【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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13.実地演習が始まりました

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「ヒムメル侯爵家の子息として、恥ずかしくない働きをするように」
「かしこまりました。ラファエルの力を、存分に発揮いたします」

 郊外での実地演習を前に、オスカー兄上から激励があった。
 オスカー兄上は僕と同じ薄い水色の瞳だけれど髪が金茶色のせいか、優しげに見える。実際、温厚で落ち着いた人柄であると評されている。
 通常であれば、父から説諭されるところなのであるが、両親は、先日領地に帰った。ヒムメル侯爵領には魔獣の森といわれる場所がある。その森に生息している魔獣が、どのような状態であるかを調査するためだ。
 父は、領地と王都を行き来して、社交と徴税業務の調整をしている。常に領地に滞在して管理しているのは、主に長兄のブルーノ兄上だ。領地の森については、すでにブルーノ兄上がある程度調査をしているであろう。
 王宮で文官をしているオスカー兄上も、いずれ領地に帰って父の持つ伯爵位を継ぐことになっている。
 
「王都近郊の森に実地演習に行くというので、わたしも王宮で情報を集めたが……、かなりひどいようだな」
「学校でもうかがいましたが、凶暴化が進んでいるうえ数が増えているとのことでした」

 学長から命ぜられた通り、実地演習に備えての打ち合わせが行われた。戦闘演習担当のフィンク先生と魔法実技担当のウーリヒ先生、そして生徒会メンバーが集まってのことだ。
 王都近郊の森にいるのは主にコカトリスやマーダーラビット、ブラックパイソンなどだ。常であればさほど強くない魔獣が多いが、それが非常に凶暴化していることや、集団化して人を襲うことが増えていること。また、凶暴化したヘルハウンドの集団と遭遇した騎士もいるという。
 そして、オウルベアのような大きな魔獣はいないはずだが、用心に越したことはないという。

「それは……、一年生とともに行動するのは大変そうだな。だから、騎士団と魔法騎士団も手厚く人員を割くのだろうが」
「今年の校内合同演習でオウルベア型の疑似魔獣を使用したのも、最近の魔獣の凶暴化を考えてのことだそうです」
「ふむ。そういえば、例年はヘルハウンドを模した疑似魔獣を使っていた。攻撃力の強いものに慣れろということだったのか。
 しかし、ヘルハウンドであれば、予定より凶暴化しても今回ほどのことにはならなかっただろうな」

 オスカー兄上は顎に手をやり、何かを思案しているようだ。

「オスカー兄上、何か気になることでもおありでしょうか?」
「うむ、いや、ちょっとな。また、王宮で探りを入れてみよう。
 ラファエルは、実地演習でくれぐれも油断しないようにしなさい」
「はい、心得ました」

 僕は、ヒムメル侯爵家の子息として、また、ラインハルト様の婚約者としてふさわしい働きをしなければならない。
 いつも通りにしていれば大丈夫のはずであるが、物語の流れによっては思わぬことがあるかもしれないので、注意する必要があるだろう。


◇◇◇


 実地演習の日はよく晴れていた。
 僕たち生徒会メンバーのうち、ラインハルト様とディートフリート様、アルブレヒト様、マルティン様、そして僕の五人が主な討伐に回る。フローリアン様とブリギッタ様は、本部で治療などにあたられる。そして、二年生の準メンバーは、通常通りの実地演習に参加する予定だ。

 レーネのことがあったので、シモンのチームは組替えがされている。シモンは、バーデン伯爵令息と二年生のユンカー子爵令息、そして三年生の貿易商の子息であるマルク・タイレ様と同じ組になっていた。
そして、どの組にも、騎士か魔法騎士がつくことになっている。組み合わせを考慮して、どちらになるかを決めているのだろうと思う。これは、例年通りだ。
 バーデン伯爵令息は、シモンと組みたいと自分から申し出たとの噂だ。そんな希望が通るのかは不明だが、合同演習でのやらかしを考えれば、希望者を優先する方が後々の憂いがないと判断したのかもしれない。
 いや、フィンク先生であれば、そのような判断をしないように思う。ウーリヒ先生の采配だろうか。
 ユンカー子爵家はバーデン伯爵家と懇意にしている。ユンカー子爵令息は、おそらく、二年生であるにもかかわらず、爵位が上位であるバーデン伯爵令息に引き込まれたのだろう。あの両家は繋がりが深い。
 ところでマルク様は、チームが発表された後で、「巻き込まれて死にたくない!」と叫んでいたので談合ではないと思われる。そしてマルク様は、巻き込まれそうになったら全力で逃げるようにと、マルティン様から励まされていた。励ましになっていない感じがするが。
 マルク様は不運だとは思うが、マルティン様のおっしゃるように全力で逃げることしか難を逃れる方法はないだろう。
 シモンが神子として覚醒するために、この実地演習で何かが起きるということは予想できるのだから。あるいは、シモン自身が何かを起こすかもしれないのだ。
 用心するに越したことはない。


 学長の挨拶には緊張感があった。実地演習は、けがの恐れもあり、場合によっては命に係わることもある授業だ。この世界では、王都近郊の森の魔獣程度に対応できなければ、生きていけないのだ。
 実地演習では、これまでに死者を出したことはない。けがについても治療魔術師が早期に対応するため、大事に至ったことはないと聞いている。しかし、今年は例年より注意が必要だ。

 そして、フィンク先生のいつになく丁寧な注意事項を聞いてから、僕たちは実地演習のために森に足を踏み入れた。

 

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