ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第十九話

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 一刻でも早く地上に戻りたい願望はあったが、ヒロキとイサリアはまずは携帯した食料で食事を摂ることにした。地下にいるのではっきりした時間はわからなかったが、腹具合から学院の夕食時刻である午後六時は過ぎていると思われた。
 何回か休憩を入れたものの彼らは六時間程を歩き続けていた計算になる。しかも帰還中に何が起きるかは未知数だ。この場で体力と気力を回復させる必要があった。
「しかし、あの石像には騙されたな。まさか目的の蛇の置物の方に疑似生命の魔法を掛けていたとは・・・私も一杯食わされた!」
「しかも、下手に攻撃して壊したら失敗になるし!」
 石壁に背を預けて座る二人は食事をしながらも、学院側に対する愚痴を吐いた。食べているのはパンの間にベーコンとチーズを挟んだ所謂サンドイッチだ。こちらの世界では単純に〝パン挟み〟と呼ばれていたが、一般的な軽食として定着していた。簡単な食事ながらも空腹ためか美味しく感じられる。
「うむ、少なくとも原型を留めていなければ回収したと認められないだろうからな。〝魔弾〟のような物理的にダメージを与える魔法で破壊して対処するのは悪手だ。おそらくは・・・状況を見定めて最も効果的な魔法を使えるか、といった判断力と咄嗟の対応力を量るつもりだったのだろう。まあ、それでもいかにも動きそうな石像に持たせて配置するあたり、かなり捻くれておるな!こんなことを考えるのは導師シャルレーに違いない!」
「確かにあの人なら・・・やりそうだな」
 ヒロキは背負い袋に斜めに入れた蛇の棒に視線を送る。長いので頭にあたる部分がはみ出てしまっているが、丸みを帯びた造形の中にも危険な気配を持つ蛇と妖艶な美女であるシャルレーは確かにイメージが重なると思われた。
「・・・・でもイサリアは上手く対処したじゃないか!」
 デザート代わりに持って来ていたリンゴをイサリアに渡しながらヒロキは彼女を褒める。シャルレーは警戒しなくてはならない人物ではあったが、今は帰りの英気を養うために食事の方が重要だ。
 彼は早速、自分の分のリンゴを丸かじりする。思っていたより甘味は少なく酸味も強いが、疲れた身体には丁度良かった。
「うむ、その辺は抜かりないさ!・・・なかなか豪快な食べ方だな、ヒロキ。リンゴは皮ごと食べられるのか・・・」
「うん、むしろ皮の方に、ポリなんとかって栄養があるらしい・・・。持って来る前にちゃんと水で洗ったから皮ごと食べられるよ」
「そう言えば、こういった食べ物や薬学に対する関する研究はヒロキの世界の方が進んでいるのだったな。私もそうやって食べてみるか・・・」
 イサリアは渡されたリンゴに小さな口を当てる。その姿はリスかウサギのように愛らしい。もっとも彼女は本物のお嬢様だ。リンゴを皮ごと食べるのは初めてだったに違いない。

「・・・思った以上に酸っぱいな・・・」
「それは皮とは関係なく、果肉に含まれているクエン酸とかビタミン等のせいかな。たしか疲労回復の効果があるはずだ」
「なるほど、そのような成分がリンゴに含まれているのか・・・ひょっとしてヒロキは今私達が疲れていること予見してリンゴを持って来たのか?」
「・・・そこまで深くは考えていなかったけど、パンと肉とチーズだけでは栄養バランスが悪いと思ったから、リンゴも食堂の厨房からもらってきたんだ」
「そうか、ヒロキは無意識レベルでそのような知識を活用しているのだな。魔法が存在しないと世界と聞いて当初は驚きもしたが、やはりヒロキの世界は侮れないな」
「そうなのかな・・・まあ俺も日本の教育は受験対策で中身が無いとか聞かされていたけど、こっちに来て結構役に立つことが多いんで、実はそれなりにしっかりしていたんだと思い直しているよ」
「うむ、私も魔法以外の学問も重要だと思うきっかけとなった。この世界は魔法に頼り過ぎているともな」
「それは良かった。リンゴを食べ終わって、もう少ししたら出発しよう」
「ああ、この手の話は戻ってからまたゆっくり語ろう!」
 根本的には異なりながらもどこか類似した文化に育った二人にとって、語り合う話題は尽きなかったが、ヒロキの提案にイサリアは同意する。まずは安全を確保する。それは如何なる人間であろうとも最優先にすべき課題だった。

