ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第十二話

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 審査会を終えたヒロキ達は更に食堂で夕食を済ますと寄宿舎に戻って来ていた。食事の献立は白身魚のムニエルで付け合せはキャベツ似た野菜の酢漬けだった。
 ムニエルには濃厚な味わいのソースが掛けられており、淡泊な魚の身と絶妙な調和を彼の口の中で再現したが、ヒロキは早くも慣れ親しんだ白米と醤油の味を恋しく感じる。また、それに釣られるように家族のことを思い出していた。
「そうか、ヒロキには妹殿がいるのか?」
「うん、三つ下くせに俺に突っかかって来るから、あんまり可愛いとは言えないけどね!」
 寂しさと掃除のつまらなさを紛らわすように、ヒロキは妹のことをイサリアに語る。ホームシック気味ではあるが、とりあえずは審査会で中断された部屋の掃除を片付けねばならない。
「だが、そう言いながらもヒロキの顔は嬉しそうだぞ」
「まあ、なんだかんだで、妹だしね・・・。イサリアには兄弟はいないの?」
「うむ・・・兄が一人いたのだが、既に死別しているので今はいないな・・・」
「えっ・・・ごめん・・・」
「いや、構わんぞ。ヒロキに悪気がないことは理解している。それにもう五年は前のことだ・・・」
「そう・・・えっと、じゃ!話は変わるけど導師シャルレーってどんな人?まさしく魔女って感じなんだけど?!」
 イサリアの反応からこれ以上は問うべきではないと判断したヒロキは、先程から気になっていたシャルレーについての質問に切り替える。だれでも親類の死を根掘り葉掘り聞かれたくはないのだ。
「うむ、彼女は五大公家の一つキリーク家の出身だ。現当主の大叔母にあたる人物だから、直系ではないがキリーク家だけでなく帝国貴族としてもかなりの重鎮と言えるだろう。しかも魔術士としても優秀でこの帝立魔導学院の導師筆頭でもある」
「うへ!やっぱり、とんでも人だったんだな!あれ?でも現当主の大叔母ってわりにはかなり若いんだね。二十代前半くらいに見えたけど。この世界では君みたいな天才は珍しくないってこと?もしくは歳の数え方が違うとか?」

 自分で話題を変えたヒロキだが、イサリアの答えに食いつく。大貴族の当主ともなればそれなりの年齢だろう。その当主の大叔母であるシャルレーは若過ぎると思ったのだ。
「私と導師シャルレーが天才であることは疑いの余地はないし、前にも話したとおりヒロキの世界とこの〝アデムス〟は時間の数え方はほぼ一致している。太陽の動きを基準とし、一日は約二十四時間、一年を三百六十五日としているのは同じだ。そして人間の肉体が成人として完成するのも二十歳前後と生物的特徴も同じ。違うのはこちらには魔法があることだ。導師シャルレーは何かしらの魔法を使って全盛期の姿を保っているのだ。だから彼女の正確な年齢は誰も知らない。大叔母というのも表向きの立場だから、本当は大大叔母であるかもしれないし、大大大叔母であるかもしれない!」
「・・・不老不死ってことか!本当に凄いな、この世界は・・・只者ではないとは思ったけどそんな人物だったのか!」
「厳密に言えば不死ではないのだが、高位魔術士が自らの若さと寿命を生物の常識を超えて保つことは可能だ。それには多くの代償が伴うから実践するのは難しいがな。どのような方法と魔法で導師シャルレーがその代償や壁を乗り越えているかは私にもわからない。だが、それには果てしない自己保存への渇望と執念が伴っていると推測出来る。前に学院長が導師シャルレーは何をするかわからないと言っていただろう。そういうことなのだ。私はこれでもまだ、家に対する責任を捨ててはいないからな。だが、導師シャルレーにはそれがない!」
「じゃ、俺はそんな人物に目を付けられたってことか・・・」
「うむ。ヒロキに・・・この世界の人間にない何かを感じたのかもしれない。まあ、私と学院長が後ろ盾になっているから無茶はしないはずだ。だが、厄介なことに彼女は本当に優秀な魔道士なのだ。一部の力、特に人体に影響を及ぼす医療魔法の分野では学院長をも遥に凌ぐと言われている。私もミゴールとなれば彼女からより高位の教えを受けることになる。だから、下手に蔑ろにするわけにもいかない。試験が終わったら約束どおり軽く講義に顔を出す必要があるだろう・・・」
「まじか・・・」
「心配するな、私が必ずヒロキを守ってやる!」
「うん、その時は頼むよ!」
 イサリアの言葉をヒロキは頼りに思う。傲慢とも思える彼女だが、嘘だけは吐かないと信じることが出来た。彼女がすると言えば絶対にするだろう。

