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10-2.ガロファーノ公爵家の茶会はどうなるのでしょうか
しおりを挟む見事な晴天に恵まれた茶会は、ガロファーノ公爵邸の美しい庭園が会場だ。父の執務室で話したときは、小規模な茶会を開くのかと思っていたのだが、そうではなかった。招待状を見て、僕はそれに気づいたのだ。
そういうわけで、ガブリエレは朝から張り切ったモイラとベルに磨かれて、きらきらの美少年になってここにいる。僕は全く張り切ってはいないが。
レースのフリルが襟と袖口にあしらわれたブラウス。菫の模様が織り込まれた生地を使ったベストに菫色のジャケット。ジャケットの襟には銀糸で菫の刺繍が施されている。そのうえ、髪には銀とアメジストでできた髪飾りがついていて、こんなものが必要なのかという気持ちでいっぱいだ。
昼の正装なので、まだ地味だといえるのだけど、前世に生きていれば一生着ることはない衣装だと思う。
ガロファーノ閣下と公爵夫人、嫡男アンドレアと次男ステファノがホストだ。そして、アンドレアの婚約者ソフィアもアンドレアの隣に控えていた。
アンドレアとソフィアのやりとりを見る限り、以前のような婚約者同士の雰囲気に戻っているように思える。
また、学園でソフィアに聞いてみよう。
「おお、ガブリエレ、よく来てくれた。今日は一段と美しいね」
「ガロファーノ閣下、ご機嫌麗しゅう。本日はお招きいただきまして、恐悦至極に存じます」
父と兄がガロファーノ閣下と挨拶を交わした後、笑顔を作って僕もご挨拶をする。ガブリエレは美少年だから、美しいと言われ慣れている。どうやら、社交辞令だと思っている節があったようだ。
まあ、本当に美少年なんだけどね。
「楽しんでいってくれたまえ。今日はお披露目したいこともあるからね」
「ありがとうございます」
それなりの挨拶をしてから、席に案内される。当然ながら、父と兄と同じテーブルだ。そしてこの後は、他のお客様が父に挨拶に来るので、そのお相手をしなければならない。
そして、リカルドもゲストとして招かれているはずなので、ガロファーノ閣下からの紹介があった後で挨拶に行くことになる。序列からいって、一番に行かねばならないはずだ。
「すごーい! 美味しそうなお菓子がいっぱいだー」
次々に挨拶に来る貴族たちを父と兄とともに捌いていると、場違いな大声が聞こえてきた。
ルカだ。
ルカは真っすぐにお菓子が並んでいるワゴンに向かって、走っていく。どこであろうと走るんだな。
本日招待されているのは、伯爵家以上の貴族とその縁者だと聞いている。ヴァレリオがルカの後を追っているのが見えたので、バルサミーナ伯爵家の縁者として入り込んだのだろう。
ルカが、日頃から傍若無人で無礼な態度を取っていることを考えると、ここに連れてきたヴァレリオの太っ腹に僕は感動してしまうな。
それとも、彼らはルカの態度が気にならないんだろうか。主人公補正とやらでもあるのかな。
リカルドがヴァレリオにルカを連れてくるよう言った可能性もあるけれど、どうなんだろうか。
まあいいか。
ルカが騒ぐ声が聞こえるけれど、僕はそれを無視して、公爵令息としての役割を果たす。
ところで、ガロファーノ閣下は何のためにこの茶会を開いたのだろうか。疑問に思いながらも、茶会が終わるころには謎が解けるのだろうと思っていた。
茶会が程よく盛り上がってきたところで、ガロファーノ閣下の声が響いた。
「今日は、リカルド殿下が特別なお客様として、お越しになっています」
僕たちは立ち上がり、リカルドを迎える準備をする。席次の都合で、リカルドが挨拶をしようとしている場所のすぐ近くにヴィオラ公爵家の席はある。その場所に置かれたリネンの質を見るだけで、王族であるリカルドのためにテーブルセッティングされていると、誰もが思っていただろう。
そして、紹介されたリカルドが、その姿を現したときだった。
「リカルド! やっと来たんだね!」
うれしそうな叫び声と共に、向日葵色の頭が人の間をかいくぐっていく様子が見えた。
その場にいた人たちは、貴族らしく平静を保っていたが、おそらくはひどく驚いていたことだろう。
ああ、わが父とガロファーノ閣下は楽しそうだ。表情が変わらなくてもわかるものである。
彼らが狙っていたのは、これなんだろうか。
「ルカ、少し待っていなさい」
「ええー、リカルドが来るのが遅いから、待ちくたびれちゃったよ」
リカルドがルカに言い聞かせるようにしているが、どうやら聞く耳を持っていないようだ。
「ヴァレリオ、ルカを連れて行ってくれ」
リカルドがさすがに焦った様子で、ヴァレリオを呼んだ。騎士志望のヴァレリオを振り払うルカの瞬発力は、素晴らしいな。
感心している場合ではないが。
「ルカ、リカルド殿下の挨拶が終わるまでは控えておくように言っただろう。
リカルド殿下、ガロファーノ閣下、失礼をいたしました」
ここは学園ではない、貴族の序列がある世界だ。リカルドは王族だ。ガロファーノ公爵家の庭園で開催されている茶会で、それを無視した行動が許されるわけがない。
もしかしたら、主人公補正があるのかもしれないけれど。
そう思いながら傍観者に徹することにする。
真っ青になったヴァレリオが駆けつけて、ルカの腕を持って、連れて行こうとしたのだが。
「僕、これ以上待ちたくないっ!
もうっ! 放してよ!」
ルカはそう叫ぶと、体から魔力を溢れ出させた。
これはまずい。
傍観者に徹している場合ではない。
「失礼します。殿下、閣下、お父様、皆様を魔力から守るために、防護壁を張る魔法を行使いたします」
僕はそう言って、防護壁を張る魔法を発現した。リカルドとガロファーノ閣下が頷いているのが見えたので、事後承認成立だ。
咄嗟のことだし、すぐ近くで魔力を放出しているので、貴人を守るために完璧なものを構築しなければならない。そのため、広範囲に防護壁を張ることはできない。しかし、リカルドとガロファーノ公爵家の人たち、そして、僕の家族をカバーすることはできるはずだ。そう考えながら、僕は防護壁を張った。
他の人たちも僕の声を聞いて、自分で防護壁を張るのが間に合えばいいなと思いながら。
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