「こっちだな」
 ヒロキはイサリアの案内に従って地下通路を辿っていた。課題物を見つけるために第五層を縦横無尽に探索し続けた彼らだったが、ただやみくもに歩いていたわけではなく、要所にはチョークを使って目印を残している。
 その役目はイサリアが担当していたので、彼女が大穴までの最短ルートを見つけてくれるはずだった。気になることがあるとすれば、再び死骸となった巨大芋虫の脇を通らねばならないということだろう。
「ヒロキ・・・少し問題が発生した・・・」
「・・・何かの気配を感じた?!」
 何度目かの十字路に辿り着いたところでイサリアが警告を発する。これまでにないほど緊張した声だ。ヒロキは照らし出される光源の先を見逃さないようにしながら、自分でも脅威の存在を感じようとする。
「いや・・・そうではない・・・どうやら道に迷ったようだ・・・」
「まじか!目印を付けていたんじゃないの?!」
「付けてはいたのだが・・・どこかで見逃したか、見間違えたらしい・・・済まない」
「なんでそんな!・・・いや、そうかイサリアでも失敗することがあるのか、ふふふ」
 当初は非難の気持ちを覚えたヒロキだが、常に自信溢れる態度のイサリアが自ら謝罪を口にしたことによる違和感から苦笑を浮かべてしまう。彼女にも申し訳ないと思う概念があったのだ。
「そんなに笑うことはないだろう!私も人の子だ。年に一回くらいは失敗もする!」
「いや、失敗を笑ったわけじゃない。イサリアでも他人に頭を下げることがあるんだなってさ!」
「明らかに自分の過失の場合は謝るさ、目印は私の役目だったからな・・・。とは言え、ヒロキが感情的になって無意味な責任追及をしないでくれるのは助かる。とりあえず、先程の十字路まで戻ろうか」
「そうしよう」
 賛成を示してヒロキは身体の向きを変える。引き返すのは精神的な疲労を感じさせるが、今歩んでいる通路はまったく新しいルートというわけであり、学院側が用意した試練やモンスターと遭遇する可能性が高くなる。リスクを考えると戻るのが正解だ。

「待った・・・」
「どうし・・・」
 戻ろうとするヒロキをイサリアが呼び止める。理由を聞こうとした彼も鼓膜を震わせる微かな音を感じると、口を閉じて耳を澄ませた。左側に続く通路の先から、壁か床を叩いているような乾いた打撃音が聞こえてくる。独特なリズムを保っていることから何かしらの知性が関与しているに違いない。芋虫には出来ない芸当だ。
「助けを求める合図だ」
「みたいだね・・・」
 おそらくはこの世界でのモールス信号のようなものだろうとヒロキは理解する。リズムごとに文字の意味を持たし、それを組み合わせて鳴らすなり今回のように叩くなりして音を出せば、離れた場所にもメッセージを送ることが出来る。
 もっとも、今はミゴール昇格試験の最中である。リズムの意味がわからなくても他の受験生が助けを求めているのだろうと察することが出来た。
「・・・どうする?」
 念のためにヒロキはイサリアに問い掛ける。この状況で助けを無視するわけにはいかないが、パートナーの同意なしに動くことは出来ない。またこれが学院側の用意した試練である可能性もあった。
「もちろん確認しに行かねばなるまい。試験の攻略に協力する気はないが、助けを求められればそれはまた別だ!」
 イサリアの判断に従いヒロキは音が伝わる通路に向かって歩き出す。しばらくして通路は上下に繋がる階段を持つ広間に辿り着いた。上に向かう新たなルートを見つけたわけだが、リズム音は階下の第六層から響いている。ヒロキ達は警戒を続けながら下に向かって階段を降りて行った。
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