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25-1.こうしてそうなったんだろう ~Sideルカ~
しおりを挟む僕は、ルーチェ帝国の国境の近くにある町の宿屋で働くことにした。マルコと名前を変えて。
ルーチェ帝国は、数年前に皇帝が入れ替わってから景気が良くなったらしい。おかげで、町はにぎやかになってるって宿屋の主人が言ってた。フィオーレの王都とは比べものにならないけど、そんなこと言ってられないよね。
その宿屋では、人手が欲しいということで、すんなり雇ってもらえた。身元確認もいいかげんでラッキーだ。
いろんなところから人が入り込んでるから、細かいことは言ってられないんだってさ。
とにかく、食べる分は稼がないといけない。まだ、死にたくない。男爵家に引き取られる前の生活に戻っただけだと思えばいい。
そんなにたくさんのお金はもらえないけど、男爵家と学園で読み書きと計算を教えてもらった分、賃金が高くなるから、あの頃よりましだ。
うまく脱獄できて、自由な生活ができるだけでもラッキーだ。そんな感じで気持ちを切り替えた。
ここは『ハナサキ』の世界と違うんだってさ。そう思って生きていくことにしたんだ。本当は主人公のはずだったんだけどね。
だけど、そんな生活をしていたのは、ほんのわずかの間ことだった。
それは、宿屋の炊事場の裏で、一人で野菜を洗っているときのことだ。
「あれ? お前、ルカじゃねえのか?」
ルカと呼ばれても振り向いてはいけない。無視して野菜を洗っていると、肩をぐいっとつかまれた。
「なあ、ルカだろ? あっ、もしかしたら、そう呼んじゃいけねえのかな。俺は、フィオーレの神殿兵だったジーノだよ。仲良くしてくれてただろ?」
振り向いたところにいたのは、サンドロの仲間だった神殿兵のジーノだ。ガブリエレの事件には関わっていなかったけど、サンドロと一緒に悪さをしていた他のことがバレて、神殿を追放になったはずだ。こんなところで会うなんて。
「僕は……」
「ああ、不敬罪かなんかでフィオーレにいられなくなったとかか? 大丈夫だよ。黙っててやるからよ」
どうやら、僕が罪人として鉱山に行ってたことも、脱獄のことも知らないようだ。フィオーレの王都のことは、ルーチェの田舎町までは伝わってきていないらしい。このままやりすごしちゃえば大丈夫そうだ。
「うん、そんなとこ。ここではマルコってことになってるから」
「わかった。マルコだな」
にたりと笑ったジーノは、あまり感じがよくない男だった。どうせ、僕の体目当てなんだろう。だけど、この宿屋では、そういう商売はやってない。なんとかやり過ごせるだろう。
光魔法を使うことがなくなったら、どうしてもセックスしたいと思うことが少なくなった。
体を売らないで、好きなときに気に入った相手とセックスする方がいいに決まっている。
ジーノはもともとルーチェ帝国の神殿にいたんだって。家族がルチアーノ派の家の下僕だったからって、現在の皇帝が即位したときに、フィオーレ王国に異動させられたらしい。ルチアーノというのは、一瞬だけ帝位についてた前の皇帝だそうだ。『ハナサキ』には出てきたけど名前だけのモブだったから、僕はよく知らない。ともかく、ジーノは神殿をクビになったから、冒険者登録をしてルーチェに帰ってきたそうだ。
ジーノは何日か宿屋に泊まっていた。その間は、何度か話しかけてきたけど、とくに僕を疑っている感じじゃなかった。そのうち、ギルドから次の依頼があったと言って移動していった。
何か言われたわけじゃないけど、いなくなってほっとした。
これで、僕の「本当のこと」がバレないかとハラハラしていた日は終わった。
そう、僕はそう思って油断してたんだ。
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