。しかし、シモンの様子を見ていると、ふさわしい言葉が浮かばないのはどうしてだろうか。

 僕は、涙を流しているシモンをまじまじと見つめた。やはり、主人公は可愛い。

「レヒナー男爵令息、彼のことはヒムメル侯爵令息と呼びなさい。許しもなく、侯爵令息の名前を呼び捨てにすること自体が礼儀に外れています」
「でもっ 学校ではみんな平等だって!」
「平等であることと礼儀知らずであることは違うな。シュテルン魔法学校の生徒にふさわしい礼儀正しさを身につけなければならん」
「どうしてみんな僕に意地悪を言うんですかあ!」
「レヒナー男爵令息、これは意地悪ではありません」

 やはり、この世界では、許可されていないのに名前を呼び捨てにしたら注意をされるらしい。当たり前だと思うけれども。
 どうやら、シモンがラインハルト様に対して不敬な態度であるということは、王家から学長に連絡が入っていることと思われる。
 護衛は、そういう連絡もしているはずだ。
 ウーリヒ先生から注意を受け、学長からも指導をされても、言い返しているシモンはすごい。主人公はこれでも許されるのだな。
 僕の隣に座っているフローリアン様の握りこぶしが、震えていらっしゃる。かなりお怒りのご様子だ。

 学長や先生が指導をなさっているときに、口を出すわけにはいかない。僕は黙って、三人のやり取りを見ていた。

「みんな僕が呼び捨てにしても、許してくれるはずなのにっ!
 だいたいっ、魔法騎士団であんなことは起きるはずなかったのに……っ。こんなエピソードはストーリーの中になかったんだ!」
「あっ、お待ちなさいっ!」

 シモンは叫びながら学長室を飛び出して行った。

 すごいな主人公。

 ウーリヒ先生がシモンを追いかける姿を見送っていたら、僕の隣でフローリアン様が大きなため息を吐いていらっしゃった。

「ヒムメル侯爵令息、どうも、レヒナー男爵令息の態度が悪くてすまないね。メディチン伯爵令息もせっかく付き添ってくれたのに悪かったね」
「いえ、彼の態度は、先生がたの責任といえるような段階ではないと思います……」

 学長は、眉を下げて僕たちに謝罪をされた。シモンの素行の悪さを僕たち生徒に詫びるなどということは、気の毒でしかない。

 僕は、シモンの謝罪だけは受ける旨を学長に伝え、学長室を辞した。

 それにしても、シモンの言葉によると、どうやら魔法騎士団での騒ぎは物語にはない部分だったようだ。僕の記憶には、細かいことが残っていないので、知ることができて良かった。
 物語の中にないのであれば、精神汚染魔法については、真剣に考えないと物語の流れや補正で丸く収まるということはないだろうと思われる。そうであれば、ラインハルト様をお守りするために、気持ちを引き締めなければならない。


 それにしても、シモンは、あのようなことを口走っていて、一年生の中で不思議ちゃん扱いはされていないのだろうか。

 機会があればヴァネルハー辺境伯令息か、グスタフに様子を聞いてみることにしよう。



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