ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第八話

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 ヒロキはイサリアから中央学舎内部の案内を受けながら、この〝鷹の学院〟の教育システムを大まかに理解していった。日本では中学から高校生に値すると思われたミーレと呼ばれる学生階級だが、幾つかの面で大きく異なっていた。
 まずミーレ達は大きな枠として学年に別けられているが、組やクラスという概念はなかった。そのため定められた教室がなく、ミーレ達自身が各階に分散して設けられた、導師と呼ばれる指導役が待機する教室や実技室に移動して講義を受ける。
 その際どの導師の講義や実技訓練を受けるかは完全にミーレ個人に委ねられていた。だから最も年若い一回生と最終学年である六回生が共に講義を受講するとういうこともあり得るらしい。日本ではこのようなシステムは大学以降から行われるので、この世界ではかなり若い段階から自己責任を求められるということだ。
 もっとも、そのおかげもあってヒロキ達の存在が目立つこともなかった。講義の時間は一律ではないので、廊下には次の講義に向かうミーレの姿が常にあったし、講義と講義の間が長く空く場合には親しい者同士で時間を潰すことも珍しくないようで、ちょっとしたお喋りをしているミーレ達の姿もあった。

「ここに入学してくるのは大体十二歳くらいでしょ?その年齢でこのやり方はちょっと大変なんじゃないか?」 一階まで降りたところで二人は休憩とばかり廊下に置かれたベンチに腰を降ろし、ヒロキはそれまで感じた疑問を問い掛ける。
「うむ、だから学院側は年齢やミーレの階級によって模範的な年間カリキュラムを提示している。一回生から三回生くらいまでは、殆どのミーレがそのカリキュラムどおりに講義や実演を受けるらしい」
「ああ、やっぱりそうなっているんだ」
 イサリアの返答にヒロキは他人事とはいえ納得する。
「うむ、誰しもが私のように優秀ではないからな」
「・・・でも上の学年に進む基準はどうなっているんだ?単位とかは?」
「もちろん単位はあるぞ、六回生までは特定の単位を取ることで進級出来る。それを過不足なく取れるように配分されているのが提示カリキュラムだ。また望めば昇格試験をいつでも受けることが可能だ。これに合格すれば即一階級上のミーレとして認められる。ただ合格すると次のミーレ昇格試験を受験する資格が一年間凍結される。そのため、入学していきなりミーレ六回生となることは出来ない。私が三回の飛び級で我慢しているのはそのためだ」
「そういうことか」
「ああ、そしてミーレからミゴールの昇格は特別で、二人一組での受験という変則的な受験資格を用いられているために、私は苦労をしていたということだ」

 時折挟んで来るイサリアの自覚のない自慢を無視して、ヒロキはこれまで断片的だった知識が繋がったことに感心を漏らした。当初は厳しいと思われた学院のシステムだが、イサリアのような天才か秀才に対応するために特例があるだけで、基本的には常識な範囲で構築されているようだ。
 それに加えヒロキはミゴールへの昇格試験が二人一組である理由も理解出来たような気がした。もし、学力や魔法の才能だけで昇格を許してしまえば、独りよがりでエゴイスト、人間としてどこか歪な性格の者にも強力な魔法を授けてしまう可能性がある。それを防ぐ意味で友人とコミュニケーションを取れる人物、最低でも利害を分かち合える社会性を持っていることを参加条件として、二人一組に設定されたのではないか?
 そして学院長が試験への参加を許したのも、指約束における脅迫だけでなく自分という協力者が現れてイサリアの優秀過ぎるが故の孤立が解消されたからではないかと思えた。

「イサリア・・・」
 そのことを指摘しよう口を開き掛けたヒロキは途中で止める。イサリアは自分よりも遙かに賢い少女だ。そんなことは既に理解しているだろう。
 人間にはわかっていても聞かされたく事実がある。大きな間違いでもない限りそれを敢えて口にする必要はないのだ。
「いや・・・えっと・・・ここのお昼ご飯はどうなっているんだ?」
「昼食は講義等が長引く場合があるので、それぞれが自由に摂ることになっている。そうだな・・・図書室や数々の実技室を紹介するために中央学舎の中を歩き回ったからな。少し早いがお昼とするか?」
「そうしよう!朝のご飯が美味しかったから。楽しみだよ!」
「そうか、ここの食事はヒロキの口にも合ったか!」
 話題を変えるちょっとした提案だったが、イサリアも乗る気を見せるとベンチを立ち上がる。
「実はな、百年前はここの食事はすこぶる不味かったと言われている。なんでも当時は舌が肥えると魔法の詠唱の妨げになり、勉学にも励まなくなるとかで、ワザと不味い食事をミーレやミゴール達に出していたらしい。当初は渋々耐えていたようだが、結局は不満が爆発して全学生が一丸となって当時の学院長を追い出し、食事の質を改善させたということだ」
「へえ・・・俺の世界でも食べ物が切っ掛けで革命になったことがあるらしいけど、こっちでもその手の恨みは恐ろしいってことか!」
 イサリアの逸話にヒロキは苦笑を浮かべる。魔法が実在する異世界ではあるが、こういった面ではヒロキの世界の人間と大差はないようだ。
「それだけ食は人の営みの根底に存在するということなのだろうな。では、お喋りはこれくらいにして食堂に向かおうか?ヒロキが空腹で怒る姿を見たくはないからな!」
「ふふっ・・そんなことはないはずだけど、食堂に行くのは賛成だ!」
 イサリアの冗談にヒロキは笑みを浮かべながらベンチから腰を上げる。稀に不穏なことを口にする彼女だが、機知に富んでいる分こういった冗談も上手いようだ。ヒロキは先程の考えが取り越し苦労であったと知る。イサリアはその気と機会さえあれば人を楽しませることも出来るのだ。
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