ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第十六話

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 階段を降りた先は開けた空間となっていた。周囲は磨かれた石壁で構成されており、大きさは一般的な体育館程の広さがある。天井もかなり高いので光さえ充分ならば地下であることを忘れてしまうだろう。
 だが、広間の中央に開いた大穴と何カ所かの壁面に設けられた階段から、ここが地下施設への本格的な入口であることを察することが出来た。
 ヒロキ達よりも先に降りた受験生達は、まだ全員がここに留まっておりお互いに話し込んでいた。大穴に近づくイサリアもその中の一人である男子生徒から話し掛けられる。
「こちらは四層が目的地なのだが、途中まで一緒に行かないか?」
「申し訳ないが、私達は独自に行動するつもりだ」
「そうか・・・わかった」
 イサリアの答えに男子生徒は大袈裟なジェスチャーで反応を示した。どうやら彼らは協力する仲間を求めているようだ。昇格試験は異なる組での協力も認められている。頭数が増えれば単純に戦力は上がり脅威の難易度は下がる。ある意味当然の戦術と言えた。

「・・・途中まででも協力した方が良くない?」
「その手は私も考えたが、この地下施設には二人しか通れない場所等も存在する。その場合、下手をするとトラブルの元になりかねない。私はそれを根本から避けるつもりだ・・・それに利用と協力は明確に区別するべきだ」
「なるほど・・・」
 大穴を見下ろして立つイサリアにヒロキは小声で問い掛けるが、返答によって事前に聞かされた説明を思い出した。この試験はミーレとしての総合的な能力を試す場だ。数の力でのゴリ押しされたのでは試験の意味が薄くなる。当然のことながら学院側も対策をしていた。
 数に頼るのも有効な作戦だが、内輪揉めを避けて独自の行動を取るのも戦術の一つなのだ。また、彼女にしてみればこの場での協力の誘いは今更感があるのだろう。
「うむ、では私達はこの穴から一気に下に行こう。階段で降りるより、その方が楽だろう!」
「・・・なんだって!」
 排気口、もしくは学院長の塔にあった魔法式のエレベーター用の穴だろうか、正式な目的はわからなかったが、イサリアは地獄まで続いているような直径四メートル程の大穴を指差すとヒロキに告げた。
「一気に下に行くと言った」
「ちょ・・・!」
 その言葉とともにイサリアはヒロキの手を握ると穴に飛び込んだ。小柄な彼女とは言え、人間一人分の体重に引っ張られてヒロキも身体を支えきれずに穴へと引き摺り落とされる。
「うおぉぉぉぉぉお?」
 穴に反響する自分の悲鳴を聞きながらヒロキは、身体が急に奇妙な浮遊感に包まれるのを覚えた。閉じていた目を開けると自分がゆっくりと下に落ちていることを知る。魔法の光源に映し出さる大穴の壁面が無駄に幻想的で美しかった。

「・・・おい、ヒロキ。そろそろ気付け・・・」
「うわ!ごめん!」
 イサリアの呼び掛けにヒロキは自分の状態を知る。彼はイサリアの身体を必死に抱き締めていたからだ。頬が擽られると感じていたが、それは彼女の金髪だった。
「おっと、手は放すなよ!落ちるぞ!」
 慌てて離れようとするヒロキの手をイサリアが改めてきつく握る。
「私が以前に〝飛翔〟を使えるとは伝えていただろう?ちょっと驚かすつもりだったが、あそこまでヒロキが慌てるとは思わなかったな!」
「急に穴に飛び込んだら、驚くに決まっているだろ!」
「いや、それでもあんなに激しく抱き付かなくていいだろう。危うく杖を落としそうになったぞ!」
「ああもう!自分でしといて何て言い草だ!」
「まあ、そう言うな。私のような麗しい乙女に抱き付けたのだから男子としては悪い気ではなかろう?」
「イサリア・・・お前!ちょっと可愛いからって調子に乗って!もう一週間は一緒に過ごしているんだぞ。どんな美人でも見慣れるって!それに既にイサリアの方から抱き付かれたこともあるし!今更ちょっと抱きしめたくらいで嬉しいわけ・・・いやちょっとは嬉しいが・・・」
 イサリアの言葉に反感を抱いたヒロキは、これまで抑えていた反発心もあり食って掛かる。だが、寸前まで感じていた彼女の温もりと甘いような匂いを思い出すと言葉を詰まらせてしまう。華奢なようでいて柔らかいイサリアの身体の感触は彼の男としての本能を呼び起こさせた。
「おい・・・ヒロキ、やめろ!そんなこと言うな・・・」
 その後、二人は気まずい静寂に包まれながら降下を続ける。永遠にも感じる時間の後に彼らの靴底は堅く冷たい石の感触を捉えた。穴の底に辿り着いたのだ。
「良く考えたら・・・私達は人目のない地下で二人きりだな・・・」
 イサリアは湿り気の帯びたヒロキの手を離すと、自分達の状況を正しく言葉に表した。

「さっきはヒロキが変ことを言うから焦ったが、よく考えてみれば君が愚かなことをするはずがないな!」
 前を進むイサリアは後ろを振り返ることなくヒロキに告げる。一時は緊張した空気に包まれた二人だったが、遠くから獣が唸るような音を聞くと、大穴から抜け出して地下の探索を開始していた。
「・・・それは、俺を男として信頼してくれたのかな?」
「ここでそうだと答えるのが最も無難なのだろうが、正確に言えばヒロキを男として信頼したと言うよりは、判断力を信頼したと言うのが正解だな。もしヒロキが男としての本能に従って私に強引な関係を迫っても、私は〝眠り〟か〝麻痺〟を使って君を傷付けずに無力化することが出来る。そうなれば今まで築き上げた私との信頼は全てなくなり、元の世界戻す約束も反故になる可能性がある。ヒロキがそんな愚かなことをするとは思えない。と言うわけだ」
「わかっているなら、そこは、ヒロキを信じていた!とかで済ませてくれよ。俺がイサリアに敵わないのは当たり前なんだしさ!」
「はっきり言うのは私の性格だから、諦めてくれ。それに時間を・・・」
 何かを告げようとしたイサリアだが、途中で口を噤んで歩みも止める。ヒロキもその意図を見抜くと聞き耳を立てた。唸り声がまた聞こえたからだ。まずいことにその音は先程よりも大きく感じられた。
「近づいている・・・前からだ・・・」
「そのようだな、このまま進むと接敵するだろう」
「早く戻って、他の横穴に進もう!」
「何を言っている。一方通行の通路を前から来てくれるのだ。後ろから奇襲されるよりずっと楽ではないか。ここで迎え撃とう」
「うう、やはりそう言うと思った・・・」
「わかっているなら口にしなくても良いだろう」
「君と一緒だ!」
「・・・ふん!」
 皮肉に鼻息で答えるイサリアの背を見つめながら、ヒロキはポケットから緊急脱出用の水晶を取り出した。イサリアが優秀な魔術士であることは理解しているが、戦闘力については未知数だ。最悪に備えることは忘れなかった。
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