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1-2.とにかくゲームは始まった

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「ちょっと状況を整理しよう」

 僕は、コンビニに突っ込んできた自動車にはねられて死んだ。そして、『王立学園に花は咲き誇る~光の花を手折るのは誰?』の世界に生まれ変わったようだ。
 いわゆる異世界転生というやつだ。そんなことが本当にあるとは思わなかった。

 そして、僕は断罪必至の悪役令息だ。

「これは、とてもまずいことになっているのではなかろうか……」

 BLゲーム『ハナサキ』の設定を思い出す。

 攻略対象その1は、僕の婚約者であるフィオーレ王国第一王子リカルド・デ・フィオーレ殿下。銀色の髪に薄い青の瞳。魔法属性は水。いかにも王子様といった風情だけれど、性格は俺様で落ち着きがない。婚約者である僕、ガブリエレは大変優秀ではあるが、生真面目で無表情。リカルドはガブリエレに親愛の情を持つどころか、むしろ疎ましく思っている。そのうえ、母親である王妃殿下からも、第一王子に相応しい振る舞いを求められ、厳しくされる窮屈な生活。
 母親からも婚約者からも温かい愛情を与えられず、鬱屈した感情を持っていたリカルドの前に、愛らしいルカが現れる。素直な感情を表しながら、物おじしないで自分に近づいてくるルカ。そんなルカに「あなたは自分の力で、この世で一番輝くことができるはず」と微笑まれてリカルドは恋に落ちる。


 攻略対象その2は、宰相であるガロファーノ公爵のご嫡男アンドレア・デ・ガロファーノ様。魔法属性は風。紅い髪に緑色の瞳。宰相である父親に厳格に育てられた真面目で神経質な人物だ。優秀な弟のステファノと比べられてコンプレックスも強い。
 ルカはそんなアンドレアに、「あなたは、あなたとして生きているだけですばらしい」と声をかける。ルカから無垢な笑顔を向けられて、アンドレアは恋に落ちる。婚約者はソフィア・デ・ムゲット侯爵令嬢。美しいけれど控えめな性格で、アンドレアは物足りなく思っていた。


 攻略対象その3は、騎士団長であるバルサミーナ伯爵のご三男ヴァレリオ・デ・バルサミーナ様。茶色の髪にピンク色の瞳。魔法属性は火。子どもの頃乗っている馬車が強盗に襲われて、自分を庇った従兄弟を亡くした。そのときに受けた心の傷でヴァレリオの性格は苛烈になり、ただ強さだけを求めて剣の修行をするようになっていた。
 彼はルカから「守るものがある人は、強くなる」と聞いて、大切なものを守ることが心を強くすると気づく。そして、ルカを自分が守る対象として意識するようになっていく。婚約者は、ヴァレリオと同じ騎士科に在籍するファビオ・デ・アザレア子爵令息様。戦略家のファビオをヴァレリオは小賢しいと思って避けていた。


 攻略対象その4は、魔術師団長であるニンフェア侯爵のご次男ロレンツォ・デ・ニンフェア様。真っ白な髪に黄水仙色の瞳。魔法については水・風・火・地の4つの属性を持っている。幼い頃から卓越した魔力を持ち順調に魔術を取得してきたがために、世界の何もかもが面白くなくて虚しく毎日を生きていた。
 しかし、魔術の実践授業のときに、ルカの使う光属性の魔力の美しさに魅せられて、新しい魔術を探求する意欲が出てくる。そして、その美しい魔力を持つルカに恋心を抱くようになる。

 そういえば、ロレンツォには婚約者はいない。

「確かゲームでは、ロレンツォ様にも婚約者がいたよね。妹からの情報だから不確かだけど……」



 王族や高位貴族の子息が、安い励ましで次々に落ちていくのはゲームのテンプレだ。だけど、現実世界の彼らを見ている立場になると、そんなにチョロくて大丈夫なのだろうかと思う。
 少なくとも、あの行動様式では、政治の中枢にいるのは無理だ。
 高位貴族に相応しい振る舞いをするよう教育を受けたガブリエレである僕は、そう考えるのだ。

 だけど……

「ゲーム通りになっていくのかもしれないのか」

 妹から聞いたガブリエレの行く末を、できる限り思い出す。

 ガブリエレは、ルカがどのルートを通ってもリカルド殿下から婚約破棄をされる。そして、断罪されて処刑されるのだ。
 ガブリエレ自身は高潔すぎて、いわゆる苛めをするようなことはない。取り巻きがした嫌がらせの責任を取らされるのだ。
 ガブリエレは、ルカが貴族としての振る舞いを身に着けるようにと注意をし続けた。多くの男性と関係を持つような不品行にも、耐えられなかったのだろう。そうは言っても、あくまで、口頭で静かに諭しただけだ。
 しかし、取り巻きの嫌がらせとともに、そうやって注意したことが断罪の理由となる。

 ガブリエレに転生した今となっては、全く納得できる理由ではないのだが。


『ガブリエレの断罪は可哀想だったわ。ガブリエレ自身は、悪いことはしてないの。厳しいだけでさ。でも、高潔な公爵令息じゃなきゃいけないという気持ちが強すぎて、自分が責任をとっちゃうんだよね』

 妹はガブリエレの処刑について、そんな風に言っていた。
 ガブリエレが酷い目に遭っているエロいスチルは、熱心に集めていたようだが。

 僕は、ハーレムルートの結果を聞いていないから、その場合にガブリエレがどんなふうに断罪されるのかはわからない。
 他のルートでは、地下牢に閉じ込められて輪姦された後、処刑される。ハーレムルートであればもっとひどい目に遭ってから処刑されるという可能性もあるのではなかろうか。

 そう考えてから、僕は体をふるりと震わせた。


 主人公、ルカ・デ・ジラソーレは、フィオーレ王立学園に転入してきたところだ。

 僕が気を失う直前に見た光景は、学園の玄関から入って来る向日葵のような黄色の髪と空色の瞳を持った少年が、リカルドにぶつかる姿だ。
 あれは、ゲームに出てきたルカ・デ・ジラソーレだった。

 あれがきっかけで、前世のことを思い出したのか。

 妹が楽しんでいた『ハナサキ』というゲームのこととともに。

 学園で気を失った僕は、家に運ばれたと推測される。どれぐらい気を失っていたのかはわからないけれど。


 とにかく、ゲームは始まった。

 そう考えて行動すべきだと僕は考えた。


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