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67.主人公はハッピーエンド
しおりを挟む「ノエル・レイトン、最後に話ができて良かったよ」
「ふふ、僕が主人公の物語を聞きたいなんて、変わってるね。どうせアンタたちは物語なんて、僕の妄想だと思ってんだろ?
それとも、アンタ転生者? いや、アンタは僕が主人公の物語には登場しないから、違うかな」
「そうか、わたしは物語には登場しないのか」
「うん、それはどうでもいいんだ。どうせ、いつだって僕の知ってる物語とは、ずれてるんだから」
「いつだって……?」
「まあ、そんなことはどうでもいいじゃん。今回はハッピーエンドだから、僕は満足してるんだ。レボリューションは失敗だったみたいだけどね」
ノエルはクリスティアンに向かって可愛らしい、それでいて不敵な笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇
エリオットとヘンリー、ノエルの処分は卒業式の少し前に決定された。三人とも卒業式には出席しない。したがって、『コイレボ』で展開された断罪劇というものが実行されることはないだろう。
アルフレッドは、アラステアとクリスティアン、ローランドを前にしてそのことから話し始めた。
「エリオット・ステイシーは医療施設へ入ることになった。二度と我らの目の前に現れることはなかろう」
人払いをしたウォルトン公爵邸のソラリウムで、アルフレッドが淡々とした口調でアラステアとローランドにそう告げた。
エリオットは自分がアルファになったと思い込むほど精神的に病んでいると診断され、刑罰ではなく医療措置を受けることが妥当だということになった。実際には洗脳に近い状態だったのだが、ノエルが洗脳したという証明ができなかった。それゆえに医師は、精神的な病という判断をするのが妥当だと考えたのである。実際エリオットは、洗脳が解けても正気に戻るかどうかはわからず、医療施設を出る見通しは立たない状況である。
「医療施設で、ほぼ生涯監禁状態になるということですね」
監禁というローランドの言葉を聞いて、アラステアがこくりと喉を動かした。
一生顔を合わせることは無い。それだけでもアラステアにとっては、これから生きていくにあたって、必要なことのように思えた。再びエリオットに出会うことがあったら、アラステアの方が精神的に立ち直れなくなってしまうだろう。
アラステアの震える手にクリスティアンが手を伸ばす。アラステアの様子を確かめるように、そうっと触れるクリスティアンの手は温かい。
「アラステア、大丈夫かい?」
アラステアが嫌な気持ちになっていないかと、窺うようにアラステアの顔を見るクリスティアン。その赤い瞳を、アラステアの紫色の瞳が捉える。
「はい……、ちゃんと話を聞く覚悟はできています」
アラステアは自分を励ますように頷くと、アルフレッドに向かって「続きをお願いいたします」と告げた。
「では、話を続けよう。ステイシー伯爵家そのものに対する刑罰は、今回はない。精神的な病に陥ったエリオットが単独で暴走したことであるからという判断だ」
アルフレッドが話すステイシー伯爵家に対するものは甘い対応であるように思える。しかし、刑罰がないのには理由がある。ステイシー伯爵家は、これからラトリッジ侯爵家に莫大な慰謝料を支払わなければならないのだ。夏の豪雨で荒れた領地の整備も未だできていないステイシー伯爵家にとっては、大きな負担になるだろう。しかし、ステイシー伯爵家をすぐに追い込んでしまっては慰謝料の支払いができなくなってしまう。
そのあたりは、ラトリッジ侯爵がうまく操作していくのだろう。
「次に、ヘンリー殿下はファクツ皇国の皇子であるからな。国にお帰りいただいての処罰となる。相応の慰謝料をラトリッジ侯爵家に支払うことになる予定だ。ヘンリー殿下は未成年であるから、離宮にて謹慎処分だ。そして、オネスト王国には生涯入国禁止となる」
ヘンリーは、強力な薬を確かめもせずに安易にアラステアに使ったことで、大変な事件を起こした。皇族としては致命的に緩い意識が問題視されている。謹慎中は離宮から一歩も出ることは許されず、厳しい再教育がされることが決定されている。
「ヘンリー殿下は、ノエルの言うことを素直に信じてしまうような……そう、軽い暗示をかけられているようでしたが、それについてはファクツ皇国で対応されるのですか?」
クリスティアンは、その答えを知っているのではないかという質問をアルフレッドに投げた。アラステアとローランドに聞かせるためであるのだろう。
「ファクツ皇国は皇子を暗示にかけたことと、皇子を謀って劇薬を渡したことを踏まえて、ノエル・レイトンを引き渡すように言っている。結果としては、ノエル・レイトンはファクツ皇国に行くことになるだろう」
ノエルはヘンリーを暗示にかけてはいないと言っている。そして、劇薬については、ただ眩暈を起こす薬だと思っていたという供述であった。入手経路は、レイトン男爵家に引き取られる前に近くに住んでいた退役軍人から、譲られたという。退役軍人は既に亡くなっているが、そのような薬を持っていたことと、ノエルが親しくしていたことは調べがついている。
ノエルも未成年であり、扱いが難しいところであるが、皇子が犯罪に手を染める手助けをしたため、微罪であっても処罰は行われる予定だった。本来であれば自国の国民を他国に引き渡すようなことはしないのであるが、今回は特殊な事情があった。
「ヘンリー殿下は、ノエル・レイトンを自分の傍に置く気であろう。その要求を満たすことにファクツ皇国はこだわったのだろうと思う。そして、ノエル・レイトン自身もそれを望んだのだ」
「それでは、まるでご褒美ではありませんか……!」
「そんな……」
ローランドは異議を唱え、アラステアはあまりの意外さに言葉が続かない。
「ノエル・レイトンは、今回はハッピーエンドだと言っていましたね」
クリスティアンが抑揚のない声で呟くように言葉を発する。
主人公ノエルは攻略に成功し、ハッピーエンドを迎えたということなのだろうか。
アラステアとローランドは割り切れない気持ちを抱えながら、クリスティアンとアルフレッドの顔を見た。
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