【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

文字の大きさ
上 下
4 / 86

4.新入生歓迎会には始まりのエピソードがありますか

しおりを挟む


 入学式から2週間ほどたった頃に、新入生歓迎会がある。入学式は学校の職員が主導で行われるが、こちらは生徒会主導の行事となる。生徒会主導の行事は、全校生徒の親睦を深めるのが目的で行われる。これらの行事は、卒業後も続く社交の人脈を作ったり、平民であれば商売のきっかけを作ったりする場にもなる。

 シュテルン魔法学校は、魔力量が一定の水準に達していれば貴族平民を問わず入学することができる。そのため、魔力量の多い商家の子息子女は、平民の学校に行かず人脈作りのためにこの学校に入ってくる者も多い。
 また、シュテルン魔法学校は、魔法技術や魔法研究の学科で魔法の操作を学習する授業の時数が多いのが特徴だ。しかし、経営学や行儀作法の授業も選択できるため、魔力量の多い貴族の子息子女についてはほとんどがこの学校を選択する。必修科目が多いため、生徒の負担も大きいので脱落する生徒も多く、どの学年でも三分の一ほどの生徒が王立の貴族学院や平民学院に転籍していく。

 学校にある大広間で、新入生歓迎会は行われる。講堂に隣接したこの大広間は、王宮並みとまではいかないけれど、シャンデリアが飾られ、美しい絨毯が敷き詰められたそれなりの豪華さがある場所になっている。全校生徒が集合できるため、各種行事に使用されており、卒業パーティーもここで開催される。

「改めて、新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。このシュテルン魔法学校は、シュテルンで最も厳しい教育課程で運営されている学校です。しかし、それだけのことを得ることができる素晴らしい学校でもあります。わからないことや困ったことがあれば、いつでもわたしたち上級生に相談してください」

 書記をしてくださっているメディチン伯爵令息フローリアン・フォン・グートシュタイン様が司会として場を仕切ってくださる。フローリアン様は、ディートフリート様の婚約者だ。蜂蜜色の髪と目をした可愛らしい方だが、実務には非常に長けていらっしゃる。司会などもそつなくこなされる方だ。

 生徒会のメンバーは、フローリアン様の横に並んで、歓迎会に臨んでいる。生徒会の仕事やメンバーについては、入学式で簡単に周知しているが、新入生歓迎会で改めて挨拶をすることになっている。

 生徒会長のラインハルト様、副会長のアルブレヒト様、会計のディートフリート様、書記のフローリアン様と挨拶をしていく。続いて生徒会長補佐の僕、そして、生徒会補佐のマルティン様、ブリギッタ様と続く。

 プレリイ侯爵令嬢ブリギッタ・フォン・シュベングラー様は、アルブレヒト様の婚約者で、栗色の髪に灰緑色の目の、優美なご令嬢だ。
 王子殿下の側近とその婚約者ばかりが集まっているのは、物語のご都合主義によるものだったのではないかと今になって思う。前世のことを思い出すまでは、当たり前のこととして受け止めていたのだけれど。
 それ以外に、生徒会には二年生の準メンバーとしてアウラー伯爵令息オットー・フォン・ラウシェニングとヨハン・クルツがいる。ヨハンは平民の豪商の子息だ。

 一通りの挨拶が終わると、親睦を深める時間となる。
 以前より知り合いの者もいれば、新たに知り合いになるものもいる。生徒会メンバーはある程度固まって立ち、近づいて来る新入生や在校生の相手をするのが伝統だ。新入生には、王族であるラインハルト様にお声掛けをいただく機会を与えられる。同学年であれば、お話しする機会もあるけれど、学年が違えば校舎は異なるし、カフェテリアや図書館など、出会える機会そのものが限られている。滅多にない経験に、新入生の心が浮き立っている様子がよくわかる。

「ラファエル様、場所を変わってくださいませ」
「はい、そうでしたね」

 アルブレヒト様に促されて、場所を交替する。

 僕がラインハルト様の隣に、アルブレヒト様がブリギッタ様の隣に移動して、婚約者同士の組み合わせとなって、新入生に挨拶をする。そういえば、ディートフリート様とフローリアン様は最初から隣同士であったのだ。
 アルブレヒト様は、婚約者のブリギッタ様をとても大切にしていらっしゃるので、周囲に牽制したかったのではないかと推察する。
 アルブレヒト様がシモンと親密になるといっても、ブリギッタ様との関係は揺るがないと思うけれど、どうなるのであろうか。

 王族特有の微笑みを浮かべていらっしゃるラインハルト様の隣にいると、僕の無表情は本当に『氷の貴公子』だとオスカー兄上から揶揄われたことがある。今の状況もそのように周囲からは見えるのだろう。

 中身はこんなに頼りないのに。

 僕を大切にしてくれる優しい兄。しかし、断罪されるにしても両親や兄夫婦には迷惑をかけないようにしたい。そのためにはどのようなことに気をつければよいのだろうか。

 次々に訪れる新入生と会話をしながら、僕はそのようなことを考えていたのだけれど。

「ラインハルト様! 僕う、シモン・フォン・レヒナーって言いますう。
 ずうっとお話ししたかったんですう!」

 周囲に響き渡る甲高い声が、僕の耳を貫いた。

 声がする方に目を遣れば、シモンが笑みを浮かべ、頬を染めてラインハルト様を見つめている姿があった。

 やはり、とても可愛らしい。僕とは正反対のタイプだ。

 ラインハルト様が、シモンに目を止める。美しいサファイアの瞳がエメラルドの瞳を捉えている。これが、二人が結ばれていく始まりのエピソードなのかもしれない。


 その様子を見ていると、僕の心が痛んだように感じるけれど、気にするのはやめておくことにした。


しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
恋愛
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」  五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。  他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...