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9-2.イベントはいまだ達成できていないようです
しおりを挟むグラディオロ神官のお説教が終わってから、僕はリカルドに社交辞令としての挨拶をした。
「ガブリエレ、お前は優秀だとグラディオロ神官が言っていた……」
「殿下の婚約者として、相応しい行動ができるよう、心掛けております」
「うむ。そのまま、励むようにな」
「心して望みます。激励くださいまして、ありがとうございます」
リカルドは、そのまま踵を返して去って行った。外部の評価については打ち消すようなことをしないんだな。案外いいやつなのかもしれない。
いや、僕を断罪強姦処刑するやつだ。気を抜いてはいけない。
グラディオロ神官は、ジャチント神官長に報告するから話を補強してくれと、僕に頼んできた。そして、結局、僕は神殿の本部まで連れて行かれた。何の予定もないけれど、僕にとっては巻き込まれ事故だ。
神殿は王家に正式に申し入れをすることになりそうで、話が大きくなりそうな気配がする。
神殿からの帰り道で、光魔法を使った後は激しくされたいと言って青姦していたルカとサンドロのことを思い出した。だけど、四人でどう割り振るのかもわからないので、その件については考えるのをやめた。
結局、ルカは難病を完治させることはできなかったようだ。イベント達成はまだできていないと考えていいのかな。
◇◇◇◇◇
僕は、王子配教育のために定期的に週に一度、王妃様に呼び出されればその都度、王城に足を運ぶ。
神殿での騒ぎの後、すぐに王城に行く機会があった。その日、王子配教育が終わってから、父の執務室に呼び出されていた僕は、季節の花が色とりどりに咲く美しい庭園に面した回廊を通って文官のいる政務棟へと向かった。
入り口にいる近衛兵士に挨拶をして、父の執務室に入る許可を取り次いでもらう。僕の顔を見知った兵士だったから、話は早かった。頬を染めて案内してくれる近衛兵士は、さすがに、なかなかの男前だ。
そもそも呼び出されたのだから、入れないわけはないけれど、そこは王宮だからね。
執務室の中には、僕の父と、宰相であるガロファーノ公爵がいた。アンドレアによく似た紅い髪に緑色の瞳の美形だが、息子のような神経質さはない。むしろ、大らかそうに見える。多分、お腹の中は真っ黒だと思うけれども。
「ガブリエレ、久しぶりだね」
「ガロファーノ閣下、ご機嫌麗しゅう」
僕は、パオロに褒められた威力のある笑顔ではなく、貴族らしい曖昧な笑顔を作ってガロファーノ公爵に向ける。
ガブリエレは元がいいから、どんな風にしていても見目麗しいけれどね。
相手は百戦錬磨の宰相だ。
勝負するわけじゃなくて、断罪のときに味方になってくれる要素があるなら、使わない手はない。だから、好感度は上げておいた方がよいと思う。
椅子に座って、お茶を供される。手土産に持ってきた菓子は、この席でいただくものだけでなく、父のいる外務省と宰相のいる内閣府の文官に行き渡るように持ってきている。文官がほくほくしながら、菓子を運んでいるのを父とガロファーノ閣下が微笑まし気に見ている。持ってきたのは僕だけど、彼らの手柄になるんだろう。うん、知ってる。
「ガブリエレが、愚息アンドレアに公爵令息としての嗜みを教えてくれたようだね」
「公爵令息としての嗜み……」
おそらく、公爵令息が邪魔だと思った人間をどうするかって話だな。アンドレアは、父親に聞くことができたのか。
そう思ったけれど、僕はしらばっくれることにした。狸親父相手に手柄顔をしても、ろくなことはない。
僕は再び貴族の笑みを顔に貼りつけた。
「アンドレア様のことは、リカルド殿下の側近として、活躍されているところを学園では拝見いたしております。お話をすることは、あまりありませんが」
「なるほど、愚息は偶然によい話を聞けたのだね。ガブリエレは聡い。ヴィオラ閣下がうらやましいな」
「ふん。おだてても、茶とガブリエレの持ってきた菓子しか出んぞ」
「ふふふ。この菓子はうまいぞ。
ところで、最近リカルド殿下が仲良くしているという噂のある男爵家の子どものことなのだが……」
本題はこっちか。きっと、神殿から王家に苦情申し立てがされたんだな。
ガロファーノ閣下は、神殿で何が起きたかを詳しく知りたいようだった。アンドレアに聞けばいいと思うんだけど、彼には、療養所の中のことがわからないのかもしれない。
僕は父上に報告済みの話から、僕の主観を省いて事実だけをガロファーノ閣下に話した。アンドレアの知らないことといえば、ジャチント神官長と話したことだろうけど、それは神殿に聞けばいいだろうと思う。
その後は、ルカの人となりを聞かれて困ってしまった。
あまり、ルカのことを悪く言ったら断罪に巻き込まれそうだし戸惑う。どうして関わらないようにしようと思うのに、こんなことになるんだろうか。
「いや、ガブリエレは本当に聡明だ。また、茶会を催すから、ぜひ参加してくれ」
ガロファーノ閣下はご機嫌でそんなことを言って帰って行った。僕は間もなく、それが社交辞令ではなかったと知ることになる。
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