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26-2.前世の記憶についての取り調べがありました
しおりを挟む「ベル、わかった。本当のことを話そう。落ち着いて聞いて欲しい」
僕はベルの瑠璃色の瞳を見つめながら、話を始める。
「ベル、確かに僕には前世の記憶がある。ベルが気づいているように、ルカが転入してきたときに思い出したことだ。もしかしたら、それは僕の妄想なのかもしれない。真実はわからないけれど、僕の頭の中には確実に存在した物語だ」
「ガブリエレ様……」
「僕の記憶の中の物語では、ガブリエレは卒業パーティーで断罪され、輪姦されて処刑されるという悲惨な姿で生涯を終えていた。僕はその運命から逃れるために、ルカと関わらないことを選んだのだ」
輪姦処刑と言う言葉に、ベルの体がぴくりと反応する。
ガブリエレはその高潔な行動を憎まれ、何の罪も犯していないのに断罪処刑される。ただし、僕はその物語に直接触れていないため、詳しい筋書きはわからなかったとベルに説明する。それを回避するために、リカルドとの婚約を解消することを望み、穏やかに学園での生活を送るように行動したことを話した。ゲームのことは理解してもらうのが難しく、分岐によって筋書きが変わる物語であると説明する。僕自身も、記憶が薄らいできてよくわからなくなっている部分があるのでわかりにくいだろうと思う。
「ガブリエレ様が、一時期、わたしに対してよそよそしかったのは……」
「そう、ルカが語っていたように、物語の中のベルはガブリエレを裏切った。だから、様子を見ていたのだ」
「ガブリエレ様っ」
ベルが泣きそうな顔をして、僕を見つめる。僕は、ベルの顔を両手で包み、その瑠璃色の瞳をみつめて言葉を続ける。
「しかし、僕の中にあるベルへの信頼は揺るがなかった。
そして、ベルが僕から離れて行くと思った時。その時に、ガブリエレが、僕が、ベルを愛していると自覚したのだ」
「ああ、それは……」
僕はそれから、前世の記憶と思われるものが曖昧になっていったことを話した。今では、学園で断罪を避けるための行動をするために意識していた内容ぐらいしか、思い出すことはできない。
それ以外のことは、妹のことぐらいしか思い出すことができなくなったのだ。
ベルは何が聞きたかったのだろうか。ルーチェ帝国から、僕に尋問することを求められたのか。それとも、ベル自身が、僕が前世の記憶があることを黙っていたのが気に入らなかったのか。
ベルの瞳が不安気に揺れている。皇弟として行動するようになってからの、自信に満ちた様子はない。
ベルは、僕を詰問したかったわけではなかったのだろうと、揺らぐその瞳を見て気づく。
ベルは……
「ベルは、何が不安だったのだ?」
「わたし……わたしは。
ガブリエレ様は、本当にわたしを愛しているのかと。物語の記憶に引きずられて、愛しているような気になっているのではないかと、そう思ったのです」
「ルカの話を聞いたのではないのか? あの物語の中に、僕とベルが愛し合う設定はまったくないと思うが」
「いえ、わたしがガブリエレ様を裏切るという設定が全く信じられませんでしたので。わたしがガブリエレ様を裏切るなどあり得ません。ルカの記憶間違いであると。きっと、わたしたちは愛し合っているはずだと思いました。
それで、それをガブリエレ様に確かめたくなってしまったのです……」
「ベル、「様」は不要だ。ガブリエレと呼べ」
「はい、ガブリエレ……」
僕はそのまま、ベルの唇に自分の唇を重ねた。ベルの不安は、僕が以前抱いていたものと似ているように思う。
「ベルは、僕に愛されている自信がないのか?」
「いえ、愛されているとは思っているのですが、あまりうまく行きすぎているような気がして。わたしの人生にこんな大きな喜びがあって良いのかという気持ちになってしまって」
「物語はどうでも良い。僕はベルを愛している。そして、もうすぐ僕たちは伴侶になるのだ」
「はい……」
ベルは、僕と愛し合う物語しかないと思っているのが可愛らしい。
しかし、ルカの証言をこんなに僕に教えてしまって良いのであろうか。職権乱用ではないのだろうか。僕はそちらの方が不安だ。
それから僕は、前世のことで覚えていることをぽつりぽつりと話した。懐かしい、妹のことを。曖昧になった記憶の中で、それは幸せな気持ちを呼び起こすものだ。
ベルがようやく落ち着いて、僕たちは静かにキスをする。
もうすぐ、僕たちは婚姻を結ぶ。
外交を担うベルとともに、僕は、様々な国を巡ることになるだろう。
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