ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

文字の大きさ
上 下
16 / 33

第十五話

しおりを挟む
「諸君が魔術士、帝国士官の更なる高見を目指そうとする志を学院長として誇りに思う。可能ならば全員にその資格を与えたいくらいだ。だが、ミゴールへの昇格には伝統に従って今回の試練に乗り越えた者にだけ開かれている。これは諸君達のこれまで学んだ魔法力と知識だけでなく、仲間と協力して困難に立ち向かう協調性も試している。帝国は強大なだが、不滅ではない。東にはメルゴン族が台頭しつつあり、西の辺境には先の内乱の残党が虎視眈々と帝国への復権を狙っている。この状況では帝国士官に求められる期待はこれまで以上に高まりつつある。諸君は今回の試練を乗り越えて、帝国の期待に応えられることを証明してほしい!」
 続いて学院長の訓辞が行なわれ、それをミーレ達は杖を持って胸の前に掲げるベルゼート帝国式の敬礼で答える。魔法を使えないヒロキもミーレとして敬礼を行う。慣れない動作と習慣だが、今回に備えて練習してきていた。

「では、くじ引きの紙に記されている順番に従って、地下への挑戦を開始せよ!」
 敬礼を終えるとアルビセスの指示に従い受験生達が移動を開始する。広間の北側には両開き式の門が設置されており、それは見るからに重厚な黒い金属で出来ていた。扉の前に立っている監督役の導師がその扉に手を翳すと鈍く光り始め見えない力によって外側に向かって開かれる、扉の奥は下に続く階段となっていた。
「こっちだ、ヒロキ」
 自分の世界ではあり得ない光景に見惚れていたヒロキにイサリアが促す。順番どおりに並んでいないと最後尾に回されるためだ。試験の期限は二十四時間後の明日の正午なので、時間的にはかなりの余裕があるが、わざわざ最初から時間をロスする必要はない。
「私達は五番目だ、急げ!」
 先頭の組が階段に足を入れたところでヒロキ達は列に並ぶ。さすがに一気に侵入させてはトラブルの元となるためだろう、監視役の導師によって三十秒程ほどの間隔を挟んでの受験生達はゆっくりと地下へ歩んで行く。
「次は五番。・・・ミーレ・リゼートの組か、君の実力なら問題ないと思うが、慢心は禁物だぞ!」
「警告に感謝します、導師ボロンデル」
 監督役の導師から声を掛けられたイサリアはお礼を告げて門を潜る。ヒロキも黙礼をしてその後に続いた。
「この学院の導師は個性の幅が広いね」
 しばらく黙々と階段を降りていたヒロキは、杖の先に魔法の光源を灯して先頭を歩むイサリアに小声で話し掛ける。先程のボロンデルは穏健派で知られる導師だ。見た目も中肉中背の中年男性とあって目立つことはないが、堅実的で温厚な性格はミーレ達に人気があり信頼されていた。
 講義科目は具現魔法と呼ばれる魔力を物体として具現化させる魔法を担当しているが、歴史の講義も受け持っており、こちらはヒロキもイサリアの薦めで何回か受講していてボロンデルとは面識があった。同じ学院内にアルビセスやシャルレーのような個性派から彼や学院長のような良識的な導師と様々な人材が揃っていることをヒロキは指摘したのだ。
「うむ、確かにその傾向はある。もっとも、高位の魔法技術を習得したから個性的になるのか?個性的だからこそ高みに辿り着くまで魔法の研鑚を続けられるのか?どちらが正しいか以前から議論になっている」
「イサリアはどう思うの?」
 イサリアに返事に興味を持ったヒロキが更に問い掛ける。彼からすればこの金髪の美少女もかなり個性的なのだが、本人がどう認識しているか気になったのだ。その間も彼らは緩いカーブを描く狭い螺旋階段を下に向かって降りて行く。

「・・・私としては、どちらでもないと思う。人は皆本来個性的なのだ。だが、人間は社会を作る生き物だ。その社会が求める、もしくは求められる役割に沿わないとならない。社会に居場所を求めるのならば、発揮できる個性は限られて抑圧しなくてはならないのだ。そして、導師級の魔術士ともなれば実力はもちろんだが、数においても貴重な存在だ。貴重となれば多少のことは許される。これが私なりの解釈だ」
「そうか・・・でも、さっきの導師ボロンデルや学長はその力を持っているのに善人と言うか、人間として落ち着いているように見えるけど?」
「善悪とは価値観や見方で変化する危うい基準だ。学院長や導師ボロンデルが教育者として頼もしいのは認めるが、それは教育者としての基準で個人の絶対的な評価には出来ない。ヒロキ、人間は自分に都合が良い存在を善としているに過ぎないのだ。・・・とは言え、人間は社会を作る生物なのだから、やはり人に好かれるというのは美徳であると認めるべきであろうな」
「なるほど・・・」
 イサリアの解答にヒロキは感慨深く相槌を打つ。本来は彼女を軽くからかう程度のつもりだったのだが、思っていた以上に人間の本質に迫る意見を聞かされてしまった。イサリアの考えが必ずしも正解であるとは思わないが、彼女が自分よりも遙かに大人の視線で世の中を視ていることに感慨を覚えるしかなかった。
「ヒロキ、広間が見えてきた。これからが本番だ、頼むぞ!」
「わかった!」
 イサリアの呼び掛けに、ヒロキは肩に掛かる背負い袋の重さを確認して力強く頷く。彼はイサリアに制限なく活躍してもらうために、食料や探索に必要と思われる道具等の荷物持ちを担当していた。正直に言えば地下迷宮と試練への不安と恐怖はあったが改めて覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

処理中です...