 話が一段落する頃には部屋の掃除も終わっており、彼は肩の荷が下りた気分で汚れた雑巾を桶に投げ入れる。トイレとシャワーといった衛生関連の設備は既に寄宿舎に共同の物が用意されているので、生活の基盤がこれで整ったわけだった。
「ああ、では本題のミゴール昇格試験についての詳しい説明に入ろう。これまでの苦労は全てこれのためだったのだからな!」
 それが習慣のように再び〝浄水〟で桶の濁った水を清めるとイサリアは改まってヒロキに語り掛ける。
「そういえば、昨日の寝る前にも軽く説明されたような・・・。朝起きたら状況に慣れるのに必死でどんな内容だったか忘れていたよ。二人一組でないと参加出来ないんだよね?」
「そうだ!その理不尽な条件を満たすために私は・・・結果的にヒロキ、君に助けを求めることになったのだ!」
「・・・で、どんな内容だったっけ?」
「それはだな・・・」
 イサリアの説明を聞くヒロキは、それまでの晴れやかな気持ちが不安に塗り替えられるのを感じた。
「・・・というわけで、昇格試験は地下迷宮から生きて指定の課題物を持ちか・・・待て!ヒロキどこに行く!」
「も、もちろん、学院長のところだ!やっぱり君との約束を反故にしてもらう!そんな危険なところに行けるか!」
「な、なんで、この期に及んでそんなことを言うのだ!」
 急いで部屋を出ようとするヒロキをイサリアが後ろからタックルのようにして抱きしめる。
「なんでって、肝心の試験内容についてこれまで忘れていたからだ!ついでに昨夜の寝る前になんかされたのも思い出したぞ!・・・学院長ならそんな危険を冒さずに元の世界に戻してくれるのだから、頼むのは当然だ!」
「私達二人はそれぞれが役目を果たすと約束したではないか!」
「あれは事前の説明不足だ!クリーニングオフに出来る!」
「ええい、今更そんな!・・・私はヒロキが今一度、私に協力すると宣言してくれるまでこの手は離さんぞ!」
「そっちがその気なら!」
 自分の身体を重りにして、行動を阻害しようとするイサリアに対抗するためヒロキは吠える。いくら美少女の頼みでも命の危険を冒してまで叶えようとするほど、ヒロキのスケベ心は強くなかった。
 学院長という他にも頼れる存在がいるのなら、そちらに助力を求めるのは当然だ。それでも女の子であるイサリアを無理やり引き剥がすわけにはいかず、ヒロキは彼女を腰に抱き着かせたまま扉を目指す。廊下に出れば他のミーレ達の目もあり彼女も諦めると思われた。
「うぐ!なんか急に重くなった?!」
 扉まであと数歩の所でヒロキは体力の限界を感じて膝を付く。今や背中に纏わり付くイサリアの身体は石像のように重く感じられた。
「考え直してくれヒロキ!私がこうまでして頼んでいるではないか?」
 掃除したばかりの床に倒れたヒロキの背中にイサリアが這いずるように移動し、耳元で囁くように説得を施す。
「あ、ちょっと待って!重い!重い!ああ、背骨がグキって鳴った!わかった!協力する!だから退いてくれ!」
 更に重みを増すイサリアの身体にヒロキは悲鳴を上げた。

「おお、わかってくれたか!」
「はぁ・・はぁ・・・くそ!まさかそんな手で脅迫するとは・・・子泣き爺みたいだな・・・」
 急激に軽くなったイサリアから解放されたヒロキは、呼吸と身体の調子を確認しながら思いついたことを口にする。イサリアが何かしらの魔法を使って身体を重くしたのは間違いからだ。
「コナキジジイが何か知らぬが、約束は約束だ。それに私のような可憐な乙女が抱き付いてまで懇願したのだ。男子であるなら喜んでしかるべきだと思うぞ!」
「む・・・」
 ヒロキは床に座って向かい合うイサリアの姿に改めて注目する。黙って見ていればイサリアは本当に美しい少女だ。この少女に抱き付かれて懇願されたなら、確かに男としての冥利に尽きるだろう。
 だが、現実は上から圧し掛かれ、痛みと恐怖によって脅迫されたに過ぎない。彼女は嘘を吐かないが、都合が悪いことは隠したまま相手を曲解させる知恵があり、都合が悪くなると強硬手段に訴える力も持っている。ある意味一番厄介な人物と言えるだろう。
「・・・わかった。ヒロキが本当に嫌というのなら諦めよう。試験は来年も受けられる。その間に私と一緒に参加してくれるミーレを見つけ出せば良いのだからな・・・」
 ヒロキの視線に非難の色を見たのか、イサリアはそれまでの強気を嘘のように消して語り掛ける。そして先程までヒロキの背中に顔を押し付けていたためだろう、僅かに赤くなった右頬に流れる涙を隠すように擦った。
「・・・ああ、もう!そんな顔をされたら、わかったって言うしかないだろう!俺がイサリアの試験に協力して、イサリアは俺を元の世界に戻す!最初の約束どおりこれで行こう!」

 イサリアの涙を見たヒロキはそれまでの考えを翻意させる。知り合って二日でしかなかったが、彼女の悲しむ顔は見るに耐えなかった。それに一度交わした約束を破る弱みもあった。
「おお、本当かヒロキ!」
「うん、もう約束を反故にするとは言わない。もっとも、俺は魔法を使えないからな!役に立たなくても文句はなしだぞ!」
「それは安心してくれ、試験では魔法の制限はない。私の戦闘魔法でどんなモンスターも一発で仕留めて見せよう!」
 自身への揺らぎない才能を誇るイサリアの笑顔を見ると、ヒロキは自分の判断が正しいと思うことが出来た。彼女に押しつぶされるより、弱気な姿を見せられる方が心苦しく感じたほどだ。
「では、もっと詳しい説明に聞かせてくれ!」
「うむ!」
 決意を新たにしたヒロキはやるからには全力を尽くそうとイサリアに語り掛けた。
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