【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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4.新入生歓迎会には始まりのエピソードがありますか

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 入学式から2週間ほどたった頃に、新入生歓迎会がある。入学式は学校の職員が主導で行われるが、こちらは生徒会主導の行事となる。生徒会主導の行事は、全校生徒の親睦を深めるのが目的で行われる。これらの行事は、卒業後も続く社交の人脈を作ったり、平民であれば商売のきっかけを作ったりする場にもなる。

 シュテルン魔法学校は、魔力量が一定の水準に達していれば貴族平民を問わず入学することができる。そのため、魔力量の多い商家の子息子女は、平民の学校に行かず人脈作りのためにこの学校に入ってくる者も多い。
 また、シュテルン魔法学校は、魔法技術や魔法研究の学科で魔法の操作を学習する授業の時数が多いのが特徴だ。しかし、経営学や行儀作法の授業も選択できるため、魔力量の多い貴族の子息子女についてはほとんどがこの学校を選択する。必修科目が多いため、生徒の負担も大きいので脱落する生徒も多く、どの学年でも三分の一ほどの生徒が王立の貴族学院や平民学院に転籍していく。

 学校にある大広間で、新入生歓迎会は行われる。講堂に隣接したこの大広間は、王宮並みとまではいかないけれど、シャンデリアが飾られ、美しい絨毯が敷き詰められたそれなりの豪華さがある場所になっている。全校生徒が集合できるため、各種行事に使用されており、卒業パーティーもここで開催される。

「改めて、新入生の皆様、ご入学おめでとうございます。このシュテルン魔法学校は、シュテルンで最も厳しい教育課程で運営されている学校です。しかし、それだけのことを得ることができる素晴らしい学校でもあります。わからないことや困ったことがあれば、いつでもわたしたち上級生に相談してください」

 書記をしてくださっているメディチン伯爵令息フローリアン・フォン・グートシュタイン様が司会として場を仕切ってくださる。フローリアン様は、ディートフリート様の婚約者だ。蜂蜜色の髪と目をした可愛らしい方だが、実務には非常に長けていらっしゃる。司会などもそつなくこなされる方だ。

 生徒会のメンバーは、フローリアン様の横に並んで、歓迎会に臨んでいる。生徒会の仕事やメンバーについては、入学式で簡単に周知しているが、新入生歓迎会で改めて挨拶をすることになっている。

 生徒会長のラインハルト様、副会長のアルブレヒト様、会計のディートフリート様、書記のフローリアン様と挨拶をしていく。続いて生徒会長補佐の僕、そして、生徒会補佐のマルティン様、ブリギッタ様と続く。

 プレリイ侯爵令嬢ブリギッタ・フォン・シュベングラー様は、アルブレヒト様の婚約者で、栗色の髪に灰緑色の目の、優美なご令嬢だ。
 王子殿下の側近とその婚約者ばかりが集まっているのは、物語のご都合主義によるものだったのではないかと今になって思う。前世のことを思い出すまでは、当たり前のこととして受け止めていたのだけれど。
 それ以外に、生徒会には二年生の準メンバーとしてアウラー伯爵令息オットー・フォン・ラウシェニングとヨハン・クルツがいる。ヨハンは平民の豪商の子息だ。

 一通りの挨拶が終わると、親睦を深める時間となる。
 以前より知り合いの者もいれば、新たに知り合いになるものもいる。生徒会メンバーはある程度固まって立ち、近づいて来る新入生や在校生の相手をするのが伝統だ。新入生には、王族であるラインハルト様にお声掛けをいただく機会を与えられる。同学年であれば、お話しする機会もあるけれど、学年が違えば校舎は異なるし、カフェテリアや図書館など、出会える機会そのものが限られている。滅多にない経験に、新入生の心が浮き立っている様子がよくわかる。

「ラファエル様、場所を変わってくださいませ」
「はい、そうでしたね」

 アルブレヒト様に促されて、場所を交替する。

 僕がラインハルト様の隣に、アルブレヒト様がブリギッタ様の隣に移動して、婚約者同士の組み合わせとなって、新入生に挨拶をする。そういえば、ディートフリート様とフローリアン様は最初から隣同士であったのだ。
 アルブレヒト様は、婚約者のブリギッタ様をとても大切にしていらっしゃるので、周囲に牽制したかったのではないかと推察する。
 アルブレヒト様がシモンと親密になるといっても、ブリギッタ様との関係は揺るがないと思うけれど、どうなるのであろうか。

 王族特有の微笑みを浮かべていらっしゃるラインハルト様の隣にいると、僕の無表情は本当に『氷の貴公子』だとオスカー兄上から揶揄われたことがある。今の状況もそのように周囲からは見えるのだろう。

 中身はこんなに頼りないのに。

 僕を大切にしてくれる優しい兄。しかし、断罪されるにしても両親や兄夫婦には迷惑をかけないようにしたい。そのためにはどのようなことに気をつければよいのだろうか。

 次々に訪れる新入生と会話をしながら、僕はそのようなことを考えていたのだけれど。

「ラインハルト様! 僕う、シモン・フォン・レヒナーって言いますう。
 ずうっとお話ししたかったんですう!」

 周囲に響き渡る甲高い声が、僕の耳を貫いた。

 声がする方に目を遣れば、シモンが笑みを浮かべ、頬を染めてラインハルト様を見つめている姿があった。

 やはり、とても可愛らしい。僕とは正反対のタイプだ。

 ラインハルト様が、シモンに目を止める。美しいサファイアの瞳がエメラルドの瞳を捉えている。これが、二人が結ばれていく始まりのエピソードなのかもしれない。


 その様子を見ていると、僕の心が痛んだように感じるけれど、気にするのはやめておくことにした。


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