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11-2.ガロファーノ公爵家の茶会はどうにかなりました
しおりを挟むガロファーノ公爵家の茶会が終わりに近づいた頃、アンドレアとソフィアの婚姻式の日取りが発表された。
そもそもは、このお披露目のために開かれた茶会だったのだ。ソフィアに関係のないことで騒ぎになってしまって気の毒に思う。
アンドレアのことは、気の毒に思わないけれど。
どうやらガロファーノ閣下は、この機会にルカの様子を見ようという魂胆もあったようだ。
アンドレアは、茶会に参加したいというルカの願いに諾と答えなかった。さすがに自分の婚約者に害されたと騒いだ学友を、婚姻式の発表に招く気にはならないだろう。そもそも、ガロファーノ閣下が男爵家の令息を招く許可を出すわけがない。理由は簡単なことで、政治的な役に立つような家柄ではないからだ。
しかし、ガロファーノ閣下は、ヴァレリオがルカを連れて来るだろうという予測をしていたようだ。
その予想は的中したが、まさか倒れる人が出るような騒ぎになるとは思っていなかったようで、お見舞いの手配は大変なようだ。ソフィアが抜かりなく手伝いをしているとは聞いている。
ルカとヴァレリオは、まだ未成年の学生であることもあり、家庭預かりとなった。当分は謹慎することになるだろう。そして、ルカは危険思想の持ち主とは確定されず、魔法操作の訓練を受けて安全だとわかるまでは学園を休学することになった。
私的な茶会ということから、バルサミーナ伯爵家にはとくにおとがめはなかったものの、宰相閣下の心証は悪くなっただろうと思う。
ルカとヴァレリオの処分が軽いのは、リカルドがルカを茶会に連れてくるようにヴァレリオに頼み込んだからだ。
そんなに熱心だったのに、あの場面ではルカに冷たかった。
公爵家の庭園は、前世で見た『ハナサキ』の中で、ルカとリカルドがセックスしているスチルを思わせる場所だった。ルカの言っていたイベントというのは、あの場所で発情してセックスした二人が愛を深めるとか、ガブリエレを敵認定するとかそんなものだったのではないだろうか。
ストーリーを知らないから、条件については、想像に過ぎないけれど、とにかくルカはあの場所で、リカルドとセックスしたかったんだろう。
だけど、リカルドはルカを見捨てた。
リカルドはルカに恋をしていたと思う。現実でルカとリカルドがセックスしているかどうかは、わからない。ルカがそう言っていただけだ。
そして、今回のことで気づいたことがある。
リカルドとガブリエレの婚姻式の準備は、全く進められていないのだ。
婚姻式の準備には時間がかかる。アンドレアとソフィアの婚姻式の日程もかなり先の話だ。そして、通常の王族の婚姻式であれば、一年以上前から準備が始まる。入学前には、学園を卒業したらすぐに婚姻式を行うということだったのに。
何かおかしい気がする。
もしかして、ルカがいなくてもガブリエレは断罪強姦処刑が必至の公爵令息なのか?
「ガブリエレ様、お茶が冷めてしまったので、新しいものをお淹れします」
部屋で物思いに沈んでいると、ベルが気を利かせて現実に引き戻してくれる。
「ありがとう」
ベルはテーブルに淹れなおしたお茶を置き、僕の傍らに跪いた。
「茶会のときのことを、気に病まれているのですか?」
「そうだね。しばらくは厳しい視線にさらされるのを覚悟しなければならないだろう」
「ガブリエレ様には何の落ち度もないのにっ……」
ベルが悔しそうにそう呟くが、婚約者の僕がちゃんと手綱を握っていないから悪いという人間も貴族の中にはいるのだ。
そんなことを言う貴族のご令嬢と、婚約者の立場を交代してもいいんだけどな。
「婚約のことについては、一度お父様とお話をしたい。あんなことがあったからね」
「では、外交から帰られたら、旦那様にお時間をとってもらうよう伝達しておきます」
父はまた外交のために他国に行っている。
そして、ベルが僕を裏切る件はどうなったのだろう。
「ベル、頼む。いつもありがとう」
「ガブリエレ様のためになることでしたら、わたしは何でもいたします……」
「ふふ、うれしいよ」
僕は、ベルを見て微笑む。
ベルは、いつものように僕の手を握りしめて、金粉を散らしたように輝く瑠璃色の瞳で僕を見つめた。
◇◇◇◇◇
学園内はルカが魔力操作教育を伴った謹慎をしていて不在であることもあって、平穏だ。
リカルドとガブリエレの婚約についてあれこれ噂にはなっているけれど、僕がいつもと同じ態度なので、何か言ってくる者はいない。
いや、公爵令息の僕に絡んでくるルカみたいな人物は貴族にはいないっていうだけのことだ。
噂の内容はエスカレートしているようなので、注意は必要だと思うけど。
ヴァレリオも謹慎中なので、リカルドはアンドレアと王宮の近衛を連れて行動している。
ルカが転入してくる前はこんな感じだったな。
あんな騒ぎになったからには、いろいろと展開が変わってくるだろう。未来を予測できるわけではないし、自分でどうにかしなければならない。
お父様が他国からお帰りになったら、どんなふうに身を処していけばいいか判断していくための話し合いができるだろう。
僕はそう考えていた。
そう、少しばかりゆっくりする時間があると思い込んで、油断をしていたんだ。
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