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22-1.会いたい人と会いたくない人に会いました

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 ルカは、鉱山で働く受刑者の中でも、監視の厳しい神殿預かりの受刑者の房ではなく、刑務官などの政府の役人の性処理をするための部屋を所内に与えられていたらしい。本来、ルカは受刑者の相手をするはずだった。

 しかし、その可愛らしさに目をつけた刑務所長が、自分の相手をさせようとして違法行為を行っていたのだ。しかも、刑務所長は『魔封じの腕輪をはずせばもっと楽しめる』とルカに言われて、行為の最中に腕輪を外したというのだ。魔封じが無くなったルカは、魔力で刑務所長を気絶させた。刑務所長が朝まで気を失っている間に、監視の甘いその部屋からルカは逃げ出した。
 それが、ルカ脱走の顛末のようだ。

 なんというか……、馬鹿としか言いようがない。

 フィオーレ王国は、鉱山労働の受刑者に性的な発散を許しているぐらい性的にはおおらかな文化の国であるが、刑務官に受刑者を自由にする権限は与えられていない。ましてや、ルカは生涯を鉱山で過ごすと決められた重罪人だ。
刑務所長を始め、ルカの刑執行を怠った刑務官は処罰されるが、余罪もあるようであるし、かなり重い刑罰になるだろう。
 フィオーレ王国では、今回のことを重く見て、各刑務所に厳しい監査を行うことにしたようだ。

 当たり前だな。腐り切っているとしか思えない。

 とくに、宰相であるガロファーノ閣下は腐敗構造を改革すると息巻いておられるようで、アンドレアが忙しくなったとぼやいていた。気の毒……でもないな。頑張れ。

 もともとルカの罪状は、王族に対する不敬罪と公爵令息に対する傷害未遂罪だ。完全な生涯禁固刑……幽閉状態にならなかったのは、成人したばかりの年齢によるところの温情によるものが大きい。

 しかし、たとえ刑務所長がルカに宛がった部屋の監視が甘い状態だったといえど、鉱山地域そのものには厳重な警備がなされている。その鉱山から脱走して足取りを掴ませないというのは、ルカの主人公補正なのだろうか。

 いや、いくらなんでも『ハナサキ』とはストーリーが変わっているのだからそんなことはないだろうと思いたい。

 ともかく、ルカが鉱山から消えたということで、僕の護衛が増やされることになった。ルカが鉱山から王都まで移動するのはかなり困難だと思う。しかし、ルカは異常に僕に対して攻撃的だったことを思えば警戒は必要なのだろう。

 以前も王族の婚約者であったけれど、今はルーチェ帝国の皇族の婚約者だ。フィオーレ王国として、守らなければならない対象者であるとはいえるだろう。

 学園を卒業した僕が、出かけなければならないところは限られている。ルーチェ帝国の皇族に嫁すために必要な教養教育を受けるために王宮へ行くことと、神殿での奉仕活動だ。
 お茶会などへのお誘いもあるけれど、それについては当面お断りすることになる。


 そのように毎日を過ごしていたが、ルカが確保されたという知らせが入ることはなかった。


◇◇◇◇◇


「ガブリエレ様、お久しぶりです。ああ、お会いしたかった」

 その言葉とともに僕をぎゅうぎゅう抱きしめているのは、ベルだ。

「ベル、僕も会いたかったよ。顔が見えるように、腕をゆるめてくれないかな」
「なんと嬉しいことを。ガブリエレ様……」

 僕を見つめるベルの瑠璃色の瞳は、金粉を散らしたように輝く。

 最近になってから知ったのだが、ベルの瞳が金粉を散らしたように見えるのは僕を見つめているときだけらしい。
 それを教えてくれたのは、ロレンツォだ。
 学園卒業後、王宮魔術師団に入ったロレンツォが、光魔法のサンプルを求めていたので、僕は王宮での授業の後に何度か研究室に訪問していた。

「ベルナルディ殿下の瞳が金粉を散らしたように輝くのは、ガブリエレ様を見ているときだけですよ」
「え……、そうなのですか?」
「ええ、そして、あの金色は魔力が溢れている現象なので、限られた人にしか見えません。ガブリエレ様や僕のように魔力の流れが見える者でなければ視認できないでしょう」
「なるほど、そうだったのですか。あれはベルの魔力なのですね」
「そうですね。ふふ。魔力が溢れるぐらい、ベルナルディ殿下は、ガブリエレ様への愛を溢れさせていらっしゃるのですね」
「ロレンツォ様……」

 僕は恥ずかしくなって、俯いた。ロレンツォは楽しそうに笑っている。
 ロレンツォは、魔術師団に入ってから肩の力が抜けたかのように明るくなった。本人によると、リカルドの側近であることで自由に振る舞えないことが、枷になっていたらしい。現在は、好きな魔術研究に専念できるので毎日が充実しているそうだ。

 ベルの瞳を見ながら、ロレンツォの言っていたことを思い出して笑ってしまった。それを見とがめるようにベルの眼差しが鋭くなる。

「ガブリエレ様、わたしといるときに他の誰かのことを考えないでください」
「え?」

 ベルはそう言うと、僕の額に、頬にと、キスの雨を降らせた。

「ベル、やだ。ベルったら」
「だめです。お仕置きですから」
「ベル、んぅう」

 僕の言葉はベルの唇に飲み込まれる。ベルにお仕置きをされる日が来るとはおもわなかった。
 そして、お仕置きをされているらしいのに僕の心は満たされている。


 ああ、僕はなんて幸せなんだろう。

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